一日目の司法修習研修が済み、アンジェリークは、寮に帰ってゆっくりと羽根を延ばした。 犬のアルフォンシアと過ごすのも癒してくれる。 アリオスって、弁護士だったんだ・・・。 そんな気はしたんだけどね・・・。 アンジェリークは先ほどのキスを思い出して、くすりと笑う。 「アリオスと明日から一緒に働けるんだ〜! がんばらなくっちゃね!!」 もうシャルルのことなんてどうでも良いという勢いで、アンジェリークは愛犬アルフォンシアにぎゅっと抱き付いた。 不意にノックをする音が聞こえて、彼女は少し緩んだ表情を元に戻す。 「はい?」 「ワタシだよ、アンジェリーク」 その声はすぐに誰か判る。レイチェルだ。 「待ってね、開けます」 アルフォンシアを膝の上から下ろし、彼女はドアの鍵を開けた。 「ちょっと、お話したくってさ」 「どうぞ!」 快く笑顔でアンジェリークは部屋に招き入れた。 「可愛い部屋ね」 「有り難う。部屋は一日の疲れを癒して暮れる場所だから、自分らしい場所にしないとね」 アンジェリークは小さなソファをレイチェルに勧めながら、犬と一緒にクッションに座った。 「今日は疲れたね。明日からがんばらなくっちゃ!」 屈託なく笑うアンジェリークに、レイチェルは癒される気分になる。 「ねぇ、アルミス教授って露骨だよね? だって、ワタシたちは指導員付きで、お茶汲みとかさせられて・・:」 「だけど、指導員が付けば、色々教えて貰えるし、ふたりともカッコいいしね〜!」 明るく前向きなアンジェリークを見ていると、元気をいっぱい貰えるような気さえした。 自然とレイチェルも笑みがこぼれた。 「そうだよね! だって、ワタシたちが男たちに負けるわけないものね!」 「そう、そう!」 本当にそう思うと、元気な気分でいっぱいになる。 「だって、シャルルはスモルニィは補欠だったのよ。それを彼のお父様が、圧力でムリヤリ入れたんだから」 「え!? それマジ? 私、一生懸命勉強したのに!」こ れにはびっくりとばかりに、アンジェリークは大きな瞳を丸くして、レイチェルに向かって身を乗り出した。 「ワタシも勉強したわよ。なのにね?」 「ずるーいっ!」 ふたりは顔を見合わせて、笑い出す。 この瞬間、アンジェリークの心の中にあった、シャルルへのちっぽけな感傷が、消えた。 「何だか、話すとアナタって楽しいわ、好き」 「レイチェル!!」 ふたりは笑いあうと、ようやくお互いの存在をようやく認め合う。 正しく言えば、認め合ってはいたものの、お互いにそれが今まで出来なかったのだ。 「明日から頑張ろうね!」 レイチェルとアンジェリークは、この夜、飽く事なく語り合った------- 翌日、ふたりは朝一番に事務所に出勤した後、こそこそと、ロザリアが囚監されている拘置所に出かけた。 面会人でバレないように、ロザリアの妹と、その友達という形で、面会を申し込み、認められた。 「まあ、あなたたち!」 ふたりの弁護士の卵たちの来訪が嬉しいせいか、彼女は笑顔で迎えてくれる。 「私たち、ロザリアさんの無実を心から、信じています! だから、本当のことが知りたいんです!」 率直にアンジェリークは言い、レイチェルとふたり、ロザリアに熱い眼差しを向ける。 生真面目な二人のそれは、それは依頼人を信じる心と、法曹への純粋な情熱からであった。 そんな眼差しを見せつけられると、いくら頑ななロザリアも弱い。 「あなたたちの熱意は判るわ・・・。だけどこれは私の沽券に関わる問題なの」 ロザリアは苦痛に満ちた表情をした。 それを見せられると、ふたりも怯みそうになる。 だが、そこを何とか踏ん張った。 「私たちは、守秘義務を守ります。だから信頼してほしいんです!」 レイチェルも強く説得し、アンジェリークも一緒に頷いてみせた。 「・・・しょうがないわね・・・。あなたたちなら、信頼出来そうだわ。絶対に約束は守って頂戴」 「はい!」 もちろんとばかりに、ふたりは深く頷いた。 これから法曹界をしょって立つ、とても頼もしい存在だ。 「耳かして。実はね・・・」 小さな声なので、ふたりはロザリアに耳を近づけた。 「・・・脂肪吸引にいってたの・・・!」 「---------!!!!」 それは、衝撃な事実だった。 フィットネスの女王として、健康業界を、最高のプローポションを維持している、あのロザリアがよりによって脂肪吸引である。 アンジェリークとレイチェルは、驚愕の事実とばかりに、目を見開いた。 「・・・私のような仕事をしていると、この事実が知られるぐらいなら、ホント、服役したほうがマシだと思うもの!!」 フィットネスの女王の気高い言葉に、ふたりの弁護士の卵は大いに感動した。 