LOOK TO YOUR DREAMS

〜愛は永久に〜

中編


 仕事が済むなり、アリオスは、すぐに、アンジェリークが入院をしている病院へと、車を飛ばした。
 途中、助手席に座るオリヴィエがおびえるほどに、荒っぽく、しかもスピードの出た運転だった。
「ったく、アンジェちゃんが絡んだら見境ないんだから。これで事故でっも起こったら、困るから、安全運転!」
「ああ」
 口ではそういうものの、彼ははやる心を押さえきれずにいた。

 ようやく病院に着き、アリオスは転がるようにして、産婦人科の病棟へと向かう。
「ここは病院です!! 走らないで下さい!!」
 看護婦が制止するのも聞かず、彼は走っていった。

 アンジェ、待ってろよ?
 俺が来たからもう安心だぜ?

「あ。来たわ」
 ”今ついた”と、オリヴィエから連絡をもらったロザリアが、病室の前で待っていた。
 アンジェリークが入院している、スモルニィ総合病院の産婦人科は、お母さんと子供のスキンシップを諮ろうと、母子同室の制度をとっていた。
 当然個室になっており、父親も泊まれるように簡易ベッドもしつらえてあった。
「ここよ? 二人とも」
「ロザリア」
 アリオスはすぐに飛んでゆき、彼女を苦笑させた。

 ホントにめろめろよね〜、アリオスさんは

「アンジェは!?」
 銀の髪が激しく乱れているのも気にせず、着くなり、アリオスは真っ先に尋ねる。
 ”子供は?”と訊かないところが、彼らしいといえば、彼らしいのだが。
「今、レイチェルちゃんと話しながら気を紛らわせてるわ。体力いるから、ご飯を食べながら」
「へ? メシ? 俺はてっきり分娩室に向かっているのかと」
 想像していたのとは違って、意外にも落ち着いているみたいで、彼は拍子抜けをした。
「でも、不安なのは違いないわ。あなたがいるときっとそんなものも飛んでしまうでしょうけど?」
 病室の中に入ると、ベットの上で背中を凭れさせながら、レイチェルと話をしているアンジェリークが見えた。
「アリオス!!」
 彼を見つけるなり、彼女の顔は明るくなり、アリオスもすぐにベットに駆け寄る。
 食事はもう済んでいるようだった。
「アンジェ、平気か!?」
「うん、大丈夫。レイチェルやロザリア様が助けてくれてるから」
「はい、アリオスさん」
 突然、レイチェルに手のひらにストップウォッチを置かれ、アリオスは怪訝そうに彼女を見た。
「何だ? これは?」
「もう! アリオスさんの仕事だよ? それ! アンジェの陣痛の間隔をそれで測るの! 短くなってきたら、先生に報告して、分娩室に行くんだよ!」
 言われて、アリオスはようやく判ったように頷いて見せた。
「判った、俺がやる」
「うん、今これが前の陣痛から計ったタイムね? もうすぐ分娩室に入らなくちゃいけないかも・・・」
 二人が話している間、アンジェリークは再び顔をしかめ、うずくまる。
 そこをすかさずストップウォッチを押しながらも、彼は気が気でなかった。
「アンジェ!!」
 そのまま、彼女の元へとさらに近づき、優しく包み込む。
「大丈夫か!?」
「うん・・・、何とか・・・」
 痛みでその瞳に涙を滲ませながら、縋るように彼を見つめる。
 他は利彼女は不安でたまらないのだ。
 それを感じて彼は、人がいるにもかかわらず、彼女の手をしっかりと握り締める。
「レイチェルちゃん」
「はい・・」
 ロザリアにそっと肩を叩かれて促されると、二人は病室から出て行った。

 二人とも・・・、サンキュ

「どうだ? 痛みは・・・」
「ん・・・、また引いてきたみたい・・・。お母さんになるのって、大変ね?」
 何とか笑おうとする彼女が、彼は愛しくてたまらない。
「アンジェ・・・」
「あ、アリオス、でもね、とっても嬉しいのよ? だって愛する人の赤ちゃんだもの」
「俺も嬉しいぜ?」
「うん・・・!!」
 再び彼女は顔をしかめ始める。
 かなり陣痛の間隔が短くなっている。
 アリオスはすぐさま、外にいたロザリアに連絡し、医師を呼びに言ってもらう。
 再び、病室が緊迫する。
 アリオスはもちろん、アンジェリークの側を片時も離れない。
「アンジェ! 頑張れ!」
「うん・・・!」
 二人の周りを、レイチェル、オリヴィエが囲む。
「お待たせしました。では分娩室に運びます」
 担当医は、まだとし若い、金髪の女性だ。
 彼女はロザリアと大の親友で、その紹介で、アンジェリークは子供をここで産むことになったのだ。
「アンジェリーク、アンジェちゃんを頼んだわよ?」
「まかしといて、ロザリア」
 にこりとロザリアに微笑んで見せる彼女は、どこか凛とした雰囲気を持っている。
「ご主人、ストレッチャーに乗せますから、手伝ってください」
「判りました」
「そこのロザリアの彼もよろしく」
「判ったよ」
 アンジェリークは、担当医、アリオス、オリヴィエに担がれてストレッチャーへと乗せられる。
 そのまま分娩室へ向かうが、アリオスはその直前まで、手を握ってついてゆく。
「頑張れよ、アンジェ!」
「うん、アリオス!!」
 そのままアンジェリークは笑顔のまま、分娩室へと入っていった。
 その姿を見つめながら、アリオスは呆然と立ち尽くしていた。

