LULUBY IN BLUE

chapter22


 あれから、アリオスは毎日アンジェリークのそばにいてくれるようになった。
 正確には、彼が病院から仕事に通っているのだ。
 残業もせずに、定時にちゃんと病室に戻り、夕食は一緒にしてくれる。
 仕事は夜こっそりと病院の事務室などである程度は片付けているようだ。
 昼間は治療に専念しながらも、アンジェリークは息子の面倒を疲れない程度に見ている。
 そうしなければ、時間がも度がしく感じるから。

 子供も彼との間にいるのに、何でこんなにドキドキするんだろう・・・・
 病気でもドキドキするんだ・・・。
 子持ちでもドキドキするんだ・・・


 切ない思いでアンジェリークが待ったかいがあり、今夜もアリオスは定時に帰ってきてくれた。
 夕食は、親子三人、病室で楽しむ。
「ままの作ったのがおいち〜」
 母親の作った食事が大好きなレウ゛ィアスは、少し不満そうにスプーンを振り回している。
「またママに作って貰えるんだからな? ママが元気になるまで待ってやれ?
 ママが元気になったら、パパと一緒にママのごはんを食べような?」
「あい」
 こくりとレウ゛ィアスは頷くと、また一生懸命食べ始めた。
 親子二人の様子を見ながら、アンジェリークはかなり穏やかな気分になる。
「ぱぱ、ぷりん」
 ピーマンを残して、レウ゛ィアスはデザートを要求する。
「こら、レウ゛ィアス。ちゃんとピーマンを食べなきゃ駄目だぜ? 嫌いなもんも一生懸命食え。大きくなれねえぞ」
 急にしゅんとして、レウ゛ィアスはうつむいてしまう。
「ぱぱ、ままと一緒」
「レウ゛ィ、ちゃんとピーマンは食べるのよ? いつもママが言ってるでしょう?」
 母親に怒られて、更にしゅんとしている彼が、アリオスにはおかしかった。
「素直な良い子はピーマンを食べるんだぜ? そうだ、レウ゛ィアス」
「あい」
 大好きな両親に言われると逆らえないレウ゛ィアスはコクリと頷いて、ピーマンを仕方なしに食べ始める。
 苦い顔をしながら飲み込む彼に、ふたりは顔を見合わせて笑った。
「ごっくんした! ぷりん!」
「よし、レウ゛ィアスよくやったな? ご褒美にプリン食べていいぞ」
「ぷりん!」
 父親にプリンの蓋を開けてもらい、食べる姿は微笑ましい。
 アリオスは、些細なことでも嬉しく感じる最高の機会を与えてくるたアンジェリークに、感謝せずにはいられなかった。
「レウ゛ィアス、パパが優しくて良かったね」
「あい」

 出来ることなら、このままずっといられたら・・・。
 アンジェが生きてさえくれれば、何も必要ないと言うのにな・・・。

 食事の後、病室の風呂で親子二人で入る。
 アリオスにとってはふたりがいる場所が我が家だった。
 たとえ病室だろうとそんなことはどうでも良かった。
 お風呂に入り、息子を寝かし付けた後、アリオスはアンジェリークの手をしっかりと握り締める。
「アリオス、いつも有り難う。ここに泊まってくれて助かってるわ・・。疲れたら家に戻ってね?」
「おまえとレヴィアスがいる場所が、俺にとっては”我が家”なんだ…」
「アリオス…」
 泣きたいぐらい嬉しくてたまらない。
 彼女は嬉し涙を隠すかのように、息子に目線を移した。
 アリオスのシャツの裾を持ったまま、すやすやと眠っている。
「レウ゛ィアスはすっかりパパっ子ね」
 くすりと笑うアンジェリークの表情に、出会った頃の穏やかなものが戻ってきた。
 彼はそれが嬉しくて堪らない。
「ちゃんと正式に、レウ゛ィアスの両親になろうな? アンジェ」
「アリオス・・・」
 潤んだ眼差しで彼を捕らえたまま、アンジェリークは何も言わない。
「返事は急がねえから。おまえの気持ちを優先してえから」
「アリオス・・・」
 アンジェリークの心は既に決まっていた。
 彼のそばにいたい。
 望みはそれだけだった。
「いつでも、返事は俺にしてくれれば良い。待ってるから。会社に直接来てくれても、ふたりきりのこんな時間でもかまわねえから」
 彼の心遣いが、彼女は泣きたいぐらいに嬉しい。
「うん有難う…」
 素直に返事をする彼女に、アリオスは穏やかな微笑を浮かべて頬にキスをした。
「おやすみ・・・」
「おやすみなさい」
 今度は唇に甘いキスをして、二人は目を閉じる。

