LEGALLY ANGEL

8


 いよいよ公判の日がやってきた。
 結局上手く、あれ以上の証拠が得られないままの、公判開始となる。
 アンジェリークはぱりっとした黒のスーツを上品に着こなして法廷に向かう。
 もちろん、メインは一応はアルミス教授で、サポートは正式な弁護士であるアリオスとエルンスト。アンジェリークやレイチェルはただのおまけといった感じだ。
 みんなでとりあえずは傍聴席に座る。
「それでは開廷いたします」
 今日の裁判官は女性で、アンジェリークたちもおなじみの女性-----ロースクールで教べんを執っている厳しい女教授アンジェリークだ。
「------あなた達のお手並み拝見ですわね」
 にやりと余裕を持った微笑みで迎えられ、否が応でも緊張感が増す。
「被告人入廷」
 ロザリアは姿勢を正して、威厳すら漂わせて法廷内に入ってきた。
 自分はやっていないという気持ちが、彼女を堂々と振る舞わせているのであろうと、アンジェリークは思わずにはいられない。
 午前中は冒頭陳述のあと、検事側からの証人が出された。
「証人は屋敷の庭師として働いていたゲオルクです。何でも、ロザリアさんとは愛人関係にあったとか」
「違います!!」
 ロザリアは直ぐに立ち上がると、真っ先で否定をする。
 その表情は怒りに震え、検事を鋭く見据えている。
「そんなはずはありあmせん!」
 アンジェリークもまた立ち上がり、検事を鋭く威圧する。
「------とにかく、弁護人、被告とも落ち着きなさい。まずは、検事側の証人から」
「はい。ゲオルク」
 入ってきた男は、いかにも厳つそうな男だった。
 柄の悪さも鼻につき、ラテン調のフェロモンむんむんの雰囲気が漂っている。
 アンジェリークは、「あんたはリッ●ー・マー●ィンか!」とツッコミたくなるのを何とか押さえつつ、男をじっと見据えていた。
「名前と、そして聖書に向かって誓いを」
 男は頷くと、胸に手を当てて聖書にしっかりと誓う。
「では着席なさい」
 男が証言台に着席するのを、アンジェリークは固唾を呑んで見守っている。
「では、検事質問をどうぞ」
 担当検事は頷くと、ゲオルクをまっすぐと見た。
「ではゲオルクさん、率直にお伺いいたしますが、ロザリアさんとの関係はいつから?」
「異議あり!」
 欠かさずアルミスが切り込んでくる。
「意義認めません。続けて」
 あくまで裁判長は、この主張を聞くようだった。
「------私は去年からロザリア様との関係を続けています」
 ここのところで、ロザリアは嫌悪感丸出しの表情をしていた。
 アンジェリークやレイチェルもまた、とても険しい表情になっているが、アリオスやエルンストは全くと言っていいほど冷静だ。
「ロザリア様はプールサイドでオイルを塗りながらの情事が大好きで、特に夜は私に何も着せずに、プールで泳がしたりしています」
 男は少し悦に入っているように呟き、甘さと気持ち悪さの中間の笑顔を向けている。
「あんな男とするぐらいだったら、吐くわよ」
 ロザリアの呟きに、アンジェリークとレイチェルは同感とばかりに頷いた。
「その証拠はあるのですか?」
 検事の質問にも、男は頷く。
「この躰が、そして、ロザリア様の躰が証明しています。さすがフィットネスの女王とだけあって、柔らかいんですよ、躰が。どんな体位も要求してきますから、僕のように体力がないとね。
 庭師と夫人の不倫なんて、”チャタレー夫人の恋人”以来の定番でしょう?」
 せせら笑う男に、アンジェリークはひっぱたきたくなる衝動を感じた。
「判りましたどうも有り難う。検事側からの質問は以上です」
 検事が席に着くと、裁判長も深く頷く。
「では、ここで休憩に入ります。反対側尋問はその後で」
 ここで全員は立ち上がり、ゲオルクも退廷する。
 アンジェリークは何かしっぽが捕まえられないかと、その後を真剣に追うことにした。
 彼にぴったりとついて行くと、公衆電話の前にやってきた。

 何とかしっぽをつかまないと…。

 彼が誰かに電話をしているのを真剣に観察しながら、焦る気持ちが足にステップを踏ませている。
 ようやく電話が終わったゲオルクは、アンジェリークに向かって振り向いた。
「------プラダの靴…。ブランド好きの女は見せびらかせるのが悪い癖だな」

 ………!!!

 アンジェリークは、その言葉に驚いて息を呑んだ。
 彼女の鋭い洞察力が、閃く。
 ロザリアのことを信じていたが、これほど明確な証拠が彼からでるとは思わなかった。

 今日はブランドの靴を履いてきて良かった!!!

