翌日から毎日、同じ場所、同じ時間で二人は逢い、海岸などを散歩する”デート”をしていた。 特に何をするというわけではなく、ただ、他愛のないことを話す。 ただそれだけのことなのに、アリオスとアンジェリークは幸せだった。 「この町はすごく綺麗なところだな」 「それが自慢よ! いつも、何があってもこの空と海に励まされてた。一生懸命生きようって・・・」 先程まで輝いていたアンジェリークの瞳が、ふと曇り、どこか翳りを見せる。 またこの瞳の輝きか・・・。 出会ったときからずっとこの光が消えない・・・。 笑っているのに、アンジェの眼差しはどこか空虚だ。どうしてなんだ? どうしてそんな寂しげな瞳をする!? 「アリオス?」 甘い声で名前を呼ばれ、アリオスはアンジェリークを見た。 またいつものように、輝いた瞳に戻っている。 「アンジェ、なあ、あの約束をいつ果たしてくれる?」 「私の学校がない日で、しかも空いている日がいいから、明後日は?」 「ああ。構わねえ」 アンジェリークとふたり、どこかに出かけると思うだけで、アリオスの心は晴れ上がり、まるで恋をしたての少年のように舞い上がった。 「楽しみだな? おまえと一緒にどこかに行けるなんてな・・・」 「私も楽しみ! はじけちゃうかも!」 くすくすと笑う彼女に、アリオスもまた優しく微笑む。 アンジェといると心が澄んでいく。 ストレスだらけの場所から、ここに来てよかった・・・。 一瞬、仕事に忙殺される自分の影像がよぎり、アリオスは狼狽する。 何かを思い出した・・・? 「アリオス?」 名前を呼ばれるのと同時に影像が萎んだ。 それになぜかほっとしてしまう。 「明後日は、少し早く出なくちゃいけないから、朝の七時に波止場ね? お弁当は作ってくるからね! 何だか興奮してきちゃった!」 「ああ、楽しみだ」 ぎゅっとアンジェリークを抱き締めて、アリオスは自分の喜びを伝えた。 「アリオス、大好き」 「俺もおまえを愛してる」 再び唇が重なる。 -----神様、この温もりをもう少しだけ下さい・・・。 お願いします・・・。 ------------------------------ 二人で遠出に行く日、アンジェリークは藤の大きなバスケットを持ってやってきた。 ブルーのストライプの入ったクラシカルなデザインのワンピースが非常に良く似合っている。 「おまたせ!」 笑顔の彼女の腰を抱くと、アリオスはバスケットを持ってやった。 「有り難う」 二人は仲良く船に乗り込む。 船はアリオスの計らいでチャーター便だった。 揺れの少ないタイプのもので彼女はほっとする。 「アンジェちゃんじゃないか!」 「カティスさん!」 良く知る地元ではレンタル船会社のオーナーカティスが、オーナー自ら舵を握っていた。 「なるべく揺れないようにとご注文を受けたからね。私自らが舵を取ったんだ。アルウ゛ィースグループはうちを御用達にしていただいてるからね」 屈託なく笑うカティスに、アンジェリークも微笑む。 だがアンジェリークの微笑みは、決して明るいものではなかった。 そうだったんだ…。 あの大企業アルヴィース家の人だったんだ…。 高級別荘街に住んでいるから、お金持ちだとは思っていたけど、あんなに有名な家の人だったなんて・・・。 「どうした、気分が悪いか!?」 カティスが心配げに彼女の顔を覗き込んだので、アリオスは少し妬けてしまう。 「こいつの面倒は俺が見るから心配しないでくれ?」 ぐっと華奢なアンジェリークの腰を抱いて、アリオスは彼女を引き寄せた。 その姿がカティスのお気に召したようで、彼はおかしそうに笑う。 「判った。お兄さんに任せた。 知っての通りこのこはあまり体が丈夫じゃないから、ちゃんとみてやってくれな?」 体が丈夫じゃない-----!? 一瞬アリオスの表情が強張り、アンジェリークを見つめた。 「大丈夫なのカティスさんは大げさに言ってるだけだから…」 穏やかに微笑み、何ともないようにアンジェリークは言ったが、アリオスにはそうは思えない。 だが、ここは彼女を信じることにした。 いや信じたかった。 「気分が悪かったらいつでも言え?」 「うん…」 船のデッキの椅子に腰掛け、風に当たりながら、アンジェリークは躊躇いがちに頷く。 「-----何があっても俺はおまえを愛しているからな…」 「アリオス…」 ぎゅっと抱きしめられて、アンジェリークは嬉しさの余り泣きたくなった。 そして彼の言葉の意味も、アンジェリークには判りすぎるほど判っている。 「私も…。 私もあなたを愛してる・・・。何があってもずっと」 たとえ星になったとしても… 切ない二人の心が重なり合い、唇が重なり合う。 遠くに霞がかかって、二人の目的地が見えていた----- ----------------------------------- 「じゃあ夕方に迎える来るから、お二人さんはごゆっくり」 「有難うカティスさん」 「サンキュ」 桟橋でカティスを見送った後、二人は、白い海岸へと散歩がてら歩いていく。 「ここはね”アルカディア”の入り江といわれていて、とても綺麗な場所なの。ここでは神聖な場所とも言われているわ」 アリオスは頷きながら、入り江をじっと見渡した。 二人が歩く白き砂浜には誰もおらず、まるで無人島に取り残されたようなロマンティックな感じがする。 「この世界にふたりっきりみたいだな・・・」 「ええ、そうね」 ここにいるアンジェリークは本当に美しくて、見惚れてしまいそうだ。 「ふふ、アリオス気に入った?」 「ああ。凄く綺麗なところだな。サンキュ、連れてきてくれて。 -----おれとしてはここにいるおまえを見れただけで、凄く嬉しいぜ? 本当におまえは綺麗だ・・」 少し艶やかなアリオスの声に、アンジェリークは白い肌を薔薇色に染め上げて俯いてしまった。 「アリオス…」 アリオスはぎゅっと彼女の身体を抱きしめると、深くキスを送る。 二人の想いは、深く、もうどうしようもないところまで激しくなり始めていた----- |
コメント
「愛の劇場第5弾」です。
今回は、べたにメロドラマの題材です。
今回からは過去編です。
数回の予定です。
次回は過去編で一番盛り上がります。
BACK TOP NEXT