LULUBY IN BLUE

 Last chapter


 朝もアリオスがレウ゛ィアスの世話をかいがいしくする。息子を起こして顔を洗わせ、生え始めた歯も磨いてやった。
 服も動きやすいものを着せてはっと息を吐く。
 その間に手配していた朝食も届き、食べさせ始めた。
 だがその間もアンジェリークは目を覚まさない。
 点滴を何本も入れられて、眠ったままだ。
 アリオスは点滴をするアンジェリークの姿が痛々しく、切なくなってしまった。

 レウ゛ィアスのお気に入りの朝食は、ヨーグルトらしく、美味しそうに食べている。
「おいち〜!」
「そうか。いっぱい食って大きくなれよ?」
「あい」
 しっかりと朝食を食べた後は、アリオスとレウ゛ィアスはアンジェリークの手をしっかりと握り締める。
 時折、主治医のジュリアスが様子を見にきてくれ、安定していることを伝えてくれた。
 安心しつつも、アリオスはアンジェリークの元を離れなかった。

 昼過ぎになり、ようやくアンジェリークは目を覚ました。
 目を開けても、ちゃんと愛する男性たちがいる。
 この幸せに、アンジェリークは涙が出そうになった。
「まま!」
 抱き付いて来ようとするレウ゛ィアスをアリオスは制止する。
 沢山の医療器具を着けているアンジェリークには、息子をちゃんと抱き締めて上げることが出来ないから。
「レウ゛ィ、まだママはおまえをちゃんと抱っこ出来ねえからな? 抱っこ出来るようになったら、抱っこしてもらえ」
「あい」
「有り難う、アリオス」
 アリオスは微笑むと、幾分か赤みのさしたアンジェリークの頬を優しく撫で上げた。
「随分、顔色が良くなったな?」
「うん。随分と体は楽になってきたから・・・」
「そうか・・・」
 ほっとするようにアリオスは息を吐く。
「もう逃げ出すなよ? 病院で、最新の医療を受ければ、おまえの病は治る。おまえ自身がもっと、やる気をもって病気と戦えば治る。いや、俺が直してやる!!」
「アリオス・・・」
 愛を感じる。
 彼はこれほどまで愛してくれている。
 深くて情熱的で安らぎのある愛情だ。
「アリオス・・・っ!」
「アンジェ、正式に結婚するぞ。一緒になろう」
 シンプルでストレートだが、その分深い愛情を感じずにはいられなかった。
 不意にアリオスと女性が抱き合っているシーンを思い出す。
「アリオス・・・、あの女の人は・・・」
 不安げな瞳をアリオスを見つめ、アンジェリークは泣きそうになった。
「ちゃんと断ったから」
「えっ!?」
 一瞬、聞き違えたかと思った。
 アンジェリークはびっくりとしたばかりに、大きな目を丸くしている。
「そうだ。あの日、おまえが目撃したのは、最後にと抱き付いてこられたからだ。
 俺はおまえ以外を幸せに出来ねえから、ちゃんとわけを話したら、判ってくれた。
 家のために結婚するのはまっぴらだ。俺は自分が幸せになるためにする」
 ぴしゃりと言い切ると、アンジェリークをぎゃっと抱き締める。
「ぱぱだめ」
「すまねえ」
 苦笑いしてアリオスはアンジェリークから離れた。
「アンジェ、ずっと一緒にいよう・・・。ずっとずっとだ・・・」
「アリオス・・・」
 握り締めてくれたアリオスの手の熱さが、堪らなく心地良い。
「一緒になろう・・・。アンジェ」
「アリオス・・・。いいの? 余り時間はないかもしれないのよ?」
「アンジェ、おまえは死んだりなんかしねえよ。そんなことは口にするな」
 少し、アリオスは怒っているようだった。
 彼の表情は、明らかに厳しい。
「アリオス・・・」
「万が一のことがあったとしても、俺はかまわねえ。おまえと許される限りは一緒にいてえんだよ。アンジェ、おまえと一緒にいる時間が生涯で一番幸福だと、俺は言い切れる」
「アリ・・・」
 涙でアリオスが見えない。
 アンジェリークは、泣き笑いを浮かべながら、唇を噛み締め、じっとアリオスを見つめた。
「アンジェ」
「アリオス、短い間かもしれないですが、私とレウ゛ィアスを宜しくお願いします・・・!!」
 深々と頭を下げると、アンジェリークは笑った。
 清らかでかつ満点の笑顔だ。
「アンジェ、親子三人で頑張って行こう」
「アリオス」
 レウ゛ィアスを交えて三人でしっかりと手を握り合って、誓い合う。
 親子三人で肩を寄せ合って、生きていくことを喜び合った。
 新たな時間が、三人の中に流れ始めた。
 その後、すぐに、安心したのかアンジェリークは、再び眠りに落ちた------