その志の高さに、感銘すら受ける。 「判りました、約束します。私たちは絶対に言いません! そのアリバイ以外で無罪に持っていきます!」 影響を受けやすい若い少女たちは、すっかり心酔してしまっている。 三人はしっかりと手を握り合って、約束をし合った。 接見が終了後、ふたりはおなかが空いたとばかりに、カフェでランチをしこたま食べた。 シャルルを巡って、あんなに対立していたふたりが、今や、意気投合した友人になってしまっている。 ランチを食べて景気を付けて帰ると、ふたりの教育係が待ち構えていた。 帰るなり、アリオスのとても不機嫌な顔に遭遇し、いくら二人の乙女でも、これには怯む。 「どういうことだ? レイチェル・ハート、アンジェリーク・コレッちょ」 「コレットです! アリオス!」 不機嫌な顔で話すアリオスに、アンジェリークはむくれながら抗議をした。 ここが彼女の最強であるゆえんだ。 「んなことは、どうでも良い、コレッちょ」 「良くないの! コ・レ・ッ・トです!」 「ったく…!」 明らかにアリオスが怒っているのが判る。 「おまえら、無断で接見に行っただろ? 何が、ロザリアの妹と友人だ。さっき、教授もおっさんが接見にさっき行ったら、今朝は若い二人が来たと、受付係に言われたと」 ふたりは俯き、この嵐がどこかへ去ってしまうのを、必死に耐え忍ぶ。 「忍びがたきを忍び・・・」 こっそりとレイチェルはアンジェリークに聞こえるだけに囁いた。 「何か言ったか? ハート、コレッちょ?」 アンジェリークは言いたいことがいっぱいあったが、そこは何とか我慢をする。 「何でもありません・・・」 小さくなって、ふたりはいかにも反省しているという表情を、ゼスチャーだけで見せた。 「もっとこそこそ接見に行け? じゃねえと、おっさんにばれるだろうが。何で、俺たちを巻き込まなかった?」 アリオスは二人に怒るふりをして、諭す。 「はあい、気をつけます…」 その気はないとばかりに、二人は形だけの謝罪を、所長室にいる教授に、わざと聞こえるように言った。 「会議が始まります。おふたりとも会議室にお行き下さい」 事務的な言葉に、ふたりは頷くと、会議室に向かった。 会議室では、ロザリアの事件が話し合われる。 「コレット、ハート」 ふたりは、アルミスに言われる前に、何かを察してお茶を入れにいった。 奥のパントリーが、文句の虎の穴になることを、アリオスはもちろん気がついており、溜め息を吐いた。 「ったく、あの親父! 女はお茶汲みみたいに思ってるんだから!」 レイチェルは鼻を鳴らして、ここぞとばかりに不満てら言う。 アルミスのことで文句を言うが、不思議と二人は、それぞれの教育係については何も言わない。 「ホント! 私たちの方が、あの親父よりも上手く、弁護をすると思うわ!」 これにはふたりは笑い合うと、握り拳を叩き合った。 全員分のお茶を配り終えた後、ふたりは自分たちの席に着く。 その表情は、不平を言い切ったせいか、どこかしらスッキリとしていた。 「今日、ふたりは、ロザリアのところに接見に行ったと、拘置所の受付係に言われたたが、何か収穫は?」 アルミスの探るような視線と言葉にも、ふたりは冷静だった。 「いいえ! これは女の約束ですもの、アリバイ以外の部分を崩して、彼女が無罪であることを、勝ち取って見せますわ」 アンジェリークの言葉には、一かけの迷いすらなかった。 それはレイチェルも同じで、ふたりはきっぱりとしている。 「そうか・・・。じゃあお手並み拝見だな」 自分が聞き出せなかったことが悔しいのか、アルミス教授の鼻は興奮して、少し開いている気がする。 アンジェリークは資料を見ながら、ふと、殺された富豪の前妻について目がいく。 「教授、この前妻のカサンドラの裏を調査したいと思うんですが…」 「カサンドラの裏ね…」 色眼鏡で見るような目つきでアンジェリークを見た後、アルミスはニヤリとほんとうに意地の悪い微笑みを彼女に送る。 「だったら、アンジェリーク、君が裏をとってきたまえ。アリオス、おまえがしっかりと着いてやれ」 「判りました」 アンジェリークはちらりとアリオスを見た後、鼻息も荒く息巻く。 おじさん!! あなたなんかきっと見返してあげるから! この法廷で、私は絶対に無罪を勝ち取るわ!! TO BE CONTINUED… |
コメント 可愛い恋愛小説を書きたくて、連載開始です。 宜しくお願いします〜。 胸が大きいだけで振られてしまった、アンジェリークの奮戦記。 いよいよ訴訟編に突入。 調査などの細かいお話は次回でおしまいです(笑) 全部で10回ぐらいに納めたいですねえ(笑) |