LEGALLY ANGEL

6


 一日目の司法修習研修が済み、アンジェリークは、寮に帰ってゆっくりと羽根を延ばした。
 犬のアルフォンシアと過ごすのも癒してくれる。

 アリオスって、弁護士だったんだ・・・。
 そんな気はしたんだけどね・・・。

 アンジェリークは先ほどのキスを思い出して、くすりと笑う。
「アリオスと明日から一緒に働けるんだ〜! がんばらなくっちゃね!!」
 もうシャルルのことなんてどうでも良いという勢いで、アンジェリークは愛犬アルフォンシアにぎゅっと抱き付いた。
 不意にノックをする音が聞こえて、彼女は少し緩んだ表情を元に戻す。
「はい?」
「ワタシだよ、アンジェリーク」
 その声はすぐに誰か判る。レイチェルだ。
「待ってね、開けます」
 アルフォンシアを膝の上から下ろし、彼女はドアの鍵を開けた。
「ちょっと、お話したくってさ」
「どうぞ!」
 快く笑顔でアンジェリークは部屋に招き入れた。
「可愛い部屋ね」
「有り難う。部屋は一日の疲れを癒して暮れる場所だから、自分らしい場所にしないとね」
 アンジェリークは小さなソファをレイチェルに勧めながら、犬と一緒にクッションに座った。
「今日は疲れたね。明日からがんばらなくっちゃ!」
 屈託なく笑うアンジェリークに、レイチェルは癒される気分になる。
「ねぇ、アルミス教授って露骨だよね? だって、ワタシたちは指導員付きで、お茶汲みとかさせられて・・:」
「だけど、指導員が付けば、色々教えて貰えるし、ふたりともカッコいいしね〜!」
 明るく前向きなアンジェリークを見ていると、元気をいっぱい貰えるような気さえした。
 自然とレイチェルも笑みがこぼれた。
「そうだよね! だって、ワタシたちが男たちに負けるわけないものね!」
「そう、そう!」
 本当にそう思うと、元気な気分でいっぱいになる。
「だって、シャルルはスモルニィは補欠だったのよ。それを彼のお父様が、圧力でムリヤリ入れたんだから」
「え!? それマジ? 私、一生懸命勉強したのに!」こ
 れにはびっくりとばかりに、アンジェリークは大きな瞳を丸くして、レイチェルに向かって身を乗り出した。
「ワタシも勉強したわよ。なのにね?」
「ずるーいっ!」
 ふたりは顔を見合わせて、笑い出す。
 この瞬間、アンジェリークの心の中にあった、シャルルへのちっぽけな感傷が、消えた。
「何だか、話すとアナタって楽しいわ、好き」
「レイチェル!!」
 ふたりは笑いあうと、ようやくお互いの存在をようやく認め合う。
 正しく言えば、認め合ってはいたものの、お互いにそれが今まで出来なかったのだ。
「明日から頑張ろうね!」
 レイチェルとアンジェリークは、この夜、飽く事なく語り合った-------


 翌日、ふたりは朝一番に事務所に出勤した後、こそこそと、ロザリアが囚監されている拘置所に出かけた。
 面会人でバレないように、ロザリアの妹と、その友達という形で、面会を申し込み、認められた。
「まあ、あなたたち!」
 ふたりの弁護士の卵たちの来訪が嬉しいせいか、彼女は笑顔で迎えてくれる。
「私たち、ロザリアさんの無実を心から、信じています! だから、本当のことが知りたいんです!」
 率直にアンジェリークは言い、レイチェルとふたり、ロザリアに熱い眼差しを向ける。
 生真面目な二人のそれは、それは依頼人を信じる心と、法曹への純粋な情熱からであった。
 そんな眼差しを見せつけられると、いくら頑ななロザリアも弱い。
「あなたたちの熱意は判るわ・・・。だけどこれは私の沽券に関わる問題なの」
 ロザリアは苦痛に満ちた表情をした。
 それを見せられると、ふたりも怯みそうになる。
 だが、そこを何とか踏ん張った。
「私たちは、守秘義務を守ります。だから信頼してほしいんです!」
 レイチェルも強く説得し、アンジェリークも一緒に頷いてみせた。
「・・・しょうがないわね・・・。あなたたちなら、信頼出来そうだわ。絶対に約束は守って頂戴」
「はい!」
 もちろんとばかりに、ふたりは深く頷いた。
 これから法曹界をしょって立つ、とても頼もしい存在だ。
「耳かして。実はね・・・」
 小さな声なので、ふたりはロザリアに耳を近づけた。
「・・・脂肪吸引にいってたの・・・!」
「---------!!!!」
 それは、衝撃な事実だった。
 フィットネスの女王として、健康業界を、最高のプローポションを維持している、あのロザリアがよりによって脂肪吸引である。
 アンジェリークとレイチェルは、驚愕の事実とばかりに、目を見開いた。
「・・・私のような仕事をしていると、この事実が知られるぐらいなら、ホント、服役したほうがマシだと思うもの!!」
 フィットネスの女王の気高い言葉に、ふたりの弁護士の卵は大いに感動した。
 その志の高さに、感銘すら受ける。
「判りました、約束します。私たちは絶対に言いません! そのアリバイ以外で無罪に持っていきます!」
 影響を受けやすい若い少女たちは、すっかり心酔してしまっている。
 三人はしっかりと手を握り合って、約束をし合った。

