LULUBY IN BLUE

chapter11


 翌日から毎日、同じ場所、同じ時間で二人は逢い、海岸などを散歩する”デート”をしていた。
 特に何をするというわけではなく、ただ、他愛のないことを話す。
 ただそれだけのことなのに、アリオスとアンジェリークは幸せだった。

「この町はすごく綺麗なところだな」
「それが自慢よ! いつも、何があってもこの空と海に励まされてた。一生懸命生きようって・・・」
 先程まで輝いていたアンジェリークの瞳が、ふと曇り、どこか翳りを見せる。

 またこの瞳の輝きか・・・。
 出会ったときからずっとこの光が消えない・・・。
 笑っているのに、アンジェの眼差しはどこか空虚だ。どうしてなんだ?
 どうしてそんな寂しげな瞳をする!?

「アリオス?」
 甘い声で名前を呼ばれ、アリオスはアンジェリークを見た。
 またいつものように、輝いた瞳に戻っている。
「アンジェ、なあ、あの約束をいつ果たしてくれる?」
「私の学校がない日で、しかも空いている日がいいから、明後日は?」
「ああ。構わねえ」
 アンジェリークとふたり、どこかに出かけると思うだけで、アリオスの心は晴れ上がり、まるで恋をしたての少年のように舞い上がった。
「楽しみだな? おまえと一緒にどこかに行けるなんてな・・・」
「私も楽しみ! はじけちゃうかも!」
 くすくすと笑う彼女に、アリオスもまた優しく微笑む。

 アンジェといると心が澄んでいく。
 ストレスだらけの場所から、ここに来てよかった・・・。

 一瞬、仕事に忙殺される自分の影像がよぎり、アリオスは狼狽する。

 何かを思い出した・・・?

「アリオス?」
 名前を呼ばれるのと同時に影像が萎んだ。
 それになぜかほっとしてしまう。
「明後日は、少し早く出なくちゃいけないから、朝の七時に波止場ね? お弁当は作ってくるからね! 何だか興奮してきちゃった!」
「ああ、楽しみだ」
 ぎゅっとアンジェリークを抱き締めて、アリオスは自分の喜びを伝えた。
「アリオス、大好き」
「俺もおまえを愛してる」
 再び唇が重なる。

 -----神様、この温もりをもう少しだけ下さい・・・。
 お願いします・・・。

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 二人で遠出に行く日、アンジェリークは藤の大きなバスケットを持ってやってきた。
 ブルーのストライプの入ったクラシカルなデザインのワンピースが非常に良く似合っている。
「おまたせ!」
 笑顔の彼女の腰を抱くと、アリオスはバスケットを持ってやった。
「有り難う」
 二人は仲良く船に乗り込む。
 船はアリオスの計らいでチャーター便だった。
 揺れの少ないタイプのもので彼女はほっとする。
「アンジェちゃんじゃないか!」
「カティスさん!」
 良く知る地元ではレンタル船会社のオーナーカティスが、オーナー自ら舵を握っていた。
「なるべく揺れないようにとご注文を受けたからね。私自らが舵を取ったんだ。アルウ゛ィースグループはうちを御用達にしていただいてるからね」
 屈託なく笑うカティスに、アンジェリークも微笑む。
 だがアンジェリークの微笑みは、決して明るいものではなかった。

 そうだったんだ…。
 あの大企業アルヴィース家の人だったんだ…。
 高級別荘街に住んでいるから、お金持ちだとは思っていたけど、あんなに有名な家の人だったなんて・・・。

「どうした、気分が悪いか!?」
 カティスが心配げに彼女の顔を覗き込んだので、アリオスは少し妬けてしまう。
「こいつの面倒は俺が見るから心配しないでくれ?」
 ぐっと華奢なアンジェリークの腰を抱いて、アリオスは彼女を引き寄せた。
 その姿がカティスのお気に召したようで、彼はおかしそうに笑う。
「判った。お兄さんに任せた。
 知っての通りこのこはあまり体が丈夫じゃないから、ちゃんとみてやってくれな?」

 体が丈夫じゃない-----!?

 一瞬アリオスの表情が強張り、アンジェリークを見つめた。
「大丈夫なのカティスさんは大げさに言ってるだけだから…」
 穏やかに微笑み、何ともないようにアンジェリークは言ったが、アリオスにはそうは思えない。
 だが、ここは彼女を信じることにした。
 いや信じたかった。
「気分が悪かったらいつでも言え?」
「うん…」
 船のデッキの椅子に腰掛け、風に当たりながら、アンジェリークは躊躇いがちに頷く。
「-----何があっても俺はおまえを愛しているからな…」
「アリオス…」
 ぎゅっと抱きしめられて、アンジェリークは嬉しさの余り泣きたくなった。
 そして彼の言葉の意味も、アンジェリークには判りすぎるほど判っている。
「私も…。
 私もあなたを愛してる・・・。何があってもずっと」

 たとえ星になったとしても…

 切ない二人の心が重なり合い、唇が重なり合う。
 遠くに霞がかかって、二人の目的地が見えていた-----

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「じゃあ夕方に迎える来るから、お二人さんはごゆっくり」
「有難うカティスさん」
「サンキュ」
 桟橋でカティスを見送った後、二人は、白い海岸へと散歩がてら歩いていく。
「ここはね”アルカディア”の入り江といわれていて、とても綺麗な場所なの。ここでは神聖な場所とも言われているわ」
 アリオスは頷きながら、入り江をじっと見渡した。
 二人が歩く白き砂浜には誰もおらず、まるで無人島に取り残されたようなロマンティックな感じがする。
「この世界にふたりっきりみたいだな・・・」
「ええ、そうね」
 ここにいるアンジェリークは本当に美しくて、見惚れてしまいそうだ。
「ふふ、アリオス気に入った?」
「ああ。凄く綺麗なところだな。サンキュ、連れてきてくれて。
 -----おれとしてはここにいるおまえを見れただけで、凄く嬉しいぜ?
 本当におまえは綺麗だ・・」
 少し艶やかなアリオスの声に、アンジェリークは白い肌を薔薇色に染め上げて俯いてしまった。
「アリオス…」
 アリオスはぎゅっと彼女の身体を抱きしめると、深くキスを送る。
 二人の想いは、深く、もうどうしようもないところまで激しくなり始めていた-----   

コメント

「愛の劇場第5弾」です。
今回は、べたにメロドラマの題材です。
今回からは過去編です。
数回の予定です。
次回は過去編で一番盛り上がります。




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