翌朝、アンジェリークはアリオスと共に、富豪の前妻カサンドラがいる高級保養地へと向かった。 もちろん彼のスポーツカーに乗せられてである。 「これが旅行とかだっら楽しいのに」 「確かにな」 アリオスはしっかりと頷くが、どこか楽しそうだ。 それはアンジェリークにも言えた。 「ねえ、どうして弁護士だって言わなかったの?」 「調査中だったからな。おまえも、俺とエルンストがやけに色をなことに詳しいことから、気付けよ」 「信じてたんだもん。ロースクールには、幅広い年齢層がいるし、自然だったし・・・」 少し拗ねるようにする彼女が、アリオスには可愛くて思わず笑う。 「今回は全面的に協力してやるから、おまえは一生懸命やれ。フォローはちゃんとしてやるから」 「ありがとう!」 アンジェリークにとっては、アリオスの励ましが何よりも活力の源となった。 「ねぇ、アリオスは独立はしないの?」 「独立か。そのうちにな」 はぐらかす彼に、彼女は更につっこんで訊いてくる。 「だって、アリオスもエルンストさんだって、あの名前だけのおっさんに比べると、全然実力があるわよ!!」 力強くアンジェリークは力説すると、アリオスは苦笑する。 「サンキュ。独立した時は、おまえを雇ってやるよ。真っ先にな?」 「ホント!?」 本当に嬉しいとばかりに、アンジェリークは何度も頷く。 その大きな瞳は、楽しげに輝いていた。 アリオスとのおよそ四時間のドライウ゛は不謹慎ながらも楽しい。 「弁護士はあくまで弁護士だ。警察のようにスムーズに協力が得られないことの方が多いからな。そこに、技量もかかっているから、きちんと技を磨けよ」 「はい」 「今日は良い練習台になるからな」 アリオスの車内講義は、今までの何よりも勉強になる。 彼の明晰で完璧な技の伝授は、ロースクールのどんな教授よりも判りやすくて楽しかった。 途中ドライウ゛インで朝食を取ったりして、息抜きもきちんとあり、目的の地に着く頃には、とても賢くなった気分だった。 もういっぱしの弁護士の気分だ。 車から降りると、不思議と気分がひき締まる。 「さあ、行くぜ? 今日はおまえがメインで話を訊け? フォローはちゃんとしてやるから、しっかり堂々とやれ。何の気後れすることはねえ」 アリオスにそう言われれば、不思議と勇気が出てくる。 不思議・・・。 アリオスに背中を押してもらうだけで、勇気を貰える。 かんばらなくっちゃって気分になる! 自分自身に勇気づけるように頷くと、彼女は背筋を延ばして歩き出す。 少し弁護士としての威厳が出てきた瞬間だった。 ふたりは、カサンドラとの約束の場所であるホテルのティールームの中に入っていく。 そこはかなりゴージャスで、アンジェリークは溜め息を吐いた。 「こんな場所でお茶を飲んでも落ち着かないわよね」 「確かにな。だが費用はおっさん持ちだから、良いもん頼めよ?」 「そうよね」 アンジェリークはくすりと笑い同意する。 ふたりが約束のテーブルに着くと、ほどなく派手な中年の女性が歩いてきた。 「お待たせしました、カサンドラです」 いかにもお金を湯水のように使いそうな女性に、アンジェリークは鼻を鳴らしそうになる。 「カサンドラさん、ロザリア・デ・カタルヘナさんの弁護を担当させて頂いている、アンジェリークとアリオスです」 アリオスは女に型のはまった挨拶をする。 彼が頭を下げると、アンジェリークも続いて頭を下げた。 「彼女がメインに弁護を行いますから、アンジェリーク」 アンジェリークの顔を見るなり、女はあからさまに嫌な顔をする。 「あなたじゃないの?」 「残念ながら、メインは彼女だ」 アンジェリークはアリオスに頷くと、背筋を延ばす。緊張が全身に漲った。 「どうぞお掛けください」 アンジェリークの少し強張った声と表情に、彼女は僅かに眉を上げて座った。 「注文していいかしら?」 