アンジェリークをすぐに車に運び、助手席に乗せるが、何の反応も示さなかった。 濡れた躰をタオルで拭き取ってやっても、何をしても反応をしない。 「アンジェ、レウ゛ィアスはどうしたんだ!?」 だが、彼女は応えることはなかった。 アリオスはレウ゛ィアスのことが心配でならなかったが、今は目の前のアンジェリークのことだった。 車を出し、ジュリアスのいる病院に祈るような気分で向かう。 頼む助かってくれ! 車を走らせ、前速力で病院に向かう。 携帯をつかみ、交通違反にもかかわらず、アリオスはジュリアス直通の電話をかけた。 「ジュリアスです」 「アリオスだ。アンジェがまた意識をなくした。躰もかなり冷たくなっている。すぐに連れていくからすぐに準備してくれ」 「判りました」 緊迫がジュリアスに伝わり、すぐに準備を開始する。 手後れにならなければいいが・・・。 携帯を切った後、アリオスは運転しながらも、触れれるだけアンジェリークに触れる。 頼む、俺を幸せにしてくれ・・・! おまえを愛しているから・・・。 車を病院の裏手に着けると、すぐにジュリアスが待ち構えていた。 アリオスはぐったりとしたアンジェリークを抱き上げ、ストレッチャーに乗せる。 「奥の集中治療室に運びます」 「判った。すぐに駐車してから行く」 アリオスはアンジェリークが運ばれていくのを見送ってから、車を駐車スペースに止めにいった。 彼女が持っていた荷物を持ち、慌てて集中治療室に向かう。 集中治療室に入ると、アンジェリークは酸素マスクをされ、点滴施されていた。 「アンジェ…」 更に痛々しくなっているアンジェリークを見ると、アリオスは息が止まる思いだ。 アリオスの姿を見つけ、ジュリアスは近付いてくる。 その表情はそこはかとなく厳しい。 「全力は尽くしますが、覚悟はして下さい」 事実を突き付けられ、アリオスは凍り付いた。 アンジェ・・・! 目の前にあった希望が、今しおれていく。 「このまま目が覚めずにということは・・・」 「ありえます」 きっぱりとジュリアスは言い切った。 判っていたこととはいえ、アリオスの表情も厳しくなる。 「そばについてやっていて構わねえか?」 「そうしてやって下さい」 アリオスはアンジェリークの手をしっかりと握り締め、祈った。 どうか、アンジェリークを助けてくれ・・・! 一度でいい! 俺を見て笑ってくれ、アンジェ・・・!! 不意にアンジェリークのバッグから音が鳴る。 少し罪悪感を感じたが、アリオスはバッグを開けた。 鳴っているのはPHSだった。 ためらいつつも、アリオスは電話に出ることにした。 「はい」 「あっ、ゴメンナサイ、間違え・・・」 「あんたアンジェの知り合いか?」 間違ったと思ったレイチェルは、今度は息を呑む。 「そっちこそ誰よ!」 逆に訝しげにレイチェルはアリオスに訊いてきた。 「アンジェの旧い知り合いだ。アンジェが雨の中倒れていたから病院に運んだ。今はその病室だ」 衝撃がレイチェルの胸を激しく突き上げる。 覚悟はしていたとはいえ、哀しくてやるせなくて堪らなかった。 「アナタが出たということは、あの子は電話に出られる状態じゃないのね・・・?」 「ああ、そうだ。集中治療室にいる」 そこまで答えたところで、不意に小さな子供の激しい泣き声が聞こえる。 「ままーっ! どこ〜! ままっ!! ままっ!!!」 激しすぎる泣き声が誰なのか、アリオスにはすぐに判った。レウ゛ィアスだ。 「まま〜!!!」 声は更に大きくなる。 「レウ゛ィアス、パパだ!!」 息子の泣き叫ぶ声が心配で、電話を通して、アリオスは息子の名前を必死になって呼んだ。 レウ゛ィアスの父親って、まさか・・・!「 ぱぱ! ぱぱ!!」 急に泣き叫ぶのを止めたかと思うと、レウ゛ィアスは父親を求めてくる。 「レウ゛ィアス、ぱぱだ。大丈夫か?」 余りにも父親を思慕し、声が聞こえるレイチェルの携帯をレウ゛ィアスは奪った。 「ぱぱ! 迎えにちてっ!! ままとぱぱのところに行くからっ!!」 一生懸命はなし、その思慕がアリオスにはひしひしと伝わる。 傍に置きたかった。 アリオスは息を吸い込むと、真摯な声で息子に言い聞かせる。 「レウ゛ィアス・・・。お姉ちゃんに電話を変わってもらえねえか?」 「あい」 渋々返事をすると、レウ゛ィアスはレイチェルに電話を渡す。 「代わったわ」 「レウ゛ィアスを連れて、病院に来てもらうことは出来ねえだろうか?」 レイチェルは黙り込む。 自分では上手く考えがまとまらず、近くにいたエルンストにも訊いてみた。 「私たちは・・・、レウ゛ィアスを養子縁組するのを前提で、引き取りました。アンジェは、彼が二十歳になったら、自分のことを話してほしいと言っています。 彼女は息子に、母の”死”を見せたくないと言って、直前に彼を私たちに託しました・・・」 涙で言葉が詰まりぎみに話す。 涙がどうしようもなく零れ落ちてしまう。 「だから、行ってはいけないような気がする。だけど・・・」 レイチェルは横にいるエルンストを答えを請うように見つめる。 「・・・アンジェはまだ死んだわけじゃねえ!! 助かるかもしれねえんだ!! だから、頼む・・・!!」 力強いアリオスの言葉を訊けば、本当にそのような気がしてくるのが不思議だ。 「エルンスト…」 「レイチェル・・・。行って上げましょう」 欲しい言葉だった。 レイチェルは頷くと、直ぐに電話に向かって話す。 「判りました。レヴィアスを連れてそちらに行きます」 「有難う・・・。!!! 病院は、エンジェルレーンのアルヴィース総合病院だ。待ってる…」 「はい、わかりました」 携帯を着ると、レイチェルは立ち上がる。 「エルンスト、アルヴィース総合病院に連れて行って」 「判りました」 ふたりはレヴィアスの支度をし、急いで病院へと向かった----- 「アンジェ…。 もう直ぐ俺たちの大切な息子が来る・・・」 声をかけるが、彼女は以前のように答えてはくれない。 泣きたかった。 だが泣けなかった。 一生涯で一番愛した女性が今、逝こうとしている。 俺は諦めねえから…!!! ぎゅっと小さな手を握り締め、アリオスは痛々しいアンジェリークをずっと見つめ、話し掛け続けた。 「なあ、おまえ、またキツク俺を睨めよ? 再会したときみてえに、な?」 優しい声で、アリオスは愛する者に語りかける。 純粋な想いを込めて、彼は彼女だけに愛を注いだ。 その瞬間。 「…!!!」 アリオスの思いが届いたのか、アンジェリークの僅かに瞼が動く。 「アンジェ!!!!」 アリオスは、最後の一縷の望みに光が見えたような気がした。 |
コメント
「愛の劇場第5弾」です。
今回は、べたにメロドラマの題材です。
もうちょっとです〜!!
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