I FOR YOU

WHERE DO WE GO FROM HERE? SPECIAL
中編

「考えて欲しい。よろしく」
 ただ、それだけを言うと、照れ隠しなのか男は立ち去ってしまった。
 手の中に残ったラブレターを、アンジェリークはじっと見つめる。

 叔父さんに相談しようかな・・・。
 これを貰っても私・・・。

 ひとつ溜め息を吐いて、アンジェリークは家に入った。
 その姿を見送ってから、アリオスはイライラしながらガレージに車を入れる。

 アンジェ…!
 俺はおまえをまだ誰にも渡したくはねえ!!

 インターホンが鳴り、アンジェリークは、慌てて、玄関に走っていく。
 アリオスが定時で帰れる時は、いつも、走って出迎える。
 これも子供の頃から同じこと。
「おかえりなさい!」
 ドアを開けると、不機嫌なアリオスがいた。朝よりもさらに不機嫌だ。
「今日は和食で、お魚の焚いたのよ」
 アリオスは無言で、アンジェリークにケーキを渡すと、そのまま足早に自分の部屋に向かう。
 彼らしい謝罪の仕方。
 その心遣いに、アンジェリークは心が温まった。


 夕食の時間になり、ふたりは向かい合って食べる。
「叔父さん、ケーキ有り難う! 後で食べるね」
「ああ」
 アリオスは返事をするだけで、いつものように会話が続かない。

 アリオス叔父さんやっぱり、私が”みっともない”ことを怒ってるんだ・・・。

 急にしゅんとした彼女に、アリオスははっとしてしまう。
 寂しげな横顔は、「女」そのもの。
 透明感のある表情に、アリオスは惹かれずにはいられない。
「叔父さん、相談したいことがあって・・・」
 アンジェリークは、素直に、先程渡されたラブレターを彼に差し出す。
「ラブレターか?」
「うん。どうしようかと思って・・・」
 恋する少女のときめきはなく、そこにあるのは、全く困った表情があった。
「おまえにはその気がねえだろうからな。きたぱりと断っちまえ」
 アリオスの言葉はナイフの先のように尖っていて、厳しい。
 そこには激しい嫉妬心が渦巻いていた。
「アリオス叔父さん・・・」
「俺が話をつけてやってもかまわねえぜ」
 アンジェリークの少し困った表情は、アリオスはさらにいらだちを深める。
「私がそれはするわ」
「ちゃんと断るんだ。あんな男にこんなもの貰ってもいい気になるな」
 嫉妬ゆえに、心にないことを強く言ってしまう。人一倍感受性の強いアンジェリークは身体を小さくして震えている。
「一度会ったことがある人だから、むげには出来ないわ・・・」
 アリオスの表情が更に厳しくなり、アンジェリークもすっかり俯いてしまう。
「どこのやつだ!?」
「エレミア学院の人・・・。うちの学校と合同ダンスパーティの打ち合わせで会ったことがあるの」

 叔父さんとは正反対の穏やかな人・・・。

 そう思いながら、アンジェリークは切なげにアリオスを見つめた。
「一回会ったぐらいで信頼するんじゃねえよ。甘いんだよ、おまえは・・・。
 そんな手紙書いてよこして、頭の中で”おまえとやる”ことしか考えていないようなやつは駄目だ」
 きっぱりと強く言い切られて、アンジェリークは少し反発を覚える。こ
 んなに理不尽に反対する彼は初めてだったから。
「叔父さん、会ったこともない人にそんな風に言わないで!!」
「何でそんなに、そいつを庇うんだ!」
 強くテーブルを叩き、アリオスは嫉妬の炎を頂点にする。
「外に行く」
 彼は立ち上がると、そのまま家を出ていく。
「アリオス叔父さん・・・」
 不機嫌な彼に、アンジェリークは大きな瞳にいっぱい涙を溜めて見つめている。
 それを振り切るように、アリオスは出ていってしまった。

 叔父さん・・・。

 泣きながら食べたアリオスのお土産のデザートが、やけにしょっぱい気がした。

 やっぱり、叔父さん、私のこと邪魔よね・・・。
 じゃなきゃ、こんなにも怒らないもの・・・。

これからの自立のことをアンジェリークが考え始め瞬間であった-----

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 煩い音楽を聞きながら、アリオスは、クラブで酒を飲み干していく。

 あんな顔、させたくなかった・・・。
 結局、俺はアンジェを傷つけていたわけか・・・。

 美味くもない酒を飲めば飲むほど、更にアリオスは落ち込んで行った。
 雨が降り始める。
 それは二人を象徴しているかのように、激しく降り出す。

 誰にもおまえを渡したくはないのに…
 それが許されないことと判っていても…

 アリオスの脳裏に先ほどのアンジェリークの表情が染み付いて離れない。
 17歳まで大切に慈しんで育ててきた少女。
 他人に折られるのは我慢出来ない。

 真実を伝えれば…、おまえは俺を愛してくれるんだろうか…。
 愛してる…。
 愛してる…。
 たとえようもないほど深く…

 アリオスの想いは、夜の雨の中に溶けていった-----


コメント

88888番のキリ番朝倉瑞杞様のリクエストで、
アンジェがラブレターを貰い、アリオス叔父さんが嫉妬するです。
久しぶりな、子供のいない「Where〜」です。
アリオス叔父さん、好きすぎて素直になれません。
二人の馴れ初めは、その後の「WHERE〜」本編でどうぞ!