「どうぞ」 やはり大富豪の元妻なだけあり、メニューを見る姿一つ見ても様になっている。 「オーガニック野菜とチキンのパスタランチを」 結局、アリオスとアンジェリークも同じものを注文する。 高級レストランで食べても、自分の腹は痛まないとばかりに。 少しの緊張の中、ランチを食べながらの聞き取りになる。 「ロザリア・デ・カタルヘナさんが元あなたのご主人を殺したことを疑われていることについて、何かご存じですか? カサンドラさん」 「決まってるわ、あの女がやったのよ」 カサンドラは当然とばかりにきっぱりと言い放った。 「何か、根拠でもあるのですか?」 アンジェリークは努めて冷静になりながら、女をまっすぐに見つめる。 「根拠も何も、あの女は、どうせ遺産目当てにあの人を誑かしたのよ」 そうに決まっているといった勢いで、彼女はきっぱりと言いきる。 冷静にならなければならない。 「しかし、ロザリアさんは自ら興したフィットネス事業が成功して、多額の財産をお持ちですわ」 「もっとお金持ちになりたかったんじゃないの?」 白けた表情で言う女は、明らかにロザリアを憎んでいるように見えた。 それがアンジェリークには酷く気になる。 「同じ死ぬんなら、ロザリアが死ねば良かったのよ」 せせら笑うような眼差しが、アンジェリークの瞳に深く映っていた。 自分の依頼人が屈辱されて、アンジェリークは本当に怒りたかったが、何とか理性を保つ。 それは傍らにいるアリオスが見守るようにしてくれていたから耐えられたのだ。 「そのほかには…?」 「これ以上は知らないわよ。それだけ」 ランチを食べ終わると、女は立ち上がった。 「ごちそうさま。これ以上は何も知らないから」 食事を食べ終わった女は、本当に愛想がなく、そのままでていく。 「じゃあ、弁護を頑張って下さいね」 女は、わざとアリオスを見ると、手を振りながら、店からでていく。 その後ろ姿を見送った後、アンジェリークは溜め息を吐いた。 「やっぱり、何も新しいことは、判らないか…」 すこし弱々しく呟いた彼女の方を、アリオスはぽんと叩く。 「良くあることだ。公判で頑張って挽回しよう」 「うん、そうね」 しんみりとするアンジェリークをつれて、アリオスは駐車場に向かった。 帰りは疲れていたのか、あまり話す気になれなかった。 ここまで来たのに、あまり成果が上がらなかったのが悔しい。 アリオスがせっかくチャンスをくれたのに…。 彼女は少し考え込んでしまっていた。 アリオスは寮まで送ってくれたが、あまり帰りは話すことなく着いてしまった。 「有り難うございました」 「コレっちょ」 車から出る際に、彼に呼び止められ、彼女はアリオスを見る。 「元気出せ? おまえはいつでも前向きなのがいいところだぜ? コレっちょ」 シンプルな言葉だが、アンジェリークを慰め奮い立たせるには十分な言葉だった。 心がみるみるうちに軽くなる。 「そうね! うん! 頑張る!!」 彼女はようやく笑うことが出来、清々しい気分で挨拶が出来る。 「おまえは、笑って前を向いていた方が、おまえらしいぜ?」 アリオスに言われると、そう思えるのが不思議だ。 「有り難う、アリオス。明日から頑張るわ!」 「ああ。それでこそコレっちょだぜ? また明日な?」 アンジェリークは頷くと、車から降り、そのドアを閉める。 直ぐにアリオスの車は走り去ったが、それを見送りながら、アンジェリークの心に新たな勇気がわき始めた。 さあ! 戦闘は始まったばかりだもん!! 頑張らなくっちゃ!! TO BE CONTINUED… |
コメント 可愛い恋愛小説を書きたくて、連載開始です。 宜しくお願いします〜。 胸が大きいだけで振られてしまった、アンジェリークの奮戦記。 いよいよ訴訟編が次回から始まります。 アリオスとアンジェの恋の行方もこれから。 アンジェの大活躍をご期待下さいまし〜。 まあ、コメディなので、真剣なシーンは少ないですが(笑) |