GET TOGETHER
Part2
中編


「おまえらがそう言うんだったら…」
 ニヤリと良くない微笑をアリオスは浮かべると、 そのままアンジェリークの華奢な身体を抱き寄せた。
「…!!!」
 そこにいた誰もがその光景を見て顔色を変える。
 当然されているアンジェリークもである。
「悪いが…、俺は”アンジェリークをアリオスだけのモノにする会”会長なんでな? おまえらが見てようが、見てまいが関係ねえ!!!」
 最後の言葉尻の調子は、かなり強く、誰もを有無言わせぬ響きがある。
「おまえは俺のもんだ、違うか? アンジェリーク?」
 深い眼差しで見つめられれば、アンジェリークなどはひとたまりもなくて。
 心の奥まで見透かすような光に魅入られてしまい、彼女は動けないでいる。
「アンジェ?」
 その艶やかな声で名前を囁かれるだけで、彼女はその罠に落ちてしまう。
 罠。
 それはアリオスにしか仕掛けられないもの。
 それは彼女がどうしようもなく彼に恋をしているから。
 誰もが固唾を飲む沈黙。
 そこにいる者の注目は、全てアンジェリークに注がれる。
「…うん…、私はアリオスのものよ…」
 衝撃的な告白。
 そこにいた、アリオスにとってはお邪魔虫な兄弟たちの形相が大きく変わる。
 誰もが肩を震わせ、打ち震える。
 真っ青になっている兄弟たちを尻目に、彼は勝ち誇ったようにふふんと笑った。
「----というわけだ? 判ったなら帰るんだな?」
 そのままアンジェリークを腕の中に閉じ込めたまま、彼は続きを始めようとする。
「チッ!」
 ゼフェルは舌打ちをし、セイランは深い溜息を、オスカーは眉根を寄せて険しい表情をしている。
 そしてレイチェルは。
「絶対!!! 絶対!!! 諦めないんだから!!!!!!」
 誰よりも力強い台詞を吐いて、レイチェルはバンと乱暴にドアを閉める。
 その後にいくつ者足跡がばたばたと響いた。

 覚えてらっしゃいい!!
 ふふ〜んだ! もう手は打ってあるのよ、アリオス!!

 レイチェルの思惑などかけらも知らないアリオスは、再びアンジェリークを抱き寄せ、甘く耳元に息を吹きかける。
「…やン…」
 甘い声が、この好意を嫌がっていないことを彼に伝える。
「いいか?」
 何をと聞かなくても判る。

 私今夜アリオスのものになるんだ…。
 嫌じゃないけど…。
 ちょっと恥かしい…

 ほんのり頬を紅く染めると、アンジェリークはコクリと頷いた。
 栗色の髪が初々しく揺れて、アリオスの気持ちを高める。
「アンジェ、愛してる」
「うん…」
 そのまま抱き上げようとしたときだった。
「ふあ〜、ねむ〜」
 ギョッとして二人が足元を見つめると、そこにはマルセルが、丁度ベットの下から出てきたところだった。
「・・・ん? アンジェ…? アリオスお兄ちゃん…。なんだか眠くなった…」
 芝居だかなんだかわからないが、とにかくマルセルは、重い瞼をこすりながら、アリオスのベットに侵入してゆく。
「あ、おいっ!!」
「おやふみ〜」
 そのままぺらりと手を振って、マルセルはベットに沈み込んでしまった。
「何だよ!!」
 可愛い顔してそれこそ憎さ百倍。
 マルセルをベットから追い出そうとしたとき、アンジェリークが彼の手を握って制した。
「アンジェ?」
「アリオス…、私の部屋が…、あるわ…」
 消え入るような声で囁かれて、アリオスは心が満たされるような気がした。
「…ああ、行こう…」
「・・・ん・・・」
 二人が手を繋ぎ会って、部屋を一歩出たときだった。
「アリオス先生!!!」
 アリオスはその声にびくりとする。
 絶対似合いたくない相手。
 今、アンジェリークを抱けない苦しみで煮詰まっている彼にとっては、最も逢いたくない相手だった。
 無視を決め込むが、相手はどんどん近づいてくるのが判る。
「アリオス先生!!」
「呼んでいるわよ? アリオス」
「いいんだ!」
 彼が足早に彼女の部屋へと進もうとしたときに、がしりとその肩をつかまれてしまった。
「アリオス先生!! 今度こそは離しませんよ!! 原稿!!!」

 チッ、なんてタイミングが悪いんだ!!!

 舌打ちしたままアリオスが振り返ると、そこには担当のエルンストが真面目腐った顔で立っていた。
「締め切りは明後日!! それまでに書いていただきます! 二百枚!!」
 アリオスは大きな溜息をついて肩を落とす。
 仕方がない。
 ここでつかまってしまった以上はやるしかない。
「アリオス…、私はいつでもいいから? ね? 夜食作ってあげるから、お仕事頑張って、ね?」
 優しい笑顔で愛しい天使にそこまで言われてしまえば、もう、やるしかなくて…。
「----判った。やる!」
「そうこなくっちゃ!!」
 天使は嬉しそうに微笑むと、彼に優しいキスを頬に落としながら、囁く。
「これが終わったら…ね?」
 その甘い囁きは、そこらのコンビニで売っているような栄養ドリンクよりも、彼を元気にする。
「そのときは、寝かさねえからな?」
「も、バカ…。
 ほら、書斎に行って? 私は夜食を作るから…」
「ああ」
 アリオスはアンジェリークに微笑を投げかけると、そのまま書斎へと向かう。
 急にやる気になったアリオスに首をかしげながら、エルンストもその後に続く。

 やるぜ!!
 絶対にあげてやる!!
 アンジェとやるためにも!!

 一人の小説家の決心が、パソコンをオーバーワークさせるのはいうまでもなかった----


 その頃、レイチェル----
 ベットに寝転びながら、満悦そうな笑みを浮かべていた。

 せいぜい頑張って小説をあげるのね?
 その後も間髪いれずに邪魔してあげるんだから?
 アンジェは渡さないわよ!!

 アンジェリークは、嬉しそうに、消化のいいものを作っている。

 アリオスの好きな、西洋おかゆにしよ!!

 味見をしながら、幸せに浸る天使。
 この天使のために、アリオスがどれほどの気苦労をしているかも知らない。
 全く平和なものである。
 かくも長き夜はふける。
 天子を巡っての工房は、未だ暫く収まりそうになかった。 
TO BE CONTINUED…



コメント

翡翠様へのお礼リクエストで「一つ屋根の下に住むアンジェリークを、アリオスと男性陣が取り合う」話の続編です。
今回は、「やりたくてもやれない」(笑)をテーマにしているせいか、アリオスさんお疲れ様です(笑)
最後にはいい思いをさせてあげるからね〜。