アリオスに再会してからというもの、アンジェリークの胸に、再び嵐のような激情がまき起こった。 大好きでたまらないアリオスのことを思う余りに泣けてくる。 誰にも知られずに、彼女は胸を焦がして泣くのだ。 街中でアンジェリークはぶらぶらとしていた。 家に籠るとろくなことを考えないから、気を紛らせにである。 だがこんなときに限って、余計に嫌なことに遭遇する。 アリオス・・・!! 偶然にもにデパートから色々と荷物を持って出てくる、アリオスとエリザベスを見つけた。 幸せそうに輝いてみえる二人を見るのが、堪らなく辛い。 アンジェリークは隠れるように本屋に入り、子猫の写真集などを見て、気を紛らわせることにした。 好きなものに囲まれれば、気分が落ち着くと思ったから。 落ち着かなきゃ・・・。 家にいれば彼のことを考えてしまい、外に出れば姿を見る。 「内憂外患」か・・・。 溜め息を吐いて、子猫の写真を更に見入る。 「おい」 肩を叩かれ振り返ると、そこにはアリオスがいた。 彼一人だけ。 しかも、先ほど見たときよりも、スーツは乱れていて、彼らしい。 「アリオス・・・」 「ひとりか?」 コクリと頷いたものの、アンジェリークは目線を合わせることが出来ない。 「アリオスは・・・、エリザベスさんと一緒なんでしょ?」 「さっきまでな。あいつは帰っちまったよ」 特に感情なく呟くと、アリオスはアンジェリークが見ている写真集を覗き込んだ。 「子猫か・・・」 「可愛いから・・・ね。 じゃあ、私も行くね?」 アンジェリークはぱたんと写真集を閉じると、ぎこちなく行こうとして、アリオスに制される。 「一緒にカフェでも行かねえか? 時間はあるだろ?」 ぎゅっと腕を掴む彼は、有無言わせぬ雰囲気がある。 それにアリオスのあの異色の眼差しで見つめられると、アンジェリークは弱い。 「・・・うん・・・」 アンジェリークは子供のように頷くと、とぼとぼとアリオスの後を着いていった。 しばらく歩いて、趣味のいいカフェに入る。 「ここは俺のお気に入りの場所だ。ひとりで考えごとをしたいと思ったときに来る」 「私なんか連れてきてもいいの?」 「おまえだから連れてきた」 少し胸がドキリとする。 アリオス・・・。そんなに優しい言葉を投げ掛けないで・・・。 すがってしまうから・・・。 これ以上あなたを好きにさせないで・・・。 席に座っても、アンジェリークは躰を小さくして、まるで子供のよう。 これにはアリオスも苦笑する。 「ここのケーキ美味いらしいぜ? 俺は食わねえけどな」 「じゃあケーキセットを、ミルクティーで・・・、ケーキはミルクレープを」 これだったら財布の中でも支払える。 アンジェリークはその美味しさを楽しもうと思う。 アリオスはすぐにウェイターを呼び、アンジェリークの注文してくれた。 「この間は余り話せなかったからな、今日はゆっくり話したい。時間はあるか? ちゃんと帰りは送ってやる」 本当は首を振りたい。 だがアリオスを思うあまりに、首を縦に振ってしまう。 「サンキュ」 アリオスは柔らかく微笑むと、アンジェリークを見つめる。 その横顔があまりにも素敵で、彼女は一瞬見とれた。 どうして、こんなに素敵なんだろう・・・。 どうして手を延ばしても届かないんだろう・・・。 沈黙がほんの少し心に重い。 その間に、注文したものが届いた。 「ほら、食え」 「うん」 美味しいのは判ってはいるが、アンジェリークは何だか切ない味がする。 「カレシとかはいねえのか?」 「あっ、遊んだりする子はいるわ・・・」 アリオスは途端に少し舌打ちをする。 「それをカレシというんじゃねえのか?」 「ううん、皆と一緒だから…」 少しだけ、不機嫌な彼の表情が和らいだような気がした。 「ア、アリオスは今日は結婚式の買い物だったのよね・・・?」 「ああ。引き出物とか見にいった。めんどくせーよな、実際、ああいうのは」 ”結婚”の話をすると、更ににアリオスは不機嫌になる。 まるで、そのことが嫌かのようにである。 「美味いか? ミルフィーユ」 まるで話題を避けるかのように、アリオスはアンジェリークに話し掛けてきた。 「ミルクレープよ、アリオス。美味しいわ、とっても」 確かにとても美味しかったから、アンジェリークはしっかりと笑いながら頷いた。 その笑顔に、アリオスは優しい表情になる。 「おまえさ…。 おまえはいつも笑ってるほうがあってるぜ?」 面と向かってアリオスに言われて、アンジェリークは恥ずかしさと嬉しさで顔を赤らめる。 「有り難う・・・」 ミルクティを啜るのは彼女流の照れ隠し。 「学校とかはどうなんだ? 最近」 「ぼちぼちかな。来年受験だから、そろそろ頑張ろうって思ってるの」 「そうか。おまえももう17歳なんだよな…」 感慨深げにアリオスは呟くと、煙草に火を点ける。 その表情が、やけにステキで、同時にどこかノスタルジックな雰囲気すら漂わせている。 「アリオスも28だものね・・・」 ”適齢期”と言いかけて、その言葉をアンジェリークは飲み込んだ。 それを口にすると、アンジェリークは現実を感じてしまうようで、イヤだった。 「------何だ? 俺が”ジジィ”って言いたいのかよ?」 半分笑って、半分怒りながら、アリオスはアンジェリークに顔を寄せる。 その仕草が少しセクシャルで、アンジェリークは胸をドキドキとさせてしまう。 「-------そんなことない…。 アリオスは全然若いもん、うん」 胸がドキドキとするのを押さえようとして、アンジェリークは誤魔化す為にミルクレープをはぐはぐと食べる。 その仕草の愛らしさに、アリオスはいっそう彼女に参ってしまっていることを感じる。 「アンジェ、どうしてそんなに緊張するんだ? 昔みたいに素直に、笑ったり、喜んだりしてくれねえか? そんなおまえのほうが、俺は好きだぜ?」 好き…。 そんな言葉がアリオスの口から出るとは思わなくて、彼女は心臓をいぬかれたような気がした。 「アッ、アリオス・・・、その・・・」 うろたえるアンジェリークも可愛い。 このような反応は昔のままで、アリオスには好ましかった。 「アンジェ…」 艶やかな声で、アリオスはその名を呼ばれて、どきりとする。 「明日は休みか?」 「うん、休みだけど・・・」 「朝からデートしねえか?」 …!!!! コレにはアンジェリークは息を呑む。 よりにもよって、婚約者のいる彼からの誘い。 コレには嬉しいのやらどうしていいのやら判らなかった。 「------エリザベスさんは・・・」 「あいつに遠慮しなくったって良いんだ…。アンジェ」 きっぱりと、アリオスは有無言わせぬように頷く。 その眼差しを見ていると、まるで催眠術にかかったかのように、彼女はゆっくりと頷いた----- 「うん…。どこかに連れて行って…」 神様・・・。 どうか私に一日だけ夢を見せてください… |
コメント 2回目です。 何とか、色々入れて5回で完結したいです(笑) うん5回だ。 間違いない。 狼少年にならないように精進します(笑) |