LULUBY IN BLUE

chapter20


 朝、久し振りに身体が軽い気がした。
 早めに目覚めたアンジェリークは、シャワーを浴びて身支度を整えた後、ルーフの付いたベランダのテーブルを綺麗にしてから、ルームサービスの朝食を頼んだ。
 知っている限りの二人の好物を朝食メニューからチョイスしたつもりだ。
 後はふたりを起こすために、再びベッドルームに向かう。
 ふたりは同じ格好をして、ベッドの上で眠っていた。

 ホント良く似ているわね・・・、あなたたちは・・・。

 幸せな気分に浸りながら、アンジェリークはふたりの愛する者たちを見つめる。
 するとゆっくりとアリオスの目が開いた。
 彼の瞳が朝一番に写し出すのは、紛れもなくアンジェリークだ。
「おはよう、アンジェ」
「おはよう、アリオス・・・」
 アリオスは乱れた銀色の髪をかき上げると、アンジェリークをじっと見つめる。
 それがあまりにも素敵で、彼女は思わずドキリとしてしまった。
「ルームサービス頼んでおいたから・・・」
「サンキュ。今日、昨日より顔色がいいな?」
 アリオスは上半身だけ起き上がると、指先を彼女の頬に伸ばし、その顔色を確かめる。
 顔色がほんの少し良いだけでも彼は嬉しそうだった。
「うん、有り難う・・・」
 アリオスは、かたわらに眠る息子を見つめる。
「昨日疲れてたんだろうな・・・。俺より早く起きて起こしてやるって言ってたが、どうだか・・・」
 苦笑しながら言っている彼が、とても魅力的にアンジェリークは写った。

 よかったね? レヴィアス・・・。
 素敵なパパで・・・。

「ん・・・」
 続いてはレヴィアスだ。
 ゆっくりと目覚めているのか、小さな身体を揺すって伸び縮みする仕草が愛らしかった。
「こら、レウ゛ィアス、すぐに朝飯だぜ?」
 軽く鼻を摘むと、彼は大きく身動ぎをする。
「んっん・・・」
 大きく伸びをした後、レウ゛ィアスは静かに目を開けた。
 そこには大好きな両親がいるのが判る。
「ママ、パパ」
「おまえ、パパより先に起きるって言っていたじゃねえか」
 からかうように言うが、息子はまだ寝ぼけているようだった。
「だってパパ眠い」
「ほら、目覚めのシャワーを浴びるぞ!!」
「パパ〜」
 寝ぼけ眼の息子を担ぎあげると、アリオスはシャワールームに入っていく。
 タイミング良く、ルームサービスが来たので、アンジェリークは準備を始める。
 まだ朝の熱気がない爽やかな風に揺られながら、彼女は快適だった。

 シャワーから出た息子をアンジェリークは受け取り、バスタオルで綺麗に拭いてやった。
 その後には、シッカロールではたいてやってから、おむつをつけ服を着せる。
 アリオスが服を着終わる頃には、レウ゛ィアスも着替え終わっていた。
「おなか空いたでしょ? 朝御飯あるからね!」
「ちゅいたっ!」
 いっちょまえにレウ゛ィアスが椅子に座ろうとしたので、アリオスは笑いながら抱き上げると、子供用の椅子に息子を乗せた。
「ほら皇子の椅子だぜ? レウ゛ィアス」
「パパ、パン食べう」
 自分に頼って手を出してきた息子の愛らしさに、アリオスは目を細めながら見つめる。
「パンだな? バターロールがうまそうだぜ? 後は何が欲しい?」
「あえとあえ」
 料理を指して、満足げにレウ゛ィアスは父親にねだった。
「スクランブルエッグ、ハムステーキ、ブロッコリーとホワイトアスパラのサラダだな?」
「あい」
 素直に頷き、レウ゛ィアスはフォークを握り締める。
「レウ゛ィアスの好きなのだけ頼んじゃったけど、大丈夫だった?」
「ああ。どれも俺は好きだからな」
 アリオスは、パンを一生懸命食べようと頑張る息子を見つめ、幸せな気分になった。
「おまえは一番何が好きなんだ?」
「ママがちゅくったもの!」
 即答だった。
 息子の答えが嬉しいやら恥ずかしいやらで、アンジェリークは真っ赤になってしまう。
「俺も食いたいぜ」
 彼女は恥ずかしそうに俯くと、小さく「今度ね」と呟いた。
 食事はとても楽しく進み、幸せを噛み締める。

 この時間が永久に続けばいいのに・・・。

 アリオスは深く思い、心が乱れるのを感じた。


 ランチが済むと帰宅しなければならず、残った時間はホテルのプールに入ることにした。
 屋内なので、アンジェリークもプールサイドで様子を見ている。
「ママー!!」
 大きな声で何度も手を振る息子に振り返し、アンジェリークは穏やかに微笑んだ。
 アリオスとレウ゛ィアスは心から嬉しそうに笑い、楽しんでいる様子だった。
 ふたりの中にアンジェリークも必死に入る。
 アリオスも彼女に何度も手を振ってくれる。

 この時間を私は一生忘れないわ・・・、きっと。天国にいっても・・・。

 手を振って泳いでいる二人が、アンジェリークにはもう眩しくて見えやしなかった-------

                   ---------------------------

 楽しい時間は直ぐに過ぎていく。
 幸せな親子も帰る時間がやってきた。
 ”現実”に戻っていくのだ。
「すっかり寝ちまったなあ…。よほど疲れてたんだろう…」
「そうね」
 車に乗り込み、出発する頃には、レヴィアスは津kぁれたのかすっかり夢の中であった。
 ゆったりと流れる景色を眺める。
「…!!」

 とうとう…

 アンジェリークは疲れが闇となって訪れるのを感じる。
 それに逆らうことはもう出来やしない…。
 ゆっくりと瞳を閉じると、深く安らかな世界に、彼女は落ちていった------


「おい、アンジェ、休憩しようぜ?」
 ドライブインにつき、アリオスは横に座るアンジェリークに声をかけた。
 だが、彼女は一向に反応しない。
「アンジェ?」
 何度か呼び、身体を揺する。
 しかし、アンジェリークの反応は全くなかった------

 まさか…!!!!

「アンジェ!!!!!」
 アリオスは頬に触れ、何度も揺する。
 だが、アンジェリークのそこは冷たく、唇にも生気は見られない。
 アリオスは、無意識に、彼女の名前を何度も何度も、切なげに呼び続けた-------

コメント

「愛の劇場第5弾」です。
今回は、べたにメロドラマの題材です。
書くと心が洗われる物語です。
わしの節操のないとこはともかくとして(笑)
「愛の劇場」シリーズ
最長記録更新中。
 さてアンジェはどうなるか!
もう一度波乱はありますです!!



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