 その眠りから、アンジェリークは目覚めない。
 昏々と眠り続け、余談の許さない状態に再び陥り、危篤状臓になった。
 だがアリオスは諦めなかった。
 アリオスは辛抱強くアンジェリークを看病し、病をも恐れない。
 最高の医療スタッフを準備し、薬も最高のものを投与し続けた。

 アンジェ…。
 俺もレヴィアスもおまえを待っているから…。
 目を覚ましてくれ!!! 頼む!!!

 アリオスとレヴィアスは心を一つにして祈り続ける-----


 ------そして、祈りが通じたのか一週間後にとうとう、アンジェリークは、目を覚ました。
 ゆっくりと目をあけたときのアンジェリークの表情をアリオスは忘れない
 ぼんやりとしていながらも、眼差しだけは潤んで、アリオスとレヴィアス親子を捕らえていたのだから。
「アリオス・・・」
「アンジェ! 頑張ったな?」
 こくりとアンジェリークは頷くと、力ないものの笑うことが出来た。
「・・・アリオスとレウ゛ィアスがそばにいてくれたから、生きようと思ったの・・・」
「アンジェ・・・!」
 器具が沢山着いているアンジェリークを、アリオスは感きわまって抱き締めた。
 一生懸命に「生きよう」と思う気持ちが、奇跡を起こしはじめた。


 その後、アンジェリークの回復力は目覚ましかった。
 昏睡状態ではなくなり、頬の色も少しずつ赤みをさし始めている。
 日にちが薬になり、良くなっていった。
 「愛の力」としか思えないと、ジュリアスが驚いたほどだ。
「正直、匙を投げていましたが、ここまで回復するとは思いませんでしたよ? 彼女は既に、病魔に打ち勝ったと言ってもいいでしょう・・・。
 恐らく、”奇跡”が起こったんでしょう・・・」
 アンジェリークの回復。
 それ、アリオスにとって何よりも嬉しく、また喜ぶべきことであった。
 
 そこからが忙しかった。
 アンジェリークの住んでいた母子ハウスの退去手続きをし、荷物を、アリオスが所有するペントハウスに移動させたり、家具を買ったり、アンジェリークとレヴィアスの服を買ったりと、ばたばたと、退院後の準備に没頭する。
 もちろん、それはとても楽しいことで、アリオスは充実感を感じていた。


 そして-------

 その日は、朝から晴れ上がり、いい日和だった。
 アンジェリークは朝からゆったりと入浴をし、さっぱりした気分で浴室から出てくると、レイチェルと見知らぬ女性がが待っていた。
「レイチェル?」
「アンジェ、いいから椅子に座って!!」
 親友が何を企てているか判らずに、アンジェリークは目を丸くする。
 だが勢いに押されて、椅子に座らされてしまった。
「お願いします!!」
「ええ」
 女性はアンジェリークの顔を少し見てから、メイクをし始めた。
「あ、これは、その・・・」
「いいから、アンジェは黙ってて!!!」
 親友が何をたくらんでいるか判らずに、アンジェリークは目を白黒させる。
 その間もメイクする手は進んでいく。
「ねえ、アリオスとレヴィアスはどこに行ったの?」
「ふたりは仲良く散歩してるよ〜」
 誤魔化されたとアンジェリーくは思って更に突っ込んでやろうと思ったが、叶わなかった。
 メイクがすむと今度は髪だ。
 栗色の髪をアップにし、白いカスミソウで飾られる。
 ここまですれば、気がつくはずだが、アンジェリークは肝心のドレスを着せられるまで、何が起こるか気がつかなかった。
 ドレスは白のシンプルなものだが、アリオスが選んだオートクチュール。
 清らかなアンジェリー国はぴったりだ。
「レイチェル・・・」
 アンジェリークは感激のあまり大きな瞳に涙を浮かべて、親友を見ている。
「ワタシからはブーケだよ。アンジェ」
「レイチェル!!!」
 ブーケを渡されるなり、アンジェリークはは何か尾を隠して今にも泣き出しそうだった。
「こらダメだよ! 折角綺麗にしてもらったんだからさ、お化粧がはがれちゃうよ!!」
「うん、うん、うん…」
 堪えようとしても涙が堪えきれずに、アンジェリークは何度も鼻をすすった------

