
「本気なのですか? あなたは?」
院長は、値踏みをするようにアリオスを見つめ、荘厳な声で呟いた。
「----本気だ」
彼の声は、真摯さを帯びており、その眼差しは決意を思わせる。
横目で、真剣な彼を見つめながら、アンジェリークは不安げにしていた。
私を助けるために…、そんな嘘は言わなくていいの、アリオス・・・。
これで、あなたの大事な女性が傷ついたら、それこそあなたも傷ついてしまう…。
それは絶対、嫌なの…
アリオス
「…無理しなくても…」
囁くような小さなアンジェリークの震える声に、アリオスははっとして振り返った。
小さな身体が小刻みに震えて、彼の胸を痛める。
「----私なんかのために、そんなことしないで下さい。アリオスさん」
やっとのことで言えた言葉。
だが、声が震えてしまって上手く伝えることが出来ない。
「おまえのためなんかじゃねえ! こっち向けよアンジェ!!」
強引に彼女の肩を引き寄せ顔を正面に突き出させる。
彼女は泣いていた。
その涙が余りにも美しくて、アリオスは息を飲む。
「アリオスさんには大事な女性がいるでしょ?
だから、だから、もう私にことなんてほっておいてください!!!」
そのまま彼女は院長室から走って出てゆく。
もう退学になったって良かった。
そうなっても仕方ないことをしているのだから。
カティス叔父様、ごめんなさい…。
折角、こんな私を、名門女学院に入れてくださったのに…
ホントにごめんなさい
「アンジェ!!」
「コレットさん」
アリオスは、そのまま何も省みず、アンジェリークを追いかける。
銀の髪は振り乱れ、異色の眼差しには焦燥が見える。
おまえを失いたくない。
俺はおまえを愛してるから…
「うわああ、アンジェどうしたの!? あっ、アリオスさんも!?」
ドアから疾風のような勢いで出てきたアンジェリークとアリオスにレイチェルは目を回す。
その二人の真剣なまなざしを垣間見て、レイチェルの表情は急に明るくなった。
ひょっとして…。
あの二人♪
二人がものすごい勢いで走り去った後、学院長が部屋から出てきた。
「あ、学院長!!」
その姿に、レイチェルは姿勢を正して、直立不動になる。
「レイチェル…」
大きく、まるで困ったように溜息を吐くと、優しげな微笑を浮かべる。
その眼差しは少しも怒ってはいなかった。
「----カティスに彼女のことをよろしくと言われたから、今回のことも、まあ、反省文ぐらいにとどめておこうかと思ってたんだけど…」
学院長はそこで言葉を切ると、幸せそうにうっとりと囁く。
「----あれじゃあ、懲罰の対象にはならないわね。二人とも真剣だもの・・・」
「そうですね。運命の恋かも?」
ふふっと、院長とレイチェルはお互いの顔を見合わせ、微笑み合った。
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「アンジェ!!」
「来ないでください!!」
二人は中庭に出て、まだ走り続ける。
アリオスはネクタイを解き、必死にアンジェリークを追いかける。
離したくない・・・!!
離したくない・・・!!!
アンジェリークも息がだんだん上がってきて、乱れてしまう。
ダメ…、もう走れない…
中庭の木にたどり着くと、彼女はそこに手をついて、何度か深呼吸をした。
過呼吸になっていて、上手くいかない。
「アンジェ・・!!」
「あっ・・・」
背後から抱きしめられ、過呼吸になり目眩を感じる。
「おまえを離したくねえ・・・!」
「----私…、誰も傷ついた顔見たくないの…」
「だったら、おまえは傷ついていいのかよ!? おまえが一番傷ついて欲しくねえだよ!?」
心にずんときて、アンジェリークは涙を一筋流す。
「有難う…、これで充分だから…」
「俺は、充分じゃねえ!」
アリオスはさらに力を腕にこめて、そのまま彼女の首筋に唇を落とした。
「 いや・・・っ! 人が見てる!!」
「かまわねえ。見せ付けてやる」
「ね、ホントに止めて…。
エリーズさんが見たら…」
「エリーズ!?」
アリオスの声は急に不機嫌になり、その表情が険しいものになっているのが判る。
「おまえ・・・、あの記事信じたのかよ!?」
「ホントでしょ?」
「違う!!」
彼女の言葉を取るようにして、アリオスは言う。
銀の髪が何度も揺れる。
「----エリーズは俺の義理の母だ」
「えっ!!」
その言葉にアンジェリークは息を飲む。
そんなことがあるのだろうか…。
「エリーズは俺のオヤジの後妻。プロモーションビデオはCGを使って絡んだ。だから実際には何もしてない。ただで出てくれたから、感謝してるけどな」
「でも…、写真…」
心が温かくなるのを感じる。
癒されるような気すらする。
だが、あの写真は確かにそうで…。
「あの時はオヤジも勿論一緒だった。・・・。
どうせ、挨拶のときに証明できるぜ? 俺の親父と眼も当てられないぐらいのあつあつだからな」
「アリオス・・・」
急に体の力が抜けてゆく。
彼女はそのままへなへなと座り込んでしまった。
「アンジェ…、さっき言ったことは本当だ…。
愛してる、一緒にいてくれ…」
艶やかな声とともに、彼の”想い”すべてが心に落ちてくるような気がする。
「私も、大好き…」
アンジェリークはそういうことが精一杯だった----
フッとアリオスは優しい笑みを浮かべ、彼女に手を差し伸べる。
そのまま抱き起こされて、今度は彼に導かれて院長室へと向かう。
「話の筋は通さなきゃな?」
「うん・・・」
手を繋ぎながらしっかりとお互いの絆を確かめ合う二人だった。
「あ、先生…」
二人が校舎に入ろうとしたとき、そこに院長が立っていた-----
TO BE CONTINUED・・・