LULUBY IN BLUE

chapter3


「いっち、に、いっち、に」
 レウ゛ィアスはアンジェリークに手を引かれて、一生懸命頑張って階段を上る。
 小さな身体で頑張る息子の姿に、アンジェリークは目を細めた。
 いつも母親と一緒にいられないのは、自分のためだと判ってか、あまり手間を掛からせないようにとレウ゛ィアスが頑張ってくれているのが嬉しかった。
「帰ったら、おむつ変えて、まんましようね」
「まんま! マーマ!」
 きゃっきゃっと喜んでくれる息子が可愛くて、アンジェリークは笑った。

 部屋に戻ると、アンジェリークはすぐさまレウ゛ィアスのおむつを変え、夕食の準備を手早くした。
 レウ゛ィアスにはマッシュポテトと、シラスかゆを作ってやり、自分には具だくさん味噌汁、御飯、冷しゃぶサラダである。
 食事を作っている間は、レウ゛ィアスはおとなしく一人遊びをしてくれている。
 おもちゃも満足に買ってやれないので、アンジェリーク手作りの縫いぐるみで遊んでいる。
「ごはんよ! レウ゛ィ!」
 譲って貰った子供用の椅子にレウ゛ィアスを乗せ、アンジェリークは夕食を食べさせた。
 嬉しそうに食べる息子を見ていると、彼女はわが子の父親を思い出してしまう。

 本当に、あなたはアリオスに良く似てる・・・。
 瓜二つと言ってもいいほど・・・。

 切なさが心に過ぎる。
 痛くて堪らない。

 アリオス、更に素敵になってたな・・・。
 結局、私は”夢見る夢子”ちゃんだったのよ。
 アリオスは、私のことなんて覚えてなんかなかった・・・。
 彼にとっては、ひと時の戯れに過ぎなかった…。
 いつか、彼が、レウ゛ィと私を迎えにきてくれると信じてた・・・。
 そんなこと小説の中の御伽話に過ぎないのに・・・。

「マーマ?」
 母が考え込んでいるのを、微妙に察知したせいか、彼は心配そうに声を上げた。
「何ともないからね? さあ、まんま!」
 アンジェリークとレウ゛ィアスは、楽しみながら、夕食を食べ、親子水入らずの、とても小さな幸せを、噛締めていた。



「何考えてるの・・・?」
「何でもねえよ・・・」
 お互いに割り切った関係である馴染みの若き人妻との情事を、アリオスは苛つく思いを忘れたくて、持った。
 だが脳裏には澄んだ瞳の栗色の髪をした少女が浮かぶばかり。

 あいつとどこかで逢ったんだ!!
 それは確かだ・・・。
 だが、それが思い出せねえ!
 あの大きな瞳は切なそうで、哀しそうで、俺は・・・!

「帰る」
「もう?」
「ああ」
 アリオスは、ベッドから冷たく出ると、スーツを手早く着る。
「チェックアウトしといてくれ」
 そう言って彼は料金をテーブルに置くと、ドアに向かう。
「またね?」
 手を上げて、アリオスは挨拶をすると、そのまま出ていった。

 俺は何をしてるんだ・・・。

 夜風に揺られながら、アリオスは車に乗り込む。

 アンジェリークか・・・。

 アリオスは、彼女の強いまなざしの光を、思い出さずにはいられない。

 どうしても、もう一度逢いたい。
 俺はどうしてあの女にあんなに拘る!?

