Destiny 9

「本気なのですか? あなたは?」
 院長は、値踏みをするようにアリオスを見つめ、荘厳な声で呟いた。
「----本気だ」
 彼の声は、真摯さを帯びており、その眼差しは決意を思わせる。
 横目で、真剣な彼を見つめながら、アンジェリークは不安げにしていた。

 私を助けるために…、そんな嘘は言わなくていいの、アリオス・・・。
 これで、あなたの大事な女性が傷ついたら、それこそあなたも傷ついてしまう…。
 それは絶対、嫌なの…
 アリオス

「…無理しなくても…」
 囁くような小さなアンジェリークの震える声に、アリオスははっとして振り返った。
 小さな身体が小刻みに震えて、彼の胸を痛める。
「----私なんかのために、そんなことしないで下さい。アリオスさん」
 やっとのことで言えた言葉。
 だが、声が震えてしまって上手く伝えることが出来ない。
「おまえのためなんかじゃねえ! こっち向けよアンジェ!!」
 強引に彼女の肩を引き寄せ顔を正面に突き出させる。
 彼女は泣いていた。
 その涙が余りにも美しくて、アリオスは息を飲む。
「アリオスさんには大事な女性がいるでしょ?
 だから、だから、もう私にことなんてほっておいてください!!!」
 そのまま彼女は院長室から走って出てゆく。
 もう退学になったって良かった。
 そうなっても仕方ないことをしているのだから。

 カティス叔父様、ごめんなさい…。 
 折角、こんな私を、名門女学院に入れてくださったのに…
 ホントにごめんなさい

「アンジェ!!」
「コレットさん」
 アリオスは、そのまま何も省みず、アンジェリークを追いかける。
 銀の髪は振り乱れ、異色の眼差しには焦燥が見える。

 おまえを失いたくない。
 俺はおまえを愛してるから…

「うわああ、アンジェどうしたの!? あっ、アリオスさんも!?」
 ドアから疾風のような勢いで出てきたアンジェリークとアリオスにレイチェルは目を回す。
 その二人の真剣なまなざしを垣間見て、レイチェルの表情は急に明るくなった。

 ひょっとして…。
 あの二人♪

 二人がものすごい勢いで走り去った後、学院長が部屋から出てきた。
「あ、学院長!!」
 その姿に、レイチェルは姿勢を正して、直立不動になる。
「レイチェル…」
 大きく、まるで困ったように溜息を吐くと、優しげな微笑を浮かべる。
 その眼差しは少しも怒ってはいなかった。
「----カティスに彼女のことをよろしくと言われたから、今回のことも、まあ、反省文ぐらいにとどめておこうかと思ってたんだけど…」
 学院長はそこで言葉を切ると、幸せそうにうっとりと囁く。
「----あれじゃあ、懲罰の対象にはならないわね。二人とも真剣だもの・・・」
「そうですね。運命の恋かも?」
 ふふっと、院長とレイチェルはお互いの顔を見合わせ、微笑み合った。   

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「アンジェ!!」
「来ないでください!!」
 二人は中庭に出て、まだ走り続ける。
 アリオスはネクタイを解き、必死にアンジェリークを追いかける。

 離したくない・・・!!
 離したくない・・・!!!

 アンジェリークも息がだんだん上がってきて、乱れてしまう。

 ダメ…、もう走れない…

 中庭の木にたどり着くと、彼女はそこに手をついて、何度か深呼吸をした。
 過呼吸になっていて、上手くいかない。
「アンジェ・・!!」
「あっ・・・」
 背後から抱きしめられ、過呼吸になり目眩を感じる。
「おまえを離したくねえ・・・!」
「----私…、誰も傷ついた顔見たくないの…」
「だったら、おまえは傷ついていいのかよ!? おまえが一番傷ついて欲しくねえだよ!?」
 心にずんときて、アンジェリークは涙を一筋流す。
「有難う…、これで充分だから…」
「俺は、充分じゃねえ!」
 アリオスはさらに力を腕にこめて、そのまま彼女の首筋に唇を落とした。
「 いや・・・っ! 人が見てる!!」
「かまわねえ。見せ付けてやる」
「ね、ホントに止めて…。
 エリーズさんが見たら…」
「エリーズ!?」
 アリオスの声は急に不機嫌になり、その表情が険しいものになっているのが判る。
「おまえ・・・、あの記事信じたのかよ!?」
「ホントでしょ?」
「違う!!」
 彼女の言葉を取るようにして、アリオスは言う。
 銀の髪が何度も揺れる。
「----エリーズは俺の義理の母だ」
「えっ!!」
 その言葉にアンジェリークは息を飲む。
 そんなことがあるのだろうか…。
「エリーズは俺のオヤジの後妻。プロモーションビデオはCGを使って絡んだ。だから実際には何もしてない。ただで出てくれたから、感謝してるけどな」
「でも…、写真…」
 心が温かくなるのを感じる。
 癒されるような気すらする。
 だが、あの写真は確かにそうで…。
「あの時はオヤジも勿論一緒だった。・・・。
 どうせ、挨拶のときに証明できるぜ? 俺の親父と眼も当てられないぐらいのあつあつだからな」
「アリオス・・・」
 急に体の力が抜けてゆく。
 彼女はそのままへなへなと座り込んでしまった。
「アンジェ…、さっき言ったことは本当だ…。
 愛してる、一緒にいてくれ…」
 艶やかな声とともに、彼の”想い”すべてが心に落ちてくるような気がする。
「私も、大好き…」
 アンジェリークはそういうことが精一杯だった----
 フッとアリオスは優しい笑みを浮かべ、彼女に手を差し伸べる。
 そのまま抱き起こされて、今度は彼に導かれて院長室へと向かう。
「話の筋は通さなきゃな?」
「うん・・・」
 手を繋ぎながらしっかりとお互いの絆を確かめ合う二人だった。
「あ、先生…」
 二人が校舎に入ろうとしたとき、そこに院長が立っていた-----   

TO BE CONTINUED・・・



コメント

後少しです〜。ほっとした。