LULUBY IN BLUE

chapter26


  アリオスはしっかりとアンジェリークの手を握り締める。
「アンジェ、おまえと一緒になるために、ちゃんと縁談も断った。いつでも一緒にやれる」
 アンジェリークの瞼は何度か動くものの、それ以上の反応はない。
 多くの器具が付けられた状態の彼女の触れることが出来る場所を、アリオスは一生懸命さすってやった。
 生きて欲しい。
 ただそれだけの望みを託して、アリオスは、細くなった躰をさすってやった。

 レイチェルとエルンストは、レウ゛ィアスを連れて、アルウ゛ィースの総合病院に向かう。
 アンジェリークから託された荷物を一緒に車に運び込む。
 レイチェルとエルンストの心は決まっていた。
 たとえ短い間でも、親子は一緒にいるものだと。
 レウ゛ィアスはどこに行くのか本能で悟ったのか、先ほどあったむずがりも無くなった。
 小さくても判っているのだ。
 今から父親と母親のいる場所に行くことを。
 車は一路病院へと向かう。
 その間、母親が心を込めて作ったぬいぐるみを、レウ゛ィアスはぎゅっと握り締めていた。
 病院に着いてすぐに、受付に言うと、すぐに部屋を教えてくれる。
 ふたりはレウ゛ィアスの手を引いて、アンジェリークのいる病室へと向かった。
 この病院で親子水入らずの生活をしていたせいか、レウ゛ィアスは、どこか嬉しそうに見える。
 集中治療室に入るなり、レウ゛ィアスは直ぐにに視界に入った父親に向かって駈けていく。
「ぱぱ!」
「レウ゛ィアス」
 抱きついてきた我子を、アリオスはしっかりと抱き上げた。
「久し振りね、アリオス」
「ああ。アンジェが来られねえと、言いにきてくれた以来だな」
「そうだね」
 やはり、”アンジェリークを捨てた男”としてのイメージがあるせいか、レイチェルの表情はどこか強張っている。
「レヴィアス、ままは少しねんねしてるが、また目を覚ますからな」
「まま、ねんね」
 子供心にやはり不安なのか、レヴィアスは父親のシャツの裾を握り締めたまま離さない。
「大丈夫だ、レヴィアス」
「あい」
 レヴィアスは恐る恐る、器具がいっぱい着いた状態の母親を見る。
「アンジェ、みんな来てくれたぜ? レウ゛ィアスもちゃんとそばにいる」
「まま」
 アリオスはレウ゛ィアスを膝の上に座らせると、ふたりでアンジェリークの手を握り締めた。
「アンジェ、おまえは十分生きて行けるから、まだまだ元気でいける・・・」
 アリオスとレウ゛ィアスの一生懸命さが、レイチェルの涙を誘う。

 アンジェ、こんなにみんなから愛されてるんだよ?
 生きなきゃ!
  だって、アナタとアリオス、レウ゛ィアスは立派な家族だよ?
 そのふたりを置いて逝っちゃだめだよ!!
だからガンバって!!

 遠くから見つめながら、レイチェルはアンジェリークにエールを送る。

 アナタたちは凄い絆のある親子だよ・・・。
 ワタシとエルンストは入り切れない・・・。

「んんっ・・・」
 アンジェリークは少しずつ反応を始める。
 アリオスとレウ゛ィアスの手を少し握り締めた。
「アンジェ・・・!」
「まま!!」
 お互いにしっかりと手を握り合う。
 主治医のジュリアスがアンジェリークを診にくる。
「少し、下がっていた血圧が上がってきました。もっと声を掛けたりしてあげて下さい」
「ああ」
 親子ふたりで声をさらに掛けて、アンジェリークの手を握り締めた。
「まま、またおいちごはん作って」
「約束したじゃねえか! 今度、おまえが作るメシをみんなで食べるって」
 ぴくり。
 アンジェリークの瞼が更に動く。
 ゆっくりと開いた青緑色の瞳には、アリオスとレウ゛ィアスを映していた。
「アンジェ!!!!」
「まま!!!!」
 二人の愛する男は、もうなきそうになりながらアンジェリークを見つめている。

 私のかけがえのない二人だわ・・・

 アンジェリークの病状を、傍で逐一チェックしていたジュリアスの表情が、ほっとしたものに変わった
「自発的に呼吸を始めました」
 ジュリアスは機敏にアンジェリークに近づいて行く。
 自発的に呼吸を始めたアンジェリークは、酸素マスクを息でくもらせる。
「アリオス・・・。レウ゛ィアス・・・」
 ジュリアスは、アンジェリークが自発的に呼吸をしていることを、もう一度確かめてから、酸素マスクを外した。
「危機は脱したみたいです」
 軽く言うと、ジュリアスは頭を下げて病室の入り口で待機する。
「アリオス・・・、どうして・・・」
「後でいっぱい話してやるから、今は休め・・・。ゆっくり休めば良くなるから」
「うん・・・。レウ゛ィアスもあまり遅くまで起きてたらダメよ・・・」
 それだけを言うと、アンジェリークは再び目を閉じた。
 柔らかな眠りに、アリオスはほっとする。
「アリオス、私たち行くわ。レウ゛ィアスは置いていくから。またあか合ったら携帯教えとくから、そっちに連絡頂戴」
「ああ。有り難う」
 レイチェルが手帳のページを破り、走り書きしたものをアリオスに渡した。
「荷物の中に、アルバムがあるから。アナタはそれを見なくっちゃダメよ。アンジェがどんなに息子を愛して、育てたかが判るから・・・」
「ああ」
 アリオスは力強く頷き、まっすぐな瞳でレイチェルを見る。
 それを見れば、アリオスのアンジェリークへの愛情が判った。
「では、我々はこれで」
 エルンストがペコリと頭を下げて、レイチェルと一緒に病室を後にする。
「ばいばい」
 レヴィアスは父親に抱かれながら、レイチェルとエルンストに小さな手で何度も”ばいばい”とする。

 アンジェ、レヴィアス、アリオス…。
 絶対に幸せになるのよ?
 幸せにならなかったら、ワタシが許さないんだから・・・

コメント

「愛の劇場第5弾」です。
今回は、べたにメロドラマの題材です。
次回最終回!!





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