Miracle Triangle

中編


「えっ、そんな・・・」
 アンジェリークは、一瞬、言葉を失う。
 その反応に、オリウ゛ィエは早急すぎたかと、臍を噛んだ。
「とにかく、考えといて。出発は一か月後だから。返事は早めにね」
「判った・・・」
 余りにも突然なことに、アンジェリークの思考回路は麻痺してしまう。
 取り合えず電話を切り、彼女は携帯の画面を見つめた。

 私・・・、そんなこと決められない・・・。
 オリウ゛ィエおにいちゃんも好きだけど、アリオスおにいちゃんも好きだもの・・・。

 アンジェリークは、無意識に、アリオスの病院に向かっていた----


「アリオス、私、パリに行くことになった」
「そいつは良かったじゃねえか」
 ふたりはお互いを探り合いながら言う。
「アンジェちゃんにプロポーズしたから」
 アリオスは、一瞬、固まった。
 予想は出来ている答えだったとはいえ、アリオスは背中に冷たいものを感じた。
「何だと・・・」
 アリオスの声は低く、鋭いものになる。
「とにかく、私はあの子を連れていくつもりだからね。覚悟しておいてね」
「話はそれだけか?」
「うん、戦線布告」
 ふっと受話器の前で笑うと、オリウ゛ィエは電話を切った。
 アリオスはしばらく、受話器を抱えたまま鋭い視線を投げかける。
 受話器を握り締め、彼はそれをもて余していた。
「受けて立つぜ? オリヴィエ・・・」
 不意に、裏口からインターホンの音が鳴った。
 受話器を取り、アリオスは急患だと思い、畏まって応対する。
「アルウ゛ィース医院です。いかがされましたか?」
「あの・・・、アリオスおにいちゃん、アンジェ・・・」

来たか・・・。

 予想は出来た来訪。
 アンジェリークは、いつも悩み事があるとアリオスの元に飛んでくる。
 幼い頃からそれは変わらない。
 困惑気味のアンジェリークがいるのが、アリオスには判る。
「入ってこい。応接で待ってる」
「うん」
 アリオスは立ち上がると、キッチンに行き、彼女のために電子レンジでミルクを暖める準備をする。
「おにいちゃん」
 応接室の手前のミニキッチンで、アンジェリークはアリオスを見つけた。
「座ってろ。ミルクはすぐに出来る」
「うん」
 アンジェリークは、こくりと頷くと、ソファに腰を掛ける。
 アリオスはミルクをアンジェリークの前に置いてやり、その前に腰掛けた。
「それ飲んで落ち着け・・・。蜂蜜も入ってる」
「うん」
 言われた通りにアンジェリークは、カップに口を付ける。
 温かさが身体に広がっていき、アンジェリークはほんの少し、リラックスした。
「あのね」
 そこで言葉を切ると、上目遣いで彼を見る。
「何だ?」
 内心、アリオスは気が気ではなかったが、それを彼女に感じさせてはと、自分を押さえていた。
「オリウ゛ィエおにいちゃん、仕事でパリに行っちゃうんだって…」
「だってな・・・」
 アリオスはあくまでさりげなく言う。
いつもよりコーヒーの味が苦く感じるのは何故だろう。
「知ってたの?」
「まあな…」
 アリオスは曖昧にしか答えない。
 アンジェリークは俯くと、手を組みながら、困ったように口を開く。
「オリヴィエ、お兄ちゃんにプロポーズされたの…」
 その言葉の端々に、悩みが尽きない彼女が感じられ、アリオスは、包み込むような眼差しを彼女に向けた。
「困ったか? 正直」
 アリオスが優しく肩を触れてくれたので、アンジェリークは素直に頷いた。
「私…。オリヴィエおにいちゃんのことが大好きよ…。これは正直な気持ち…。
 -----だけど、”結婚”だとか、そんなこと、考えられないの…。だって…」
 アンジェリークは潤んだ瞳をアリオスに向けると、彼の異色の眼差しをじっと見つめた。
「私、アリオスお兄ちゃんのことも同じぐらい好きなの…。
 選ぶことなんて、どちらかについていくなんて出来ない…」
「アンジェ…」
 アンジェリークはいつのまにか泣いていた。
 華奢な肩を震わせ、本当に困っているかのように見える。
「-----どうしていつまでもこのままでいられないのかな…」
 胸を引き攣らせて泣く彼女に、アリオスはその涙に指を伸ばす。
「それはおまえが大人になったからだ」
「大人に…?」
 涙で潤んだ瞳を、アンジェリークは真っ直ぐにアリオスに向けた。
「そう…。いつまでも子供ではいられねえ。
 おまえは綺麗に大人の女になりつつある。
 俺もオリヴィエも男だ…。いつまでも三人で子供のようにはいられねえんだ…。
 だから、あいつはプロポーズした。おまえと離れたくねえから・・・。判るな?」
「アリオス…」
 彼の指先から温もりが伝わってくる。
 アンジェリークは、初めて、胸の奥に甘い痛みが走るのを感じた-----

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「有難う、おかげで落ち着いたわ」
「ああ」
 アンジェリークは、病院を後して、ゆっくりと家までの道徳を歩いて帰った。
 先ほどよりも幾分か晴れやかな気持ちになっている。
 ふと、彼女は頬に指を伸ばす。

 あの指先、絶対に忘れない…。
 温かかった…。

 思い出すだけで、胸の奥が甘い痛みが駆け抜ける。
 アンジェリークはその感覚に、初めて自覚し、顔を赤らめる。

 私・・・。
 アリオスおにいちゃんのことが好きなのかもしれない…。
 本気で…。
 ”恋”をしているのかもしれない…

 

コメント

帰蝶様の「新春初カキコキリ番」のリクエストで、
「アンジェの気持ちは二者に対して均等な三角関係」です。
オリヴィエのリベンジなるか!