「あなたが好き!」 思い切り深い感情を伝えたくて、告白したのは15の時。 告白相手は、友人の家に良く来ていた11も上のアリオス。 14のときに最初に会って以来、ずっと好きだった。 あの若さで自分で会社を興した、つわものである。 「------もう少し大人になったらな?」 そう言って、髪をくしゃっと撫でると、あなたは笑ってゴマカシタ。 「子供」だとバカにされて、ふられてしまった。 そして-------- 再会は残酷な形で用意されていた。 再会したあなたは、決して手が届かない「他人のもの」になっていた。 あなたは婚約していた・・・、友達のお姉さんと・・・。 私が告白した頃、あなたに熱を上げていた、友達のお姉さんエリザベス------ やっぱりだと思った。 歳もあなたに近くて大人の彼女を、あなたは当然のように選んだ------- アリオスとエリザベスの婚約の話を聞いて、すぐに友人たち何人かと、パーティにお呼ばれした。 それは友人の一人の親が主催するもので、当然、その娘婿になる彼も着ているのは、判っていたのに、再会の衝撃は計り知れなかった。 記憶のなかよりも更にアリオスは素敵になってアンジェリークの前に現われた。 「久し振りだな? アンジェ。ボーイフレンドでも出来たか?」 「アリオスは婚約したって聞いたけど・・・」 なるべく冷静に言うように務めてみる。 あれから2年経っても、彼以上の男性は現われない。 アンジェリークの心を今であ強く締めるのは、アリオスだ-------- 「ああ」 さらりとアリオスは返事をし、事実を突き付けられると、アンジェリークは胸をナイフで抉られるかのように、痛かった。 再会したアリオスは、記憶の中よりも、更に男っぽさを増しているようで、惹きつけられる。 が、彼の遠くに見えるエリザベスは、幸せに輝いていて、とても素敵で、目線を反らしてしまう。自分の完全な敗北はわかっている。 彼女と違って、自分はまだまだ子供っぽくて、躰を小さくしてしまった。 「おめでとう」 「サンキュ」 素直に礼を言われると、次の言葉に窮してしまう。 私が待っているのは、そんな言葉じゃないの・・・。 友人の姉であるエリザベスが楽しそうにアリオスの横にやってくる。 「アリオス、他の皆さんにご挨拶をしないと」 「ああ」 アリオスの表情がほんの少し固くなることを、アンジェリークは気がついた。 だが、それは、そうあればいいと、どこかで思っている、自分が見せているのだと、その時は思っていた。 「またな?」 「うん・・・」 アリオスは婚約者に腰を回すと、彼女は嬉しそうに笑う。そのままふたりは、アンジェリークの視界から遠ざかった。 あなたの視線は、彼女から離れない・・・。 それはもう判ってるから・・・。 躰から力が抜ける。 このままここにいるのが息苦しくて、アンジェリークは壁の椅子でしばらく腰をかけた。 「アンジェ!!」 親友のレイチェルが、気分が悪そうなアンジェリークを見るなり、慌てて席に駆け寄ってきた。 「気分が悪いの?」 「大丈夫だから・・・」 躰があまり丈夫でないアンジェリークが椅子に座りこんでいるのをみて、レイチェルは何か起こったのかと心配になって来てくれたのだ。 「大丈夫。ちょっと人の熱気にやられただけだから・・・。レイチェルもエルンストさんと一緒にいて?」 気を遣ってくれているのが分かり、レイチェルは眉根を寄せる。 彼女だけが、アンジェリークがアリオスが好きだったことを知っている。 だからこそ出た言葉だった。 「ちょっと夜風に当たってくる。すっきりするから・・・」 「アンジェ・・・」 涼しい風に当たれば、幾分か気持ち良い気がするから。 初恋の男性との再会は、ほろ苦いものになった。 