「アンジェ!」 アリオスは駆けているアンジェリークを手を延ばして掴まえた。 「アリオス・・・」 彼は泣きながら振り向いた彼女をしっかりと抱き締めると、額にキスをした。 「俺とおまえが結婚するのに変わりがねえ。あいつらは、おまえが好きで堪らなくて、むしろ俺が相手なのが気にいらなくて、あんなことを言ったんだからな? そこは判ってやってくれ・・・」 さらに彼女を暖かく包んで、アリオスは唇にキスをした。 「帰るぞ、みんなのところに」 「うん・・・」 アリオスに手を引かれて、アンジェリークは子供のようにとぼとぼと歩いていく。 「アリオス、有り難う・・・」 小さく呟かれた言葉に、アリオスは応える代わりに、ぎゅっと手を握り締め、微笑みを送った。 家の前に来ると、兄弟たちが心配そうに玄関で待っていた。 「アンジェ!!!」 誰もがほっとした様子で駆けてくる。 「皆さん・・・」 誰もが彼女の姿を見て嬉しくもあった。そのかたわらにいるアリオスを、悔しいが彼女にとっては最も大切な者と認めざるを得ない。 彼以外、アンジェリークを取り戻すことが出来なかったのだから。 「ただいま」 アンジェリークは微笑んでそれだけを言うと、家に入っていく。 ほんの少しだけ、兄弟たちはほっとした。 その日の午後、アリオスに連れられて、アンジェリークは指輪を見にいった。 アリオスの意見を元に選んだそれは、彼女の瞳と同じアクアマリンにダイヤがちりばめられたもの。 結婚指輪も、彼女の希望通りにシンプルなものにし、二つのサイズ直しを頼んだ。 「アリオス・・・」 アンジェリークは嬉しくて堪らなくて、アリオスに泣き付く。 ここが宝石店だとか、そんなことはどうでも良かった。 「幸せにする」 「うん・・・。私もあなたを幸せにするわ・・・」 二人はお互いを見つめ合い、手をしっかりと握り合う。 そこには愛が溢れ、誰もが羨ましがった。 ------------------------------- 兄弟ぷらすわんたちは、アンジェリークの為に、一肌脱ごうとしていた。 彼らの合い言葉は”アンジェリークの笑顔の為”----- どうせいずれは、彼女がアリオスの妻になるのは判っていた。 それが少し早くなったのが悔しいだけ。 オスカーを筆頭に、セイラン、ゼフェル、マルセル、レイチェルは、アンジェリークにとって最高のことをと、色々考えてみる 「やっぱり兄貴に相談するか」 全員の意見をまとめて、オスカーは仕事をしているアリオスの元に向かった。 「兄貴、相談がある」 その頃、アンジェリークは、会社に退職の手続きをしていた。 アリオスが既に電話で話をしてくれており、アンジェリークは他の事務的手続きに追われている。 アルウ゛ィース家からの契約満了は、会社にとっては損害だが、アンジェリークの性格の良さで、会社も認めてくれた。 「あなたは本当に有能なハウスキーパーだから、残念ですが、おめでたいことですからね」 「ありがとうございました、ディアさん」 ディアの口添えで円満的にことを運べたこともあって、アンジェリークは彼女に深々と頭を下げた。 「幸せになってね?」 「有り難うございました。幸せになります」 温かなディアのまなざしに見送られて、アンジェリークは会社を後にする。 少し清々しい気分だった。 マーケットで買い物をした後、アンジェリークは家に戻った。 リビングに入ると、レイチェルとマルセルが密談しているようだ。 「ただいま」 アンジェリークの顔を見るなり、彼らはさっと話すのを止めた。 「あ、おかえり〜」 二人とも何か後ろ暗いことがあるかのように挨拶すると、こそこそとどこかに行ってしまう。 少し寂しくなって、アンジェリークはキッチンに入っていった。 みんな、急に冷たくなったな・・・。 彼女は肩を落とすと、夕食作りに没頭した。 「ごちそうさん」 食事を素早く終えて、真っ先にゼフェルが席を立った。 その後を、レイチェル、セイラン、マルセルと続く。 オスカーは仕事が遅くなるため食卓にはおらず、残ったのは、アリオスとアンジェリークだけだった。 元気なく箸を置くアンジェリークが気になり、アリオスは食事一式を持って、彼女のとなりに座った。 「どうした?」 「・・・ん、みんな最近冷たいな・・・」 本当に深刻に悩んでいる彼女を見て、アリオスは誰にも見せない穏やかなまなざしを彼女に送る。 「みんな、おまえが好きだ。じゃなきゃ、こんなに綺麗にメシは食わねえだろ?」 ふと、彼らが食べた後を見ると、何も残ってはいなかった。 それを見ると、アンジェリークはふっと笑う。 「そうね・・・」 「飯食ったら、コーヒー飲んでゆっくりしような?」 「うん」 アンジェリークは少し気を取り直して、アリオスとの夕食を楽しんだ。 夕食の片付けも済み、アリオスとアンジェリークは、コーヒーを片手に時間を楽しむ。 