学校の帰り道、アリオスに誘われて、彼の住むマンションに向かった。 「お仕事はいいの?」 「ああ。今日の仕事はもう終わったから、おまえの時間に合わせて出てきた」 「有り難う」 最近はことあることに、アリオスとの放課後デートを楽しんでいる。 それがアンジェリークにとっては至福の時間だった。 車でアリオスはアンジェリークを作業場兼自宅のマンションに連れていく。 後からアンジェリークは知ったのだが、アリオスのブランドはとても人気があり、バックルなどは50万の価格が付いていることもある。 今人気がうなぎのぼりのブランドだった。 アリオスが作ってくれたアクセサリーを、アンジェリークはネックレスだけだが肌身離さずに付けている。 マンションに入り、ふたりは甘い時間を過ごした。アリオスの身体に凭れながら、アンジェリークは安心したように微笑む 「ずっとこうしていられればいいのに・・・」 「ずっとこうしていようぜ」 ぎゅっと力強く抱き締められて、アンジェリークは甘く喘いだ。 「アリオス・・・」 切なく愛して止まない男性の名前を呼び、彼女は辛そうに俯く。 「あんなヤローとの結婚なんか止めちまえ! おまえは俺と一緒にいるんだからな?」 「そうしたい・・・。そうしたいわ・・・」 息が出来ないほど強く抱きすくめられて、アンジェリークは切なさの余り泣いてしまう。 「ずっと一緒に行こう・・・、アンジェ」 希望を込めて、彼女は深く頷いた。 夕食は、ふたりで作るちゃんこ鍋。 時期も良くなってきたので、丁度いい。 「今日は中華風な?」 「うん!」 並んで食事を作るのがとっても嬉しい。 先程の切ない表情とはうって変わって、アンジェリークは心底楽しそうだった。 だし汁などはアリオスが担当し、細かい具材はアンジェリークが切る。 ふたりは笑いながら、楽しく料理をした後、温かな食卓を囲んだ。 「おいし〜! やっぱりアリオスは料理が上手よね!」 「おまえも頑張ったからな? ふたりで作ったから美味いんだよ」 ヘルシーな鍋をたっぷりと頂き、アンジェリークはほっこりと満足していた。 「おなかいっぱい〜! もう食べられない〜」 大きな満足げな溜め息を吐いて、アンジェリークは楽しげにアリオスを見る。 「アンジェ、これやる」 渡されたものを素直に受け取ると、それを見て、アンジェリークは息を飲んだ。 それは彼の部屋の鍵。アンジェリークは泣き笑いをしながら、しっかりとそれを握り締める。 「いつでも来ていいんだからな?」 「うん、有り難う。大切にするね」 鍵には、卵と羽根がモチーフされた可愛いシルバーのキーホルダーがつけられていて、それが揺れる。 「可愛い・・・」 「女に鍵を渡すのは、おまえが初めてだからな」 背後からしっかりと抱きすくめられて、アンジェリークは甘い声をあげる。 「うん、有り難う」 アンジェリークはアリオスに甘えるようにして、彼の腕を掴んだ。 「愛してる・・・」 何度目になるか判らない口付けを交わし、ふたりは愛情を確かめあう。 「俺はおまえと一緒になるためなら、何が起こっても構わねえ」 「アリオス・・・、私もあなたに着いていきたい・・・」 真珠のような涙をアンジェリークは流す。 壁が心のどこかにあって、乗り越えられない。 アリオスや他の人を不幸にしたくない。 アンジェリークは、優しい心根ゆえに、それを乗り越えるのが難しかった。 甘い時間を過ごした後、いつもの公園まで送ってもらう。 楽しいことがあった後は、いつも切なくて、ふたりは口数を極端に減らした。 いつものことだ。 「アンジェ、またな?」 「うん、アリオス」 キスをした後、アリオスと別れる。 その瞬間が最も嫌だった。 ------その様子を見ているひとつの影がある。 ふたりとも・・・! 未来永劫許さない!! それは、アロイスの影。 