LULUBY IN BLUE

chapter27


 レイチェルたちが帰って暫くして、アンジェリークの病状が回復したので、一般病棟に移された。
 一般病棟と言っても、あの個室である。
 親子三人で仲睦まじい日々を過ごした、大切な個室。
 レウ゛ィアスにとっては、楽しい思い出しかない場所。
 病室に戻るなり静かに喜んでいた。

 ここが落ち着くと、俺ですら考えてしまうんだからな・・・。

 時間も八時近かったので、病院のレストランから、お子様ランチと軽い軽食を注文し、息子に食べさせることにする。
「うまいか?」
「あい。ままのがおいち」
「また元気になったら作ってもらえ・・・」
 こくりと愛らしく頭を下げる息子が、可愛くてしょうがない。
 スプーンをぎゅっと持って一生懸命食べるレウ゛ィアスが愛しい。
 合間に自分も軽い食事を取りながら、息子の世話をするのが何よりも楽しかった。
 食事を終えて、走り回った息子のために、シャワーを浴びる。
 その間のアンジェリークの様子は、完全看護なので、逐一チェックされているから安心出来た。
 シャワーから出た後は、アンジェリークに習ったように、レウ゛ィアスの世話をしてやる。
 ベビーパウダーを着け、おむつを取り付け、パジャマを着せた。
 気持ち良さそうにベッドに入ると、レウ゛ィアスはほっとしたように深呼吸をする。
「ぱぱ、ねんね!」
 一緒に寝てくれと、何度もベッドを叩かれて、アリオスは苦笑いすると、用意してもらった簡易ベッドにレウ゛ィアスを寝かしつける。
 アリオスの隣で小さくなってくっついてくる息子は、疲れていたのかすぐに眠ってしまった。
 それを確認した後、アリオスはベッドから降りて、アンジェリークの様子を見る。

 病院に連れていった時は、顔色は最悪だったが、今はかなり良くなっている。
 早く元気になってくれ・・・。おまえに言いたいことがあるから・・・。

 頬を指で撫で、アリオスは愛しげに見つめると、唇に軽くキスをした。
 レイチェルに言われた通りに、レウ゛ィアスの荷物にあるアルバムを手に取り、めくり始める。
 最初は、大きなおなかをしたアンジェリークとレイチェルがふたり一緒に写っている。
 その後の写真は、産湯をつかったレウ゛ィアスが気持ち良さそうにしていた。
 この瞬間に立ち会えなかったのが、深く悔やまれる。

 俺がおまえの記憶さえ忘れていなければ・・・!
 この場に立ち会ってみることが、出来たというのにな。
 悔やんでも、悔やみきれねえ・・・。

 次の写真に映っていたのは退院の日らしく、アンジェリークの表情は、母親らしく輝いていた。
 その後は、しばらくは、故郷エレミアの風景と共に写っているものが多い。
「これは・・・」
 アリオスはバックに写っている風景に、はっと息を呑んだ。
 そこはアリオスが見覚えのある風景。
 全てアンジェリークと共に行ったことのある場所。
 心が甘く揺れ、アンジェリー苦への愛しさがこみ上げてくる。
 同時にアンジェリークが本当に自分を愛してくれていたことを感じ、切なくなった。

 おまえのことをもっと早く気がついていれば・・・。
 おまえをもっともっと愛してやれたかもしれないのに、俺は・・・。

 それから以降の写真は、このアルカディアで撮られたのが判った。
 随分と雰囲気が違い、アンジェリークは一切写ってはいなかった。
 様々なレヴィアスがいる。
 はいはい、おすわり、アンジェリークが作ったぬいぐるみを嬉しそうに握っている姿。
 苦しい生活なのにもかかわらず、レヴィアスはいつも満たされたように笑って写っていた。

 いつも、アンジェの愛にいっぱい満たされてたもんな。
 レヴィアス・・・。

 切なく胸が軋む。
 後ろのページに進むほど、母子の絆を感じずにはいられない。
 この一瞬、一瞬を大切にしながら生きていくような決意が秘められた写真には、アンジェリークの愛情が沢山詰まっている。
 息子へ、苦しい生活の中でも、精一杯のことをしていたのが、滲み出ている写真だった。
 その中でも、最後の一枚にアリオスは胸を詰まらせる。
 アンジェリークがレヴィアスを腕の中に抱いている写真だった。
 神聖だった。
 ふたりの姿はとても神々しく、昔見た、母子像のような清らかな美しさがあった。
 ごく普通のシンプルなワンピースを着ているアンジェリークに、今日と同じ、恐らく”よそ行き”と思える服に涎掛けをしたレヴィアス。
 特に、アンジェリークの瞳は遠くを見つめているようで美しい。
 全てを悟ったようなそんな眼差しをしていた。

 アンジェ…!!!!

 写真が込み上げる感情を抑えきることが出来ない。
 アルバムはもう1ページあった。
 最後のページに、アンジェリークは息子に向けて小さなカードを書き残していた。

 レヴィアスへ。
 今、あなたがこれを読んでいるのは、ずっと未来のことだと思います。
 ままはあなたといて凄く幸せでした。
 あなたを産むことが出来たのが、人生で一番幸せなことでした。
 あなたはいつも明るく、笑ってままを支えてくれました。
 だからままは頑張ってこれたのよ?
 あなたを産むだけ産んで、ちゃんと育てて上げられなくってごめんなさい。
 ままの時間がなくってごめんね。
 あなたと一緒にいたときも、十分なことをしてあげられなくてごめんね。
 
 あなたの育てのままは、とても素晴らしいままでしょう?
 私の存在を知っても、あなたの本当のままはレイチェルだから。
 そのことを忘れないで下さい。
 あなたがこれを読む頃は、ままはお星様になってかなりの時間が過ぎています。
 あなたは今のままよりも年上ですもの。
 ままはいつまでもあなたを見守っています。
 レヴィアスへ。
 愛をこめて。
 あなたの遠い昔のままより。


 こんなもの…。
 俺は未来のレヴィアスには読ませない…!!!
 おまえはずっと、レヴィアスの母親として、あいつを育てていくんだからな!!!

 アリオスは固い決意を秘めてアルバムを閉じた-------
 

コメント

「愛の劇場第5弾」です。
今回は、べたにメロドラマの題材です。
次回最終回!!
と言いましたが。
後一回お付き合いください〜。
わ〜ん!!!
ごめんなさいなり




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