出産したその日だけは、母親の疲れを取るために、子供たちは新生児室に移された。 スモルニィの産婦人科は大きいのだが、母子同室としているため、一日しか使わない新生児室は比較的に狭かった。 立ち会ってくれた、オリヴィエ、ロザリア、レイチェルに、アリオスは礼を言い、三人を病院の玄関前まで送った。 レイチェルは、オリヴィエが家まで送り届けることになっている。 三人を見送った後、アリオスはアンジェリークの眠る病室へと戻った。 看護婦が用意してくれた簡易ベットで、彼は今夜は眠る。 二十四時間看護なので、家に帰っても言いといわれたのだが、彼はどうしても愛するアンジェリークの側にいたかった。 ジャケットを脱ぎ、ネクタイを緩めて、彼はベットに寝転がる。 ほのかな明るい常夜灯だけで、薄暗い病室。 時間も午後十時を少し回ったところだ。 いつもなら寝る時間ではないので、アリオスは目が冴えている。 ネグリジェを代え、身体を少し拭いてもらった彼女は、とても気分がよさそうに眠っている。 寝顔だけ見れば、母親になったことが信じられないほどあどけない。 彼は愛しげに彼女の頬に手を伸ばす。 有難う・・・、アンジェリーク。 最高のバースデープレゼントだ・・・ 彼はそのまま手を彼女の手にもってゆき、握り締める。 愛してる・・・。 おまえは生涯で一番愛した女だ・・・。 おまえなしで、生きてゆくことなんて、もう、出来ない・・・ そのままアリオスは瞳を閉じる。 彼女が目覚めたときに、真っ先に言う言葉を考えながら。 ------------------------------------------ 「・・・ん・・・」 朝日に導かれて、アンジェリークが目を開けると、アリオスがしっかりと手を握ってくれていることが判った。 傍らの時計を見ると、七時をまわったところだ。 出産を終えたばかりの身体は、とても重かったが、愛する男性の子供を産めたことへの喜びのほうが大きく、そんなことすら吹っ飛んでしまう。 眠っているアリオスを見つめていると、彼女は愛しさがこみ上げてくるのが判る。 アリオス・・・。 親子四人で頑張ろうね? 「・・・ん、あ・・・」 目覚めると、青緑の優しい眼差しが自分を見つめていることに、彼は心が満たされる。 「アリオス、おはよう」 「おはよう、アンジェ」 二人は甘く微笑みあい、眼差しを交し合う。 「アリオス、昨日、誕生日だったのに・・・、ちゃんとお祝いできなかった・・・、ごめんね?」 いつも自分のことよりも彼のことばかり考える彼女に、彼は深い愛情を感じずにはいられない。 「バカ、何言ってる? おまえは俺に最高のプレゼントをくれたんだ」 彼はそのまま体を起こすと彼女の唇に、愛情たっぷりの口付けをする。 この嬉しさを伝えるために、何度も彼は角度を変えて口付ける。 甘い、甘い、口付け。 昨日は、朝だけしか唇を重ねられなかった。 だから、その分もたっぷりと愛情を込めて。 「 何度も口付けられて、彼女の瞳は潤んで、彼を捉えている。 「アンジェ・・・」 そっと柔らかな頬に触れる。 「有難う・・・。俺に最高のプレゼントをくれて。 有難う・・・。俺の子供を産んでくれて」 異色の眼差しには、今まで見た中では一番深い愛情が流れているのを、彼女は見つけ、泣きそうになる。 「こら、泣くな・・・」 「うん」 泣き笑いの彼女に、アリオスは唇で涙を拭ってやる。 「私にとっても、子供たちは最高のプレゼントだわ・・・。 有難うアリオス」 そのまま二人は額を寄せ合って笑いあった。 ------------------------------------- レイチェルが両手にいっぱい、子供へのおもちゃを持って、病室にやってきた。 「アンジェ〜! 赤ちゃん〜! 遊ぼうよ〜」 「ふふ、レイチェルったら、二人がここにやってくるのは午後からよ? それに生まれたばかりなのに、きっと、まだ、遊べないわよ?」 親友の行動が嬉しくて、アンジェリークも自然と笑みが浮かぶ。 「レイチェル、俺、ちょっとだけうちに帰るから、アンジェを頼んだぜ?」 