 リムジンに乗せられて向かうところは、やはり教会。
 石畳で出来たロマンティックな場所だった。

 ここで、ここで、新しい人生が始まる…!!!!

 車が止まりドアが開く。
 レイチェルに手伝ってもらって外に出る。
 その瞬間。
 余りにもたくさんの人たちがいることにびっくりした。
 職場の同僚、母子寮で世話になった人々、ホテルの社長のチャーリー。
 その中でもアンジェリークに向かって歩いてくる美しい女性がいる。
 アリオスの姉だ。
 アンジェリークが一度も忘れたことの無い女性だった。
「アンジェリークさん・・・。
 私のことを許してくれますか? 
 あなたの話を聞いて、私は何てことをしたんだと思ったわ・・・」
「いいえ・・・」
 アンジェリークはゆっくりと首を振る。
 今までは苦しかった。
 だがそれがあったからこそ今の自分がここにいる。
 過去のことはもう水に流してしまえる。
「アリオスをよろしくね?」
「はい・・・」
 しっかりと握手をしあった後、アンジェリークは先に進んだ。
「今日で退院だ。
 無理をしないようにな?」
「はい!!」
 奇跡を起こしてくれた主治医ジュリアスの横を通り抜けて、更に先に進む。
 進んだ先には、唯一の親類カティスとレイチェルの両親がいる。
「おじ様がた、おば様・・・」
「幸せになるんだ、アンジェ。その権利はある」
「はい・・・」
 懐かしい人々に見送られ、最後に待つのは愛しい二人。
 アリオスはグレーのタキシード、レヴィアスもミニチュア版で同じ格好をしている。
「待ってたぜ? 奥さん?」
「まま!!!!」
 愛する、愛する二人が待っている光の中へ、アンジェリークは今飛び込んでいった-----
「アリオス!!! レヴィアス!!!」
 幸せという名の祝福が、今、ようやく親子に降り注いだ--------



 一年後。
 エレミアの海岸には、楽しげな親子の声が聞こえている。
「ぱぱ!! まま!! 競争!!」
「おい、レヴィアス、ままはおなかが大きくて大変なんだからな? ままは抜きだ」
 アリオスは妻の大きく突き出たおなかをなでながら苦笑する。
「ままずるいっ! ままふたり分なのに」
「じゃあパパが三人分頑張るぜ? ほら行くぜ!!」
「待って〜!!!」
 親子ふたりが海岸を楽しそうにかけていく。
 目指すは三人が遊びにきている別荘だ。
「ふたりとも!! こけちゃダメよ!!」
 アンジェリークはくすりと笑いながら、二人の愛する男たちを、ゆっくりと歩いて追った。

 エレミアの海へ・・・。
 今、私たちはこんなに幸せです・・・。


コメント

「愛の劇場第5弾」です。
今回は、べたにメロドラマの題材です。
とうとう完結です。
私にとっては一番長い連載と相成りました。
作中、やはり「レヴィアス」が一番人気でした。
こんな素直な子なら欲しいです(笑)
未婚の母という、少し重いテーマでしたが、無事大団円を迎えることが出来ました。
有難うございました。
ここまでコツコツと読んでくださった皆様。
感謝いたします。
次回の「愛の劇場」で、またお会いしましょう。
Thursday, September 05, 2002 21:58:04 tink




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