Destiny 10


 ゴールデンウィークに入り、アンジェリークは、”Dolis”のプロモーションビデオに出演するために、海外の小国へと渡った。
 レイチェルもバカンスがてらついてきている。
 ついたその日は、疲れてぐったりとして、丸太のように眠ったが、撮影当日にはすっかり元気を取り戻した。
 早朝、アンジェリークはメイクのために、サラの部屋にこもった。
「ホント、あなたって綺麗な肌してるわね〜。ぷよぷよして可愛い〜!!」
「あ、あの・・・」
 サラの勢いに押されて、アンジェリークは恥ずかしそうに俯いてしまう。
「ホント! うらやましいくらいだよ〜」
 レイチェルもそう付け加えてくれるので、アンジェリークは益々はにかんでしまう。
 そこがまた可愛らしくて、レイチェルもサラもくすりと笑った。
 サラの手によって磨きがかかり、アンジェリークは、益々美しく、清らかになっていった。

 純白の、オーガンジーの羽根がついた衣装を身に纏えば、本当に天使のように見える。
 感嘆の溜息がレイチェルから零れ落ちる。
「綺麗…」
 今のアンジェリークは天使そのもので、親友であるレイチェルですらもその神々しさに見惚れた。
「ホント、綺麗だよ、アンジェ…」
「有難う…」
 レイチェルの表情は真剣そのもので、アンジェリークの心はその表情を見るだけで嬉しさを感じた。
「さ、アンジェ、行こうか?」
「うん」
 レイチェルに手を引かれて、アンジェリークは、撮影場所である、森の中に向かった。


 森に到着すると、すでにアリオス以外は衣装を着てスタンバイしていた。
 全員、黒いスーツに身を包んでいる。
「これは・・・!!」
 最初に声を上げたのはベースのオリヴィエだった。
 彼はアンジェリークに近づくなり、嬉しそうに微笑んだ。
「天使そのものじゃない!!」
「ホントだ…。天使を歌った全てのミュージシャンにみせたいよ」
 キーボードのセイランもやってきて、アンジェリークに満足げな微笑みを浮かべた。
「ホント、アリオスにもったいない・・・」
 と、辛口な一言も忘れてはいなかった。
 続いてはバンド一の堅物、ヴィクトールも、アンジェリークに近寄ってくる。
「なんともまあ、愛らしい…」
 その率直な意見に、彼女は頬を染める。
「やっぱりい。予想通りお嬢ちゃんは綺麗だな」
 やってきたのは、バンド一のプレイボーイであるギターのオスカーだった。
 彼は来るなり、アンジェリークの肩を抱き、耳元で囁く。
「なあ、お嬢ちゃん、アリオスなんか止めて俺と・・・ってえ!!」
 その声にアンジェリークが顔を上げれば、そこには不機嫌そうなアリオスが立っていた。
「何しやがる!!」
「アリオス…」
「俺の女に手を出すな、オスカー」
 低い声でオスカーに警告すると、アリオスが、今度はアンジェリークの肩を抱く。
「平気か? アンジェ」
「うん」
 勿論アリオスは、オスカーが冗談でしたことは判っている。
 だが、独占欲の強い彼にとっては、それだけでも嫌なのだ。
「ほら、撮影だ…」
「うん・・・」
 彼に肩を抱かれながら、彼女は初々しくも、撮影場所である泉のほとりに向かう。
 二人の姿を見つめながら、バンドのメンバーや周りのスタッフも嬉しそうに笑った。 

                                  -------------------------------------------

「ACTION!!」
 カチンコの音が鳴り撮影が開始された----
 アンジェリークは、泉のほとりで水をすくって飲んだり、森の中をスキップして回るシーン、メンバーが追いかけてくるのを逃げるシーン。
 泉の前でくるくると踊るシーンなどを撮影した。
 撮影は順調に進み、このロケで撮影するのは一シーンのみとなった。
「ACTION!!」
 プロモーションビデオのラストシーンは、森で倒れたアリオスを天使が癒すというシーンだった。
 アンジェリークは、アリオスに近づくと、自然に彼の頬に自分の頬を寄せる。

