アリオスとデートを約束した日。 心はかなり舞い上がっていた。 だが、どこか、これは禁忌なことを知っているせいか、胸はかなり痛かった。 とっておきのワンピースにベレー帽。 唇にはほんのり色付くリップ。 一生懸命背伸びをして、アンジェリークは最高のお洒落をした。 何をしたってアリオスが誰かのものだってことは否定出来ないんだもの・・・。 だから、このデートが終わればきっぱりと諦めるから、お願い・・・。 今日だけは、アリオスを私のものにして下さい・・・。 何度も鏡の前で点検した後、アンジェリークは待ち合わせ先の近くの公園にアンジェリークは向かった。 すぐに彼が待ってくれているのが判る。 最近見慣れたスーツ姿ではなく、黒いTシャツとウ゛ィンテージジーンズを穿いていて、とても素敵だ しかもこのスタイルはアリオスにあっていると思う。 「おはよう、待った? アリオス」 「アンジェ、早く乗れ」 助手席が”おまえの席”とばかりに、アリオスはドアを開けてくれた。 「ねえ、どこに連れていってくれるの?」 「秘密」 含み笑いをしながら、アリオスは車のエンジンをかけた。 外の景色よりも、アリオスの横顔をついつい見てしまう。 スーツ姿の彼もスキがなくて素敵だったが、今のアリオスの方が何倍も魅力的に感じた。 「今日は一日楽しもうぜ?」 「うん!」 しっかりとアンジェリークは頷いて、アリオスを笑顔で見つめる。 アリオスの腕を持つのだけは、何とか我慢をした。 「アリオス、スーツ姿よりも、こっちのほうが似合ってる」 「俺もそう思う。俺らしいって」 「うん」 微笑むアンジェリークは、やはり誰よりも魅力的だと思う。 「やっぱりおまえは笑ってたほうがいいぜ」 「ありがと」 照れくさそうにするアンジェリークも、またアリオスには十二分に魅力的だ。 「どこに行くか凄く楽しみ〜!! だって車でおでかけするのは、久し振りだから!」 「期待しててくれ」 アリオスの言葉に頷いて、アンジェリークは手を延ばして嬉しそうにしている。 「今日は一日楽しんじゃうから!」 「だな? 一緒に楽しもうな」 「うん」 この瞬間でも少しで楽しんでいたい。 恋人だったらアリオスの肩に、頭を凭れさせるのに、それを出来ないのが辛い。 素直に恋人同士だったらよかったのにね・・・。 そんなこと叶えられないのは、判ってる・・。 切なさをごまかしたアンジェリークの照れくさそうな笑顔に、アリオスは目を細める。 「-------このまま、ずっと一緒にずっと行くか?」 「えっ・・・!?」 アンジェリークは一瞬聞きまちがえたと思い、アリオスを見た。 「何でもねえよ」 ごまかすように言うと、アリオスは運転に集中する。 おまえをこのまま連れ出して、逃げて行けたら・・・。 車はゆっくりと海に向かっていた------ 「あ! 海! 海なんだ! 嬉しい! 私、秋の海は大好きなの!」 海が見えて、アンジェリークは大きな歓声をあげる。 「おまえこういうの好きだもんな」 「うん! 大好き!!」 まるで童のように燥ぐアンジェリークにアリオスは微笑みを浮かべた。 車を寂れた駐車場に止めて、そこから海岸に向かう。 アンジェリークの燥ぎようは相当なもので、アリオスですら苦笑いしてしまう。 堤防の上をバランスよく歩きながら、彼女は鼻歌を歌っていた。 「ご機嫌だな?」 堤防の下を並んで歩きながら、アリオスも釣られて幸せな気分になる。 「きゃっ!」 「アンジェ・・・!」 突然、アンジェリークが視界から消え、アリオスは慌てて堤防を飛び越えて、アンジェリークが落ちたのと同じ方向に降りた。 「アンジェ…」 そこには上手く下に飛び下りて、舌をぺろりと出したお茶目なアンジェリークが笑っていた。 「ったく、人を心配させやがって・・・」 苦笑したアリオスは、力強くアンジェリークの手を握り、強引に立ち上がらせた。 「心配させるイタズラは禁止」 「アリオス・・・」 心配してくれたんだ・・・。 有難う・・・。 アンジェリークが立ち上がった後も、アリオスは手を離さなかった。 指をしっかり絡めて、手を握り締める。 「イタズラ防止」 「うん・・・・」 アンジェリークもまた、しっかりと離れないように手を握り締める。 絡めた指の間から、愛情が迸るような気がした。 ふたりは手を握り合って離さないまま、海岸をゆっくり散歩をする。 どこから見ても、ふたりは立派な恋人同士に見えた。 「こうして歩いてると気持ちいいわね?」 「ああ、そうだな」 他愛のない話をするのが、何よりも幸せに感じた。 ランチは、海辺の瀟洒なレストランで海を見ながらとなる。 味もよく、その上雰囲気もよかった。 アリオスのお勧の海老フライランチは、とても豪華で美味しい。 「ホント! このは海老は凄く美味しい!」 「だろ?」 美味しくも楽しい昼食の後も、海岸を散策して、楽しい時間を過ごした。 このような楽しい時間は、すぐに過ぎ去る。 空が暗くなり始める頃に海を出て、帰る。 車内では疲れているのに、なぜか眠れなかった。 街に帰ってから、昨日アリオスとお茶をしたカフェで、夕食を取る。 ここでは蟹のクリームパスタディナーを注文し、かなり美味しかった。 楽しく、嬉しい時間。 アリオスが恋人のように扱ってくれた時間は、すぐに過ぎる。 帰らなければ成らない時間になり、二人は無口になってしまった。 送らなければならない------- だが、アリオスは帰したくなくて、店を出るなり、アンジェリークの手を握り締め、離さない。 「アリオス…」 駐車場までやってきた。 突然、アリオスは、アンジェリークの背中を、駐車場の壁につけさせ、どこにも行かせない様に、両腕を壁に付いた。 「------帰さない、今夜は…」 アリオス…!! 一瞬。 アンジェリークは驚いたようにアリオスを見る。 「------エリザベスさんは…」 「今はそんなことはどうでもいい」 アリオスの眼差しは真剣だった。 アンジェリークはその光を、自分の真っ直ぐな真摯な光に交差させる。 どうしても・・・。 アリオスと想い出を作りたい・・・。 思い出が無いよりも、あるほうが良いから・・・。 アンジェリークは目を閉じるとコクリと頷く。 アリオスは華奢な身体を抱き締めると、甘いキスを彼女に送る。 「------行こう」 アリオスは手を引いてアンジェリークを車に乗せると、自宅マンションに向けて走り出す。 もう、この恋を誰にも止められやしないから・・・ |
コメント 既に相手が誰かのものだったら、アリオスとアンジェはどのような反応をするか。 それを書きたくて、またまた読みきりですが、連作を(笑) アリオスさんの反応はまあ想像できますがねえ(笑) 果てさてアンジェちゃんは。 てなわけでアンジェちゃん編です。 この続きは「あなたの心の中で」ではなく、 裏に続く…(笑) |