LULUBY IN BLUE

chapter19


「海! 海!!」
 興奮している息子に目を細めて、アリオスは小さな身体を抱き上げる。
「パパと一緒に遊ぼうな?」
「あいっ!」
 アンジェリークにとって夏の暑さが厳しいのは、十二分にアリオスは判っている。
 彼はそっと彼女に近付くと、その小さな手を取った。
「見てるか? しんどくなったらいでも涼しい場所に行ってかまわねえからな?」
「うん。有り難う」
 アリオスの気遣いがアンジェリークは嬉しい。
 彼女はゆったりと
「レウ゛ィアスに水着を持ってきてやったが着せてかまわねえか?」
「もちろんよ」
 アリオスは頷き、一端息子をベッドの上に下ろした。
「ふわふわっ!!!」
 とたんに彼は瞳を輝かせると、楽しそうにベッドの上で暴れだす。
「こら、あまり暴れるなよ?」
 言葉で注意してはいるものの、アリオスの目は笑っていた。
 彼は水着とジャケット、それにサングラスをバッグから取り出すと、それを片手に持ち、もう一方の腕で軽々とレウ゛ィアスを抱き上げる。
「海に入るからな? 着替えるぞ?」
「あい!」
 ふたりが奥の部屋に向かった後、アンジェリークは疲れたようにベッドに腰掛けた。
 二人に見せないように今だけぐったりとする。

 レウ゛ィアスは覚えていてくれないかもしれない・・・。
 だけど・・・、これを良い思い出を残して逝きたい・・・。

 ドアが開く音がして、アンジェリークは姿勢を正して立ち上がった。
 同じ水着に同じジャケット、その上、同じサングラスを掛けた二人が部屋の中に入ってくる。
「ふたりともよく似合っているわ!」
 本当に何もかもお揃いのふたりはとても似合っていて、どこから見ても「親子」である。

 本当に血は争えないわね・・・。
 あなたたちを見て、私は誇らしく思うわ・・・。

「ママ!!」
 ぎゅっとレウ゛ィアスはアンジェリークの手を握り締め、一緒に行こうと誘ってくれる。
 だが、アンジェリークには休養が必要だった。
「アンジェ、ホテルの下のプライベートビーチにいるから来てくれ。涼しく過ごせるカフェがあるからな?そこで昼メシ食おうぜ」
「うん、判ったわ。ふたりとも行ってらっしゃい」
 レウ゛ィアスはアンジェリークにラウ゛ァーダッキーを持たせてもらい、それを持ちながら、ご機嫌にアリオスに抱っこされている。
「後でな? アンジェ」
「後で、ままっ!」
 レウ゛ィアスは父親の真似をしながら手を振って出ていった。
 ふたりを見送った後、アンジェリークは疲れ切ったようにベッドに横たわった。
 時計をみれば十一時である。
 ベッドサイドの目覚まし時計を一時間後にセットしてから、ゆったりと目を閉じた。


 アリオスはレウ゛ィアスを抱きながら波打ち際に向かって走っていく。
「ぱぱ〜!」
 きゃっきゃっと声を上げながら、レウ゛ィアスは本当に喜んでいた。

 アンジェは俺に大切なものは全て与えてくれた・・・。
 無償の愛を、そしてかけがえのない息子を・・・。
 このかけがえのない時間を、あいつは惜しげなくくれる・・・。
 もっともっとあいつのそばにいたい。