彼は唇を噛み締めると、遠くからふたりを睨みつける。 彼は直ぐに携帯を手にとると、 アンジェリークが家に帰ると、継母のミレーユが待ち構えていた。 「おかえり、アンジェリーク」 「ただいま、お義母様」 アンジェリークは彼女の横をいつものように通り過ぎようとして、呼び止められる。 「アンジェリーク」 「はい」 「最近機嫌が良さそうだけど、何かあったの?」 疑いの眼を向けられて、アンジェリークはいたたまれなくなった。 「いいえ、何も・・・」 「そう。今日ね、アロイス様から連絡があって、式を一月早めたいそうよ? そのつもりでいて頂戴ね? 来週あたりに、一度、あなたと二人っきりで逢いたいっておっしゃっていたわ」 意味深な眼差しで見られて、身震いする。 式を一月早めるとは、アンジェリークは眩暈がしそうだった。 その上、ふたりっきりの話。それが何を意味しているか、判らないアンジェリークではない。 キスすら応じないアンジェリークに業を煮やしているのは、判りきっていたから。 「はい・・・」 力なく返事をすると、アンジェリークは自分の部屋に駆け込む。 アロイスの顔を思い浮かべるだけで身震いがする。 あの人の子供なんか産みたいと思わない・・・。 私が、子供を産みたいと思うのは・・・アリオスだけ…!!! 素直に今、自分の気持ちを感じる。 今、判った・・・。 私はあのひとのものになりたくない・・・。 アンジェリークは余りの時間のなさに呪い、せつなくなった。 心は、もう嘘をつけなかった。 翌日、アンジェリークは学校の後、継母には”受験の補習”と言って電話をし、アリオスのマンションに向かった。 鍵をもらってて良かった・・・。 アリオスの部屋に入ると、リビングの中心にちょこんと座った。 式が早まったなんて・・・。 考えるだけで涙が溢れてしまう。 アンジェリークは切なくて、苦しくて堪らなかった。 何度も時計を見るが、それで時間が経つわけではない。 6時を過ぎてもアリオスは帰ってこなかった。 アンジェリークは辛抱強くアリオスを待つ。 家には帰りたくなかった。 アリオス・・・。 早く帰ってきて・・・!! 帰ってきて…!!! 渡しを早く抱き締めて・・・!!! 8時近くなって、ようやくドアが開いた。 開くなりアンジェリ−クはドアを見つめる。 「アンジェ・・・」 電気がつけられ、視界が明るくなった部屋の隅で、アンジェリークが小さくなっていた。 「アリオス…!!」 彼の姿を見るなり、アンジェリークは抱きついてくる。 それをアリオスは精悍な胸で受け止めてやる。 「どうした!? アンジェ?」 「結婚式が、急に早まったって!」 「何!?」 泣きながらアンジェリークはアリオスに縋りつき、彼から離れたくないと顔を埋める。 「私判ったの!! あなたと、あなたと憂い一緒じゃなきゃダメだって・・・!! 最初は、忘れられると思った・・・。 だけど忘れられないって・・・んんんっ!!!」 言葉を取るように、深く唇を重ねられる。 何度も角度を変えて口付けられて、アンジェリークは甘く喘いだ。 舌で口腔内を巧みに置かされて、息が出来ないほどの情熱的なキスを受ける。 「んっ…あああ…」 キスだけで立っていられなくなる。 酸欠しそうになって、ようやく、アリオスが唇を離してくれた。 熱く愛の詰まった情熱的なアリオスの瞳が、アンジェリークにゆっくりと落とされる。 「------おまえを奪う…」 低い声で囁くと、アリオスはアンジェリークを抱き上げる。 アンジェリークはその声に魅せられ、彼女は運命に躰をまかせた-------- |
コメント 『愛した人には決まった相手がいた」シリーズです。 今度はアンジェに決まった相手がいた場合です。 今、アリたんスキー病。 うう〜ん、いけずぅ(←何がだ(笑)) |