「あ、いってらっしゃい」 二人に見送られて、アリオスはいったん病院を後にする。 服を着替えたいということもあったのだが、実は以前から頼んでいた、アンジェリークへの感謝を込めた指輪を取りに行くためだった。オーダーメードで、親子四人を表した石を埋め込んでいる。 彼の知り合いである有名デザイナー”セイラン”が特別に作ったものだった。 家に戻って、 シャワーを手早く浴び、皮のジャンパーと黒のジーンズというカジュアルな格好に着替えて、彼は宝石店へと向かった。 そこで指輪を受け取ると、すぐさま病院へと向かう。 胸に、アンジェリークへの愛しさと感謝をいっっぱい込めて。 「ただいま」 「お帰りなさい、アリオス」 病室に入るなり、賑やかな病室に、アリオスは面を食らった。 ベビーベットが二台運ばれており、そこには二人の子供が寝かされている。 看護婦もいて、少し賑やかな病室だ。 「アンジェ、子供たちが来たのか?」 「うん! 今ね、オムツのし方を習ってたの。次はおっぱいのあげかたなの」 「そうか・・・」 看護婦やレイチェルが見ているのにもかかわらず、アリオスはアンジェリークの頬に軽く口付けを落とした。 その後には勿論子供たちのベットを覗く。 「おい、お父さんが帰ってきたぞ?」 彼は嬉しそうに、子供の手をひとつずつとって、小さな手を握り締めてやる。 二人とも、彼が誰か判ったのか、強く握り返してくる。 「お父さんがわかるか?」 男の子はアリオスと同じ翡翠と黄金の不思議な瞳をしており、女の子はアンジェリークと同じ青緑の瞳をしている。 「ホント! 男の子はアリオスさんに、女の子はアンジェに似てるよね〜」 レイチェルも納得したように何度も頷いている。 「二人を見た方みんなそう言うのよ?」 誇らしげに彼女は呟き、じっと優しい眼差しで子供たちを見つめる。 その眼差しはすっかり母親のそれだった。 「おまえはしっかり自分の道を貫いて欲しいし・・・、俺とアンジェの子から絶対に賢いもんな?」」 といって、長男を見つめ、 「おまえはいつまでも嫁に行くな。きっと美人になるぜ? アンジェリークにそっくりだからな・・・」」 と、長女を見つめる。 途端に、病室に穏やかな微笑みが広がる。 「アリオスさん、親ばか〜」 「ホントね」 看護婦も、レイチェルもくすくすと楽しげに笑っている。 それが恥ずかしいのか、アリオスは少しむすっとした顔をしている。 「さあ、アンジェリークさん、さっき教えた方法で、赤ちゃんたちに母乳を上げて御覧なさい?」 「はい・・・」 先ずは、長女を彼女の元に連れてきて、彼女はその子をしっかりと腕の中に閉じ込める。 ぎこちないが、アンジェリークはそっとネグリジェのボタンを外し、以前にもまして豊かになった白い胸をだし、そっと子供に与える。 子供はすぐに彼女のそれに吸い付き、くすぐったそうに身を捩る。 「あ、吸ってくれてる、ちゃんとおっぱい飲んでくれる!」 輝かしいばかりの笑顔になり、アリオスはその表情が眩しくて目を細める。 レイチェルもその姿に暫し見惚れる。 「上手だわ、アンジェリークさん。だったらもう心配はないわね。私はいったん戻ります」 「あっ、ワタシもエルンストを迎えに行くんだった!!」 レイチェルまでもがわざとらしく声を上げる。 「本当に有難うございました! レイチェルも、有難う」 アンジェリークの言葉に、レイチェルはそっとウィンクをすると、そのまま病室を出て行った。 それをいいことに、アリオスは彼女のベットの上に腰をおろす。 「綺麗だな・・・」 そっと彼は妻の肩を抱いた。 「恥ずかしいわ・・・」 はにかんで彼を見つめる彼女も、また魅力的だと彼は思った。 「ね、アリオス、名前、考えた?」 「ああ、一応な。だが、おまえの意見も訊かなきゃな?」 嬉しそうに頷くと、アンジェリークは真摯な眼差しを彼に向ける。 「アリオス・・・、このこね、”エリス”って名前じゃ、ダメ?」 その名前は彼が、女の子なら最もつけたい名前だった。 だが、一番愛するアンジェリークが傷つくのがいやで、やめようとした名前でもあった。 彼は息を飲みながら、アンジェリークに真摯だが嬉しい光を宿した眼差しを向ける。 