THAT'S THE WAY LOVE GOES

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 暫くアンジェリークは黙っていたが、やがて少し寂しげな笑顔をアリオスに向けた。
「気になさっているのなら、いいのですよ?」
「気になんかしてねえ」
 アリオスは真摯に言うと、まっすぐとアンジェリークの瞳を見つめる。
「俺は、純粋におまえといたいだけだ。二人で映画を見たり、メシ食ったり、そんなことがしたいだけだ」
「アリオスさん…」
「-----おまえの時間を、俺にくれ。決して後悔はさせない…」
 しっかりとアリオスはアンジェリークの手を握り締める。
 その温かさは、アンジェリークの心を溶かしていく。
「二人で楽しもう…。時間を…」
 彼のぬくもりが、嘘でないことはアンジェリークにも判る。
 ぬくもりは、彼女の心の中に入り込んで優しく包み込んでくれている。
「-----判りました…。私の時間、あなたに預けます…」
 二人はしっかりと手を握り合う。

 深入りしてはいけない…。
 私が辛くなるだけだから…。
 だけど彼が傷つかないのなら、それで構わない…。

「アンジェリーク」
 アリオスは、初めて純粋な気持ちで、彼女にキスをした-----

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 楽しい日々が続いた。
 アリオスは、時間が許す限り、アンジェリークと行動をともにしデートを楽しむ。
 映画を観たり、アヴェニューを歩いたり、レストランで食事をしたり…。
 アンジェリークはいつも楽しげに笑ってはいたが、やはり、ふとしたところで寂しげな瞳になる。
 今日も二人は、アンジェリークが一番気に入っている公園縁を散歩する。
「こら、風邪引くから、手袋して、帽子も被っとけよ?」
「もう、アリオス、そうやって子ども扱いする!」
 アンジェリークは、アリオスの腕を組み、雪の道を楽しげに歩く。
 彼女が一番好きなのは、木々など自然を感じる場所だった。
「アリオス、もう直ぐ春なのね…」
「春?」
「ほら?」
 アンジェリークが指差す方向を見ると、そこには樹があり、枝の先からはまだ固いが蕾が顔を出している。
「蕾か…」
「うん…。春には綺麗な花さかすといいな…」
「アンジェ…」
 時間が絡む話になると、彼女は自然と寂しげな表情をする。
 そんなときは、アリオスは堪らなくなって、彼女をつい抱きしめてしまう。
「春になったら一緒に見に来よう…、な?」
「うん…」
 アンジェリークは、背後から包み込むように抱きしめてくれたアリオスの腕をしっかりと、握り締めていた

 深入りしてはいけないのは判っているの…。
 だけど、彼の温かさが、本当の優しさが、今の私を支えてくれている。
 神様…。
 最後のプレゼントをどうも有り難う…

「アンジェ…」
「うん?」
 顔を上げると、アリオスの冷たい唇が降りてくる。
「アリオス、冷たいわよ?」
「黙ってろって?」
 くすくす笑う彼女に、アリオスは何度目かのキスを送る。

 後、何度、アンジェにキスをすることが出来る?
 俺が救えるものなら、アンジェリークの命を救いたい…。
 その笑顔とともに…

 アリオスは心の奥底から、アンジェリークの命を救おうと思っていた。



                   --------------------------

 自宅で食事をしているときに、アリオスは思い切ってアンジェリークに訊いた。
「-----アンジェ、おまえの病気は何なんだ・・・?」
 アンジェリクーの食が一瞬止まる。
 彼女は自分に言い聞かせるように何度か頷くと、穏やかに笑った。
「言わなくっちゃね?」
「-----俺は、その瞬間までおまえを見守ってやるつもりだ。
だから…知る権利をくれ」
「うん…」
 もう一度彼女は深く頷いた。
「手術しないと直らないの…。
 先天性の心臓疾患。
 うちにはそんなお金ないし、その手術も、出来る人は少ないって。
 最後は意識障害が起こって、私はあなたが判らなくなる…」
 アリオスはじっとアンジェリークの言葉にじっと耳を傾けている。
「お金かかって死ぬんなら、私は今のままでいいって、先生に言ったわ…」
 アンジェリークは、淡々と話し、アリオスを見た。
 彼は何も応えない。
「でも、最後にいいことあったし…」
 そう言って、アンジェリークは今までにない笑顔を浮かべた。
 輝かしい笑顔。
 彼が見た中で、唯一、翳りのない表情だった。
「-----あなた、私の人生の”スペシャル”よ!」
 そこまで聴いていたアリオスは、堪らなくなってアンジェリークを抱きすくめた。
「アンジェ!」
「ア、アリオス、苦しいわ」
「おまえが手術で治るって言うんなら、金なんか俺が出してやる…!
 だから、だからそんなことは言うな!」
 アリオスが抱きしめる腕を弱めない。
「アリオス…」
「-----愛してる…。
 おまえと一緒にいて、俺は自分お気持ちがようやく判った。
 おまえを救おうとしてるんじゃねえ…!
 おまえが生きてさえくれれば、俺が救われるから…」
 アンジェリークは嬉しかった。
 純粋に嬉しかった。
 彼女は涙で瞳を濡らし、それを彼の胸の中で埋める。
「…あなたを傷つけたくないもの・…」
「だったら、生きろ!!」
「アリオス…」
 二人はしっかりと抱き合う。
 そのままお互いの思いを確かめるために、アリオスは、彼女をベッドへと連れて行く。

 愛し合うのは、初めての瞬間以来のことであった-----  

TO BE CONTINUED…


コメント


68000番のキリ番を踏まれた朝倉瑞杞様のリクエストで、
「哀しげなアンジェリークを救おうとするアリオス」です。
後1,2回お付き合いくださいませ