WHERE DO WE GO FROM HERE? SPECIAL
前編
二人がまだ、お互いの気持ちを通じ合っていない頃、お互いの気持ちを確かめるかのような事件があった。
「オリウ゛ィエさん、こんにちは!」
「あら、アンジェちゃん」
裁判所から戻るなり、彼を出迎えたのは、相棒の愛しい姪であるアンジェリークだった。
「どうしたの?」
「今日はアリオス叔父さんと恒例の外食です」
少し頬を赤らめながら、嬉しそうにしている彼女が可愛い。
「もう二十日だっけ? 早いね〜」
「私には待ち遠しい日ですけど」
本当に心から彼女が心から待っていたのが、言葉の端々で感じられる。
そうか・・・。それで相棒殿はご機嫌なんだね。
「アンジェちゃん、今年いくつだっけ?」
「十七です」
「そうか〜。もうそんなになるんだ〜。通りで綺麗になるわけだ」
感じたことをごく自然に言ったまでなのに、アンジェリークは初々しくも、頬を赤らめる。
それがまた色香が漂い愛らしい。
「おい、アンジェをからかうな?」
身支度を整えたアリオスは、ご機嫌な様子で更衣室から出てくる。
「だってホントのこと言ったまでだよ。叔父としては心配でしょ? 可愛い姪っ子を持って」
にやりとからかうように笑うオリウ゛ィエに、アリオスは眉を僅かに寄せて不機嫌になった。
「俺はアンジェの”殺虫剤”だ」
きっぱりと言った後、アリオスはアンジェリークに視線を送る。
「行くぞ、アンジェ」
「はい、叔父さん」
彼に声を掛けられて、輝くような微笑みを浮かべるのは、やはり、恋する少女の表情だと思わずにはいられない。
輝く彼女の横顔は、とても綺麗だ。
そして----
それを愛しげに見つめるアリオスの横顔もまた、魅力的に映る。
ふたりの間には”男女間の愛情”を感じずにはいられない。
「いってらっしゃい」
幸せな愛し合ったカップルにしか見えない二人を見送った後、オリウ゛ィエは切なげに溜め息を吐いた。
二人が”血が繋がっていない”ことに、感づいているオリウ゛ィエは、少し切なさを感じてしまう。
どうにかならないかな、あの二人・・・。
全てはアリオス、あんたにかかってるよ?
オリウ゛ィエは、深くお互いに愛し合っている切ないふたりの恋の行方を祈らずにはいられなかった。
オリウ゛ィエが変なことを言うから、意識しちまうじゃねえか・・・
ちらりと横目でアンジェリークを見つめる。
彼女を「女」として意識し始めたのは、三年ほど前から。
いつもは押し殺している感情を、今日は意識を強めてしまう。
「叔父さん、今日はどこに連れていってくれるの?」
アンジェリークは本当に嬉しそうに、幸せそうに笑っている。
その姿が可愛くて、抱き締めたい衝動にかられた。
「久し振りだからな? 今日は奮発したからな」
「楽しみ〜」
手を叩いて、嬉しそうにする彼女の笑顔は心を癒してくれる。
おまえを奪ってしまえればいいのに・・・。
アリオスは切ない思いを自分の心の中に秘めて、ハンドルを握り締める。
この思いを伝えることが出来たら、どれほど楽か・・・。
それには、真実を伝えてやらなければならねえ・・・。
だが、おまえが傷つくことを、俺は恐れている・・・。
カフェレストランに着いて、アンジェリークは、その瀟洒な雰囲気に気分を高揚させる。
「素敵な場所! 凄く嬉しい!」
「おまえが喜ぶと思ったが正解だな」
誰よりも彼女の笑顔が見たくて、アリオスは色々な店を物色したかいがあったと思わずにはいられない。
「行くぜ?」
アリオスの後をアンジェリークはゆっくりと着いていった。
それはそれは子供の頃から変わらないこと。
着飾った大人の女性たちが、アリオスをうっとりと眺めているのが判る。
叔父さんかっこいいもんね・・・。
もてるのも判る・・・。
彼への熱い視線がアンジェリークには痛くて、少し切なくなる。
「おい、もたつくな。俺の横に歩け」
「はい・・・」
アンジェリークは、自分がのろいから彼が苛ついているのだと思っていた。
が、本当のところは、アリオスは、アンジェリークに向けられる男達のまなざしが我慢ならなかった。
くそ・・・、俺のアンジェに汚らわしい視線を送るな・・・!
席に着いて少しは落ち着いたものの、それは束の間だった。
再び、アンジェリークへのあからさまな視線が食事中も横行し、食事が済む頃にはすっかりアリオスは不機嫌になっている。
「コーヒー飲んだら帰るぞ」
「うん」
きっと・・・、私がみっともないから、叔父さん、嫌なんだ・・・。
アンジェリークは益々気持ちが沈んでいくのを感じずにはいられなかった。
アリオスはアンジェリークをじっと見つめる。誰にも太刀打ちできないかのような透明な美しさがそこにある。
オリウ゛ィエに言われた言葉そのものだと感じた。
手早くコーヒーを飲んだ後、駐車場に向かう。
そこまで行くのにもアリオスは無言で、不機嫌そうで、アンジェリークはその後をそっと着いて行くしかない。
車に乗り込むと、アンジェリークは小さくなって、助手席へと座った。
彼がエンジンをかけ、車を走らせると、ようやく彼女は口を開く。
「----今日美味しかった。ご馳走様」
「ああ」
アリオスの返事も、半ば感情がこもっていない。
彼の心の中には、まだ”嫉妬”という感情がどすぐろい渦を巻いている。
「----やっぱり、私、みっともないから、怒ってる?
だったら…」
そこまで言いかけて、アリオスが言葉で制する。
「そんなわけねえだろ? 卑屈になるな、アンジェ」
「----はい」
いつもよりはキツイ論旨にアンジェリークはそれ以上何も言わなかった。
気まずい気分のまま、その日は、家路についた。
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謝らなけりゃな…。
アンジェに…
アリオスは、昨日、らしくもない自分の嫉妬の為に彼女を困らせて、嫌な思いをさせたことを痛切に後悔していた。
途中ケーキを買って、彼は家路に着く。
アンジェ…?
彼の車が、アンジェリークの学校の近くまで差し掛かったとき、アリオスの眼差しは彼女を捕らえていた。
だが、次の瞬間、彼の表情が炎のように燃え上がる。
アンジェリークには年相応の男が、アンジェリークに手紙を渡し、彼女はそれをびっくりしたように受け取っている。
アンジェ!!
そんなものを受け取るな!
アリオスの脳裏には、オリヴィエの言葉が蘇る。
『だってホントのこと言ったまでだよ。叔父としては心配でしょ? 可愛い姪っ子を持って』
嫉妬の炎が今までにまして激しく燃え上がった-----
コメント
88888番のキリ番朝倉瑞杞様のリクエストで、
アンジェがラブレターを貰い、アリオス叔父さんが嫉妬するです。
久しぶりな、子供のいない「Where〜」です。
この物語から本編に続くようにもっていきます〜