Miracle Triangle

前編


 どちらかに決めろだなんて、私には出来ない…。
 だって二人とも大事だから…



 幼い時から見守っていた。
 一度も、”妹”などと思ったことはなかった。
 あいつは、俺にとっては、”たったひとりの女”であり続けている・・・。
 恐らく、あの男にとってもそうだろう・・・。

 内線が鳴り、アリオスはすぐに受話器を上げた。
「はい、アリオスだ」
「先生、急患らしくて、すぐに往診をとの連絡が入っていますが」
 ”往診”と聞いた瞬間、アリオスに少し緊張感が走る。
「どこでだ?」
「コレットさんちのアンジェちゃんですよ、先生」
「え!? アンジェがどうしたって!?」
 アリオスは心配で電話に食いついた。
「そんなに心配なされないで下さい。風邪だそうですよ?」
 くすくすと電話の前で笑う看護婦に、アリオスは少し不機嫌になる。
「それを早く言え! とにかく、すぐに行く」
 アリオスは立ち上がると、横にある往診バッグを手に取り、慌てて出かけていく。
 近くなので自転車に乗って、コレット邸に急いだ。

 あいつのことだ、きっとかぎつけてくる。
 早くしねえとな。

 コレット邸に着くと、早速インターホンを押し、アリオスは固唾を飲みながら待つ。
「はい?」
「アリオスです」
「有り難う。どうぞ入って、アリオス君」
 ドアが開けられ、アリオスは中へと入っていった。
 勝手知ったるコレット邸であるから、アリオスは迷わずアンジェリークの部屋へと向かった。
「寝てるから、静かにね」
「判ってる」
 アンジェリークの母に言われ、アリオスは頷きながら部屋の中に入った。
「アンジェ・・・? 具合はどうだ・・・?」
 優しく話しかけると、顔を真っ赤にしたアンジェリークがベッドから身体を起こした。
「らいぢょうび・・・」
 いかにも苦しげに話す彼女に、アリオスは苦笑しなが続ける。
「無理すんなよ、あんまり・・・。余り丈夫じゃねえんだからな、おまえ」
 アリオスは、アンジェリークの額に自分の額をつけて熱を計る。
 するとかなり熱い。
「おまえ、かなり熱が高いじゃねえか・・・!?」
「アリオフおにいしゃんが心配するほどぢゃにひ」
「ほら、診察するから前を開けて」
「うん」
 素直に応じるアンジェリークに、アリオスは複雑な思いに駆られる。

 やっぱり、俺のことを”男”として意識してない証拠だよな・・・。

 アリオスはほんの少しだけ嬉しそうに、役得だと感じていたが。
 白い肌が露わになり、アリオスは欲望が突き上げてくるのを我慢をする。
「ほら、ブラジャーを取れ」
「うん・・・」
 乙女なので、アンジェリークはほんの少し顔を赤らめる。
 やはり何度見られてはいるとはいえ、恥ずかしい。
 アンジェリークはぎこちなく下着を脱いで、白い胸を曝した。

 やべえ…。
 アンジェのやつまた大きくなってやがる…。
 ここは我慢だぜ…!

 自分自身で、”鉄の精神力”と思うアリオスである。
「アリオスおにいちゃん」
「冷たいぜ?」
「うん」
 聴診機の冷たい感触が肌に当たる。
「息を吸って、止めて」
 そこは医師らしく、慎重にしている。
「背中」
「うん」
 背中に聴診器をあて、アリオスは診断をする。
「風邪だ。心配ねえ。明日一日大事を取って休め。薬は夕方にお母さんに取りにいってもらってくれ。処方箋は書いておく」
「ありがと」
 二人は見つめ合い、アリオスはこのチャンスを見逃さない。
「アンジェ」
「アリオスお兄ちゃん」
 アリオスは、アンジェを見つめ、手を取る。
「アンジェ〜ちゃん〜! お加減はいかが〜」
 いきなりドアを乱暴に開けられ、アリオスはドアを強引に睨み付けた。
「オリウ゛ィエ〜」
「アンジェちゃん、お加減は?」
 強引に二人の間に入り込むと、オリウ゛ィエは、アンジェリークにニコリと微笑みかける。
「こんにちは、オリウ゛ィエおにいちゃん。もう随分平気。アリオスおにいちゃんに診てもらったから、もう大丈夫、ね?」
 オリウ゛ィエとアリオスを交互に見て、アンジェリークは極上な微笑みを与える。
 それも無意識に。
 罪な女とは彼女のことである。

