クリスマスを一週間後に控えたこの日、アンジェリークは、”エンジェル・ハウス・キーピング・サービス”の本社に呼ばれた。 「ご苦労様でした、アンジェリーク。アルヴィース家のハウスキーパーですが、後任の方が見つかりましたので、あなたはまた、内勤の企画室にお戻りくださいね」 「…はい…」 寝耳に水だった。 着任した頃は、正直言って、内勤の企画室に早く帰りたかった。 だが今は、あの家でずっと働いていたいと思う。 「12.26日付で、新しい方が着任しますから、それまでちゃんと準備をしておいてくださいね。 アルヴィース様には、こちらから伝えておきますので」 「…はい…」 クリスマスが最後のお仕事か… 不意に表情が暗くなり、肩を落とすアンジェリークに、上司のディアはすこし怪訝に思った。 「どうかされましたか? アンジェリーク」 「…いえ…。 有難うございました」 アンジェリークは頭を下げると、事務所から出て行く。 皆にどう話したら・・・ スーパーに行き、食材を見ながら、アンジェリークはまた溜息を吐く。 耳に入ってくるクリスマスソングを聞きながら、彼女は決意をした。 いつまでも沈んでいたってしょうがないもん! 皆が最高のクリスマスを過ごせるように頑張らなくっちゃ! そう思うと、俄然元気が出てくる。 アンジェリークは、今夜のおかずを考えながらも、心は”最高のクリスマスディナー”に行っていた。 家に帰ると、先ずはアリオスの元に行く。 今日のことを最初に報告するためだ。 彼がこの家の主である以上はそれは当然である。 「アリオス」 「ああ、入れ」 ノックをすれば、直ぐに彼の返事が返ってきて、アンジェリークは、周りをきょろきょろと見つめてから、部屋の中に入った 「アリオス…」 「ああ、どうだった?」 アリオスは振り返ると、アンジェリークの手をとり、膝の上に彼女を乗せて甘いキスをする。 これは、邪魔者である兄弟ぷらすわんが帰ってくるまでの間しか出来ない。 ”アンジェリークらぶ”な彼らは、それこそ命を掛けて邪魔をしてくるので、アリオスは正直言って頭が痛い。 彼女と愛し合っているのにもかかわらず”えっち”が出来ないので、切れることもしばしばなのである。 故に、彼は昼間堂々とえっちをすることもあるのだ(笑) 「-----あのね・・・。 私…、ここにもう直ぐいられなくなっちゃうの…」 「何!?」 途端にアリオスの表情が険しくなり、アンジェリークを異色に眼差しで見つめる。 「…私…、ここに来たのは臨時でしょ? 正式なハウスキーパーがクリスマス明けに配属されることになって、私は、内勤に戻ることになったの…」 アンジェリークの言葉に、アリオスは溜息を吐く。 彼女は最初からそういう約束だったのだ。 「おまえはどうなんだ!?」 アンジェリークは、すかさず彼の目を見た。 「私もあなたたちの側にいたいわ!! だってとっても楽しかったのよ? この数ヶ月は…」 アンジェリークはとうとう涙ぐんでしまい、アリオスの胸に顔を埋める。 「俺が掛け合う。アルヴィース家は、おまえじゃないとダメだってな!」 彼女をあやしながら、アリオスは力強く囁いてやった。 「有難う、アリオス。 だけどね、恐らくダメだと思うの…」 「何故だ!?」 「元々、”臨時”で、私はここに来たでしょう? 契約書に”次のハウスキーパーまでの臨時とし、再雇用はしない”と、あなたはサインしたから」 アリオスは思い出し、思わず舌打ちをする。 アンジェリークは真っ直ぐとアリオスを見つめた。 「ハウスキーパーとして、係わり合いがなくなるのは残念だけど、これからも恋人として、あなたの側にいて構わない?」 「あたりまえじゃねえか」 「…うん…。 本当は、側にいて、みんなのお世話をしたいのにね…」 涙ぐんだ彼女を、アリオスはしっかりと抱きしめてやり、その涙を唇で拭った。 不意に電話が鳴り響く。 「本社からだわ」 「ああ、出る」 アリオスはそばにあった電話をとり、出た。 「はいアルヴィースです」 「”こちら、エンジェル・ハウス・キーピング・サービスのディアと申します。 アリオス様でいらっしゃいますか?」 「ああ。そうだ」 何を伝えられるか知っているせいか、アリオスの声は不機嫌極まりない。 「私ディアと申します。 このたび、正式なハウスキーパーが決定いたしまして、担当がアンジェリーク・コレットから代わることになりました。 後日改めてご挨拶にうかがわさせていただきます。 今後、アンジェリーク・コレットは、内勤勤務となりますので、宜しくお願いいたします」 淡々と語られていくのに、アリオスは益々苛立ちを募らせる。 「このままアンジェリーク・コレットをうちにおいておくことは出来ないんですか?」 アリオスは。ダメだとは判っていたが、念のために訊いてみる。 「ええ、申し訳ございませんが、アンジェリークは、元々うちの登録の”ハウスキーパー”ではありませんので。彼女は内勤企画担当が本業ですから、申し訳ございませんが、宜しくお願いします」 「判りました」 アリオスはさらに感情なく言うと、電話を思い切り乱暴に切った。 ----------------------------- 「え〜!! アンジェリークが居なくなるって!!」 最初に大声を上げたのはゼフェル。 だが異口同音に、他の兄弟たちも、不満の声を述べる。 オスカー、セイラン、マルセル、そしてレイチェルまでもが不機嫌だ。 「皆さんのために最高のクリスマスを用意しますからね?」 穏やかにアンジェリークは笑ってはいるが、彼らの抵抗はすさまじい。 「兄貴、ちゃんと掛け合ったのか!?」 オスカーの言葉に、アリオスは頷く。 「ああ。 だがとりつくしまはねえよ」 煙草を吸いながら、アリオスはそこはかとなく機嫌が悪かった。 この彼を見て、誰もが震え上がらずに入られない。 「とにかく僕は反対だからね!」 マルセルは、頬を膨らませると、そのまま起って部屋に戻ってしまう。 「俺だってさ!」 続いてゼフェルも言い捨て部屋に戻った。 「僕も反対」 「俺もな」 「私だってよ!」 レイチェル、オスカー、セイランも、不機嫌そうに言うと、部屋に帰ってしまう。 残されたアンジェリークとアリオスは、図らずも二人きりになり、互いの顔を見詰め合って、溜息を吐く。 「何とかなればいいのに…」 「おまえがこのうちに残れる方法か…。家族になれば…」 そこまで言って、アリオスははっとする。 「アンジェ、結婚するぞ!」 「え!?」 アリオスの突然の言葉にアンジェリークは目を丸くする。 「結婚しよう、アンジェ!」 突然のプロポーズに、アンジェリークは彼の顔を見つめることしか出来なかった---- |