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応接室にカティスと一緒に呼ばれ、アンジェリークは、緊張の面持ちで会談に挑んでいた 「俺たちとしては”間奏曲”をリメイクしたいと思っている。他のキャストは変える予定だが、ヒロインのプリンセスは、おまえさんにもう一度お願いしたい」 正直、アンジェリークは複雑な気分だった。 あれだけと決めていた映画出演。 その上、職業としての”女優”はする気はなかった。 今もその気持ちに変わりはない。 だが、目の前にいる青年の存在感に圧倒され、彼がプロデュースする作品なら、一本ぐらい出ても構わないと思うところがある。 逡巡の表情を浮かべながら見つめてくる澄んだ瞳を、アリオスは受け入れた。 「事情は聞いている。おまえさんがこの映画一本だけの約束で出たことも、女優業もする気はないことも」 彼はひと呼吸置くと、煙草を口に銜え火をつける。 「ハリウッドでも”たった一本”だと思って、やってみる気はねえか?」 「たった一本・・・」 噛み締めるようにアンジェリークは呟いた後、アリオスを見つめる。 「期間は2月。夏休みの間だけだ。大学行く資金も稼げるぜ?」 実際に契約書に書かれている金額は、アンジェリークの感覚からしては破格の金額だ。 痛いところを突いてくると、アンジェリークは思う。 「このヒロインはおまえさん以外には出来ねえと思うが・・・」 不思議な瞳でじっと見つめられれば、アンジェリークの心も甘い感覚に包まれる。 ”おまえさんにしか出来ない。 そう言われてしまえば、アンジェリークはひとたまりもなくて。 心をまっすぐと射抜かれる。 彼女の決心はすぐに固まった。 「・・・判りました。この一本だけなら・・・」 「サンキュ」 アリオスは尽かさずペンを取り出し、アンジェリークの前に差し出した。 「サインを」 「はい」 しっかりと頷くと、彼女は書類にしっかりとサインを書く。 「契約成立」 アリオスは不敵に笑うと、アンジェリークに手を差し延べる。 「これからよろしく頼む」「よろしくお願いします」 ふたりの手は、今しっかりと握りしめあった------ ----------------------- 契約から一週間後、撮影は開始された。 厳しいプロデューサーとして知られているアリオスだが、特にこれといった注文は出なかった。 撮影は順調に進んでいったが、アンジェリークのシーンには、必ずといっといいほど、アリオスが厳しい目を光らせていた。 撮影後、スタジオの入り口でアリオスが待っていた。 「馴れたか?」 「はい、おかげさまで」 アリオスがゆっくりと彼女に近づく。 正直、アンジェリークはそれだけで緊張してしまう。 いつも完璧な欲求。 スタイルも肌も演技も全てである。 彼の瞳には全てをさらされているような気がして、その身を堅くした。 「そんなに緊張すんな」 「はい・・・」 俯く彼女に、アリオスはふっと笑う。 「アンジェ、少し話があるんだが、かまわねえか?」 「あ、はい」 緊張のあまり手足がぎこちなく動いてしまう。 そんな彼女に苦笑しながら、アリオスはアンジェリークを連れ、撮影所の庭に向かった。 「最近、演技は少しだが上手くなってきてるぜ?」 「有り難うございます」 素直に嬉しかった。 いつも厳しい眼差しで見、チェックをするアリオスにそう言ってもらえるのが、何よりも肥やしになる。 「この一本で止めるのに抵抗はねえのか?」 「ええ、ありません」き っぱりとアンジェリークは言うと、爽やかな笑顔すら浮かべた。 スポットライトなどに何も未練はないとばかりに。 心地好い夜風に身を任せながら、アンジェリークはまっすぐとアリオスを見つめた。 「そうか・・・。勿体ないと思うがな」 「有り難うございます。だけど私には他に夢がありますから」 「夢?」 ”映画以上の夢”とはどんな夢なのだろうかと、彼は熱心に耳を傾ける。 「私、親を早くに亡くしているから、”家族”が欲しいんです。いつも笑っていられるような家庭が欲しいんです。普通のありきたりの家庭が・・・」 なぜか素直に言えた。 そんな素直な自分にアンジェリークは少し驚いてしまう。 アリオスもまた彼女のささやかな願いが新鮮で、心の中が洗われるような気がする。 「ありきたりな家族か…」 「はい…」 そんなもの、俺は当の昔に諦めていたのにな・・・ 自嘲気味にアリオスは笑うと、空を見つめた。 「叶うといいな? その願い」 「ええ」 こんな純粋な願いを持つ少女は初めて会った。 今までの女優たちは、アリオスに色仕掛けをしても役を採ろうとしている女たちが殆どだった。 だが、アンジェリークは違った。 彼女はこの作品だけで充分だといい、しかも欲すらもない。 「アンジェリーク…」 その名を呼ぶと、彼女は愛らしく彼の顔を見つめる。 もう止めることは出来なかった。 アリオスはゆっくりとアンジェリークを見つめると、顎を持ち上げ、唇を近づけていく。 「あっ、アリオスさん…」 「黙ってろ…」 低い声で囁かれて、彼女は素直に頷く。 二人のシルエットが重なり合い、唇も重なる。 アリオスは初めて心の底から人を欲した。 こいつ以外に俺は愛せないかもしれない・・・ アリオスはもうこの思いが止められないのを感じていた------ 唇を離した後、アリオスはぎゅっと華奢な身体を抱き締める。 「俺の部屋に来い…」 艶やかな声。 アンジェリークは彼の雰囲気に飲まれてしまう。 心のどこかで、彼となら夢を叶えられるかもしれないと、ずっと何所かで思っていたかもしれない。 自然と答えは出た。 はにかんだように彼女が頷くと、アリオスは自らの運転で彼女を屋敷に連れて行く。 運命の恋は、今激しく燃え上がっていく------ |
| コメント 2回目です。 次回が一番書きたいくだりなので頑張ります。 アリオスって、いかにも「出来る男」の仕事が似合う!! そうメロメロです。 この男性に!! |