 かわいいなアンジェは・・・。

 やっぱりアンジェちゃん最高〜!

「アンジェちゃん、これ風邪に良い林檎。いっぱい食べてね〜!」
 バスケットいっぱいにした林檎を差し出せば、アンジェリークは嬉しそうにそれを受け取った。
「有り難う! だからオリウ゛ィエおにいちゃん好き!」
 ”好き”。
 それは二人の男達には非常に意味のある言葉。
 オリウ゛ィエは勝ち誇ったかのようにアリオスを見つめ、アリオスは苦虫を噛んだような表情になる。
 少し険悪な雰囲気を察してか、アンジェリークはアリオスにも笑いかけた。
「アリオスおにいちゃんも好き」
アリオスは頷く。だが、ふたりの男には、少し気まずいムードが漂う。
「ねぇ! アンジェ!」
 オリウ゛ィエは、アンジェリークに迫り、答えを聞き出そうとする。
「どっちがすきなの!」
「どうなんだ!?」
 アンジェリークは、ふたりの男に迫られて、二コリと頷く。
「両方!!」
 自信をもって、アンジェリークは明るく言った。
 アリオスもオリヴィエも、その瞬間力が抜け、脱力したのは言うまでもなかった-----

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 オリヴィエは、勤めるアパレル会社の社長室にいきなり呼ばれた。
「え、私がパリに!?」
 いきなり、パリ行きの辞令を受けて、オリヴィエは目を見開く。
「そうだ」
 社長のジュリアスは率直だった。
 簡潔に要点だけを述べる人物である。

 憧れのパリに!

「どうだ、パリコレでうちの看板としてやってもらいたいんだが…」
 夢がとうとう叶うのだ。
 オリヴィエは喜びが際限なく広がるのが判る。
 身体が興奮して、浮き足立っている。
「それは勿論行きます!」
 強く返事をした後、オリヴィエははっとした。
 浮かんだのは、栗色の髪をした幼馴染。
 彼女と離れるのはやはり辛い。

 アンジェちゃんを残していくのはヤッパリ出来ない・・・。

「では、一ヵ月後に出発だからな!」
 不意にジュリアスに肩を叩かれ、オリヴィエは曖昧に頷く。
「用件はそれだけだ…」
「はい、失礼しました」
 ドアを閉めると、オリヴィエは切なげに溜息を吐いた。

 アンジェリークをヤッパリ置いていけないな…。
 だけど一緒にいるとしたらひとつしかない・・・
 連れて行く? パリへ!

 オリヴィエはそれしかないと思うと、直ぐに携帯を取り出し、アンジェリークにかける。
 何度かのコールの後、アンジェリークがでた。
「アンジェちゃん、オリヴィエ・・・」
「あ! こんにちは! オリヴィエおにいちゃん!!」
 明るく電話に出てくれたアンジェリークに、オリヴィエは思わず笑みが零れる。

 このこといれば、いつも救われる…

「ねえ、アンジェちゃん?」
「何?」
「私と一緒に結婚してパリに行かない!?」

 結婚?
 パリ?

 アンジェリークの思考は、一瞬真っ白になっていた-----

コメント

帰蝶様の「新春初カキコキリ番」のリクエストで、
「アンジェの気持ちは二者に対して均等な三角関係」です。
…ご期待に添えないかもですが、頑張ります…。