 きっと…。
 きっと、私ならこうするから…

 そのシーンは誰もが魅入ってしまい、そのまま監督ですら、これがプロモーションビデオの撮影だとは忘れさせた。
 ようやく、監督が気がつき、彼は慌てて声をかけた。
「カット!!」
 途端に、現場に行った全員が、大きな拍手を二人に送った。
「終わりだな」
「うん・・・」
 アリオスはそのまま彼女と一緒に起き上がり、ぎゅっと手を握る。
「まだ、残ってる」
「何が?」
「サラ!」
「はい」
 アリオスが合図をすると、ヴェールを持ったサラと、ブーケを持ったレイチェルがやって来た。
「ほらアンジェちゃん」
 サラは、あいも変わらずなてきぱきさで彼女の頭にヴェールを被せ、化粧を直す。
「え、アリオス…」
 戸惑いがちに見つめる彼女に、彼は甘い微笑で答える。
「カティス!!」

 ・・・え?

 叔父の名を呼ばれて、彼女ははっとした。
「アンジェリーク、久しぶりだな?」
「叔父様!!」
 懐かしい声と姿が目の前に現れて、彼女は全身を震えさす。
「アリオス…」
 大きな瞳に涙をいっぱいためて、彼女は彼を見つめる。
「アンジェ、今から式を挙げるぞ? だからカティスさんにも来てもらった」
「叔父さん…」
 アンジェリークはそのままカティスに抱きつく。
「おまえの最高の門出だからな。来たぞ? 幸せになりなさい…」
「はい、はい…!!」
 彼女は嬉しくて、たまらなくて、わんわんと泣いた。
「ほら、アンジェちゃん、花嫁さんがそんなんじゃ…」
「はい、はい・・・」
 サラは苦笑しながら、彼女の化粧直しをした。


 それから暫くして、近くの小さな教会で、二人は結婚式を挙げた。
 教会には、Dolisのメンバー、レイチェル…、エルンスト、そしてエリーズやアリオスの父もいる。
 アンジェリークはカティスと腕を組んで、アリオスの待つ祭壇へと向かう。
 そこで彼の手に引き継がれて、誓いの場所へと進む----
 指輪の交換と誓いのく誓いの口付けが交わされる----

 色々あったけれども・・・、私たちは、今ようやく、本来あるべき形になった。
 もう、離れないから…、アリオス。

 俺の理想の少女よ。
 俺はずっとおまえを見守ってゆくから----

 多くの証人が集う元に、二人は今、新たな”二人”となった----

---------------------------------------------------       

 Bright Of Angelは、DOlisにとっては、今までで最高のヒット曲になるとともに、各国では軒並み新記録を打ち立てる、記録的な大ヒットとなった。
 そのプロモーションビデオの出来もよく、賞を総なめにした。
 マスコミは、謎の”天使”の人気が高まるにつれて、様々な調査をしたが、謎のままだった。

 今日もどこかのTV局でビデオが流れる。
 それを見つめながら誰もがうっとりと溜息を吐く。
 ビデオの最後のメッセージを見て、こんな風に愛されたいと誰もが想う。

 FOR MY DOLIS

 俺の”理想の少女”へ----

THE END



バンドと私

前半は、だれだれで更新していたバンドものでしたが、なんとか大団円を迎えることが出来ました。
誰もが、憧れのスターと恋に落ちたいと考えることだと思います。
それが今回のテーマでした。
私は、昔、今や大バンドになってしまった某バンド(笑)
のデビュー前のライヴをみたことがあります。
そんなことを思い出しながら、同級生がバンドンのヴォーカルをしているな〜
などと思いながら、書かせていただきました。
皆様、最後まで読んでくださいまして、有難うございました!!
Friday, May 04, 2001 10:15:27 PM tink