「----アンジェ・・・」 「私ね、女の子が出来たら、”エリス”にしようって、結婚したときから決めてたの。だって、エリス叔母さんがいたから、今の私たちはあるもの・・・」 「有難う、アンジェ・・・」 授乳中の彼女に、彼は子供を押しつぶさないように、口付けた。 彼女も満足そうに微笑む。 「あ、名前が決まったから、嬉しいのかな・・・。エリス、寝ちゃったわ? アリオス、今度は、私たちの息子をお願いね?」 「ああ」 彼はエリスを受け取り、ベットにぎこちない手で寝かしつけると、今度は息子を抱き上げて、彼女の元へと連れてゆく。 「有難う、新米パパさん」 「どういたしまして、新米ママさん」 二人は顔を合わせて楽しそうに微笑みあった。 もう誰も断ち切りがたい絆を二人はさらに強くしている。 「今度はもう片方・・・」 彼女は看護婦に言われたように、エリスとは違った方の胸を息子には与えた。 「あ、この子は、エリスよりも積極的じゃないかな? でも一生懸命だわ」 再びアリオスはアンジェリークの身体に自分の体を寄せる。 「なんか、おまえみたいだな?」 「そうかも。エリスはどちらかといえば、アリオスみたいかもね・・・」 愛しげに彼女は母乳をやっている。 本当に幸せが身体からにじみ出ているのがわかる。 「この子はどうするの?」 「ああ、こいつは”レヴィアス”にしようかと思ってる。"正統なる者”って、意味だ。俺に似て、こいつはきっと有能だからな?それにふさわしい名前にしたまでだ」 「レヴィアス。いい名前ね? 気に入ったわ。だけど・・・」 噛み締めるようにアンジェリークはその名を呟いて見せた。 「だけど、何だ?」 「アリオスって、親ばかね?」 くすりと彼女は可愛らしく笑う。 「あたりまえだろ? 俺とおまえの子だぜ? 世界一幸せになる、世界一すばらしい子供だ? 判ったか?」 「ええ、アリオス」 彼女にとっても、彼の親ばかぶりは、見ていて楽しいし、幸せを感じることが出来、最高だ。 「----パパさんの言葉聞いてレヴィアスも満足して寝ちゃったわ」 彼女は再びアリオスにレヴィアスを託し、彼はぎこちなく受け取ると、そっとベットに寝かしつけた。 「なんだか、慣れてないと疲れるな?」 「そうね」 「アンジェ、渡したいものがある・・・」 「何?」 きちんとネグリジェを調えると、アンジェリークはすんだ瞳を彼へと向けた。 「俺の子を二人も産んでくれて、有難う・・・」 彼はそっと、彼女の目の前にピンクのベルベットの箱を手渡す。 「アリオス・・・」 涙でその箱がゆがんで見えてしまう。 「開けてみろ?」 「うん・・・」 嬉しくてたまらなくて、彼女はそっと箱を開けた。 そこには大きな石が二つと、小さな石が二つは言った、ブルーサファイアの指輪が入っていた。 彼女は思わずアリオスを見る。 「俺たち親子みたいだろ? これからも二人も家族が増えて大変だとは思うが、よろしくな?」 彼は涙をぽろぽろ流す彼女の手を取って、中指に指輪を填める。 「ここは俺専用の結婚指輪の場所だからな、ここだ」 「うん」 彼によって填められた指輪を見て、彼女は肩を震わせながら、どれほど感激しているかを、彼に伝える。 「有難う、最高のプレゼントをいっぱい貰ったわね」 「アンジェ」 アリオスはしっかりと母となったアンジェリークを抱きしめる。 今度はもうお腹が邪魔をしないからしっかりと身体を密着させて、抱きしめることが出来る。 「これからも、よろしくな? 奥さん」 「こちらこそ、よろしくね、アリオス」 二人の唇が重なり合う。 家族が増え二人はまた新たな生活へとスタートを切った。 11月22日20時誕生。長女エリス。 11月22日20時30分誕生。長男レヴィアス。 深く愛し合った両親から生まれた、とても幸せな子供たちは、、めろめろなパパとママの下、成長することになる。 |

コメント
「WHERE DO WE GO FROM HERE?」の出産編です。
アリオスぱぱのめロメろぶりは次回シリーズに持越しです。(^^:)
今度こそたっぷりとお届けします!!