THAT'S THE WAY LOVE GOES

V


 アンジェリークは少し寂しげだが笑顔を見せ、朝食の続きを食べ始めた。
「どうして食べないんですか?」
 アリオスは、明るく振舞う彼女が、少し痛々しく感じる。
 彼はじっと観察するように彼女をじっと見つめることしか出来ない。

 だからそんな目をしてるのか…?
 寂しげな、瞳を…

「----そんな表情、なさらないで下さい、アリオスさん。ご飯食べたら私行きますから」
 彼女は、さっさとご飯を食べて、片付けた。
 アリオスは、その様子を見つめ、彼女が立つとその後を追う。
「おい」
 その声にアンジェリークは穏やかに振り返った。
「----アリオスさん、私のことは気になさらないで下さい? 夢と思ってください…」
 二コリと笑うと、アンジェリークはベッドルームに行き、置いていた自分のバッグをもって玄関先に向う。
 アリオスも、ジャケットを着、車のキーを取り、彼女の後を追う。
「送る」
 だが、アンジェリークは首を横に振った。
「----アリオスさん、私が初めてだとか、病気だとかで、罪悪感を感じないで下さいね? 
 私は昨日、凄く幸せだったから、それだけで充分。
 送らなくても構いませんから、一人で帰れますからね?」
「送らせてくれ」
 細い腕を掴んで、アリオスも彼女を離そうとはしなかった。
「お願い…、離して下さい…」
 少し身体を捩り、切ない声を出す彼女を、アリオスは離さない。
「送るといったら送る」
「タクシーを拾いますから、気にしないで下さい」
 少し翳りのある眼差しが彼の心を突いた。
 一瞬、アリオスはアンジェリークを掴む腕を緩める。
「さようなら…」
 するりとアンジェリークはアリオスの腕からすり抜けて、出て行った。
 ドアが閉まる音がして、アリオスはそれを呆然と見ることしか出来なかった----

 アンジェリーク…!


 コレで良かったのよ…。

 アンジェリークは、泣きながらエレベーターに乗っていた。
 誰もいないことに少し安堵しながら、止まらない涙を何とか押さえようとしている。

 深入りしてはいけないって、最初から知っていた…。
 それに、私がいなくなっても、嘆き哀しまない人を選んだつもりだった…。
 だけど…。
 どうしてこんなに哀しいの…。
 どうしてこんなに、苦しいの…。

 エレベーターが1階に着いたことを告げた。
 アンジェリークは、涙をぬぐい、エレベーターから降りると、とおりに出てタクシーを拾った。
 その様子を、アリオスは自室の窓から見つめている----

 アンジェリーク…。
 俺ははじめて、心から手を伸ばしておまえが欲しいと思った…。
 おまえのその哀しみを俺がぬぐえたら…

 アリオスは、自分の言った一言で彼女が深く傷ついたのではないかと、臍をかんだ。

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「おばあ様、アンジェは?」
「ええ。今朝帰ってきたと思ったら、自分の部屋で篭ってしまって…」
 アンジェリークの祖母から電話を貰い、レイチェルは直ぐに彼女の家に飛んできたのだ。
「とにかく逢ってみるね?」
「お願いね、レイチェル…」
 レイチェルは、階段を駆け上がって、アンジェリークの部屋に向い、直ぐにドアをノックする。
「アンジェ! レイチェルだよ? アンジェ!」
 何度かノックをして、声を掛けると、ようやく、少し顔色の悪いアンジェリークがドアを開けた。
 大きな瞳は腫れ上がって、泣いたことを示している。
「レイチェル…」
「とにかく部屋に入れて?」
 その言葉にアンジェリークは頷くと、レイチェルを部屋に迎え入れた。
 レイチェルは、アンジェリークと一緒に、真っ赤なソファに腰掛けると、華奢な彼女を抱きしめて、その背中を撫でてやる。
「何があったの、言ってご覧? 泣いてても何の解決にもならないよ?
 いつも明るいアンジェがどうしたの?」
 レイチェルに抱きしめられて、アンジェリークは少し落ち着いたのか、少しずつだがアリオスとのコトを話し始めた。
 まるで子供のように、胸を引き攣らせて。
 彼女の話は、レイチェルに確信させる。
 アンジェリークが恋をしてしまったということ。
 どうしようもないほど相手を深く思っていることを、レイチェルは感じずにはいられない。
「アンジェ、アリオスさんが凄く好きになっちゃったんだね…」
「ミイラ取りがミイラになっちゃったのかな…」
 ぽつりと応えるアンジェリークをレイチェルは優しく包み込む。
「----私、最初で最後の恋は、誰も傷つけたくなくって、彼なら傷つかないだろうから、深入りしない恋の相手にと思った…。
 だけど私が深入りしちゃった…」
「アンジェ…」
 レイチェルハ、もう何も言ってやれなかった。
 ただ、アンジェリークの消えそうな身体を、友達として抱きしめることしか、出来なかった。

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 翌日、アンジェリークは、学校を午前中で終えて、帰宅しようと校門へと向った。
「・・…!」
 そこには、アリオスが車を停めて、アンジェリークを待っていた。
「アリオスさん…」
 アンジェリークは、驚くと同時に、彼がここにいてくれたことを、少しだけ嬉しく感じた。
「アンジェリーク、話があるんだが、かまわねえか?」
 アンジェリークは暫く黙っていたが、戸惑いがちにコクリと頷く。
「少しだけなら…」
 その返事が、アリオスは純粋に嬉しかった-----

 車で近くの公園まで行き、車の中でアリオスは話を切り出す。
「-----アンジェリーク」
 アリオスは真摯な眼で彼女を捉える。
「俺に…、おまえの命、預けてはもらえねえだろうか…?」

 アリオスさん…

 アンジェリークはアリオスの眼差しを、哀しげにじっと見つめていた----   

TO BE CONTINUED…


コメント


68000番のキリ番を踏まれた朝倉瑞杞様のリクエストで、
「哀しげなアンジェリークを救おうとするアリオス」です。
これから佳境です。