「アンジェ、婚約指輪が出来てきた。左手を出してみろ?」 アリオスは、目の前にベルベットの箱を差し出し、アンジェリークに開けて見せた。 「うん」 アンジェリークも畏まり、少し緊張しながら、左手をそっと差し出し、潤んだ瞳で彼を捕える。 「サンキュ」 静かに言うと、アリオスは厳かに、彼女の細い指に指輪を填た。 その瞬間、アンジェリークは胸の奥底から喜びで満たされる。 「アリオス・・・」 涙が溢れて止まらない。 その涙は宝石よりも美しく光っている。 「感激するのはまだ早いぜ?」 甘く囁くと、アリオスはアンジェリークを抱き上げ、ベッドへと連れていった---- 彼女を深く愛するために。 -------------------------- クリスマスの日がやってきた。 今日はアリオス以外は全員出掛けてしまうと言うことで、凝ったものは作らないことになった。 アンジェリークにはそれが寂しくて堪らない。 昼食と夕食の買い物から帰ってきたとき、彼女をレイチェルが待ち構えていた。 「アンジェ、冷蔵庫に食材入れたらサ、私とエルンストについてきてくれない?」 「いいけど? 昼ごはんは?」 「みんないらないって言ってるから、早く」 レイチェルに強引に押されて、アンジェリークは、車へと連れていかれる。 「どこに行くの?」 「ナイショ!」 楽しそうに言うレイチェルを怪訝に思いながら、アンジェリークは車へと乗せられた。 車は、古びた教会の前で止まり、アンジェリークは、その横の館に連れていかれた。 「願いします!!」 「はい!」 そこには既に美容師がスタンバイしており、アンジェリークは美容師にまずは、顔のマッサージからされ始めた。 「レイチェル!?」 戸惑うアンジェリークに、レイチェルは微笑むばかり。 「ほら綺麗にしてっ貰ってきてね!」 アンジェリークは処置室に消え、フェイスエステ、ヘアセット、メイクと施されていく。 戸惑いながらも、アンジェリークはそれを受けた。 そして、化粧が完全に終わった所で、ウエディングドレスが登場し、アンジェリークは息を呑む。 「ドレス…」 純白のそれは、アンジェリークに良く似合う清楚なもので、白い薔薇があしらわれている。 「私たちからのプレゼントだよ? 受け取ってね?」 ウィンクしながら笑いかけてくれるレイチェルに、アンジェリークは次の言葉が見つからない。 「有難う…」 ただそれだけを言って嬉しさの余り泣き崩れるアンジェリークに、レイチェルは苦笑いをしながら支えてやる。 「ほら、折角の花嫁さんが泣かないの? ね?」 「…うん…うん…」 アンジェリークは、レイチェルに支えられながら、ウエディングドレスに袖を通した---- ------------------------------ 「ホワイトクリスマスね? アンジェ」 「うん…。こんな素敵な日に、大好きな人のお嫁さんになれるなんて、凄く嬉しい…」 雪が深々と降り始め、ロマンティックに演出している。 「時間よ?」 「うん…」 教会のドアが厳かに開かれるのと同時に、パイプオルガンが鳴り響く。 音にあわせて赤じゅうたんの先を進めば、拍手をしてくれる、オスカー、セイラン、ゼフェル、マルセル、そしてエルンストの姿が見える。 さらに先に視線を向わせれば、そこには、アリオスがグレーの燕尾服姿で待ってくれている。 もう、視界が涙で曇って見えない。 アンジェリークは、アリオスに向って進み、彼の手を取った。 アリオスに導かれて、彼女は祭壇へと向う。 牧師が厳かに先制する。 「アリオス、あなたは病める時も、健やかなる時も、アンジェリークを妻とし、愛しぬくことを誓いますか?」 「誓う」 「アンジェリーク、あなたは病める時も、健やかなる時も、アリオスを夫とし、愛しぬくことを誓いますか?」 「誓います!」 凛とした声が教会に響き渡る。 二人は指輪の交換を行い、深い誓いの口付けを交しあった。 みんな…どうも有り難う…。 凄く嬉しい…。 嬉しくて堪らない・・。 素敵なクリスマスプレゼントをどうも有り難う----- アンジェリークは、このとても素敵な贈り物に、生きていた中で、一番の幸せを感じていた---- ------------------------- 数ヵ月後。 アンジェリークとアリオスの間に小さな命が芽生えた。 結婚したとはいえ、相変わらず、アンジェリークを中心とした、アリオスVS兄弟たちのバトルは続いている。 その上、子供が加われば、益々バトルは白熱しそうである。 アリオスにとって、また悩みは尽きない----- |
コメント
「GET TOGETHERV」です。
今回はクリスマスを絡めながらのお話です。
今回で二人は幸せになりました。
またリクエストがあれば子供を交えて(笑)
皆様のクリスマスが、素敵なものでありますように!

