「いっち、に、いっち、に」 レウ゛ィアスはアンジェリークに手を引かれて、一生懸命頑張って階段を上る。 小さな身体で頑張る息子の姿に、アンジェリークは目を細めた。 いつも母親と一緒にいられないのは、自分のためだと判ってか、あまり手間を掛からせないようにとレウ゛ィアスが頑張ってくれているのが嬉しかった。 「帰ったら、おむつ変えて、まんましようね」 「まんま! マーマ!」 きゃっきゃっと喜んでくれる息子が可愛くて、アンジェリークは笑った。 部屋に戻ると、アンジェリークはすぐさまレウ゛ィアスのおむつを変え、夕食の準備を手早くした。 レウ゛ィアスにはマッシュポテトと、シラスかゆを作ってやり、自分には具だくさん味噌汁、御飯、冷しゃぶサラダである。 食事を作っている間は、レウ゛ィアスはおとなしく一人遊びをしてくれている。 おもちゃも満足に買ってやれないので、アンジェリーク手作りの縫いぐるみで遊んでいる。 「ごはんよ! レウ゛ィ!」 譲って貰った子供用の椅子にレウ゛ィアスを乗せ、アンジェリークは夕食を食べさせた。 嬉しそうに食べる息子を見ていると、彼女はわが子の父親を思い出してしまう。 本当に、あなたはアリオスに良く似てる・・・。 瓜二つと言ってもいいほど・・・。 切なさが心に過ぎる。 痛くて堪らない。 アリオス、更に素敵になってたな・・・。 結局、私は”夢見る夢子”ちゃんだったのよ。 アリオスは、私のことなんて覚えてなんかなかった・・・。 彼にとっては、ひと時の戯れに過ぎなかった…。 いつか、彼が、レウ゛ィと私を迎えにきてくれると信じてた・・・。 そんなこと小説の中の御伽話に過ぎないのに・・・。 「マーマ?」 母が考え込んでいるのを、微妙に察知したせいか、彼は心配そうに声を上げた。 「何ともないからね? さあ、まんま!」 アンジェリークとレウ゛ィアスは、楽しみながら、夕食を食べ、親子水入らずの、とても小さな幸せを、噛締めていた。 「何考えてるの・・・?」 「何でもねえよ・・・」 お互いに割り切った関係である馴染みの若き人妻との情事を、アリオスは苛つく思いを忘れたくて、持った。 だが脳裏には澄んだ瞳の栗色の髪をした少女が浮かぶばかり。 あいつとどこかで逢ったんだ!! それは確かだ・・・。 だが、それが思い出せねえ! あの大きな瞳は切なそうで、哀しそうで、俺は・・・! 「帰る」 「もう?」 「ああ」 アリオスは、ベッドから冷たく出ると、スーツを手早く着る。 「チェックアウトしといてくれ」 そう言って彼は料金をテーブルに置くと、ドアに向かう。 「またね?」 手を上げて、アリオスは挨拶をすると、そのまま出ていった。 俺は何をしてるんだ・・・。 夜風に揺られながら、アリオスは車に乗り込む。 アンジェリークか・・・。 アリオスは、彼女の強いまなざしの光を、思い出さずにはいられない。 どうしても、もう一度逢いたい。 俺はどうしてあの女にあんなに拘る!? 考えれば、考えるほど、アリオスは頭痛をするのを感じる。 もっと話したい・・・。 そうすれば、もっとアンジェリークを判るような気がするから・・・。 待望の休みは快晴だった。 アンジェリークは朝から鼻歌を歌いながら、お弁当を作っている。 今日は、親友のレイチェルと一緒に、レウ゛ィアスを動物園に連れていく。 前々から連れていくことを言っていたせいか、レウ゛ィアスもとてもご機嫌だ。 「マーマ!!」 お出かけ用のいい服を着せてやり、嬉しそうだった。 古びたバギーカーに、レウ゛ィアスと荷物を乗せ、アンジェリークは駅前に向かう。 そこでレイチェルに逢うのだ。