俺は絶対に怯まない----- 二度とアンジェリークも息子のレヴィアスも手放したくない! そのためにもアンジェリークに俺の気持ちを知ってもらいたい…。 あいつの命を救うことが出来るならば…、俺はなんでもするだろう…。 アリオスは家に帰ると、先ずは姉に電話をした。 「姉貴話がある」 その切羽詰った表情に、フェリシティは深呼吸をしてから再度受話器に向かう。 「判ったわ。聞きましょう」 「------俺はどうしても一緒になりてえ女がいる。もう、ほかの女とは結婚しねえからそのつもりでいてくれ」 「アリオス…」 今まで、半ば自暴自棄のようになっているかのように、姉が紹介する所謂”良家の令嬢”との面会にも応じていた。 だが彼自身からそれを否定することが今までなかったせいか、フェリシティは息を呑んだ。 「-----まさか、エレミアにいたあのこじゃないでしょうね?」 声を潜めて邪険のように話す姉に、アリオスはピクリとこめかみを動かす。 「…まさかって、知ってるのかよ? アンジェを」 「知ってるも何も! あなたが記憶を取り戻した日に、のこのこと安っぽいワンピースを着てやってきたのよ! あなたが来ないから心配だと…。追い返しました。もうアナタとは逢うことがないことと、どこの馬の骨か判らない子とアリオスは付き合うことは無いと。あの子はうちの敷居をまたぐ資格すらもないですから」 「勝手に判断するんじゃねえ!!」 アリオスの怒りは頂点に達していた。 自分の恋路を阻んでいたのは姉だったとは。 真実を知ることで、アリオスは、益々アンジェリークが何故あんなに頑なに身を引いているのかが、ようやく理解できるような気がした。 姉弟の喧嘩は一気に熱を帯びる。 姉のフェリシティもいきり立って収拾がつかなくなっている。 「あんなどこの馬の骨か判らない子を妻にするだけは絶対に許しませんから! うちには、ちゃんとした格式というものがあります! 名門アルヴィース家には、孤児などの血を入れるわけには参りません!!!」 姉の古めかしい考え方と、アンジェリークの内面の美しさを否定してしまうことがアリオスには許せなかった。 実の姉であっても許しがたい。 愛するものたちを愚弄されたようで、彼は我慢ならなくなる 「昔から思ってたが、人は家柄だとかそんなことで判断するのは間違ってる!! 俺はそんな考え方は気にくわねえ…。 心根で判断するなら、アンジェリークほどいい女はいねえ!!」 アリオスは鋭く低い声で姉に言い放ち、その決意の強さを示した。 「・・・アリオス」 一瞬息を呑んだが、それでもフェリシティは怯まない。 彼女には彼女の守りたいものがあるのだ。 「そんな子供のようなことを言うのはおよしなさい!! あなたが大企業の財閥の総帥でいられるのは、アルヴィースの家のお陰でしょう!!」 「だったらそんなものはいらねえ!!」 強く、きっぱりとした言葉だった。 「-----俺はこんな日が来るかも知れねえと、ひそかに違う事業を既に始めている。 アルヴィースはあんたの一家が継げばいい。 俺はアンジェリークと、たとえ残された時間が僅かだとしても、傍にいてやることのほうが大事だ。 この屋敷もやる。 どうせそのつもりで新しいアパートも買ってある」 「時間がないって…」 呆然とした子声でフェリシティは反芻する。 暫く沈黙していた後、彼は重々しくも告げる。 「アンジェリークは後半年生きられないかもしれねえ…。 できることなら救ってやりたい…。 だが、それが無理ならせめて傍に…」 アリオスの声は魂の底からだされていた。 その切ない声に、フェリシティもまた心をつぶされそうになる。 「-----判りましたわ、あなたの決意は…。考えさせてください」 ただそれだけを言うと姉は静かに電話を切った----- アンジェ…。 俺は絶対におまえを諦めない…!!! 絶対に…!!! --------------------------------- その日は朝から雨が降っていた。 アンジェリークはいつものように働きに行くために母子寮を門を出て行く。 その瞬間、アンジェリークは息を呑んだ。 そこには傘もささず、アリオスが立っていたのだ。 「アンジェリーク…」 「風邪を引きます!」 彼女は慌ててアリオスに傘をさしかけハンカチを差し出した。 「どうしたら許してくれる? おまえが許してくれるんだったらどんなことでもしてかまわねえ…」 今の彼の信念は、アンジェリークの為ならばなんでもすることに変わっている。 生涯で最も愛した彼女を幸せにしたい。 それだけが今の彼を突き動かしていた。 アリオスの異色の眼差しは、かつてアンジェリークが彼に恋をしたときと同じように、真摯な輝きと少し翳りのある輝きが交差して、アンジェリークの心を真っ直ぐに突いてくる。 「アリオス…」 「おまえもレヴィアスも心から愛してる…。 おまえたちと親子水入らずで暮らしていけたら、これ以上にいいものはねえ…」 アンジェリークは受け入れたかった。 だが、アリオスの将来に重くなるようなことは決してしたくはない。 「昨日言ったように…」 言いかけてアリオスに言葉を取られる。 「------俺は絶対に諦めねえ!! 何があっても諦めねえ…!! 姉貴に何を言われたかは聞いた。 だが俺がそんなことで怯むと思っているのか? 俺はおまえが何者だろうとかまわねえ! おまえがおまえだから愛してるんだ!」 力強い愛の言葉だった。 アンジェリークは心が痛いほど嬉しい。 「…あなたをこれ以上苦しめたくないの…」 消え入るような声だった。 刹那------ アンジェリークはアリオスにしっかりと抱きしめられていた。 「一緒に生きてくれ…。頼む…!」 「アリオス…」 アンジェリークもアリオスの背中に手を伸ばす。 お互いの温もりが心を揺るがす。 2人が二年ぶりに抱き合った瞬間であった。 これがあなたと最後の抱擁になるでしょう…。 私の命は間もなく消えるから・・・ |
コメント
「愛の劇場第5弾」です。
今回は、べたにメロドラマの題材です。
ようやく現在編です。
間もなく物語りは大きく動きます!!
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