LOOK TO YOUR DREAMS

〜愛は永久に〜

前編


 アンジェリークも、とうとう臨月を迎え、無理をしない程度に学校に通う体制に入った。
 高校の卒業の単位も足りているし、特別推薦で、王立の大学が決まっているせいか、彼女はもうゆったりとした気持ちで学校へと通っていた。
 学校の荷物は全て、親友であるレイチェルが持ってくれる上、朝はアリオスが車で送ってくれる。
 もう制服も入らなくなってしまったので、彼女はマタニティ・ドレスで登校をしていた。
 双子のせいか、お腹もかなり突き出ていて、華奢な身体ゆえに目立ったりもする。
 だが、学校のみんなが協力してくれ、アンジェリークの出産を、誰もが自分のことのように待ち望んでくれていた。
 幸せな中、彼女はうれしい悩みもある。
 それは、子供たちの父親であるアリオスのことである。

「ね、アリオス、このお腹で二階に上がるのも大変になってきたし、予定日まで後2週間だから、下の客間使っていい? 夜中に産気づいても困るから。ちゃんと、電話の内線の子機、置いておくから、ね?」
 彼女は強請るように彼を見つめる。
 本当は、このお腹じゃ、彼が寝るのに気を使うだろうと、気を使ってのことである。
「ああ。判った」
 彼は素直に返事をしてくれたので、彼女はほっとした。
 だが、彼も一緒に一階の客間に引っ越してきたのである。
「え? アリオスも下に来るの?」
「あたりまえだ。おまえと離れたくない。決まってるだろう?」
「でも・・・」
「なんだよ! おまえは子供と俺とどっちが大事なんだ?」
 途端に不機嫌そうに彼は眉根を寄せ、 彼女をとがめるように見つめる。
 その鋭い眼差しに、アンジェリークは慌てて否定をする。
「アリオスが大事よ! これは絶対だわ。あなたがこの世で一番だもの」
「だったらなぜ、ンなこと言うんだよ?」
 彼の表情は益々険しくなる。
「だって、このお腹よ? ただでさえアリオスは、お仕事をがんばってくれているのに、寝るときまで気を使わせることなんて出来ないわ・・・」
「アンジェ・・・」
 途端に、アリオスの表情は明るいものとなり、愛しげに彼女を抱きしめる。
 抱きしめるといっても、最早かなりお腹が突き出てる彼女を、腕で包み込むといったほうが正しいのだが。
「俺は別に気を使ってるわけじゃねえ。おまえにいつでも触れていてえし、側にいてえよ。それに、夜中に陣痛が始まったら、困るしな?」
「うん・・・、有難う、アリオス」
 そっと頬に口付けられて、アリオスは満足げに微笑む。
「だから、一緒に寝ような?」
「・・・うん」
 はにかみながら頷く彼女の姿が可愛くて、彼は愛しげに目を細めた。
 実際に、ドクターストップがかかった時以外は、妊娠中だろうと、アリオスは気にせず彼女を愛した。
 今またドクターストップがかかり、アリオスは少し欲求不満気味。
 かといって他の女性は全く欲しいとは思わない。
 愛する女性を、愛したくても愛せないからである。
 だが、せめて、一緒には眠りたい。
 彼女が出産のために入院してしまえばそれも適わなくなり、アリオスには少し我慢の日々が続くのだ。
 アンジェリークは、時々このような、少し子供い彼がどうしようもなく愛しくなってしまう。
 彼が子供っぽくなるのは、決まって、彼女が絡んだとき。
 アンジェリークをどうしようもなく愛しているが故なのだ。
 すでに、彼女が勉強部屋として今は使っている、かつて寝室として使っていた部屋には、子供たちのものが完璧に運び込まれていた。
 二人分のベビーダンス、ゆりかご、ベビーベッドも二人分、おもちゃも、服も、二人分である。
 これにはアリオスの親ばか振りがいかんなく発揮されていて、ことあるごとに彼が買い揃えたものである。
 もちろん肝心なものはアンジェリークの意見は入っている。
 その上今のアリオスは胎教にもこっていて、アンジェリークは、やれ情操音楽だの数式などを聞かされている。
 だが、彼の大事な人はあくまでアンジェリーク。
 彼女が辛そうにしているときは決してしなかった。
 このように愛する夫であるアリオスの愛に一身に受けて、アンジェリークは出産へと備えているのだ。