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 長い戦いが始まった。
 アリオスは、ロザリア、レイチェル、オリヴィエと共に、分娩室前のロビーで、じっと待っていた。
 時計の音だけが気にかかる。
 一行に赤ん坊が泣く声もしない。
「子供を産むのって、女の人だから耐えられるんだよね」
 ポツリとレイチェルが呟く。
「ああ。男だと、痛みに耐え切れずに、死んじまうって聞いたことがあるぜ」
 自分で言っておいて、アリオスはアンジェリークが心配の余り、苦しそうな顔をする。
「でも、子供を産むってどんな感じなのかしら?」
 ロザリアも未知の体験に、ポツリと呟く。
「ケーキの2号の絞り口から、10号の生クリームを搾り出すようなものかしら」
 女の子らしい答えはレイチェル。
「俺、鼻からうどん三本出したことがある」
 アリオスもわけのわからないことを言いながら溜息をつく。
 彼の異色の眼差しは、じっと分娩室を見つめている。

 頑張れ、アンジェ!
 頑張ってくれ!!
 変われるものなら、せめてその痛みの半分を変わってやりてえ!

 彼の脳裏に彼女をひき取ったときから、結婚した日、そして、妊娠中の姿が、思い出される。

 愛してる!
 アンジェ、頼む、頑張ってくれ!

 彼には最早祈ることしか出来なかった。


 その頃。
「はい、力んで!」
 分娩室では、アンジェリークが汗を流しながら、必死に、子供を出産していた。
 痛みに視界が黄色になる。
 ぼやけて何も見えない。
 バーをもつ手も、汗ですべっるが、もたずに入られないほどの痛みだ。

 アリオス!!
 助けて!!
 守って、私を、お願い!!

「頑張って、一人目の赤ちゃんが生まれてくるわ、もう少し!!」
 アンジェリークは力を振り絞り、頑張りぬく。
「はい、その調子」
 彼女がふんばった瞬間、一人目の子供が滑り落ちてきた。
「うんぎゃー!」
 元気ななき終えに、アンジェリークは涙が止まらない。
「一人目は女の子だわ。さあ、がんばって!」
 すぐに二人目を生む体制になる。
 今度は先ほどのように苦しくはない。
 しかし苦痛には違いない。
 彼女が頑張る間、一人目の女の子は産湯に入れられている。
「はい、もうすこし! 二人目ももうすぐよ」
 その声に励まされて、アンジェリークは最後のふんばりを見せた。
 その瞬間。
「おぎゃー」
 二人目の子供も元気よく泣き、アンジェリークは力が抜けるのを感じた。
「男の子よ? 今度は。二人とも、抱いて御覧なさい?」
「はい・・・」
 力なく呟くと、彼女はそっと手を伸ばした。
「小さーい」
 初めて抱く娘に、彼女は涙ぐむ。

 アリオスの赤ちゃんなんだ・・・

「次も、控えてるわよ?」
 産湯を飲まされ、産湯を使った、二人目の子供がやってくる・
「このこも小さいわ・・・」
 目を細めながら、そっとその頬に触れてみると、柔らかいのが判る。
「さあ、お母さんは、もう少ししてから、ここを出ましょうね? この子達は先にお父さんと対面ね」
 アンジェリークは深く慈しみのある微笑を二人に浮かべる。

 有難う、二人とも・・・。
 きっと、アリオスも喜んでくれるわ・・・


 僅か三十分の間に、二回の子供の泣き声が聞こえ、アリオスは、いてもたってもいられなかった。
「アリオスさん、お子さんたちですよ?」
 看護婦が二人やってきて、その腕に彼の子供を抱いていた。
「男女の双子です。このこが女の子で、彼女が抱いているのが、男の子」
 アリオスは先ず、長男を抱く。
 その柔らかさに感激しながら、愛しいものを見つめる眼差しを子供に送る。
「続いて、女の子です。血液型は、二人ともAB型ですよ?」
 長女を抱きながら、アリオスはアンジェリークへの愛情をさらに深めてゆく。

 アンジェ・・・。
 有難う・・・。

 アリオスが対面を済ませると、アンジェリークが分娩室からストレッチャーに乗せられて出てきた。
 疲れきった表情が、彼にはきにかかる。
「アリオス・・・」
「今は何も言うな・・・。休め?」
「うん・・・」
 彼女はそっと目を閉じる。
「有難うアンジェリーク」
 アリオスはそっと彼女の額に口付け、感謝の気持ちを送った。


 11月22日午後八時と午後八時三十分に、アリオスとアンジェリークの間に子供が誕生した。  



コメント

「WHERE DO WE GO FROM HERE?」の出産編です。
おねえちゃんの出産話を参考にしました(笑)
アリオスぱぱのめロメろぶりは次回に(^^:)