In The Sky

5


 アリオスと肌を重ね合ったことを、アンジェリークはまだ信じられなかった。
 横に彼がいることを、彼女はかけがえのない幸せに感じる。
「アンジェ・・・、もう絶対におまえを離さない。おまえとなら、どんなことでも平気だ・・・」
「アリオス、放さないでね、絶対に・・・。誰に何を言われても、私はあなたのことを愛しているから・・・」
 ぎゅっと強く抱き合い、ふたりは再び激しく愛し合う。

 永遠に私はあなたのものです・・・。
 アリオス・・・。

 何度か愛し合った後、アンジェリークは不意に時計を見た。
 すでに、真夜中を過ぎている。
「いけないっ!」
 必至になって飛び起きると、アリオスにベッドの中に引きずり込まれた。
「あっ!」
「どうした?」
「もう真夜中に・・・」
「構うもんか」
 アリオスはそれだけを言うと、更に放さないとばかりに、力を込めてぎゅっと抱き締めた。
「そんなこと気にすんな。朝までここにいろ。もう離さない」
「アリオス・・・」
 彼の想いが涙が出るほど嬉しい。
 アンジェリークは、熱っぽい瞳でアリオスを上目遣いに見つめた。
「いいの・・・?」
 その一言にどのような意味が込められているか、アリオスは十二分に判っている。
 彼女の相手だと知られれば、彼がどんな目に合うかを心配していることを。
「おまえはあいつのもんじゃねえ! 俺のもんだからな?」
「アリオス・・・」何
 よりもの”愛の証”とばかりに、アリオスは強く彼女を抱き締めた。
「アンジェ・・・、少し待ってろ」
 彼は慰めるように瞼にキスをすると、ベッドから出ていく。
「あっ・・・」
 寂しげな声を上げると、アリオスは柔らかに笑った。
「すぐに戻ってくるからな?」
「うん・・・」
 まるで子供のように膝を抱えて座ると、アンジェリークは星空を眺める。

 遠い昔に死んでしまったママ・・・。
 アンジェは、今、愛する人と一緒にいることを選びたいです・・・。
 それは許されないことなのでしょうか・・・。

 寝室のドアが開いて、アリオスが入ってきた。
 裸の彼を見るのは妙に照れくさい。
 グラス二つに、ペリエの瓶をお盆の上に乗せている。
 それをサイドテーブルに乗せると、ベッドの中に入ってきて、抱き締めてくれた。
「あいつがおまえと結婚を急ぐんだったら、俺も先手を打つまでだ。一緒になろう・・・」
 真摯に光るアリオスの異色の瞳を見れば、彼が真剣であることは判る。
「アリオス・・・!」
 嬉しくて涙が出てくる。
 アンジェリークはぎゅっとアリオスに抱き付くと、肩を震わせる。
「泣くなよ・・・」
「嬉しいの・・・」
「これから、凄く辛くなるかもしれないが、構わねえか」
 栗色の髪を撫でられながら、アンジェリークはそんなことはどうでもいいとばかりに、頭を振る。
「アリオスのそばにいるだけでいいの。それだけで、幸せだから」
「これ、おまえにやる。おまえのために作った」
「アリオス・・・」
 左手を取られると、薬指に指輪を填める。シルバーのリングの中央には、アンジェリークの瞳と同じ宝石が散らばらせている。
「アリオス、これは婚約指輪?」
「ああ。約束じゃねえ。ちゃんと俺たちは一緒になるんだ、今すぐな?」
 アリオスは誓いを立てる為に、アンジェリークをきつく抱き締めると、甘く囁く。
「愛している、結婚しよう」
「はい、はいっ!」
 強く抱き締めた後、アリオスはアンジェリークの唇に誓いのキスを送る。
「んっ・・・」
 今までのキスの中で、最も神聖で想いが籠ったキスのように、ふたりは感じた。
 夜が白むまで、ふたりは色々と語りあう。。
 時には愛し合い、思いを深めていく。
 ふたりは今、神の元で結ばれた--------

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 朝早く、アリオスは全ての準備を整え、ふたりで手を取り合って、この街を離れようとしていた。
 マンションの駐車場の前に差し掛かると、そこには、アリオスの父と兄、そしてアンジェリークの両親が待ち構えていた。
 その姿に、アンジェリークは息を呑んだ。
 全身が震える。
「お父さん・・・」
「この野郎・・・・!」
 アロイスはいきなりアリオスに殴りかかってきた。
 アリオスはそれを素早く交わすと、逆にアロイスに殴りかかっていく。
「うわっ!!」
 アリオスの拳は簡単に命中し、アロイスはその場に音を立てて倒れた。
「何をする! 俺の人形を汚しやがって!」
「人形? こいつは意思を持った人間だ! それを覚えておけ!」
 アリオスはぎゅっとアンジェリークを腕の中に引き寄せると、アロイスを背中が凍り付くまなざしで睨みつける。
「・・・アロイス、おまえはこのお嬢さんから手を引きなさい。アリオス、おまえもだ。婚礼はなかったことに。だが業務提携は行うから心配なさらないでください」
 アリオスの父がそう言った瞬間、アンジェリークは父親と運転手に動かないようにされる。
「いやっ! 放して! 放して!!」
 アンジェリークが暴れるものの、力は適わない。
「アリオス!!」
「アンジェ!!」
 アリオスが駆け寄ろうとすると、アロイスにはがいじめにされる。
「はなさねえか!!!」
 アリオスが暴れてアロイスの腕から逃れたが、アンジェリークはそのまま車に乗せられる。
「アンジェ!!!」
 アリオスはその後を追い駆けていったが、もう追いつくことは出来なかった。
「おまえも、あの娘のことは諦めろ…」

 アンジェリーク…

 アリオスは拳を握り締め、決意を秘めたように唇を噛締めた。

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 家に戻り、アンジェリークは自分の部屋にこもっていた。
 真夜中になっても、アンジェリークは眠れない。

 アリオス・・・。
 またあなたに会える日がやってくるの・・・?

 不意に窓が揺れる音がし、アンジェリークはベッドから飛び起きた。
 その瞬間-------
 月の光に照らされたアリオスの銀色の髪がふわりと浮かび上がる。
 彼は窓からアンジェリークの部屋に入ってくると、愛しい彼女に手を差し伸べた。
「-------行こう」
「アリオス…っ!!」
 ふたりはそのまま抱き合うと、夜の闇に溶けて行く-------
 もう二度と離れないために。



 1年後-------
 ふたりの実家に一枚のはがきが届いた。
 そこには、アリオスとアンジェリークとふたりの生まれたばかりの子供が、写真に写っていた------
 元気にやっています・・・。

 そのはがきは、彼らの両親の心の氷を溶かすには充分だった----
 彼らははがきを見るなり、返事を書き始める。

 逢いたいと-------

 春はもう目の前に来ている-------
  

コメント

『愛した人には決まった相手がいた」シリーズです。
今度はアンジェに決まった相手がいた場合です。
 
ラストシーンが書きたかったんです(笑)

マエ モドル