 アリオスとレウ゛ィアスは波に戯れながら、充実の時間を過ごすのであった。

 小一時間眠ると、随分気分がましになり、アンジェリークもビーチに出る準備を始める。
 といっても海に入るのではなく、日差し避けの準備と、アリオスとレウ゛ィアス親子のバスタオルなどを入れたバッグの準備である。
 準備が終わると、アンジェリークは嬉しげにビーチに向かった。
 ビーチに出ると、アリオスとレウ゛ィアスの二人は笑いながら海と戯れている。
「おいレウ゛ィアス、ママだぜ? 手を振るぞ?」
「ママー!!」
 愛して止まない二人の男性に手を振られて、アンジェリークも一生懸命振り返した。
「ママんところに行くぞ? 腹減ったからな?」
「うん!!」
 ふたりは仲良く手を繋いで、アンジェリークに向かって走ってきた。
「ままー!」
 走ってきた息子をしっかりと抱き留めると、バスタオルで濡れた身体を包みこんでやる。
 アリオスにもタオルを渡し、彼も穏やかに微笑みながら受け取ってくれた。
「アンジェ、俺もレウ゛ィアスも腹が減ったからな? メシ食いにいこうぜ」
「そうね。いっぱいパパと遊んだから、おなか空いちゃったのね」
「もっと遊ぶ!!」
 身体を動かしながら言う彼に、アリオスは髪を撫でながら言う。
「レウ゛ィアス、後からまた遊ぼうな? 先にメシだ」
「うん!!」
 自然にレウ゛ィアスは左右の手を両親に差しだし、手を繋ぐ。
 アリオスとアンジェリークはお互いに優しい眼差しで見詰め合った後、生ける愛の奇跡である息子を愛しげに見つめた。

 ビーチにあるカフェでのんびり昼食を楽しむ。
 時折、若い女性などが、三人を”理想の家族”としてうっとりと見つめているのがくすぐったい。
 レヴィアスの世話はアリオスが殆ど引き受けてくれ、アンジェリークにとって、それはとても嬉しかった。

 アリオスはレヴィアスを本当に可愛がってくれる…。
 愛してくれているのも事実でしょう…
 だからこそ、負担になって欲しくない…。
 私がいなくなってからも…

                    ------------------------------

 午後もたっぷり海で遊び、その上、レヴィアスはアリオスと一緒にお風呂まで入って楽しんだ。
 アンジェリークもシャワーを浴び、夕食を済ませた後は、花火だ。
「ちれい!!」
 海辺に上がる花火を、バルコニーから父親に肩車をしてもらってみる。
 生まれて初めての光のイリュージョンに、レヴィアスは興奮しっぱなしだった。
 アリオスは息子をしっかりと支えながらも、その眼差しはアンジェリークに奪われている。
 花火に照らされた彼女の白い横顔はとても美しく、そして儚かった。
「花火ってね、すごく綺麗だけど、胸の奥が締め付けられるの・・・。
 一瞬で、消えてしまうからこそ美しいのね…。
 命も…」
 アリオスも胸の奥が締め付けられるような気分になり、堪らなくなって彼女を片手で抱き締める。
「この花火は、ずっと家族で見るんだ…。来年もずっと…」
「-----有難う…」

 来年は空の上からあなたを見守りながら花火を見るわね?

 アンジェリークは涙で潤んだ瞳を一瞬だけアリオスに向け感謝を表すと、花火が輝く夜空を見上げた


 レヴィアスはすっかり疲れてしまったのか、ぐっすりとベッドの上で眠っている。
 額を優しく撫でてやりながら、アンジェリークは優しい眼差しで我が子の寝顔を見守る。
「アンジェ、今夜はレヴィアスと一緒に親子三人で川の字に名って寝ようぜ?」
「そうね」
 アンジェリークがレヴィアスの横に横になると、アリオスもその反対側で横になった。
「アンジェ…。
 これからも三人で暮らしていこう…。ずっと一緒にいよう…。
 レヴィアスが一人っ子なのはかわいそうだからな? 子供ももっとたくさん作って、賑やかな家族にしよう」
「アリオス…」
 アンジェリークはちゃんと応えることが出来ない。
 切なさを感じながら、彼女は甘えるように自分から、初めてアリオスの手を握った。
「おやすみなさい…」
「ああ、おやすみ…」
 電灯が消される。
 だが二人は暗くなっても手を外さずにお互いの温もりを感じあっている。
 もう手を離したくなかった--------

 アリオス…。
 最後の素敵な日々をどうも有り難う…
 

コメント

「愛の劇場第5弾」です。
今回は、べたにメロドラマの題材です。
書くと心が洗われる物語です。
わしの節操のないとこはともかくとして(笑)
「愛の劇場」シリーズ
最長記録更新中。
 次回からは…です



  BACK     TOP     NEXT