 随分な変化だよな、あいつ・・・。
 このまま、おまえが決心してさえくれれば・・・

                     -----------------------

 この日、具合が改善したので外泊許可が出、アンジェリークは母子ハウスに一端戻った。
 荷物をまとめる為である。
 全ては彼と暮らすためであった。

 アリオスと暮らしたい…。
 あとどれぐらい一緒にいられるかは判らないけど、素直にアリオスのそばにいたいって思ってるわ。

 病気がこのまま改善するとは、なかなか思えなかったが、今は、たとえ短い時間でも、彼と一緒に過ごしたいと考えるようになっていた。
 返事をするために、アンジェリークはアリオスの元に向かう゜レウ゛ィアスをもちろん連れてである。
 電車に乗って、その間、レヴィアスには手作りの人形を持たせて、遊ばせる。

 もう直ぐ、親子3人で幸せになれるのよ・・・、レヴィアス…。

 電車を降りて、アルヴィースの本社に向かう。
 そのビルの大きさに、アンジェリークは少しだけしり込みをした。
「おっち〜!!」
「そうね、大きなお家ね?」
 こんな大きな建物を見るのは初めてとばかりに、レヴィアスはきゃっきゃっと笑いながら見上げている。

 あなたのパパがこのビルを持っているのよ?

 アリオスのところに直接いけるようにと、アンジェリークはセキュリティキーを持っていた。
 秘書などを通さずとも、アリオスに直接会える「魔法の鍵」である。
 ぎゅっとそれを握り締めると、アンジェリークはビルの中に入っていった。


「------やはり、私とはお付き合いしてはもらえないのね・・・」
「ローズ」
 その頃、ハルモニア銀行頭取令嬢であるローズは、決死の思い出アリオスに尋ねてきていた。
「判ってた・・・。
 あなたはずっと違った女性を見ているってことを…。
 ずうと自暴自棄気味だったのに、最近はとても充実しているようなきがするわ…」
 今にも泣き出しそうな表情をローズは浮かべている。
「…俺にはある女がいる。
 そいつ以外は、俺は愛することなんか出来やしねえ・・・。
 判って欲しい…。
 あんたを傷つけちまったかもしれねえが…」
 アリオスの真摯な眼差しで、ローズは全てを悟った。
 彼女は敗北を感じずにはいられない。
 今まで誰もアリオスにこんな表情をさせなかったのだから。
「------判りました・・・。
 ただ一度だけ、その胸でないていいですか?」
 思い詰めたように、ローズはアリオスを潤んだ瞳で見つめている。
「ああ。
 -------ただし、一分だけだ…」
「はい…」
 たった一度の抱擁。
 ローズはそれを心のそこから判っているせいか、思い出を刻みつけるために、アリオスに抱きついた--------


「レヴィアス、もう直ぐパパに逢えるからね?」
「あい」
 社長室のある階までやってきた。
 アンジェリークは少し緊張している。
 告白前の少年のような心境になってしまっている。
 ”社長室”のドアが見えた。
 アンジェリークは深呼吸をした後、ドアノブに手をかけようとしていた。
「開いてる?」
 彼女はそっとドアを開けようとしたとき、息を呑んだ。

 アリオス…!!!!

 そこには、偶然にも、ローズに胸を貸していたアリオスが立っている。
 しかも彼女の位置からだと、どう見ても”抱き締めている”としか見えない。

 アリオス…!!

 胸が張り裂けそうで、このまま倒れてしまうのではないかとすらアンジェリークは思う。

 やっぱり、あなたは私のことなんて、その程度のことだったんだ・・・

 一気に顔色が悪くなり、彼女はその場に倒れそうになる。
「まま?」
 心配そうに見つめる息子に、アンジェリークははっとした。
「大丈夫だから、帰ろうね」
「ぱぱは?」
 レヴィアスはきょろきょろとあたりを見つめ、ドアの中に入ろうとした。
「だめっ!」

 その音にアリオスははっとした。
 彼はローズからすぐさま離れ、ドアに近づいて行く。
「誰だ!?」
 その声にアンジェリークは小さな身体をびくりとさせ、レヴィアスを慌てて引っ張る。
「行くわよ」
「まま!!」
 必死になって走り、アンジェリークはエレベーターに消えた。
 アリオスがドアをあけて廊下を覗くと、そこには誰もいない。
「ったく、人騒がせな」
 舌打ちをしてドアを閉めようとして、彼は何かがドアに引っかかるのを感じた。
「何だ・・・」
 ゆっくり見てみると判った。
「・・・・!!!!」
 それはアリオスも見覚えのなる、アンジェリークの手作りのレヴィアスのおもちゃだった。
 ちゃんと”レヴィアス・コレット”と名前が書かれている。

 しまった…!!!

 アリオスは直ぐに廊下に飛び出すと、エレベーターに向かって走り出す。

 ここで捕まえなければ、俺は一生アンジェを失う事になる・・・!!!
 もう二度と失いたくない!!!
 アンジェ!!!
  

コメント

「愛の劇場第5弾」です。
今回は、べたにメロドラマの題材です。
書くと心が洗われる物語です。
わしの節操のないとこはともかくとして(笑)
「愛の劇場」シリーズ
最長記録更新中。
いよいよクライマックスに突入いたします。
はてさて、アンジェは無事にアリオスと結ばれるでしょうか!!



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