Destiny 6


「なんだ、幽霊を見たような顔をしやがって?」
「あ・・・、あの・・・」
 先ほどまで喉に出かかっていた言葉を、アンジェリークは飲み込む。
「どうして・・・、学校まで?」
 彼女が戸惑っていると、アリオスは眉をひそめ、不機嫌そうになった。
「来ちゃいけなかったのかよ?」
「あ・・・、そんなんじゃありません・・・」
「言い訳は、車の中で聞く」
「え、きゃあっ!」
 不機嫌な表情のまま、アリオスはアンジェリークの腕を掴んで、車が止めてあるところまで連れてゆく。
 今日の彼は、この間の彼と違って、かなり不機嫌に見える。

 アリオスさん、何かあったの?

 強く握られる腕。
 だがそれは決して不快なものではなかった。
 無言のまま、彼女はアリオスの後を着いてゆく。
 二人の姿を見る生徒たちが、こそこそと『Dolis』のアリオスではないかと噂しているのが、妙にくすぐったい気がする。

 こんなに目立つことを、どうしてアリオスさんはするんだろうか・・・

「乗れ」
「はい」
 彼が電子キーをあけたのは、その姿にふさわしいシルヴァーメタリックのスポーツカーだった。
 当然、助手席を促されて、彼女は戸惑いながらも、乗り込んだ。
 運転席に座るサングラスをかけた彼は、瞳に零れ落ちる前髪をうるさそうにかきあげている。
「あの・・・、どこに行くんですか?」
「お姫様に魅力を判って貰いにな?」
「え!?」
 彼はそれだけ言って、車を出す。
 アンジェリークはわけがわからなくて、大きな瞳をさらのようにして彼を見つめた。
「とにかく、話は昨日エルンストから聞いた。俺はおまえを諦めるつもりはねえぜ?
おまえ以上のモデルはみつからねえからな」
 彼の言葉が心に染み入るのを、彼女は感じる。
「-----私なんかより・・・」
「その私なんかって言うのは止めろ? おまえは今のままで充分可愛いし、人をひきつける魅力がある」
 説得力のあるアリオスの言葉に、彼女は徐々に心を解き放ち始める。
 彼の言葉は自信を持たせてくれるから不思議だ。
「ホントにそう思いますか?」
「ああ。思う。
 ----それと、俺の前では敬語は止めろ? 頼むからな?」
「はい・・・」
 頬を赤らめながら彼女は頷いた。

 アリオスさんの言葉は説得力があって、こんなところが多くの人たちを惹きつけるところなのかもしれない・・・。
 私もすでにとらわれている・・・。
 アリオスの魅力に・・・。

 彼の整った横顔に見惚れながら、彼女は落ち着こうと深呼吸をする。
 やはり、アリオスの前では緊張してしまうのだ。
 そんな彼女を察してか、アリオスはMDをかけ始めた。
 その音楽は、この間聞かせてもらった、Dolisの未発表曲だった。
「・・・いつ聴いても・・・いい曲」
「サンキュ」
 彼女の賛辞なら、アリオスは素直に受け入れることが出来るような気がする。
 この天使のような純粋な心を持った少女ならば。
「この曲のタイトル・・・、おまえに逢ってから、浮かんだ・・・」
「え? どんなタイトル?」
 思わず訊きたくて、彼女は身を乗り出して彼に尋ねる。
 その青緑の瞳はとてもきらきらしているせいか、彼を苦笑させた。
「”Bright Of Angel”。これしか思い浮かばなかった」
「”Bright Of Angel”」
 彼女は噛み締めるように反芻する。
 なんだかこのタイトルを訊いて、彼女はさらにこの曲が好きになった。
 美しく荘厳なのに、ちゃんとロックバラードになっている幻想的な曲。
 彼女はこの曲が自分のために奏でられたらどんなに幸せだろうかと思った。
 彼女を乗せた車は、静かに目的地へと向かっていた----  

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「ここは?」
「コスチュームスタジオ」
「へ?」
 車を降りるなり連れて行かれたのは、著名なコスチュームデザイナーのスタジオだった。
 ロック界に疎いアンジェリークですら、知っているデザイナーである。
 最近では、アイドル系のアーティストたちを多数手がけている。
 当然、”Dolis”も顧客である。

