「結婚!!」 アンジェリークは、声を上げて言った。 そうすると実感が沸いてくる。 結婚してもおかしくない関係に二人はある。 だがもっと先のことだと思っていただけに、アンジェリークの驚きは大きかった。 姿勢を正すと、アリオスはアンジェリークの肩を抱き、じっとその大きな瞳を真摯に見つめる。 「ちょっと早くなったがな? これでおまえを堂々と抱けるしキスもな?」 ぎゅっとアンジェリークを抱き締め、アリオスは甘く囁く。 「アリオス・・・」 彼の異色の瞳には誠実な色が浮かんでいる。 「結婚してくれ?」 喜びが頂点に達するのを感じる。 アンジェリークは、大きな瞳に涙をいっぱい浮かべると、しっかりと頷いた。 「サンキュ。明日は婚約指輪を買いに行こうな?」 微笑みかけられて、アンジェリークの堰は切れた。 うれし涙が溢れて止まらない。 アリオスは、彼女をその胸に抱き締めて、あやしてやった。 「一応ちゃんとした指輪は明日だが、仮祝いに」 彼はそう言うと、彼女への抱擁を一端解いて、キッチンへと向かった。 そこでシルバーのビニールの口を止めるモールを二本出して、彼女に持っていく。 「アンジェ、仮の指輪だ」 アリオスはアンジェリークの左手を手に取ると、わっかにしたモールを、薬指に填めた。 「有り難う・・・、凄く嬉しい・・・」 アンジェリークは、そのモールを愛しげに見つめ、指でなぞる。 「俺にも付けてくれ?」 「うん・・・」 アリオスからモールを貰い、アンジェリークもわっかを作ると、それを彼の左手薬指に填める。 「サンキュ」 二人はお互いに見つめ合い、笑い合う。 「愛してる」 「私も・・・」 アリオスの暖かさに包まれて、アンジェリークは、言いようのない幸福を感じた。 昼間の絶望感など信じられない。 アンジェリークは、生まれて今が一番幸せだと、言い切れるような気がした。 「アンジェ、今夜は記念だ、寝かさない」 今なら邪魔ものもいないとばかりにアンジェリークを抱き上げると、アリオスは部屋に連れていった。 邪魔者がいないということと、”生”で堂々と出来ることに喜びながら。 その頃、アリオスとアンジェリークが既に”婚約”してしまったとは知る由のない兄弟ぷらすわんは、アンジェリークをどうすれば自分たちとずっと一緒にいてもらえるか、考えていた。 全員の頭を一瞬かすめたのは、”アリオスとアンジェリークが結婚すること”だったが、彼らは全員一致でそれを一蹴していた。 「俺がメカ作って、会社をぶっつぶす!」 「犯罪だ」 呆れ顔のオスカーに、ゼフェルの案は却下される。 「くまん蜂でで人事部を襲う!」 「虫と友達かい? 却下!」 セイランもまたクールにマルセルの提案を潰す。 「俺がアンジェリークにプロポーズするっていうのは・・・」 「却下!!!」 オスカーの提案もまた全員一致で否決された。 彼らは結局妙案が出ないまま、アンジェリークが、小腹が空いたときにと作ってくれたビスケットとかりんとうを食べていた。 その頃、アリオスとアンジェリークは、甘い愛の世界にいた。 「愛してる。この家を愛で満たしてくれ」 「んっ・・・、アリオス」 「子供もいっぱい作ろうぜ」 「うん・・・、あっ、アリオス!」 アリオスの部屋と、彼らがミーティングをしている部屋は離れているため、喘ぎ声は聞こえない。 夜はかくも更けて行く。 ---------------------------------- 翌日、朝食を作るアンジェリークはいつにも増して、美しかった。 「アンジェ、その薬指のモールは何?」 不思議そうに訊くレイチェルに、アンジェリークは嬉しそうに笑う。 「ふふ、後でね?」 この笑顔で思った。 やばい、やばすぎると。 「おはよう」 先程まで側にいたアリオスが、シャワーを浴びた後、キッチンにやってきた。 その姿にアンジェリークは胸をときめかせる。 「おはようゴザイマス」 少しはにかんだ彼女を、愛しげに目を細めて見つめるアリオスに、レイチェルは悟った。 今まで、例の時に付ける安全ゴムを隠したり、部屋を使えないようにしたり、仕事責めにして、三回に一回は、ふたりの行為を邪魔していたが、それが報われる時が永遠にやってこないと、レイチェルはこの時悟った。 「ごはんが出来たわ! 食べましょう!」 愛を込めて作った朝食を、彼女は食卓に並べてやった。 支度が終わり、全員が席に着くなり、ゼフェルは食べ始める。 それを合図に、朝食が始まり、アリオスはかしこまった。 「みんな、聞いてくれ!」 アリオスが目配せをすれば、アンジェリークも頷いた。 「俺とアンジェは今日、入籍する!!」 「え〜!!!!」 食べていたものを、思わず誰もが吹き出す。 「ちょっと待て・・・」 食べものを喉に詰まらせながら、オスカーは言う。 「アンジェはそれでいいの!?」 「うん・・・。プロポーズしてもらって、嬉しかった・・・」 レイチェルの言葉に素直に返事をするアンジェリークは、はにかんでいてとても可愛い。 「俺は反対!」 ゼフェルが口火を切った。 「俺も!」 オスカーである。 「僕も」 簡潔な答えはセイラン。 「僕だって!」 わがままっぽく言うのはマルセルだ。 「絶対! イヤ!」 これはレイチェルだ。 全員が口々に反対したせいか、アンジェリークは青ざめた。 「・・・やっぱり、ハウスキーパーの私がアリオスのお嫁さんになるのは、反対なんだ・・・」 その涙混じりの力のない声に、彼らははっとしたが遅かった。 「やっぱりみんな、私のことは・・・!!!」 そのまま、アンジェリークは席から立ち上がると、走っていった。 「アンジェ!!!」 ここで追いかける資格があるのは、アリオスだけ。 彼はアンジェリークの後を追いつつ、振り返って兄弟たちを見据える。 「後でアンジェに謝れ!」 残された兄弟たちは、気まずい気分で、俯いていた。 アンジェリークの幸せはアリオスだったんだ・・・。 |