アンジェリークがびくとも動かないのを察し、アリオスは壊れそうに軋む胸を苦しげに抱えながら、病院に向かった。 彼女の掛かり付けの病院が判らず、取りあえずは、アルウ゛ィースが経営する総合病院に向かう。 総帥自らの申し出のせいか、救急入り口に着いた頃には、多くの医師や看護士が出迎えていた。 「総帥」 内科部長のジュリアスが率先して出迎える。 「すまねえが、車に乗っている女性をすぐに診察してくれ・・・」 「かしこまりました」 アリオスは自らの手でアンジェリークを抱き上げ、ストレッチャーに乗せる。 そのすぐ後に、疲れて眠っているレウ゛ィアスを抱き起こし、ストレッチャーに着いていった。 その間、アンジェリークのいる母子寮に連絡を取るように看護士に指示する。 アンジェリークはすぐに救急治療室に運ばれた。 彼女を診るなり、ジュリアスは険しい表情になる。 「こんな状態で彼女はよく・・・」 「どういうことだ!?」 アリオスは眉間に皺を寄せ、ジュリアスを険しく見つめた。 「・・・よく今まで持ったものだ」 「それは、アンジェがもう駄目だと・・・」 アリオスはジュリアスを見ることができず、顔色のないアンジェリークを見つめる。 「・・・いえ、彼女がしっかりと休養を取り、ストレスのない生活をすれば、快方に向かう可能性はあります。 今、休むこと。それが彼女にとっては最後のチャンスでしょう」 ”最後のチャンス”。 その言葉を胸に深く刻んで、アリオスはまっすぐとジュリアスを見た。 彼に頼るしかない。 名医として知られるジュリアスに縋るしか、道は残っていないように、アリオスは感じる。 「彼女には最高の医療を受けさせてやってほしい・・・」 「判りました。我々として全力を尽くします」 「頼んだ」 ジュリアスは頷くと、手早く、アンジェリークに処置を始めた。 アンジェ、頼む・・・。 生きてくれ…!!! 点滴を施され、じっと眠り続けるアンジェリークの小さな手をアリオスは握り締め続ける。 絶対におまえを死なせなせねえから・・・。 家族は一緒にいるべきだから・・・。 俺の夢は、愛する者たちと一緒にいることだから・・・。 点滴を初めて直ぐ、アンジェリークの容体は安定し、病院内で一番落ち着ける環境にある「特別室」に移った。 そこは付き添いの家族もゆったり眠れる部屋で、アリオスはすぐに指示をして子供用のベッドを運び込んだ。 そこでレウ゛ィアスを寝泊まりさせるようにして、アンジェリークのそばからなるべく離れないようにしてやる。 彼の心遣いであった。 眠っていたレウ゛ィアスも目が覚め、アンジェリークに着いている。 「パパ、ママ・・・」 母親に掛けられた布団をぎゅっと握り締めながら、不安げに父親を見つめる。 「大丈夫だ。ママは少しねんねしているだけなんだからな?」 「ママ、ねんね」 小さいなりにレウ゛ィアスは母親の危機的状況には敏感だ。 点滴がもうすぐ終わりそうなのを確認し、アリオスは看護士に連絡を取った。 アンジェリークの瞼がわずかに動く。 「アンジェ!!」 「ママ!!」 目を開けると、愛して止まないふたりの男が、彼女を覗き込んでいた。 「アリオス・・・、レウ゛ィアス・・・」 ふたりの姿を見て安心し、アンジェリークは少し微笑む。 倒れた時に比べると、幾分か顔色が良くなっていた。 「ゆっくりここで今までの疲れを癒せ。レウ゛ィアスの面倒が見えるようにしてやるから・・・」 「有り難う・・・」 ためらいがちにノックの音が聞こえた後、看護士が入ってきた。 「気分はいかがですか? コレットさん」 「はい、かなりいいです」 看護士は頷き、彼女の顔を覗きこんだ。 「良かったですね? かなり顔色が良くなりましたね?」 ニコリと笑うと、看護士は点滴を丁寧に外してくれる。 「おなかは空いていませんか?」 「レウ゛ィアスとアリオスはどうするの?」 自分のことよりも、まずはふたりの方が先決だとアンジェリークは感じていた。 「俺たちもここで食べられるように手配してるから、安心しろ?」 「うん・・・」 ほっと頷くと、彼女は笑うが、まだ弱々しい。 「私はいいです・・・。明日ならなんとかなると思いますが・・・」 「判りました」 頭を下げると、看護士は病室を出ていった。 「レウ゛ィアスのおむつ替えなきゃ」 「俺がやる」 起き上がろうとしたアンジェリークを制して、アリオスは買って出る。 昨日、アンジェリークに教わって、おむつ替えを覚えたばかりなのだ。 「じゃあお願いするわね? レヴィ、ぱぱにオムツ替えてもらいなさい? さっぱりするから」 「…あい…」 あまりオムツ替えの好きではないレヴィアスだが、母親に言われてしぶしぶ返事をする。 アンジェリークに言われたとおりに、オムツ替えようのパットをし、オムツを外した後、おしりなっぷで綺麗に拭いてやる 「アリオス、ちゃんときれいにしてあげてね?」 「判ってる」 「あ、ベビーパウダーよ、この後」 「悪い」 まだ詰めの甘いところはあるものの、アリオスは立派にレヴィアスのオムツを替えて見せた。 「レヴィ、よかったね? これでさっぱりしたでしょう?」 「あい!!」 嬉しそうにレヴィアスはさっぱりとしたオムツのまま走っている。 「こらレヴィアス、ズボンはけ!」 「あい〜!!」 親子のやり取りが、見ていて微笑ましい。 この光景がいつまでも続けばと、願わずにはいられない。 この命が尽きるまで、あなたのそばにいたいと・・・。 アリオス…。 アンジェリークははじめて、自分の心に素直になろうと決心を固めていた------ レヴィアスは安心したのか、子供用ベッドで眠り、アリオスもアンジェリークのベッドの隣にある簡易ベッドで今夜は眠る。 「有難う…」 「何も心配すんな。 とりあえずはしっかり休め? おまえの担当医ジュリアスは名医だ。 おまえだって、助かるかも知れねえと言ってくれた」 「・・・嘘・・・」 一瞬、彼女は自分の耳を疑う。 今まで言われてきた言葉は、どこにも希望的観測は含まれてはいなかった。 だが、今、彼は、誰も言ったことのない観測を言ってくれる。 「本当だ。 嘘だと思うなら、ちゃんとジュリアスに訊け? ただし! おまえがちゃんと休養した他という上での前提だがな」 「アリオス…」 アリオスの言葉は力強く、信憑性すら感じられる。 アンジェリークは返す言葉が見つからず、ただ彼の名前しか呼べない。 「見ててやるから…。 ちゃんと休め? な?」 「アリオス…」 彼女はコクリと頷くと目を閉じる。 だが神経が高ぶってなかなか寝つかれやしない。 もし、もし、そんな奇跡が起こるなら・・・。 奇跡を起こしてみたい… アンジェリークは深く祈らずに入られなかった------- |
コメント
「愛の劇場第5弾」です。
今回は、べたにメロドラマの題材です。
書くと心が洗われる物語です。
わしの節操のないとこはともかくとして(笑)
「愛の劇場」シリーズ
最長記録更新中。
さて、まだまふぁSTORYは動きます。
二人が幸せになるのはもう少しです
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