アンジェリークは切ない思いを抱えながら、ここで泣くまいと、必死に堪える。 しばらくすると、かなり落ち着いて、アンジェリークは深呼吸をした。 終わりまでここにいるのが得策かもしれない。 パーティーのビュッフェも何も食べる気はしなかった。 「おい、いつまで夜風に当たってる? 風邪を引くぜ」 どきりとしたのは、大好きな男性との声だったから。 「アリオス・・・」 顔を上げたものの、なるべく目線は避けた。 「早く部屋に入れ。昼間は暑くても、夜はかなり涼しいからな」 「うん・・・。戻るわ」 素直に頷いたものの、彼を避けるようにして横を抜けると、前からアリオスの婚約者が歩いてくるのが見える。 彼女はアリオスしか見えていないかのように、まっすぐと歩いてきた。 そんなに私に見せつけないで・・・。 大広間に戻った後、アンジェリークは少しくらくらとした。 本当に貧血ぎみになってしまったみたいで、ほんの少し溜め息を吐く。 椅子に座ったアンジェリークの顔色は明らかに悪かった。 これにはレイチェルは流石に心配になって、再び駆け寄ってくる。 「アンジェ?」 「うん、タクシー拾って、先に帰るわ・・・」 立ち上がるのにも、少しくらくらするが、アンジェリークは踏ん張った。 「エルンストに送らせようか?」 「大丈夫だから。レイチェルはパーティを楽しんで」 やんわりと断ると、アンジェリークは背筋を伸ばしてホールから出て行く。 ホテルの入り口のタクシー乗り場まで向かうと、肩をぽんと叩かれた。 振り返ると後ろにいたのはアリオス。 「どうして」 「顔色が悪そうだったからな・・・。送る」 「ひとりで帰れるから・・・」 婚約者に気を遣って、アンジェリークはアリオスにきっぱりと断った。 「具合が悪そうじゃねえか・・・」 「・・・タクシーで帰りますから」 きっぱりと言い切った後、タクシー乗り場にふらふらと行こうとしたが、アリオスに細い腕を掴まれる 「ついでだから送る。気をなんて遣うな・・・」 「…フィアンセは構わないの? 私なんか送って」 とことんまで気を遣う彼女に、アリオスは妙にいらいらとした。 「別にあいつのことは気にすんな。あいつは運転手と帰るだろうしな」 アリオスは冷たく感情なく呟くと、アンジェリークの手を強引に取った。 「行くぞ!」 「きゃあっ!」 そのまま強く手を握られて、アンジェリークはバランスを崩すあまりに、声を上げる。 力強い手。 夢を見てはいけないことぐらい判っている。 だがその手の強さに、アンジェリークは胸を焦がさずにいられなかった。 車に乗せてもらうも、アンジェリークは小さな躰をさらに小さくして後ろのシートに乗った。 「前でもよかったんだ」 「いいえ・・・、前は・・・いいです」 そこは特別な席だというのを、アンジェリークは知っているから。 期待をもちたくなかったからこそ、彼女は後ろに座る。 そこが自分の席だとばかりに。 「家は前と同じか・・・?」 「はい…」 それ以外二人は何も話さなかった。 アンジェリークはわざと目を閉じて、寝たふりをする。 車内に聴こえるのはエンジンの音だけ。 こんなに近いのに・・・。 あなたの心は別の人にある…。 私じゃない・・・。 こんなに近くにいるのに…。 泣きたくなる。 アンジェリークは瞼の奥でいっぱい泣いて、外には出さないようにした。 再会の涙は、どうしてこんなにしょっぱいんだろう・・・。 |
コメント 既に相手が誰かのものだったら、アリオスとアンジェはどのような反応をするか。 それを書きたくて、またまた読みきりですが、連作を(笑) アリオスさんの反応はまあ想像できますがねえ(笑) 果てさてアンジェちゃんは。 てなわけでアンジェちゃん編です。 楽しんでいただけると嬉しいです |