 彼女はいてもたってもいられなくなり、弁護士の控え室に向かって走っていく。
「アリオス!! 大変なの!!!」
 勢いよく入ってきたアンジェリークに、そこにいる誰もが驚いた。
「うるさいよ、アンジェリーク」
 今やすっかり影が薄くなってしまったシャルルがうんざりといったが、彼女はそんなことは気にもとめない。
 重要なことをつかんだのだ。
「何だ、アンジェリーク」
 彼女の興奮具合に、何かをつかんだと確信せずにはいられないアリオスだ。
「あのね! あのゲオルクってやつ、ゲイよ!!!!」
 いきなり突拍子もないことを言う彼女に、アルミスとシャルルは鼻で笑う。
「そんな根拠はあるのかね?」
「ええ、ありますわ!」
 アンジェリークは力強く言うと、自分の黒いローファーの靴を指さした。
「アリオス、この靴を一目見てどう思う?」
「どうって、ただの黒いローファーだろ?」
 アンジェリークは当然とばかりにしっかりと頷く。
「じゃあ、エルンストさんは?」
「機能的な歩きやすい、出廷するにはぴったりの靴ではないでしょうか」
「でしょ? 二人は今、私の靴を見ても、ある特徴を言わなかった。
 普通の男の人はみんなそうよ。女性みたいに、ブランドなんて詳しくない。ましてや、女性向けのブランドだとなおさらよ」
 いったん深呼吸をすると、アンジェリークはアルミスを射るように見る。
「-------だけどゲイは違うもの。ブランドに詳しいの! これは間違いないわ! ゲイが女に興味なんか持つはずがないわ。よって、ロザリアさんとゲオルクの不倫は事実無根! 何が、”チャタレー夫人の恋人”よ! ナンセンス」
 アンジェリークの力説に頷いたのは、レイチェルだけだが、アリオスもエルンストも興味深げに見ている。
「コレット…人を固定観念で見るのは良くない…それは、君の偏見ではないのか?」
「偏見ではないです!」
 アルミスのねちっこい攻撃にも、アンジェリークはきっぱいりと言い切り引き下がらなかった。
「私たちは弁護士です。そうである以上、依頼人が無実になる為には、あらゆる方向性から物事を見極めていくべきだと思うのです!」
「その通り」
 アリオスは満足そうに笑うと、拍手までした。
「アリオス…」
 悔しそうにアルミスは見たが、彼はどこ吹く風とばかりに表情を変えない。
 休憩が終了の合図が鳴る。
 法廷に再び戻る時間がやってきた。
 アンジェリークは背筋を伸ばすと、再び戦場に向かって歩き出す------

 休憩後は、反対尋問から始まった。
 主任弁護人はアルミスなので、彼はゲオルク相手にのらりくらりと質問を続け、アンジェリークが言った”ゲイである”かもしれないことは、何も言わない。
 アンジェリークは業を煮やし始めていた。
「アリオス、どうして…」
「判った。俺が何とかしてやる。一緒に来い」
 アルミスの質問が終わったところで、アリオスは本当にさりげなく彼女の手を握り、立ち上がった。
「俺からも質問がありますが、よろしいですか?」
「認めます」
 アルミスはいかにも嫌悪感丸出しの表情をしたが、アリオスはアンジェリークを連れて質問台に立つ。
「法学生も一緒なのね。あなたが一緒にいることでここにいることを、認めましょう」
 一瞬、裁判長と目が合い、アンジェリークは彼女に励まされているような気がした。
「質問を2,3だけさせて貰います。アンジェリーク」
 アリオスの計らいに感謝しながら、アンジェリークは頷く。
「ゲオルクさん、本日あなたのお友達はここに来ていますか?」
「来ているよ。それのどこが関係あるんだ?」
 アンジェリークは頷くと、大きく深呼吸をする。
「彼は、あなたとロザリアさんが深い関係で、それを容認していますか」
「そんなの関係ないじゃないか。あいつはただの友達だ。俺とロザリアの情事なんて、あいつの知ったことじゃない」
 その時だった。
 静まりかえった法廷に、椅子が動いた音が響く。
 じっとゲオルクを見ていた青年が立ち上がったのだ。
「ひどい!!! ゲオルク!! 俺をそんな風に思っていたのか!」
「違う! ルイ!!!」
 ルイが泣いてゲオルクに怒ったせいか、彼も焦りを隠しきれない。
「今まで恋人だと思っていたのに!!! もう別れよう!!」
 思い詰めたルイは法廷を出ていき、ゲオルクもまたその後を追う。
「ルイ!!!」
 目の前で繰り広げられた痴話喧嘩に、誰もがあっけにとられていた。
「静粛に! ゲオルクは後ほど偽証罪と法廷侮辱罪で告発するように」
 アンジェリークはほっとしたように笑い、アリオスも応えるように微笑み返している。
「夫人とゲオルクが”関係”なかったと言うことが、お解りになったと思います」
 締めの言葉をアリオスが言うと、アルミスや検事は苦渋の表情をしている。
 エルンストとレイチェルは嬉しそうに笑っていた。
「本日の法廷はこれで休廷。次回は一週間後です」
 閉廷され、アンジェリークはロザリアを見る。
 ロザリアは本当に嬉しそうに笑うと、彼女に向かって親指を立てた。
 アンジェリークはロザリアを澪斬った後、法廷をじっと見つめる。

 絶対に、絶対に、私が無罪を証明するから…。

 TO BE CONTINUED…

コメント

可愛い恋愛小説を書きたくて、連載開始です。
宜しくお願いします〜。
胸が大きいだけで振られてしまった、アンジェリークの奮戦記。

いよいよ訴訟編が次回から始まります。
アリオスとアンジェの恋の行方もこれから。
アンジェの大活躍をご期待下さいまし〜。
まあ、コメディなので、真剣なシーンは少ないですが(笑)



マエ モドル ツギ