LULUBY IN BLUE

chapter25


 アンジェリークをすぐに車に運び、助手席に乗せるが、何の反応も示さなかった。
 濡れた躰をタオルで拭き取ってやっても、何をしても反応をしない。
「アンジェ、レウ゛ィアスはどうしたんだ!?」
 だが、彼女は応えることはなかった。
 アリオスはレウ゛ィアスのことが心配でならなかったが、今は目の前のアンジェリークのことだった。
 車を出し、ジュリアスのいる病院に祈るような気分で向かう。

 頼む助かってくれ!

 車を走らせ、前速力で病院に向かう。
 携帯をつかみ、交通違反にもかかわらず、アリオスはジュリアス直通の電話をかけた。
「ジュリアスです」
「アリオスだ。アンジェがまた意識をなくした。躰もかなり冷たくなっている。すぐに連れていくからすぐに準備してくれ」
「判りました」
 緊迫がジュリアスに伝わり、すぐに準備を開始する。

 手後れにならなければいいが・・・。

 携帯を切った後、アリオスは運転しながらも、触れれるだけアンジェリークに触れる。

 頼む、俺を幸せにしてくれ・・・!
 おまえを愛しているから・・・。

 車を病院の裏手に着けると、すぐにジュリアスが待ち構えていた。
 アリオスはぐったりとしたアンジェリークを抱き上げ、ストレッチャーに乗せる。
「奥の集中治療室に運びます」
「判った。すぐに駐車してから行く」
 アリオスはアンジェリークが運ばれていくのを見送ってから、車を駐車スペースに止めにいった。
 彼女が持っていた荷物を持ち、慌てて集中治療室に向かう。
 集中治療室に入ると、アンジェリークは酸素マスクをされ、点滴施されていた。
「アンジェ…」
 更に痛々しくなっているアンジェリークを見ると、アリオスは息が止まる思いだ。
 アリオスの姿を見つけ、ジュリアスは近付いてくる。
 その表情はそこはかとなく厳しい。
「全力は尽くしますが、覚悟はして下さい」
 事実を突き付けられ、アリオスは凍り付いた。

 アンジェ・・・!

 目の前にあった希望が、今しおれていく。
「このまま目が覚めずにということは・・・」
「ありえます」
 きっぱりとジュリアスは言い切った。
 判っていたこととはいえ、アリオスの表情も厳しくなる。
「そばについてやっていて構わねえか?」
「そうしてやって下さい」
 アリオスはアンジェリークの手をしっかりと握り締め、祈った。

 どうか、アンジェリークを助けてくれ・・・!
 一度でいい! 俺を見て笑ってくれ、アンジェ・・・!!

 不意にアンジェリークのバッグから音が鳴る。
 少し罪悪感を感じたが、アリオスはバッグを開けた。
 鳴っているのはPHSだった。
 ためらいつつも、アリオスは電話に出ることにした。
「はい」
「あっ、ゴメンナサイ、間違え・・・」
「あんたアンジェの知り合いか?」
 間違ったと思ったレイチェルは、今度は息を呑む。
「そっちこそ誰よ!」
 逆に訝しげにレイチェルはアリオスに訊いてきた。
「アンジェの旧い知り合いだ。アンジェが雨の中倒れていたから病院に運んだ。今はその病室だ」
 衝撃がレイチェルの胸を激しく突き上げる。
 覚悟はしていたとはいえ、哀しくてやるせなくて堪らなかった。
「アナタが出たということは、あの子は電話に出られる状態じゃないのね・・・?」
「ああ、そうだ。集中治療室にいる」
 そこまで答えたところで、不意に小さな子供の激しい泣き声が聞こえる。
「ままーっ! どこ〜! ままっ!! ままっ!!!」
 激しすぎる泣き声が誰なのか、アリオスにはすぐに判った。レウ゛ィアスだ。
「まま〜!!!」
 声は更に大きくなる。
「レウ゛ィアス、パパだ!!」
 息子の泣き叫ぶ声が心配で、電話を通して、アリオスは息子の名前を必死になって呼んだ。

 レウ゛ィアスの父親って、まさか・・・!「

ぱぱ! ぱぱ!!」
 急に泣き叫ぶのを止めたかと思うと、レウ゛ィアスは父親を求めてくる。
「レウ゛ィアス、ぱぱだ。大丈夫か?」
 余りにも父親を思慕し、声が聞こえるレイチェルの携帯をレウ゛ィアスは奪った。
「ぱぱ! 迎えにちてっ!! ままとぱぱのところに行くからっ!!」
 一生懸命はなし、その思慕がアリオスにはひしひしと伝わる。
 傍に置きたかった。
 アリオスは息を吸い込むと、真摯な声で息子に言い聞かせる。
「レウ゛ィアス・・・。お姉ちゃんに電話を変わってもらえねえか?」
「あい」
 渋々返事をすると、レウ゛ィアスはレイチェルに電話を渡す。
「代わったわ」
「レウ゛ィアスを連れて、病院に来てもらうことは出来ねえだろうか?」
 レイチェルは黙り込む。
 自分では上手く考えがまとまらず、近くにいたエルンストにも訊いてみた。
「私たちは・・・、レウ゛ィアスを養子縁組するのを前提で、引き取りました。アンジェは、彼が二十歳になったら、自分のことを話してほしいと言っています。
 彼女は息子に、母の”死”を見せたくないと言って、直前に彼を私たちに託しました・・・」
 涙で言葉が詰まりぎみに話す。
 涙がどうしようもなく零れ落ちてしまう。
「だから、行ってはいけないような気がする。だけど・・・」
 レイチェルは横にいるエルンストを答えを請うように見つめる。
「・・・アンジェはまだ死んだわけじゃねえ!! 助かるかもしれねえんだ!! だから、頼む・・・!!」
 力強いアリオスの言葉を訊けば、本当にそのような気がしてくるのが不思議だ。
「エルンスト…」
「レイチェル・・・。行って上げましょう」
 欲しい言葉だった。
 レイチェルは頷くと、直ぐに電話に向かって話す。
「判りました。レヴィアスを連れてそちらに行きます」
「有難う・・・。!!!
 病院は、エンジェルレーンのアルヴィース総合病院だ。待ってる…」
「はい、わかりました」
 携帯を着ると、レイチェルは立ち上がる。
「エルンスト、アルヴィース総合病院に連れて行って」
「判りました」
 ふたりはレヴィアスの支度をし、急いで病院へと向かった-----



「アンジェ…。
 もう直ぐ俺たちの大切な息子が来る・・・」
 声をかけるが、彼女は以前のように答えてはくれない。
 泣きたかった。
 だが泣けなかった。
 一生涯で一番愛した女性が今、逝こうとしている。

 俺は諦めねえから…!!!

 ぎゅっと小さな手を握り締め、アリオスは痛々しいアンジェリークをずっと見つめ、話し掛け続けた。
「なあ、おまえ、またキツク俺を睨めよ?
 再会したときみてえに、な?」
 優しい声で、アリオスは愛する者に語りかける。
 純粋な想いを込めて、彼は彼女だけに愛を注いだ。
 その瞬間。
「…!!!」
 アリオスの思いが届いたのか、アンジェリークの僅かに瞼が動く。
「アンジェ!!!!」
 アリオスは、最後の一縷の望みに光が見えたような気がした。

コメント

「愛の劇場第5弾」です。
今回は、べたにメロドラマの題材です。
もうちょっとです〜!!




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