「 レヴィアス、楽しいね、今日は動物さんがいっぱい見れるわ! 春はやっぱり気持ちがいいわね〜!」 久し振りの親子での外出は、ふたりにとっては、最高にご機嫌なことのひとつだ。 「レイチェル!!」 駅に着くと。すぐさま親友を見つけて手を上げると、金髪を揺らして、レイチェルが近付いてきた。 「おはよ〜! アンジェ! レウ゛ィアス!!」 レイチェルの笑顔に、アンジェリークは明らかに癒される。 いつもレイチェルには感謝をしている。 親のないアンジェリークが”未婚の母”になる決心をした時、レイチェルだけが支えてくれたのだ。 「レウ゛ィ、お姉ちゃん、逢いたかったよ〜!」 「レイ!」 レウ゛ィアスはレイチェルに馴れていて、彼女に逢って遊んでもらうのが嬉しくて堪らない。 「さあ、レウ゛ィ、動物園に行くよ!!」 三人は、心を弾ませながら、電車に乗り、動物園へと向かった。 「ほら、ぞうさん〜」 「どさ〜ん!」 ぴょこぴょこと足をぶらぶらとさせながら、レウ゛ィアスは喜んでおもちゃを揺らしている。 「ねえ、レイチェル・・・」 アンジェリークの表情が、少し陰った。 「何?」 親友の陰りのあるまなざしに、レイチェルは心配そうに見つめる。 「どうしたの?」 「ん…。 レヴィアスの父親に逢ったの…」 「え!?」 レイチェルの表情は驚愕のものに変わり、芳しくなくなる。 レイチェルは、アンジェリークが”私生児出産”に至った経緯を知っているせいか、その表情に怒りすら混じらせている。 「で、どうだったの?」 「-----覚えていなかったわ、私のことなんて…」 「ったく、なんて男だろう!!」 吐き捨てるかのようにレイチェルは目くじらを立てた。 その瞳は炎のように燃え盛り、怒りをあらわにしている。 「アナタが命をかけてレヴィを産んで育ててるのに、覚えていないだなんて!」 アンジェリークはこの親友の心根が嬉しかった。 穏やかに笑うと、アンジェリークは真っ直ぐと親友を見つめる。 「-----もう、逢うこともないわ、きっと…。今回逢ったのも偶然だったし」 「アンジェ…」 ほんの少し寂しそうにした、彼女の表情が、まだ、レヴィアスの父親を愛し続けている証拠だと、レイチェルは思わずにはいられなかった------ アリオスは諦めなかった。 諦めたくはなかった。 パーティの翌日に、アンジェリークの仕事場であるホテルに行くと、彼女が休みだということが判り、彼は改めて今日出直した。 「おはようございます!」 今日も一つ目の仕事を終えて、アンジェリークは元気良く出社する。 「アンジェリークさん、今日は、大龍グループの大龍書房様のパーティーの給仕が入っていますからね! 頑張りましょう!」 「はいっ!」 手早く制服に着替えると、アンジェリークは早速厨房準備室に向かう。 「早速だけど、お部屋にカクテルをお持ちして。今日は内輪のパ―ティらしいわ」 「はい!」 言われたとおりに、アンジェリークは何の疑いもなく、部屋にカクテルを持っていく。 「失礼します…」 部屋に入った瞬間、 彼女は息を呑んだ。 「アリオスさん…」 「待ってた、アンジェリーク」 アリオス…! あなたは何を考えているの? |
コメント
「愛の劇場第5弾」です。
今回は、べたにメロドラマの題材です。
アンジェリークはアリオスの子供の未婚の母です。
アンジェちゃん、一生懸命、子供を育てるために頑張っています。
今後、子供を絡めながら、メロドラマにずんずん進んでいきます〜。
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