WHERE DO WE GO FROM HERE? SPECIAL
後編
アンジェリークは、ダイニングにひとり取り残され、しばらくはぼんやりとしていた。
あんなアリオス叔父さん初めて見た・・・。
叔父さんは大人で、男の人で・・・。
私を唯一、安心させたり、不安がらせたりする人・・・。
ダイニングテーブルにに置かれたままのラブレターに視線を落とす。
本当は、答えなんか最初から決まってた・・・。
相談したのは、その答えを肯定する何かを探していた・・・。
その奥にある気持ちを気付きたくなかったから・・・。
恐かったから・・・。
アンジェリークは、無難なさくら色のレターセットを出してくると、丁寧に心を込めて手紙を認めた。
心からの謝罪の入った手紙を----
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俺はどうしたらいい・・・。
真実を打ち明けてしまえば、決して禁忌ではない。
だが、アンジェリークを深く思いやるアリオスにとって、それは見えざる壁のように思えた。
不意に、頭が痛くなるような甘い香りに鼻腔をくすぐられた。
「アリオス、今夜は楽しみましょうよ?」
お互いに”遊び”と割り切ることが出来る、単身赴任中の夫を抱える女が声を掛けてきた。
何度か夜をともにしたことのある女だ。
「いいぜ?」
心にもない台詞を言いながら、彼はカウンターの椅子から立ち上がり、女の腰を抱く。
アリオスは、すべてを忘れてしまいたかった。
この一瞬の快楽に溺れて。
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結局、アリオスは帰っては来なかった。
慣れっ子だけど、やっぱり辛い・・・。
昨日遅くまで起きていたせいか、気分が重い。
朝食を食べる気分にもなれず、アンジェリークは少量の弁当を詰めて、学校へと出かける。
これが、”恋わずらひ”だと言うことを、アンジェリークは気がつかなかった。
朝一番に手紙を投函しても、もやもやな気分が晴れない。
不安な心を抱えたままの一日の始まりであった-----
そのまま彼女は、放課後の委員会に出席した。
クラス委員をアンジェリークと共に務めているレイチェルは、彼女の顔色の悪さに何度も顔を覗く。
「大丈夫!?」
「うん。軽い貧血だから、大丈夫・・・」
とは言いながら、アンジェリークはかなり辛そうだった。
委員会が終わり、ふらふらなアンジェリークを、レイチェルは保健室に連れていき、少し休ませる。
「ゆっくり30分ぐらいはしておきなよ?」
「うん・・・」
目を閉じ、アンジェリークは少しだけ休むことにした。
眠りに身を任せれば、少しだけ不安が解消するように思えたから。
その間に、レイチェルは、アリオスの携帯に連絡を取り、迎えに来てくれる手はずを整えた。
連絡して直ぐに、アリオスが保健室に飛び込んできた。
「アンジェは!?」
その心地よい低い声に、アンジェリークはゆっくりと目を覚ます。
「…アリオス叔父さん…」
「大丈夫か!?」
慌てて、アリオスがベッドに駆け寄ると、アンジェリークはやんわりと微笑んだ。
「軽い貧血。大丈夫!」
ガッツポーズをしてアンジェリークは”元気であること”をアピールしている。
「帰ろう。車で来たから。丁度仕事も終わったからな」
「うん…」
心配そうにしてくれている叔父に、アンジェリークは素直に頷くと、ベッドから出て、制服のスカートの皺を治した。
アンジェリークのカバンをさり気に持ち、アリオスは彼女を守るように立っている。
「レイチェル、今日はサンキュ」
「レイチェル、有難う…」
二人は簡潔に礼を述べて保健室から出て行く。
その姿を見送りながら、レイチェルは、ふたりがただの”叔父と姪”ではないことを、直感した。
アナタタチは御互いに想い合っている・・・。
これは超えることが出来ない禁断の絆なの?
何かがある・・・。
アナタタチには…
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アリオスの車に乗って安心したのか、助手席でアンジェリークは大きな息を吐いた。
「今夜はもう何もしなくていいからな? 休め?」
「うん、そうさせてもらうね?」
ゆったりと背中を倒してシートに体を静めると、アンジェリークはアリオスを一瞬だけ捕らえた。
「-----断りの手紙書いたから…
「私は、ずっと、叔父さんの元にいるからね?
イヤだって言っても、お嫁には行かないから…」
穏やかな微笑とともにそれだけ言って、彼女は目を閉じると、規則正しい呼吸を立て始める。
「アンジェ…」
アリオスは彼女の選択に正直ほっとし、安心する。
嬉しかった。
どうしようもないほど嬉しかった。
アンジェ…。
サンキュ
彼は、慈しみの溢れる眼差しで彼女を見つめる。
アンジェリークがきちんと規則正しく息をしてることに、安堵せずにはいられなかった。
レイチェルから電話を貰ったとき、胸が激しく苦しくなっていくのを感じた…。
おまえを失ったら、俺は間違いなく直ぐに後を追う…。
おまえが寂しくないように…
車はゆっくりと駐車場に入り、アリオスは車をアンジェリークを起こさないように静かに止めた。
「アンジェ、アンジェ?」
何度か揺らして起こしてみるものの、アンジェリークは瞼を深く閉じて目をあけない。
すっかり眠りこけてしまっているようだ。
昨日は、きっと、俺の帰りを待ってくれていたんだろうな…
彼女の寝不足が彼のせいであることをアリオスは薄々気づいていた。
「ほらお姫様」
「ん…」
アンジェリークはほんの少し瞼を動かすものの、全くといっていいほど反応しない。
「しょうがねえな…」
苦笑して、アリオスはアンジェリークを抱き上げて家に入った。
昨日、クラブであった女を抱いた自分よりも、今の自分のほうが、自分らしく、そして、幸せのような気がする。
彼は、アンジェリークを抱く腕に力を込めて、その温もりを腕の中に刻み付ける。
子供の頃、テレビを見ながら欲リビングで転がっていたアンジェリークを、何度部屋に連れて行っただろうか。
美しい女に成長した今、この重さが心に響く。
誰にも渡したくない・・・。
誰にも…!
今回のラブレター騒動で、アリオスは益々その思いを募らせるのであった。
彼女の部屋にはいり、ベッドにアンジェリークを寝かす。
あどけなさの残るアンジェリークの唇に、アリオスは軽くキスを送った-----
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叔父さんとKISSした夢を見るなんてなんて…
雨が降る空をアンジェリークは、キッチンの窓からじっと見つめる。
夕食の支度をしながら、ぼんやりと、窓に広がる空を見ていた。
霏々と雨が降り注ぐ光景は、アンジェリークを切なくさせるのには充分なシチュエーションがある。
雨の日は複雑。
一番悲しかったことと、一番うれしかったことが交差するから・・・。
物思いに耽っていると、ふいに玄関のベルが鳴り、アンジェリークは、慌てて玄関へと向かった-----
アリオスの強いアンジェリークへの想いと、アンジェリ−クの切ない想いが、今、禁断の扉をあける…。
コメント
88888番のキリ番朝倉瑞杞様のリクエストで、
アンジェがラブレターを貰い、アリオス叔父さんが嫉妬するです。
「Where〜」に入る前の話なので、こういった形で、本編につなげさせていただきました。
本編あるので、Happyendに出来ず、この様な中途半端な形になって申しわけないです〜