
「仲直りしたのね」
「はい・・・」
院長の前で、アンジェリークは手を離そうとしたが、アリオスがそれを許してはくれなかった。
アリオスはぎゅっと強く彼女の小さな手を握り締める。
もう離さないといった勢いで。
「あんたたち…、こいつをどうしようと言うんだ」
異色の眼差しに冷たい光が集まり、彼は院長を威嚇する。
その眼差しの真剣さに、院長はアリオスのアンジェリークへの想いを感じる。
ホントに遊びではないのね。
アンジェリークが幸せだったら、それで・・・
「アリオスさん、そんな眼で見ないで下さい。あなたの彼女への気持ちが、真剣である事はわかりました。
交際は認めましょう」
穏やかで、かつ、堂々と宣言した院長に、アンジェリークとアリオスは驚いて顔を見合わせる。
「院長!! なんてことを!!」
その時のシスターマグレタの表情をアンジェリークは忘れやしないだろう。
それこそ、卒倒しそうな勢いだったからだ。
「シスター・マグレタ。この二人をごらんなさい。真剣に愛し合っているのが手を取るように判るわ…。違う?」
「しかし!! まだ高校生なのですよ!!」
「その高校生のときに、一生の相手にめぐり合ってしまうこともありえるのよ? 彼女はたまたまそうだったの」
「しかし」
「アンジェリークの処分は私、独断で行います」
きっぱりと院長に丸め込まれてしまい、シスターマグレタは一歩下がる。
「アンジェリーク…」
「はい」
名前を呼ばれ、彼女は潤んだ大きな瞳を向ける。
「あなたの処分は、あなたを想ってここに乗り込んできたアリオスさんに免じて、反省文の提出と放課後に今日から一週間、礼拝堂の掃除に加わることを命じます」
「院長先生!!!」
余りにも軽い処分に、アンジェリークは大きな瞳に涙を浮かべる。
院長の大きな慈悲部深さが伝わってくる。
「有難うございました!!」
頭を彼女が深く垂れると、アリオスも一瞬院長を見て、同じように頭を下げた。
「二人とも頭を上げて?」
その優しい声に、二人はそろって頭を上げた。
「はい。処分はおしまい!
アンジェリークは授業にお戻りなさい? アリオスさんも今日は有難う」
「アリオス・・・」
彼女はゆっくりと彼の手から名残惜しげに手を離す。
今度はアリオスもしぶしぶだが離してくれる。
もう離れないと判っているから。
もう心がいつも一緒だということが判っているから。
「アリオス、行くね?」
彼女はしっかりとした微笑を彼に投げかける。
それにはもう迷いはなく、晴れやかで、誇らしげだった。
「ああ。勉強、頑張って来い? 連絡するからな?」
「うん」
アンジェリークが校舎の中に入っていくと、レイチェルがそこで待っていてくれていた。
「行こうか? アンジェ」
「うん」
二人はくすっと微笑み会った後、ゆっくりと教室まで階段を上ってゆく。
「良かったね? アンジェ」
「うん!!」
レイチェルの言葉を、彼女は今強く噛み締めていた。
アリオス…。
レイチェル…。
院長…。
本当に有難う…。
「さてと、アリオスさん」
不敵な笑みを浮かべながら、院長はアリオスを見る。
「何ですか」
「あの子を不幸にしたら承知しませんよ?
彼女は、あの子の叔父のカティスからの大事な預かり物ですからね?」
「判ってる。あいつを不幸にするわけねえ。絶対だ」
きっぱりと、しかも力強く言い切ったアリオスに、院長は深く頷く。
この男性だったら、アンジェリークを預けても大丈夫でしょう…
「頼みましたよ」
「ああ」
二人は互いに見つめあい、頷きあった----
アンジェ…。何があっても、俺はおまえを離さないから…。
幸せにするから…
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数日後、アンジェリークはアリオスの実家で、彼の父と義理の母であり今は華やかな世界から身を引こうとしている、エリーズに会った。
「まあ、なんて可愛らしい! アリオス、あなたもすみにおけないわね?」
「言ってろよ」
実際に逢うエリーズはとても気さくで、思いやりのある女性だった。
しかも、アリオスの父とはかなりアツアツで、アンジェリークは当てられているのが良くわかった。
「アツアツね?」
「だろ? 俺たちもあててやろう?」
アリオスが彼女の肩に手をまわし、軽くキスをする。
それは何よりも甘くて、くらくらする。
そんな二人の幸せな様子を見つめながら、エリーズと彼の父も嬉しそうに微笑んでいた。
エリーズとの楽しい対面も終わり、アンジェリークはアリオスに車で家まで送ってもらった。
「アリオス、今日は楽しかった。エリーズさんも、アリオスの言ったとおりの女性だったし…」
アンジェリークはそこで言葉を切ると、躊躇いがちに彼を見つめた。
「アンジェ?」
「----アリオス、私ね…、凄く、エリーズさんに嫉妬してた自分が、なんだか情けなくなっちゃって…」
「アンジェ…」
アリオスは優しく微笑むと、彼女をそっと抱きしめた。
「これからも…、いっぱいやきもち妬いちゃうかも…」
「いいぜ? いっぱい妬けよ? おまえは可愛いからな?」
「アリオス・・・」
二人は見詰め合うと、そっと唇を重ねた。
先ほどのものとは比べ物にならないほど甘く深い。
唇を吸いあい、舌を絡めあって、二人はお互いの愛情を確かめ合う。
ようやく唇が離されると、アンジェリークは頭の芯までぼんやりとするのが判った。
「アンジェ、これ・・・」
アリオスはそっとベルベットの箱を彼女に差し出す。
小さなピンク色の箱。
中には、彼女の瞳と同じ色のエメラルドの指輪が入っていた。
「アリオス?」
大きな青緑色の瞳にいっぱい涙をためて、彼女は嬉しさの余り身体を小刻みに震わせた。
「言っただろ? おまえと結婚するって? だからこれはその約束だ」
左手をゆっくりと取られて、彼は薬指にそれを填めた。
その瞬間、アンジェリークは今までの思いがすべて心に押し寄せてくるような気がした。
「ずっとついてきてくれるか?」
「アリオス!!」
二人は情熱に任せてしっかりと抱きあう。
再び唇が重ねられる。
二人はもう二度とはなれないと、心に誓い合った。
TO BE CONTINUED・・・
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コメント
次回、いよいよ最終回です!!
おたのしみに!!
なんて、楽しみにしているかたはいるのか(笑)
次回はあんまり出てなかったバンドのメンバーも出ます。
今回は、楽しくて、さくさくかけました〜。
一時間ぐらいで…(笑)
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