突然携帯電話が鳴り、アンジェリークは慌てて出た。 「はい、アンジェリークです」 「アンジェリーク。俺だ。アリオスだ」 「アリオスさん!」 携帯から通す声も、アリオスはまた素敵だとアンジェリークは思う。 「ちょっとな、折り入って頼みてえことがあるんだ…」 「頼みたいこと?」 切羽詰っているかのようなアリオスの声に、アンジェリークは怪訝そうに言う。 「とにかく、来てくれねえか? 俺のオフィスに」 暫く考えるふりをしてから、アンジェリークは答える。 「----いいわ…」 「サンキュ、じゃあ、オフィスで」 電話が切れる音がして、アンジェリークは暫くその音を聴いていた。 答えなんか、最初から決まっていたのよ…。 私はあなたを拒む理由など何もないから… アンジェリークは手早く準備をすると、昨日貰った住所を頼りにアリオスのオフィスに向う。 少しときめきを覚えながら----- -------------------------- アリオスのオフィスは、やはり想像どおりに立派過ぎるほどだった。 アンジェリークは、少し気後れしつつも、ビルの受付へと向う。 「すみません、アンジェリーク・コレットと申しますが…」 「はい、お待ちしておりました。社長がお待ちですので、こちらにどうぞ」 受付嬢は、既にアンジェリークが来ることを判っていたようで、直ぐにアリオスのところに案内をしてくれた。 立派なオフィスだわ… アンジェリークは、まるでおのぼりさんのような気分になって、きょろきょろと見回してしまう。 最上階の一番重厚な扉の前で、受付嬢はようやく止まった。 彼女は慇懃にノックをして、アリオスに声をかけた。 「社長、アンジェリーク・コレット様がいらっしゃいました」 「ああ、入ってもらってくれ」 「どうぞ」 受付嬢にドアを開けられ、恐縮しながら、アンジェリークは部屋の中に入る。 「ご苦労だった」 アリオスの言葉を合図に、彼女はアンジェリークの後ろの扉を閉めた。 「来てくれてサンキュ」 「いえ…」 目の前にいるアリオスは、黒いタキシード姿だった。 隙なく着こなしているアリオスに、アンジェリークは見惚れている。 素敵だな…。 アリオスさんはやっぱリ… 「おい」 声を掛けられて、見惚れているのが恥ずかしくて、アンジェリークは何事もなかったかのように姿勢を正して見せた。 「何でしょうか…?」 「すまねえが、俺は今から財界のパーティーがあって出なきゃならねえ。あいにく、昨日、女と別れたばかりで、一緒にいってくれるのがいなくてな。悪ぃが、一緒についてきてもらえねえか?」 「私が?」 アンジェリークは思わず目を丸くする。 「ああ。すまねえが、な」 いきなり手を握られて、アンジェリークは少し戸惑ったが、それでも笑って彼を見つめる。 「喜んで!」 まただ…。 あの笑顔だ… 瞳の奥の哀しさがアリオスは手に取るように判る。 その儚げな瞳に、アリオスは吸い寄せられるように見つめている。 「アリオスさん? 「-----じゃあ、アンジェリーク、準備に行くぞ?」」 「ええ」 重ねられた手からは、柔らかいほどの温かさが伝わってきていた----- まるでシンデレラのようだと、アンジェリークは思った。 高級ブティックに連れて行かれて、彼女はそこで、綺麗に変身させられた。 フォーマル用のブラックの可愛らしいドレスに着替えさせてもらい、その上、栗色の肩までの髪が引き立つように帽子を被せてもらう。 年相応の化粧をしてもらって、出来上がる頃には、小さな貴婦人となっていた。 その間、アリオスは、モバイルを駆使して会社に指示を送るなど、仕事に精を出す。 彼にとっては、ほんの少しでも時間が惜しい。 「お待たせしました」 アンジェリークの声が聴こえた所で、アリオスは一旦仕事を止めた。 その姿は、彼が今まで観たことのないような、可憐な美しさだった。 アリオスは、アンジェリークを見つめることしか出来ない。 「…綺麗だぜ? アンジェリーク」 「本当ですか?」 少しはにかんだように答える彼女が可愛く感じながら、アリオスは自然に横に行き、その細い腰を抱いた。 アンジェリークは一瞬どきりとする。 「行くぞ」 「-----はい」 そのままリムジンに乗せられ、パーティーへと向った---- パーティ自体は、とても楽しく、アンジェリークにとっては有意義な時間を過ごせた。 これもやはり、アリオスが彼女の為に色々と気を使ってくれたからである。 やっぱり人の上に立つ人は違うな…。 帰りは、夢見ごこちで、アンジェリークはリムジンの揺られていた。 その大きな瞳に、俺はどうしても吸い寄せられる…。 はかない眼差しに… アリオスは、もう、アンジェリークから目を離せずにいる。 「アンジェリーク…」 甘く囁かれるなり、アリオスは彼女の手を握り締めた。 「アリオスさん?」 「アリオスだ、アンジェリーク…」 「アリオス…」 彼女が甘く囁いた瞬間、彼は素早く唇を奪う。 「…!!!!」 触れただけで、アンジェリークは一瞬何が何だか判らなかった。 「アリオス…」 「このまま、おまえを連れて帰りたい…。 綺麗で、可愛いおまえを…。 良いか…?」 低い甘い声で囁かれて、アンジェリークはゆっくりと頷く。 車はそのまま、アリオスの屋敷へと一直線に向う。 あなたなら、私がいなくなっても、絶対に傷つかないだろうから…。 ----------------------- アリオスの屋敷に着くと、二人は彼の寝室へと向い、激しく愛を交わした。 「アリオス…」 「アンジェ・…」 互いの名を何度も呼びながら、与え合い奪い合う…。 「…アリオスっ!!」 その夜、アンジェリークは、少女ではなくなった----- 翌朝。 二人は仲良くブランチを取った。 アリオスは髪を乱しながら、じっとアンジェリークを考え込むように見つめている。 「初めてだったのか…?」 「-----いずれは経験することだわ」 アンジェリークはさらりと言う。 本当は、嬉しかった。 彼に女にしてもらえたことが嬉しかった。 だが、彼に心理的な負担はかけたくない。 それゆえの態度だった。 「-----アンジェ…。 俺とおまえには未来はもうない…。 この先一緒になる気もねえからな…。 俺みたいな男とは、おまえは一緒にいないほうがいい…」 彼の言葉にアンジェリークは、食べるのを止め、あの眼差しを彼に向けた。 だが責めている様子は一つもない。 「-----私も言わなくちゃね。 あなたと私には、未来はもうない…。 この先一緒にいられなくなるから…。 私みたいな女とは、あなたは一緒にいないほうがいい…」 自分の台詞をそっくりそのまま返されて、アリオスの方が険しい表情になる。 「----なぜだ?」 アンジェリークは、寂しげな微笑を浮かべると、悲しみが滲んだ憂いのある眼差しをアリオスに向けた。 「来年の今ごろは、私はいないから…」 「何?」 アリオスは、怪訝そうに眉根を寄せる。 「-----私…、病気なの…。 この一年が、私に残された日々なの…」 アリオスは、思わぬ告白に、そのまま言葉をなくした---- |
TO BE CONTINUED…
コメント
68000番のキリ番を踏まれた朝倉瑞杞様のリクエストで、
「哀しげなアンジェリークを救おうとするアリオス」です。
アリオスはアンジェを救えるか、これからです。
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