始めて見た時から、その瞳の奥の哀しみが気になった---- 公園の池の橋の上で、男女が言い争っている。 正確に言えば女が一方的にヒステリーを起こし、男は、クールなままである。 「アリオス、どういうことなの!?」 目くじらを立てて泣きそうな顔を、アリオスはもう何度も見ていた。 どうして女はいつもこんな顔をするんだ…。 同じように…。 バカらしい… 「俺とおまえには未来はもうない…。 この先一緒になる気もねえからな…。 俺みたいな男とは、おまえは一緒にいないほうがいい…」 女の顔はショックで青ざめている。 「私は遊ばれただけなの!?」 アリオスは答えない。 彼は黙って異色の眼差しを女に向けているだけ。 「…そう、そうわかったわよ!!! 女はアリオスをキツク睨み返すと、そのまま走って駆けて行った。 アリオスはふうっと大きな溜息を吐くと、銀色の長めの前髪をかきあげた。 その様子を見ている少女がいた。 大きな青緑の瞳と栗色の髪が印象的な少女。 冬のせいか、暖かなニットの帽子を被っている。 痴話げんかだったんだ…。 ちょっと橋の下から出にくかったな… 少女はボートに乗っており、二人の声が聞こえて、橋の下から出るに出れなかったのだ。 あの男の人、この間”フォーチュン”の表紙に出てたな…。 ”若手の名士”って特集で…。 私には縁のない男性だわ… 少女はそんなことを思いながら、青年を見つめ、ボートを流れに任せていく。 寂しそうな眼差しを持った男性だな… しんみりと、少女はどこか思っていた----- ------------------------------ 憂いに満ちてる眼差しが美しいと思ったのは初めてだった---- 少女は、この日17歳の誕生日だった。 友人たちが祝ってくれるということで、家に帰り、祖母を同伴で、少し背伸びをした高級レストランへと向う。 「アンジェリーク! 17歳おめでとう!!」 友人のレイチェルが音頭を取って、楽しげに乾杯をする。 「有難う!!」 そこにいる誰もが、アンジェリークの17歳の誕生日を心から祝っていた。 楽しく笑う笑い声。 少しはにかんだように少女---アンジェリークは、みんなの祝いを受けている。 それを祖母のフランシスは涙ぐんでみていた。 「何だ、今日はえらく賑やかだな?」 レストランに入るなり、明るい声が聞こえてきて、アリオスは少し面を食らった。 いつものようにカウンター席に座り、怪訝そうに眉根を寄せながら、顔見知りのオーナーに訊く。 「今日は小さなお嬢さんの17歳の誕生日会なんですよ」 穏やかにレストランオーナーであるカティスはしみじみと答えた。 「ここでパーティなんて、えらいお嬢様なんだろうな?」 「----いいえ、彼女はごく普通のお嬢さんですよ? とっても、優しい…」 ほんの少し寂しげに話すカティスに、アリオスはフッと笑う。 「-----だったら、そのお嬢様に、俺からのお祝いで、グレープフルーツジュースを。17歳おめでとうとメッセージを付けてくれ」 「喜びますよ? きっと」 穏やかに笑ったカティスは、直ぐにジュースを作り、アンジェリークの元に持っていった。 「お嬢さん、カウンター席のお客様から、あなたをお祝いしたいと仰ったので、ジュースをお持ちしました」 どこの誰かはわからないが、アンジェリークはその心が嬉しくて堪らない。 有り難い事だわ… 「有難うございます! その方にお礼が言いたいのですが…」 「こちらのカウンター席にいらっしゃいますよ?」 「有難う」 アンジェリークは、カティスに導かれて、アリオスの座るカウンター席へと向う。 「「あの方です。アルヴィースの社長、アリオスさんですよ?」 彼が振り返ったとき、アンジェリークははっとした。 お昼の… 近くで見る彼は、昼間見たよりも、とても艶やかで魅力的だ。 アンジェリークは、何よりもその眼差しに惹かれた。 少し寂しげな瞳----- 異色の魅力的な彼の眼差しを、吸い込まれるように見つめている。 「----誕生日、おめでとう、17歳」 低く魅惑的な声でお祝いの言葉を言われ、アンジェリークは頬を染める。 「有難うございます! 凄く嬉しかったです!」 アンジェリークの間rでひまわりのような笑顔は、アリオスの虚を突いた。 満面の嬉しそうな笑み。 躍動感があり、とても輝いている。 だがアリオスには見えた。 彼女の奥深い憂いと翳りを。 笑ってはいるが、どこか寂しげなその表情は、アリオスを惹きつけて放さない。 彼に祝ってもらったことは、本当に喜んでくれているのは判る。 だが、それよりももっと根深い部分で、彼女の憂いはあるような気がした。 「17歳か、これからだな?」 アリオスはグラスを掲げ、彼女を祝う。 「ええ」 アンジェリークは、短くそれだけを言うと、ふっと、寂しげに笑った。 何が、あるというんだ…。 17で、まだこれからなのに 「将来の希望とかは? お嬢様?」 「お嬢様じゃありませんよ? アンジェリークです」 くすくすと笑う彼女に、アリオスもまた微笑みかける。 「じゃあアンジェリーク?」 「-----たった一度でいいから、恋をしたい…」 たった一つの希望のように、少女は遠い目をして言う。 それはまるでかなわないはるかな夢のようだ。 「叶うんじゃねえのか? おまえさんみたいに可愛らしければ…」 「そうですか?」 一瞬、少女から力が抜け、寂しげな微笑になる。 またか… 「アリオスさんは何が将来の夢ですか?」 「-----そうだな、ビジネスで頂点に立つことだな…」 「叶いますよきっと…」 少女のそういわれると、アリオスはそうなるような気がした。 不思議だった。 彼女にはどんな魔法があるのか、アリオスはまだこのとき判らずにいた---- 二人はこの後色々と語り合い、笑いあった。 アリオスはアンジェリークが気に入り、最後はお互いに携帯と電話番号、住所まで交換し合ううほどになった。 「そろそろおまえさんを帰さないとな? 友達に恨まれそうだ」 「そうですね?」 「今日は楽しかった」 「私も」 二人はしっかりと握手をし合う。 アンジェリークはその強い感触が好きで堪らなかった。 彼の温かさが今はとても嬉しい。 自分の席に帰るとき、アンジェリークは一回アリオスに振り返る。 あなたなら…。 あなたなら恋をしても、あなたが傷つくことはないわ…。 |
TO BE CONTINUED…
コメント
68000番のキリ番を踏まれた朝倉瑞杞様のリクエストで、
「哀しげなアンジェリークを救おうとするアリオス」です。
まだまださわりです。
がんばりますです。
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