「おまえらがそう言うんだったら…」 ニヤリと良くない微笑をアリオスは浮かべると、 そのままアンジェリークの華奢な身体を抱き寄せた。 「…!!!」 そこにいた誰もがその光景を見て顔色を変える。 当然されているアンジェリークもである。 「悪いが…、俺は”アンジェリークをアリオスだけのモノにする会”会長なんでな? おまえらが見てようが、見てまいが関係ねえ!!!」 最後の言葉尻の調子は、かなり強く、誰もを有無言わせぬ響きがある。 「おまえは俺のもんだ、違うか? アンジェリーク?」 深い眼差しで見つめられれば、アンジェリークなどはひとたまりもなくて。 心の奥まで見透かすような光に魅入られてしまい、彼女は動けないでいる。 「アンジェ?」 その艶やかな声で名前を囁かれるだけで、彼女はその罠に落ちてしまう。 罠。 それはアリオスにしか仕掛けられないもの。 それは彼女がどうしようもなく彼に恋をしているから。 誰もが固唾を飲む沈黙。 そこにいる者の注目は、全てアンジェリークに注がれる。 「…うん…、私はアリオスのものよ…」 衝撃的な告白。 そこにいた、アリオスにとってはお邪魔虫な兄弟たちの形相が大きく変わる。 誰もが肩を震わせ、打ち震える。 真っ青になっている兄弟たちを尻目に、彼は勝ち誇ったようにふふんと笑った。 「----というわけだ? 判ったなら帰るんだな?」 そのままアンジェリークを腕の中に閉じ込めたまま、彼は続きを始めようとする。 「チッ!」 ゼフェルは舌打ちをし、セイランは深い溜息を、オスカーは眉根を寄せて険しい表情をしている。 そしてレイチェルは。 「絶対!!! 絶対!!! 諦めないんだから!!!!!!」 誰よりも力強い台詞を吐いて、レイチェルはバンと乱暴にドアを閉める。 その後にいくつ者足跡がばたばたと響いた。 覚えてらっしゃいい!! ふふ〜んだ! もう手は打ってあるのよ、アリオス!! レイチェルの思惑などかけらも知らないアリオスは、再びアンジェリークを抱き寄せ、甘く耳元に息を吹きかける。 「…やン…」 甘い声が、この好意を嫌がっていないことを彼に伝える。 「いいか?」 何をと聞かなくても判る。 私今夜アリオスのものになるんだ…。 嫌じゃないけど…。 ちょっと恥かしい… ほんのり頬を紅く染めると、アンジェリークはコクリと頷いた。 栗色の髪が初々しく揺れて、アリオスの気持ちを高める。 「アンジェ、愛してる」 「うん…」 そのまま抱き上げようとしたときだった。 「ふあ〜、ねむ〜」 ギョッとして二人が足元を見つめると、そこにはマルセルが、丁度ベットの下から出てきたところだった。 「・・・ん? アンジェ…? アリオスお兄ちゃん…。なんだか眠くなった…」 芝居だかなんだかわからないが、とにかくマルセルは、重い瞼をこすりながら、アリオスのベットに侵入してゆく。 「あ、おいっ!!」 「おやふみ〜」 そのままぺらりと手を振って、マルセルはベットに沈み込んでしまった。 「何だよ!!」 可愛い顔してそれこそ憎さ百倍。 マルセルをベットから追い出そうとしたとき、アンジェリークが彼の手を握って制した。 「アンジェ?」 「アリオス…、私の部屋が…、あるわ…」 消え入るような声で囁かれて、アリオスは心が満たされるような気がした。 「…ああ、行こう…」 「・・・ん・・・」 二人が手を繋ぎ会って、部屋を一歩出たときだった。 「アリオス先生!!!」 アリオスはその声にびくりとする。 絶対似合いたくない相手。 今、アンジェリークを抱けない苦しみで煮詰まっている彼にとっては、最も逢いたくない相手だった。 無視を決め込むが、相手はどんどん近づいてくるのが判る。 「アリオス先生!!」 「呼んでいるわよ? アリオス」 「いいんだ!」 彼が足早に彼女の部屋へと進もうとしたときに、がしりとその肩をつかまれてしまった。 「アリオス先生!! 今度こそは離しませんよ!! 原稿!!!」 チッ、なんてタイミングが悪いんだ!!! 舌打ちしたままアリオスが振り返ると、そこには担当のエルンストが真面目腐った顔で立っていた。 「締め切りは明後日!! それまでに書いていただきます! 二百枚!!」 アリオスは大きな溜息をついて肩を落とす。 仕方がない。 ここでつかまってしまった以上はやるしかない。 「アリオス…、私はいつでもいいから? ね? 夜食作ってあげるから、お仕事頑張って、ね?」 優しい笑顔で愛しい天使にそこまで言われてしまえば、もう、やるしかなくて…。 「----判った。やる!」 「そうこなくっちゃ!!」 天使は嬉しそうに微笑むと、彼に優しいキスを頬に落としながら、囁く。 「これが終わったら…ね?」 その甘い囁きは、そこらのコンビニで売っているような栄養ドリンクよりも、彼を元気にする。 「そのときは、寝かさねえからな?」 「も、バカ…。 ほら、書斎に行って? 私は夜食を作るから…」 「ああ」 アリオスはアンジェリークに微笑を投げかけると、そのまま書斎へと向かう。 急にやる気になったアリオスに首をかしげながら、エルンストもその後に続く。 やるぜ!! 絶対にあげてやる!! アンジェとやるためにも!! 一人の小説家の決心が、パソコンをオーバーワークさせるのはいうまでもなかった---- その頃、レイチェル---- ベットに寝転びながら、満悦そうな笑みを浮かべていた。 せいぜい頑張って小説をあげるのね? その後も間髪いれずに邪魔してあげるんだから? アンジェは渡さないわよ!! アンジェリークは、嬉しそうに、消化のいいものを作っている。 アリオスの好きな、西洋おかゆにしよ!! 味見をしながら、幸せに浸る天使。 この天使のために、アリオスがどれほどの気苦労をしているかも知らない。 全く平和なものである。 かくも長き夜はふける。 天子を巡っての工房は、未だ暫く収まりそうになかった。 |
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コメント
翡翠様へのお礼リクエストで「一つ屋根の下に住むアンジェリークを、アリオスと男性陣が取り合う」話の続編です。
今回は、「やりたくてもやれない」(笑)をテーマにしているせいか、アリオスさんお疲れ様です(笑)
最後にはいい思いをさせてあげるからね〜。