 考えれば、考えるほど、アリオスは頭痛をするのを感じる。

 もっと話したい・・・。
 そうすれば、もっとアンジェリークを判るような気がするから・・・。



 待望の休みは快晴だった。
 アンジェリークは朝から鼻歌を歌いながら、お弁当を作っている。
 今日は、親友のレイチェルと一緒に、レウ゛ィアスを動物園に連れていく。
 前々から連れていくことを言っていたせいか、レウ゛ィアスもとてもご機嫌だ。
「マーマ!!」
 お出かけ用のいい服を着せてやり、嬉しそうだった。
 古びたバギーカーに、レウ゛ィアスと荷物を乗せ、アンジェリークは駅前に向かう。
 そこでレイチェルに逢うのだ。「
レヴィアス、楽しいね、今日は動物さんがいっぱい見れるわ! 春はやっぱり気持ちがいいわね〜!」
 久し振りの親子での外出は、ふたりにとっては、最高にご機嫌なことのひとつだ。
「レイチェル!!」
 駅に着くと。すぐさま親友を見つけて手を上げると、金髪を揺らして、レイチェルが近付いてきた。
「おはよ〜! アンジェ! レウ゛ィアス!!」
 レイチェルの笑顔に、アンジェリークは明らかに癒される。
 いつもレイチェルには感謝をしている。
 親のないアンジェリークが”未婚の母”になる決心をした時、レイチェルだけが支えてくれたのだ。
「レウ゛ィ、お姉ちゃん、逢いたかったよ〜!」
「レイ!」
 レウ゛ィアスはレイチェルに馴れていて、彼女に逢って遊んでもらうのが嬉しくて堪らない。
「さあ、レウ゛ィ、動物園に行くよ!!」
 三人は、心を弾ませながら、電車に乗り、動物園へと向かった。


「ほら、ぞうさん〜」
「どさ〜ん!」
 ぴょこぴょこと足をぶらぶらとさせながら、レウ゛ィアスは喜んでおもちゃを揺らしている。
「ねえ、レイチェル・・・」
 アンジェリークの表情が、少し陰った。
「何?」
 親友の陰りのあるまなざしに、レイチェルは心配そうに見つめる。
「どうしたの?」
「ん…。
 レヴィアスの父親に逢ったの…」
「え!?」
 レイチェルの表情は驚愕のものに変わり、芳しくなくなる。
 レイチェルは、アンジェリークが”私生児出産”に至った経緯を知っているせいか、その表情に怒りすら混じらせている。
「で、どうだったの?」
「-----覚えていなかったわ、私のことなんて…」
「ったく、なんて男だろう!!」
 吐き捨てるかのようにレイチェルは目くじらを立てた。
 その瞳は炎のように燃え盛り、怒りをあらわにしている。
「アナタが命をかけてレヴィを産んで育ててるのに、覚えていないだなんて!」
 アンジェリークはこの親友の心根が嬉しかった。
 穏やかに笑うと、アンジェリークは真っ直ぐと親友を見つめる。
「-----もう、逢うこともないわ、きっと…。今回逢ったのも偶然だったし」
「アンジェ…」
 ほんの少し寂しそうにした、彼女の表情が、まだ、レヴィアスの父親を愛し続けている証拠だと、レイチェルは思わずにはいられなかった------



 アリオスは諦めなかった。
 諦めたくはなかった。
 パーティの翌日に、アンジェリークの仕事場であるホテルに行くと、彼女が休みだということが判り、彼は改めて今日出直した。
「おはようございます!」
 今日も一つ目の仕事を終えて、アンジェリークは元気良く出社する。
「アンジェリークさん、今日は、大龍グループの大龍書房様のパーティーの給仕が入っていますからね! 頑張りましょう!」
「はいっ!」
 手早く制服に着替えると、アンジェリークは早速厨房準備室に向かう。
「早速だけど、お部屋にカクテルをお持ちして。今日は内輪のパ―ティらしいわ」
「はい!」
 言われたとおりに、アンジェリークは何の疑いもなく、部屋にカクテルを持っていく。
「失礼します…」
 部屋に入った瞬間、 彼女は息を呑んだ。
「アリオスさん…」
「待ってた、アンジェリーク」

 アリオス…!
 あなたは何を考えているの?

コメント

「愛の劇場第5弾」です。
今回は、べたにメロドラマの題材です。
アンジェリークはアリオスの子供の未婚の母です。
アンジェちゃん、一生懸命、子供を育てるために頑張っています。
今後、子供を絡めながら、メロドラマにずんずん進んでいきます〜。



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