Chapter0


 最初にあるのは海での記憶。

 嵐の夜、怖がって泣いている私を、ひとりの少年が慰めてくれた。
「怖くねえから、泣くんじゃねえ」
 と。
 抱き締めてくれて、一緒に眠ってくれた。
 その頃には、もう私には両親はなく、ドレイクのおじさんだけだったと思います。
 彼はその後もしばらくは船に滞在し、私に剣を教えてくれた。
 夜は一緒に眠って、私が眠るまで、楽しいたくさんの話を聞かせてくれた。
 特に”ティルナノック”の話は、私の大のお気に入りだった。
「この海の果てには、”ティルナノック”と言われる理想郷があるらしい。そこは誰もが幸せになれる楽園で、誰もがそれを目指して旅をしている」
「じゃあ、アンジェもいつかはそこにいけるの?」
 目を輝かせて話す私に、彼はこう答えたものだ。
「いつかな・・? その時は一緒に行けるといいな?」
 この世界のどこかに眠る、”理想郷”の話は、私を大いに奮い立たせてくれた。

 しばらくして、少年は船を降りていったが、私は、ドレイクのおじさんに抱かれて、泣きながら何度も手を振ったことを覚えている。
「またいつか逢えるからな? アンジェ」
 そう言い残して、少年は去った。

 それ以来、彼には逢うことはなかったけれど、私の心の中には、”ティルナノック”という言葉だけが、何時までも残っていた・・・。

 それから10年間は、私は、海の上で、航海術、剣術、学問を身につけ、いつか叶うかもしれない"ティルナノック”への憧憬を高まらせ、過ごした----
 いつか”ティルナノック”に行けると話してくれた少年の言葉を胸に、頑張ることが出来た。
 もう記憶にないほどの昔から過ごした海から陸に上がったのは昨日----
 海を見ていると、その音や、色が、私の中の”海賊の血"を奮い立たせてくれるような気がする-----

 ティルナノック、ティルナノック・…。
 それは理想の地。
 この世界のどこかに眠る、夢を奮い立たせる"約束の地"
 ティルナノック…。
 いつかたどり着ける日を夢見ています…。




コメント

とうとう始まります、歴史モノのプロローグです。
舞台は16世紀末のイングランドです!!
長くなるかも・…。と、今まで二の足を踏んでいた、
歴史モノに、今回挑戦することにいたしました。
至らぬ点が多いですが、よろしくお願いいたします。
ちなみにタイトルの「ティルナノック」とは、
アイルランドの古語で「理想郷」を指します。