LULUBY IN BLUE

chapter21


 アンジェリークがびくとも動かないのを察し、アリオスは壊れそうに軋む胸を苦しげに抱えながら、病院に向かった。
 彼女の掛かり付けの病院が判らず、取りあえずは、アルウ゛ィースが経営する総合病院に向かう。
 総帥自らの申し出のせいか、救急入り口に着いた頃には、多くの医師や看護士が出迎えていた。
「総帥」
 内科部長のジュリアスが率先して出迎える。
「すまねえが、車に乗っている女性をすぐに診察してくれ・・・」
「かしこまりました」
 アリオスは自らの手でアンジェリークを抱き上げ、ストレッチャーに乗せる。
 そのすぐ後に、疲れて眠っているレウ゛ィアスを抱き起こし、ストレッチャーに着いていった。
 その間、アンジェリークのいる母子寮に連絡を取るように看護士に指示する。
 アンジェリークはすぐに救急治療室に運ばれた。
 彼女を診るなり、ジュリアスは険しい表情になる。
「こんな状態で彼女はよく・・・」
「どういうことだ!?」
 アリオスは眉間に皺を寄せ、ジュリアスを険しく見つめた。
「・・・よく今まで持ったものだ」
「それは、アンジェがもう駄目だと・・・」
 アリオスはジュリアスを見ることができず、顔色のないアンジェリークを見つめる。
「・・・いえ、彼女がしっかりと休養を取り、ストレスのない生活をすれば、快方に向かう可能性はあります。
 今、休むこと。それが彼女にとっては最後のチャンスでしょう」
 ”最後のチャンス”。
 その言葉を胸に深く刻んで、アリオスはまっすぐとジュリアスを見た。
 彼に頼るしかない。
 名医として知られるジュリアスに縋るしか、道は残っていないように、アリオスは感じる。
「彼女には最高の医療を受けさせてやってほしい・・・」
「判りました。我々として全力を尽くします」
「頼んだ」
 ジュリアスは頷くと、手早く、アンジェリークに処置を始めた。

 アンジェ、頼む・・・。
 生きてくれ…!!!


 点滴を施され、じっと眠り続けるアンジェリークの小さな手をアリオスは握り締め続ける。

 絶対におまえを死なせなせねえから・・・。
 家族は一緒にいるべきだから・・・。
 俺の夢は、愛する者たちと一緒にいることだから・・・。

 点滴を初めて直ぐ、アンジェリークの容体は安定し、病院内で一番落ち着ける環境にある「特別室」に移った。
 そこは付き添いの家族もゆったり眠れる部屋で、アリオスはすぐに指示をして子供用のベッドを運び込んだ。
 そこでレウ゛ィアスを寝泊まりさせるようにして、アンジェリークのそばからなるべく離れないようにしてやる。
 彼の心遣いであった。
 眠っていたレウ゛ィアスも目が覚め、アンジェリークに着いている。
「パパ、ママ・・・」
 母親に掛けられた布団をぎゅっと握り締めながら、不安げに父親を見つめる。
「大丈夫だ。ママは少しねんねしているだけなんだからな?」
「ママ、ねんね」
 小さいなりにレウ゛ィアスは母親の危機的状況には敏感だ。
 点滴がもうすぐ終わりそうなのを確認し、アリオスは看護士に連絡を取った。
 アンジェリークの瞼がわずかに動く。
「アンジェ!!」
「ママ!!」
 目を開けると、愛して止まないふたりの男が、彼女を覗き込んでいた。
「アリオス・・・、レウ゛ィアス・・・」
 ふたりの姿を見て安心し、アンジェリークは少し微笑む。
 倒れた時に比べると、幾分か顔色が良くなっていた。
「ゆっくりここで今までの疲れを癒せ。レウ゛ィアスの面倒が見えるようにしてやるから・・・」
「有り難う・・・」
 ためらいがちにノックの音が聞こえた後、看護士が入ってきた。
「気分はいかがですか? コレットさん」
「はい、かなりいいです」
 看護士は頷き、彼女の顔を覗きこんだ。
「良かったですね? かなり顔色が良くなりましたね?」
 ニコリと笑うと、看護士は点滴を丁寧に外してくれる。
「おなかは空いていませんか?」
「レウ゛ィアスとアリオスはどうするの?」
 自分のことよりも、まずはふたりの方が先決だとアンジェリークは感じていた。
「俺たちもここで食べられるように手配してるから、安心しろ?」
「うん・・・」
 ほっと頷くと、彼女は笑うが、まだ弱々しい。
「私はいいです・・・。明日ならなんとかなると思いますが・・・」
「判りました」
 頭を下げると、看護士は病室を出ていった。
「レウ゛ィアスのおむつ替えなきゃ」
「俺がやる」
 起き上がろうとしたアンジェリークを制して、アリオスは買って出る。
 昨日、アンジェリークに教わって、おむつ替えを覚えたばかりなのだ。
「じゃあお願いするわね? レヴィ、ぱぱにオムツ替えてもらいなさい? さっぱりするから」
「…あい…」
 あまりオムツ替えの好きではないレヴィアスだが、母親に言われてしぶしぶ返事をする。
 アンジェリークに言われたとおりに、オムツ替えようのパットをし、オムツを外した後、おしりなっぷで綺麗に拭いてやる
「アリオス、ちゃんときれいにしてあげてね?」
「判ってる」
「あ、ベビーパウダーよ、この後」
「悪い」
 まだ詰めの甘いところはあるものの、アリオスは立派にレヴィアスのオムツを替えて見せた。
「レヴィ、よかったね? これでさっぱりしたでしょう?」
「あい!!」
 嬉しそうにレヴィアスはさっぱりとしたオムツのまま走っている。
「こらレヴィアス、ズボンはけ!」
「あい〜!!」
 親子のやり取りが、見ていて微笑ましい。
 この光景がいつまでも続けばと、願わずにはいられない。

 この命が尽きるまで、あなたのそばにいたいと・・・。
 アリオス…。

 アンジェリークははじめて、自分の心に素直になろうと決心を固めていた------


 レヴィアスは安心したのか、子供用ベッドで眠り、アリオスもアンジェリークのベッドの隣にある簡易ベッドで今夜は眠る。
「有難う…」
「何も心配すんな。
 とりあえずはしっかり休め?
 おまえの担当医ジュリアスは名医だ。
 おまえだって、助かるかも知れねえと言ってくれた」
「・・・嘘・・・」
 一瞬、彼女は自分の耳を疑う。
 今まで言われてきた言葉は、どこにも希望的観測は含まれてはいなかった。
 だが、今、彼は、誰も言ったことのない観測を言ってくれる。
「本当だ。
 嘘だと思うなら、ちゃんとジュリアスに訊け?
 ただし!
 おまえがちゃんと休養した他という上での前提だがな」
「アリオス…」
 アリオスの言葉は力強く、信憑性すら感じられる。
 アンジェリークは返す言葉が見つからず、ただ彼の名前しか呼べない。
「見ててやるから…。
 ちゃんと休め? な?」
「アリオス…」
 彼女はコクリと頷くと目を閉じる。
 だが神経が高ぶってなかなか寝つかれやしない。

 もし、もし、そんな奇跡が起こるなら・・・。
 奇跡を起こしてみたい…

 アンジェリークは深く祈らずに入られなかった-------

コメント

「愛の劇場第5弾」です。
今回は、べたにメロドラマの題材です。
書くと心が洗われる物語です。
わしの節操のないとこはともかくとして(笑)
「愛の劇場」シリーズ
最長記録更新中。
さて、まだまふぁSTORYは動きます。
二人が幸せになるのはもう少しです



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