THAT'S THE WAY LOVE GOES

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 その日アリオスは強引にアンジェリークの病院に付いていった。
「おまえが助かるためならなんだってする…」
「有難う」
 最近、アンジェリークは素直に笑えるようになっていた。
 明るく、朗らかに。
 今まで瞳に深いところに宿っていた哀しみが、少しずつではあるが癒されてきている。
 これもアリオスがアンジェリークを必死になって救おうとしていたからである。
「アリオス…?」
「何だ?」
「あなたでよかった…。最初で最後の恋人があなたで…」
 しみじみという彼女に、アリオスは握っていた手をさらに強く握り締める。
「おまえは助かる。助かって、俺と一緒にこの先過ごすんだ。判ったな?」
「…有難う」
 ふたりはしっかりと手を握り締めながら、アンジェリークの担当医の研究室に入っていった。


「今日は、アンジェリーク」
「今日は、ロザリア先生」
 担当医である、若き内科医ロザリアが、振り返ったとき、アリオスは目を丸くした。
「あら、アリオスじゃないの?」
「ロザリア、おまえがアンジェの担当医なのか?」
 お互いに驚きあっている二人に、今度は、アンジェリークが目を丸くする。
「お互いにお知り合いなの?」
「大学のサークル仲間なのよ。最も、アリオスは、法学部、私は医学部だけれどね」
 ロザリアは笑うと、アリオスをじっと感慨深げに見つめる。
「-----どうしようもないたらしだったあなたが、最近真面目に、一人の女性と付き合ってるって聞いたけれど…、アンジェちゃんが相手だったとわね…」
 深い眼差しを、ロザリアは、今度は、アンジェリークに持っていく。
「-----あなたが、アリオスを変えたのね…」
「そんなことないです。私こそ、彼に変えてもらったから…」
 じっとお互いを見つめあう二人に、ロザリアは、照れ笑いを浮かべてしまう。
「二人ともアツアツね」
「うるせえ」
「先生…恥ずかしいです…」
 はにかんで俯く彼女が可愛いとロザリアは思う。
 だが自分が冷静に下した決断のことを思うと、心苦しくなる。

 こんなアリオスの表情を今まで見たことがない…。
 アンジェリークのこんな安らかな表情も…。
 二人は、お互いに惹かれ合っている…。
 だからこそ、ずっとこのままでいられたらいいのに…

「二人とも、立っていないで、座りましょうか?」
「はい」
 ロザリアに促され、アリオスとアンジェリークは椅子に腰掛けた。
 座るなり、アリオスは口を開く。
「-----アンジェリークの病気のことは、彼女から聞いている…。
 手術が必要なら、させてやりてえ」
 ロザリアは深く頷くと、アリオスの眼差しをずっと見つめた。
「金銭的なものは、あなたがいるなら問題はないでしょう…。
 ただ…、アンジェリークの手術は、かなりの困難を極めるでしょう…。
 普通の外科医なら、30パーセント。良い外科医なら、60〜70ぐらいまで確率を上げますが…」
 ロザリアは真摯な態度で、アリオスに正直な所を言った。
「だったら、その”良い外科医”を紹介してくれ」
 ロザリアの視線がゆっくりとアンジェリークを捕らえる。
「あなたはどうなの? アンジェリーク」
 俯いていたが、アンジェリークは顔をゆっくりと上げると、ロザリアを真っ直ぐな瞳で見つめた。
「-----アリオスと、それで長くいられるんだったら私は…、その手術を受けたい…。
 だけど…。これ以上アリオスの負担になったら…」
「んなわけねえに決まってるだろ!? おまえが受けてくれねえほうが、ストレスを感じる」
 それは純粋な思いでもあった。
 アリオスは、アンジェリークの”遠慮”を吹き飛ばすかのように、力強く言う。
「…うん…。有難う、アリオス…」
 少し涙ぐむ彼女の手をしっかり握り締めるアリオスに、ロザリアは目を細める。

 随分変わったわね、アリオス…。

「だったら、後は外科医を探すことね…。腕の良い…」
「心当たりは?」
 アリオスは単刀直入に訊いた。
「ストレートね。
 正直言って
 ジュリアス先生。彼なら出来るかもしれない。ただ彼を説得しなければならないわ…。
 この病院ではなく、少し遠方の病院になるわ。ただ、アンジェリークのことを考えるとこの病院で手術を受けてもらうことが一番だわ。
 -----とにかく、先生への紹介状を書いておくからコンタクトを取ってみて。
 彼女のカルテ、レントゲンも最新のものをそろえておくから、それを持って、先生の病院に行って?」
「判った」

                      ------------------------

 翌日、アリオスは、仕事を、腹心の部下であるカインに任せて、アンジェリークのためだけに、飛行機で3時間かかるばshの病院に勤めるジュリアスに会いに行った。
 コンタクトは取れたものの、手術から手術の合間ということで、時間は僅か10分しかなった。
 以前のアリオスなら、「ふざけるな」と思ったに違いないが、今は愛するアンジェリークを救うためには、どんなことも厭わない彼だった。

 ジュリアスの手術が終るまで、アリオスは控え室で待っていた。
 ようやく疲れ果てたジュリアスが入ってきて、アリオスは立ち上がった。
「アリオスです」
「ロザリアから話は聞いています。どうぞおかけになって」
「はい」
 ジュリアスが席につくと、早速、彼は口を開く。
「資料を見せていただけますか?」
「どうぞ」
 アリオスが差し出した書類を、ジュリアスは一通り目を通す。
 特に、レントゲンを念入りに見ていた。
「-----中々厄介な手術ですね」
 ジュリアスはゆっくりとアリオスに顔を向ける。
「はい。
 やっていただけるんですか?」
 余りにも応えを急ぐアリオスに、ジュリアスは苦笑した。
「簡潔ですね…。
 あなた方のことも彼女から十分申し送りを受けています。
 ----判りました、やりましょう」
 その言葉を貰い、アリオスは思わず立ち上がる。
「有難うございます」
「こちらこそ宜しくお願いします」
 二人はしっかりと握手をし合い、アンジェリークの手術が決まった----- 


「日程は、2週間後に。
 このときに私の時間が空きますからあちらの病院に向かいます。2日かけて彼女を見極めて、3日後に手術です
-----では次の手術があるので、私はこれで」」
 簡潔にそれだけを述べると、ジュリアスは足早に出て行く。
 アリオスは、その後姿を見送りながら、深く安堵をした----

 これでアンジェは助かるかもしれない…

TO BE CONTINUED…


コメント


68000番のキリ番を踏まれた朝倉瑞杞様のリクエストで、
「哀しげなアンジェリークを救おうとするアリオス」です。
何だかtinkワールドの展開(笑)
後1回お付き合いくださいませ