 どうしてこんなところに私を・・・

「ほら、ぐずぐずしてないで、行くぞ?」
「あ、アリオス」
 彼女はそのまま彼に引っ張られて、建物の中へと連れて行かれた。
 中に入ると、コマーシャル、映画、TVは勿論のこと、アーティストのコスチュームを着た写真までが丁寧に飾られている。
 それらに当然アンジェリークも目を奪われた。

 これもみんな見たことのある衣装だわ!
 凄い〜
 ----でも、どうして私をここに連れてきたんだろう・・・。

「アリオス、どうしてここに?」
「だから言っただろ? おまえに自信をつけさせるためだって。
 丁度コスチュームの衣装合わせになるしな?」
「え、でも、そんな、私、まだ”YES”って言ってない・・・」
「いいから、来い」
 戸惑う彼女をよそに、アリオスは有無を言わせず衣裳部屋へと彼女を連れて行った。
「すまねえ、おそくなった、サラ」
「アリオス・・・、まあ、なんて可愛らしい天使さんなのかしら!!」
 突然長身の女性がやってくるなり、アンジェリークの手を取ったので、彼女自身面を食らってしまった。
「あ、あの・・・」
「頼んだ、サラ」
「任せといて!」
 ふっと、アリオスは微笑むと、ロビーへと出てゆく。
「あ、アリオス〜」
 彼女は眼差しで彼を追いかけ、そのまま身体も追いかけていこうとする。
「こら、そんな顔するな? すぐすむから。な?」
「・・・うん・・・」
 彼はそんな彼女が可愛くて仕方なく、本当に優しい眼差しを向ける。

 こいつの瞳を見ているだけで、こんなに心が満たされるとは・・・。
 今までなかった。

「じゃあ、頼んだぜ?」
「オッケ! とびっきり可愛くするからね〜」
 アリオスが部屋から去った後、サラはにこりとアンジェリークに微笑みかける。
「名前は?」
「アンジェリークです」
「まあ”天使”ね。おあつらえ向きだわ。さ、本物の天使になりましょ♪」
 肩を抱かれて、アンジェリークはドレッサーへと向かった。 

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「すごい! 似合ってるわ!! あなた最高よ。アリオスもすぐ来るから待っていてね」
 サラが離れて、アンジェリークは前身が写る大きなミラーで自分の姿を見つめ、息を飲んだ。

 これが・・・、私・・・

 鏡に映っている、純粋な白の天使は自分だとは信じられない。
 彼女の大きな青緑の澄んだ瞳が際立つようにメイクが施され、夢見るような表情になっている。
 着せられた衣装は、白いオーガンジーがふんだんに使われた真っ白意味にスカートのワンピース。勿論オーガンジーのストールがついてる。
「アンジェリーク、出来たって・・・!」
 入るなり、彼女の姿を認め、アリオスは息を飲む。
 そのまま、彼女の純白な美しさに暫し見惚れてしまった。

 綺麗だな・・・。
 誰よりも綺麗だ・・・。
 こんなおまえを、俺は・・・
 俺は・・・

 彼の心に激しい独占欲の炎が浮かび上がる。

 誰にも渡したくない!!
 アンジェリークを・・・

 彼はふと険しい眼差しをアンジェリークに送る。
「アリオス?」
「来い」
 三度、彼は彼女の手首を掴んで、どこかへと連れてゆく。
 アンジェリークはそのまま引きずられるようにして彼に再びどこかへと連れて行かれた。


 連れて行かれたのは、コスチュームスタジオの裏にあり、撮影でも使われる、小さな森だった。
 普段は公園としても使われている。
 アリオスは相変わらず険しい表情で一言も話さない。
 それが彼女を不安にさせる。

 ヤッパリ、気に入らなかったのかな・・・

 彼女は肩を落として、だんだん元気が無くなってきた。
「アリオス・・・、やっぱり、気に入らなかった?」
 彼女が力なく囁いた瞬間、彼は彼女に向き直り、顎を持ち上げる。
 そして----
 そのまま息をつかせぬまま、彼は激しく彼女の唇を奪った。
 その情熱を伝えるために。 

TO BE CONTINUED・・・



コメント

バンド物の六回目です。
集中UPの餌食です(笑)
なんだか、高校生に帰った気分で書いておりまする。