
アンジェリークの大きな瞳に不安と心配、そして驚愕が入り混じった光を宿している。 「そのままドレイクのおやじの所に行け! なにもさとられてはならんぞ」 低い青年の声は、妙に説得力があり、アンジェリークは頷かずにはいられない。 「来い!」 青年は、アンジェリークを狙った刺客をそのまま連れて行くと、奥の控えの間に姿を消す。 その一部始終を見ながら、彼女は暫く動くことさえままならなかった。 あの男性は…。 「アンジェリーク!!」 彼女がいないことに気がついたヴィクトールが、心配をして迎えに来てくれる。 「あっ、ヴィクトールさん」 「大丈夫か!?」 「うん平気! ドレスだから、中々動きにくくて」 心配そうに慌ててやってきてくれたヴィクトールに、アンジェリークは何も無かったかのように笑顔で答えた。漆黒の髪の青年に言われたように、彼女は振舞う。 「ドレイク殿が待っている。早く控えの間へ」 「うん、判った」 「今日は一応"レディ”だからな?」 「もうヴィクトールさんまで!!」 アンジェリークは、ヴィクトールにエスコートをしてもらい、控えの間へと向った。 控えの間に入ると、女官に呼ばれるまで暫く待つこととなった。 エリザベス女王には、長らく逢っていなかったアンジェリークは、妙に落ち着かず、緊張をしてしまう。 最後に女王陛下にお会いしたのは、おじさんの船に乗るときだったもん…。 おじさんも今は海軍提督だもんね…。 なんだか何言っていいかわからなくなってるわ 慇懃なノックの音が響き、女官長が静静と中に入ってきた。 「サー・フランシス・ドレイク。女王陛下がお待ちです」 「御意」 堂々たる姿でドレイクは立ち上がると、ヴィクトール、オリヴィエ、そしてアンジェリークと続く。 謁見の間が大きく開け放たれ、アンジェリークははっとする。 身も心も緊張に引き締まる。 「陛下!! サー・ドレイク殿、オリヴィエどの、ヴィクトール殿、アンジェリーク・コレット嬢が謁見に参られました!!」 静まり返った謁見室に、張りのある声が響き渡る。 一人の背筋が伸びきった、凛とした女性が、姿をあらわした。 「女王陛下…!!!」 ただそこにいるだけで、エリザベス女王の権威、気品など、王者としての覇気がそこに伝わってくる。 エリザベス女王は、生涯独身を通し、"処女王”と呼ばれ「栄光の時代」を築いた、偉大なる女王であった。 「ドレイク、ヴィクトール、オリヴィエ。ご苦労でした。アンジェリーク、苦しゅうない、さあこちらに」 「はい、女王陛下」 ギクシャクと歩きながら、アンジェリークは何とか女王の傍に行き、かちこちに固まっている。 「大きくなりましたな? これもサー・ドレイクのお陰じゃ・・・。イングランドの"天使"を、よくぞここまでに」 「は、恐れ入ります」 女王は、本当にまるで我が子を見るかのようにアンジェリークを見つめ、何度も何度も頷く。 「女王陛下のために、この祖国イングランドのために、私の力は微力ですが、精一杯頑張らせていただきます」 頭を垂れながら、アンジェリークは精一杯の言葉と尊敬の念を女王に表す。 「アンジェリーク、そなたの働きに期待いたします。 ----あなたは今日より、育ての父であるドレイクから離れ、一本立ちをせねばなりません」 「そんな…」 アンジェリークは、思わず不安げで心細い眼差しをドレイクたちに向け、女王もそれを優しく見守っている。 「不安になるのはあたりまえです。アンジェリーク…。あなたはまだ幼い…。そこでちゃんと新たにあなたに後見人をつけます。 -----アリオスをここに」 「はい」 女王陛下の凛とした声に、女官長は直ぐに控えの間へと向った。 アリオス…!? アンジェリークの脳裏に浮かぶは先日の青年の姿。 ロンドンで会おう---- その言葉だけが脳裏に焼き付いてはなれない。 「警察長官ウォルシンガム卿のご子息アリオス様でございます!!」 ドアが荘厳に開き、アンジェリークはその場所に目を奪われる。 そこに現れたのは、正装をした、銀の髪の長身の青年。 先日彼女の前に現れた青年その人である。 やっぱり…!!!! ブーツで、床をコツコツと響かせながら、青年はアンジェリークの隣へと迫ってくる。 アンジェリークは彼に心までも吸い取られていくような気がする。 「陛下、アリオスでございます」 すっと、アンジェリークの隣に立つと、アリオスは女王陛下に跪いた。 「よう承知してくれた! アリオス。隣にいるのがアンジェリークです」 「はっ」 彼は不敵な笑みを浮かべると、アンジェリークのってを取り、その甲に口付ける。 「レディ・アンジェリーク、よろしく」 「・…!」 その唇の感触に、アンジェリークは全身に甘い戦慄を覚えずにいられなかった。 「アリオス、色々アンジェリークと話もあるでしょう…。控えの間に下がっても良い」 「有難うございます」 アリオスは、何事もなかったように、アンジェリークの手を取ると謁見の間から出て行き、彼の控えの間に、アンジェリークを連れて行った。 「どういうつもりなのよ!!!」 控え室に入った瞬間、アンジェリークはアリオスに行きなる食って掛かった。 「陛下におまえの後見人として、色々身を守るすべをさらに磨きを掛けろと言われた。この間はその力量を見に行ったのに過ぎない」 「なぜ!?」 食いついてくるアンジェリークにも、アリオスは眉根一つ動かさない。 「今、イングランドが対峙しているのは、あの強大な国スペインや、イタリアの教皇。強大な力の中では、我らイングランドはちっぽけな島国に過ぎねえ。人が足りねえし、船も足りねえ、武器も少ない状態だ。その状態を打破するには、優秀な人材をいかによく効率的にたくさん育てるかということだ。おまえは、俺の元でみっちりと、イングランドの為に学び、勉強してもらう」 じっと異色の眼差しで見つめられると、アンジェリークは動けない。 先ほどの漆黒の髪の男性といい、アリオスといい、どうして私はこの眼差しに弱いのだろうか… アンジェリークはただ彼を見つめることしか出来なかった。 |
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コメント
歴史ロマンの三回目をお届けいたします。
ようやく、アリオスとアンジェリークが再会。
ふう〜。
いったいどれくらいになるのやら(苦笑)
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