アンジェとやりてえ・・・ それだけでアリオスは猛然と仕事にかかった。 仕事が手に付かなかったのは、ピュアな天使争奪戦ゆえ。 だが、今は望みに向かってまっしぐらだ。 仕事が終わったらアンジェを連れて、隠れてやるからな! 覚えてろよ! 兄弟ぷらすわんにリベンジを堅く誓う。 もちろん、レイチェルの恋人である、担当のエルンストも、彼にとっては、敵である。 「アリオス先生、頑張ってくださいよ」 「判った!」 余裕をもって、横で交了の仕事をするエルンストが、彼には恨めしかった。 「お夜食ができました」 優しい声で、夜食を片手に部屋に入ってくるアンジェリークに、アリオスはほっと息を付く。まさに彼女は、修羅場の彼にとってはオアシス。乾いた心が満たされる。 「がんばってね?」 優しく声をかけてニコリと微笑みながら、彼の好きな西洋粥を、彼女は目の前に優しく置いてくれた。 「お口に合うかは判らないけど」 「サンキュ。おまえのものは何でもうまいぜ」 甘い微笑みを彼女に浮かべるだけで、少しはにかんだ嬉しそうな顔をする。それが、アリオスにとってはツボで。 「終わったら、判ってるだろうな? 邪魔されない、”いいところ”に連れて行ってやるよ…」 ほんの一瞬、耳を甘噛みして、魅惑的な声で囁く彼に、彼女は真っ赤になって、恥かしそうに頷いた。 「ごほん!!」 エルンストのわざとらしい咳払いに、アンジェリークは、慌ててアリオスから離れる。 クソ、ワザとだろ! 堅物メガネ!! 眉間に皺を寄せながら、凍り付いた異色の鋭いまなざしで、アリオスはエルンストをにらみ付けた。たが、当然予想された行動であるので、エルンストは平然としている。 「夜食を召し上がったら、また原稿にかかってくださいよ、先生」 容赦ない編集者のツッコミに、彼は不機嫌に舌打ちをした。 「判った。速攻でやってやる! おまえに何も言わせねえ」 きっぱりと宣言をすると、パソコンに向かって凄い勢いで打ち始めた。 「がんばってね、アリオス」 「ああ」 「エルンストさんもここに夜食置いておきますから、召し上がってくださいね」 ふんわりと微笑んでエルンストと話す天使に、アリオスは軽い嫉妬を覚える。 「アンジェ、そんなやつに優しくしなくていい」 「アリオスったら」 クスリと笑う天使が余りにも可愛く、アリオスの理性が崩れ落ちそうになる。 「後は私に任せてください、アンジェリーク」 「はい、ではお願いしますね」 「判りました」 笑顔を残してアンジェリークが立ち去ると、先程まではどこか和やかさが含んでいたものが、一気に硬質なものになる。 「エルンスト、いつかおまえをシバク」 パソコンに向かいながら、アリオスは憎らしそうに呟く。 「バカなことはおっしゃっていないで、手早く原稿を上げて下さい」 いつもアリオスの扱いに馴れているエルンストは、いたって涼しげに呟いた。 緊迫した空気のなか、アリオスが打つパソコンの音と、エルンストが走らせるペンの音のみが響く。そこにはだれも近付きがたい空気が流れていた。 悪ぃが、俺は一度やると決めたことは、何がなんでもやり遂げる。アンジェを抱くのは俺だけだ! 目的を遂げるために、アリオスは原稿に集中した。時々、彼の様子をアンジェリークが心配そうに覗いていることに、気がつきながら。 アリオス、がんばってね? どれ程集中していたのだろうか。空が白んできた頃、アリオスはようやくパソコンから離れた。 満足げな溜め息が漏れる。 終わったぜ・・・。 パソコンからフロッピーを抜き取り、アリオスは、すっかり眠りこけているエルンストの頭をそれで叩いた。 「おい、上がったぜ!」 不機嫌そうな声にエルンストは目を開けると、そこには険しい顔のアリオスがいた。フロッピーを片手に。 「あ、出来ましたか」 「”あ、出来ましたか”じゃあねえよ、このタコ! ほら、約束のもんだ!」 どこか勝ち誇った表情のアリオスを見ていると、”愛のあるやりたいパワー”の凄まじさを、エルンストは感じる。 「有り難うございます。で、アリオス先生、もう一本、エッセイの締切りも今日です」 事務的に語るエルンストに、アリオスのこめかみがひくつく。 「何だと?」 「月間”酒飲み”の来月号のゲストエッセイ、”ウォッカと私”です」 エルンストは、眼鏡をキラリと光らせて、アリオスを見る。 「よもや忘れたとは言わせませんよ?」 その意を突いた言葉に、アリオスは二の句を告げない。 「判った! やりゃあいいんだろ! やりゃあ!」 エルンストの鬼悪魔め! アリオスは猛然とパソコンの前へと向かい、再び原稿することとなった。 これでよかったですか? レイチェル 兄弟たちが朝食を取る頃、アリオスはようやく原稿を完成させた。 「終わったぜ!」 フロッピーを乱暴にもエルンストに投げ付けると、アリオスは椅子から立ち上がる。 「有り難うございます」 そのまま不機嫌そうにエルンストをにらみ付け、アリオスは書斎から出ていった。 「先生!」 エルンストの制止も、もはや利かない。目的地は、もちろんアンジェリークのいるキッチンだ。 「アンジェ!! アンジェ!!!」 ものすごい勢いで、アリオスはキッチンに入ってゆき、朝食を食べていた兄弟たちは、呆然と彼を見た。 「アンジェ・…」 「アリオス!?」 アンジェリークの目の前で彼は立ち止まると、狂おしく、思いつめた眼差しを彼女に向ける。 「来い!」 具一途ぎ憂いん居細い腕をつかまれて、彼女は体のバランスを崩した。 そのまま彼女を引っ張って、彼はキッチンから出ようとする。 「おい、兄貴!! 俺たちの朝飯の片付けが、残ってる!!」 オスカーを筆頭に、兄弟ぷらすわんたちは、口々にブーイングをする。 そんなことをしても、アリオスがひるむことはなくて。 だが、余りにも彼らがうるさいものだから、アリオスはとうとう絶え切れなくて、爆発した。 「ガキどもは黙ってろ!!!」 低く迫力のある声と、鋭く切れるようなまなざしで睨まれ、流石の兄弟たちもこれにはひるんだ。 「行くぜ、アンジェ?」 「うん…」 アンジェリークに関しては敵である兄弟たちが怯んだ隙を見て、ナイトよろしく彼は彼女を連れて外に出る。 「アンジェ…、かまわねえか?」 「・・・うん・・・」 俯きながら、恥かしそうに返事をした彼女に満足に微笑む。 そのまま彼女を車に乗せて、彼の別宅である、海辺の高級マンションへと向かった---- 今回も俺の勝ちだぜ? 結局は、アンジェリークがありオスを愛している以上は、勝てない”兄弟ぷらすわん”なのであった。 その後、アリオスは本懐を遂げたが…、”次”が続かず、また悶々としたバトルを繰り広げている…。 らしい…。 |
![]()
コメント
翡翠様へのお礼リクエストで「一つ屋根の下に住むアンジェリークを、アリオスと男性陣が取り合う」話の続編です。
今回は、「やりたくてもやれない」(笑)をテーマにしたものの完結編。
良かったね、アリオス(笑)
後でいい思いをさせてあげるよ〜。
ということで、後日UPの別館に続く(笑)