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 予定日が近づいたある日、アンジェリークは、出産が間近であると言うことを、”印”によってしった。
 彼女は、来るべく命の誕生への期待に胸を膨らませる。
「ただいま、アンジェリーク」
「お帰り、アリオス」
 アリオスが帰宅するなり、彼女は彼に告げた。
「アリオス・・・、もうすぐ、赤ちゃん産まれるみたいだから、明日から、学校休むね?」
 恥ずかしそうに、だが、誇らしげな彼女の表情に、アリオスは優しく彼女を包み込む。
「いよいよだな・・・」
「・・・うん・・・」
 彼女は深く優しく微笑む。
 その表情は清らかで美しく、アリオスは彼女への愛しさでいっぱいになった。
「怖くないか? おまえは、俺以外に家族がいねえから、いろいろ不安に感じることがあるんじゃねえか?」
「大丈夫よ? だって、私は一番愛している男性(ひと)の子供を産むのよ? 
嬉しいだけで、不安なわけがないじゃないの? ね、アリオス」
 アンジェリークは、慈悲深い女神のように優しく微笑むだけ。
 その笑顔はアリオスの心を浄化してゆく。
 彼は、深い、微笑を彼女に向けると、甘い口付けを彼女に落とした。
 その甘さに、アンジェリークは深く愛しさが増すのを感じた。

 夜も二人は手を取り合って眠りにつく。
「もうすぐ、二人きりじゃなくなるな?」
「うん・・・。でももっと幸せに、楽しくなるわ」
「そうだな・・・。子供が喜びを何倍にもしてくれるからな?」
「うん・・・」
 アリオスは、彼女のすっかり大きくなったお腹を撫でる。
 愛しげに、優しく。
 アンジェリークもまた、彼の手に自分の手を重ね合わせる。
「愛してる・・・」
「私も愛してるわ・・・、アリオス・・・」
 二人は出来る限りで身体を寄せ合い、抱きあう。
 お互いが深く愛し合った証である子供たちが、二人の絆を寄り強固にしていった----

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 11月22日----
 その日は二人にとっては特別な日。
 アリオスの誕生日であるこの日は、アンジェリークにとってはお祝いに忙しい日でもある。
 だが、今年はそうはいかない。
 外に食事を行くにも、産気づく可能性があるために出来ないのだ。
「ごめんね、今日、誕生日なのに、その代わり、ケーキとお食事はがんばって作るからね?」
「無理すんなよ」
 ”いってらっしゃい”のキスが交わされる。
 甘い口付け。
「いってらっしゃい!!」
「ああ、いってくる」
 アリオスを見送った後、彼女はほっと一息を着くために、リビングのソファへと腰掛けた。
「・・・!!!!」
 腹部を鋭い差し込むような痛みが襲い、彼女は顔をしかめ、その場にうずくまる。

 来た・・・!!

 すぐさまそれが陣痛だとわかったアンジェリークは、収まるまで、とにかく、冷や汗を出しながらも我慢をした。
 最初の陣痛は、次の陣痛が来るで間合いがある。
 すぐに病院へと連絡を取ると、シャワーを浴びて、入院のして、病院に来いというものだった。
 すでに入院の準備はしてあり、いつでもスーツケースが持っていけるように、リビングに準備がされている。
 彼女が次に電話をしたのは、ロザリアのブティックだった。
「はい、”BLUE ROSE”です」
「ロザリアさん? アンジェリークです」
 その電話にロザリアはぴんと来る。
 アリオスが仕事でダメな場合は、ロザリアが彼女を病院まで連れて行くことになっていた。
「陣痛が始まったのね?」
「はい。病院までお願いできますか?」
「判ったわ。すぐに支度していくから、待ててね」
「はい、お願いします」
 電話を切ると、ロザリアを待つ時間を利用して、アンジェリークはバスルームでシャワーを浴びる。
 手早くシャワーを浴びた後、彼女は服に着替えて、鴨居を乾かし、ロザリアの到着を待つ。
「あ・・・、また、来たっ!!!!」
 彼女はお腹を押さえて必死に耐え抜く。
 この波が去った後、今度はアリオスとレイチェルに手短にメールを打った。

 陣痛が始まりましたから、病院に行きます。アンジェリーク

 それが打ち終わる頃、ロザリアが到着した。
「アンジェちゃん!! 遅くなったわ! 準備は出来ている?」
「はい、スーツケースはあれです」
 指を指して、彼女はロザリアに教える。
 ロザリアはそれを持ち、アンジェリークを支えるようにして車へと向かう。
 アンジェリークは、車に乗り込むと、じっと、自宅を見つめた。

 今度帰ってくるときは、新しい家族がふたりも増えているから、よろしくね?

「さあ、行くわよ」
「はい」
 ロザリアの車は、そのまま病院へと向かった----

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 休み時間に、レイチェルはアンジェリークが入院をしたことを知った。

 がんばれ、アンジェ!!

 そしてアリオスも、法廷の休憩時間にそれを知る。

 アンジェ・・・!!! がんばれよ、俺もすぐに仕事を片付けていくからな?

 アリオスは、本当はすぐにでも駆けつけてやりたかったが、大きな裁判の途中のためそうも行かず、祈るような気持ちで、仕事を再開する。
 オリヴィエも、アンジェリークのクラスメートも、ヴィクトールも祈る。
 誰もが、今、彼女の無事の出産を願っていた。
    



コメント

「WHERE DO WE GO FROM HERE?」の出産編です。
ちょっと説明文が多すぎた(^^:)