 接見が終了後、ふたりはおなかが空いたとばかりに、カフェでランチをしこたま食べた。
 シャルルを巡って、あんなに対立していたふたりが、今や、意気投合した友人になってしまっている。
 ランチを食べて景気を付けて帰ると、ふたりの教育係が待ち構えていた。
 帰るなり、アリオスのとても不機嫌な顔に遭遇し、いくら二人の乙女でも、これには怯む。
「どういうことだ? レイチェル・ハート、アンジェリーク・コレッちょ」
「コレットです! アリオス!」
 不機嫌な顔で話すアリオスに、アンジェリークはむくれながら抗議をした。
 ここが彼女の最強であるゆえんだ。
「んなことは、どうでも良い、コレッちょ」
「良くないの! コ・レ・ッ・トです!」
「ったく…!」
 明らかにアリオスが怒っているのが判る。
「おまえら、無断で接見に行っただろ? 何が、ロザリアの妹と友人だ。さっき、教授もおっさんが接見にさっき行ったら、今朝は若い二人が来たと、受付係に言われたと」
 ふたりは俯き、この嵐がどこかへ去ってしまうのを、必死に耐え忍ぶ。
「忍びがたきを忍び・・・」
 こっそりとレイチェルはアンジェリークに聞こえるだけに囁いた。
「何か言ったか? ハート、コレッちょ?」
 アンジェリークは言いたいことがいっぱいあったが、そこは何とか我慢をする。
「何でもありません・・・」
 小さくなって、ふたりはいかにも反省しているという表情を、ゼスチャーだけで見せた。
「もっとこそこそ接見に行け? じゃねえと、おっさんにばれるだろうが。何で、俺たちを巻き込まなかった?」
 アリオスは二人に怒るふりをして、諭す。
「はあい、気をつけます…」
 その気はないとばかりに、二人は形だけの謝罪を、所長室にいる教授に、わざと聞こえるように言った。
「会議が始まります。おふたりとも会議室にお行き下さい」
 事務的な言葉に、ふたりは頷くと、会議室に向かった。

 会議室では、ロザリアの事件が話し合われる。
「コレット、ハート」
 ふたりは、アルミスに言われる前に、何かを察してお茶を入れにいった。
 奥のパントリーが、文句の虎の穴になることを、アリオスはもちろん気がついており、溜め息を吐いた。
「ったく、あの親父! 女はお茶汲みみたいに思ってるんだから!」
 レイチェルは鼻を鳴らして、ここぞとばかりに不満てら言う。
 アルミスのことで文句を言うが、不思議と二人は、それぞれの教育係については何も言わない。
「ホント! 私たちの方が、あの親父よりも上手く、弁護をすると思うわ!」
 これにはふたりは笑い合うと、握り拳を叩き合った。

 全員分のお茶を配り終えた後、ふたりは自分たちの席に着く。
 その表情は、不平を言い切ったせいか、どこかしらスッキリとしていた。
「今日、ふたりは、ロザリアのところに接見に行ったと、拘置所の受付係に言われたたが、何か収穫は?」
 アルミスの探るような視線と言葉にも、ふたりは冷静だった。
「いいえ! これは女の約束ですもの、アリバイ以外の部分を崩して、彼女が無罪であることを、勝ち取って見せますわ」
 アンジェリークの言葉には、一かけの迷いすらなかった。
 それはレイチェルも同じで、ふたりはきっぱりとしている。
「そうか・・・。じゃあお手並み拝見だな」
 自分が聞き出せなかったことが悔しいのか、アルミス教授の鼻は興奮して、少し開いている気がする。
 アンジェリークは資料を見ながら、ふと、殺された富豪の前妻について目がいく。
「教授、この前妻のカサンドラの裏を調査したいと思うんですが…」
「カサンドラの裏ね…」
 色眼鏡で見るような目つきでアンジェリークを見た後、アルミスはニヤリとほんとうに意地の悪い微笑みを彼女に送る。
「だったら、アンジェリーク、君が裏をとってきたまえ。アリオス、おまえがしっかりと着いてやれ」
「判りました」
 アンジェリークはちらりとアリオスを見た後、鼻息も荒く息巻く。

 おじさん!!
 あなたなんかきっと見返してあげるから!
 この法廷で、私は絶対に無罪を勝ち取るわ!!

 TO BE CONTINUED…

コメント

可愛い恋愛小説を書きたくて、連載開始です。
宜しくお願いします〜。
胸が大きいだけで振られてしまった、アンジェリークの奮戦記。

いよいよ訴訟編に突入。
調査などの細かいお話は次回でおしまいです(笑)
全部で10回ぐらいに納めたいですねえ(笑)



マエ モドル ツギ