
翌日、アンジェリークは、ロックバンド”DOLIS”のことについて知るために、レイチェルにCDやDVDを持っているかと尋ねた。
レイチェルは、楽しそうにアンジェリークを見つめてきた。
「何、アンジェもようやく人並みにバンドに興味を持ったんだ」
「・・・昨日何かで聴いた曲がとてもよかったから・・・」
「そうなんだ! DOLISのことなら任せてよ!! ワタシの知り合いがね、詳しくて、うちには出謬^当時からのものが全部あるよ」
「ホント!!!」
とても明るくなった彼女の表情に、レイチェルは悪戯っぽい眼差しを彼女に向け、含み笑いをする。
「アンジェは誰がいいと思ってるのよ?」
「え、誰って・・・その・・・」
はにかむアンジェリールが可愛くてたまらなくて、レイチェルはつんつんと肩をつついた。
「ギターのオスカー、ドラムスのヴィクトール、キーボードのセイラン、ベースのオリヴィエ。そして、ヴォーカルのアリオス」
”アリオス”と言った所で、彼女の肩がぴくりと震える。
それを見逃すレイチェルではない。
「あ〜、アリオスだっ!! アリオスだ、アリオスだ〜!!! だって、アンジェ、真っ赤になってるもん」
レイチェルはわざとその名を繰り返し、彼女は真っ赤になる。
「ヤダ、レイチェルのバカ・・・」
恥ずかしそうに真っ赤になりながら、顔を覆う彼女が可愛くてたまらない。
「アリオスだったら、いっぱい映像あるからね〜」
「もう・・・」
親友の話に真っ赤になりながら、アンジェリークは俯いてしまった。
その様子を見つめながら、レイチェルは目を細める。
昨日、エルンストから聞いた、アリオスさんがスカウトしてきた”スモルニィのアンジェリーク”って、この子のことだよね、きっと。
このコしかいないもの、”一人暮らしのアンジェリーク”は・・・。
----アリオスさんか・・・。
あのコ、傷つかなきゃいいけど・・・
明るい少し内気な少女のことを理解しているレイチェルにとっては、これが一番の杞憂だった。
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放課後、アンジェリークはレイチェルの家に行って、”DOLIS”のインディーズ時代からのビデオクリップを、貪るように見ていた。
インディーズ時代のアリオスは、今より少しとがった感じで、髪も黒く、少し長めだった。
だがその声は、張りがあって、艶やかで、とても魅惑的だ。
インディーズ時代のビデオは、どれも低予算のせいか、ライヴ・シーンが多かった。
その中でも、インディーズのラストビデオは、ストーリー性があり、アリオスと絡んでる少女に、アンジェリークは一瞬目を見張った。
見たことのある顔立ち。
金髪のロングヘア。
「え〜、え〜、え〜、レイチェル〜!!」
彼女は大きな瞳を開いて、親友を指差して、驚いている。
そのアンジェリークの仕草が、彼女には妙に照れくさい。
「あ・・・、それは、ワタシの知り合いが、彼らのマネージャーをしててね? んで、お金がないからって借り出されたの」
「マネージャーって、エルンストさん?」
「・・・うん・・・」
珍しくもレイチェルが恥ずかしそうにするので、鈍いアンジェリークにもそれが何を意味しているかがわかる。
ふ〜ん、そういうことか・・・
彼女はうれしそうにふんわりとレイチェルに微笑みかけると、再び、画面に釘づけになった。
「今からが、メジャーデヴュー後よ」
アンジェリークはしっかりと頷いただけで、画面に集中する。
その姿に、レイチェルはくすりと苦笑した。
真摯にずっと見つめる彼女が可愛いとすら、レイチェルは思う。
彼女が見つめているのは、アリオス、その男性だけ。
大きな青緑の瞳が、綺麗に輝いて、レイチェルですらその魅力に抗えないような気がする。
夢中になってるアンジェって、凄く可愛い!
ふふ、アリオスさんもいいところに目をつけたと思う。
だけど・・・。
このコが傷ついた顔は、やっぱリ見たくはないもの・・・
アンジェリークはじっと音楽と、アリオスの歴史を堪能する。
アリオスさんって、やっぱりカッコいいな・・・。
こういうスポットライトが良く似合う・・・
そう思うと、アンジェリークは寂しく感じる。
映像の中では、みんなに、意地悪な魅力的な微笑を浮かべてる・・・。
ブラウン管の前にいると、なんだか自分にだけ微笑みかけられているような気がする・・・
ホントは違うのに・・・
私だけのものじゃないって思うと、なんだか切ない・・・
現在に映像が近づくに連れて、アリオスは洗練されていっている。
今や、くらくらするほど素敵だ。
有名になっていっているのか、プロモーション・ビデオの作りも、複雑になっていったいる。
そしてまるで映画のようにストーリー性のあるものに仕上がっている。
夢中になって観ているうちに、彼女ははっとと息を飲んだ。
そこには彼女とは正反対の、とても大人の女性がいて、アリオスと口付けをしたり、ストーリー上、軽いベッドシーンなどもある。
正視できなかった。
昨日、自分に口付けてくれた彼が、演技とはいえ、他の女性と激しい口付けをしているのが、我慢できなかった。
呆然と見ていると、そこでDVDは切れた。
青ざめた彼女の横顔がそこにある。
「アンジェ・・・」
声を掛けようにも、その横顔が余りにも寂しげで、レイチェルは戸惑う。
「あ、うん、レイチェル、有難う・・・」
彼女はすっかり上の空で、そのまま時計を見て立ち上がる。
「あ、もう、ごはんのしたくしなきゃ・・・、あ、CD借りて行っていい?」
「どうぞ」
なるべく彼女を慰めるようにと、レイチェルは笑顔を浮かべた。
「有難う、レイチェル・・・。じゃあ、又明日ね?」
「うん、ばいばい、アンジェ」
すっかり力を落として帰ってゆくアンジェリークを見送りながら、レイチェルは切なく溜息をつく。
純情だからな、アンジェは・・・。
このままだと、きっと、あの件は断っちゃうだろうな・・・。
エルンストに話して、先に手を打って貰わなきゃね・・・
早速、彼女は、恋人エルンストへと電話を掛け始めた-----
ヤッパリ、私には無理・・・・。
昨日のキスだって・・・、きっと、私をその木にさせる、彼一流のマジックだったのかも・・・
とぼとぼと彼女は家路を辿る。
レイチェルから借りたCDのケース類が冷たく乾いた音を立てていた-----
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翌日、断る決心がすっかりついたアンジェリークは、少し晴れやかな気分になって、校門を出た。
「よ、アンジェ、待ってた」
艶やかな声に導かれて、顔を上げると、そこには、サングラスをかけ、黒いレザーのパンツとジャケットを着こなした、くらくらするほど魅力的なアリオスが、そこに立っていた。
アリオス・・・、どうして・・・・
TO BE CONTINUED・・・
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コメント
バンド物の五回目です。
これから集中UPしてゆきますのでよろしくお願いします!
この連載が終われば、長年の計画だった連載が始められる〜。
でもこれも書いてて楽しいです。
昔を思い出すから(笑)
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