Destiny 3


 アリオスがアンコールでステージに立っている間、アンジェリークは一人楽屋に取り残されていた。

 アリオスはさんは一体どう思っているのかしら…。
 私なんかをライヴに呼んで、どういうつもりなんだろう・・・。

 彼女はうろうろと落ち着き泣く楽屋を歩き回る。
 ちらりと時計を見ると、既に九時を回っている。

 やっぱり帰ろう・・・。
 アリオスさんはああ言ってくれたけれど、やっぱり私・・・

 ドアノブに手をかけようとした時、ふいにそこが廻り、彼女はたじろいだ。
「あ、やっぱり。アリオスのカンは鋭いですね?」
「あ、貴方はさっきの・・・」
 そこにいたのは、先ほどアンジェリークを会場へと案内してくれた、生真面目そうだが、好感のもてる男性だった。
 アンジェリークは気まずそうに俯くと、ドアの隙間から出て行こうとする。
「待ってください」
 呼び止められて、彼女はびくりと身体を震わせ、大きな青緑の瞳を困ったように潤ませ、彼を見た。
「とにかく、アリオスの話を聞いてあげてください。帰るのは、その後でもよろしいでしょう?」
 生真面目な彼にこういわれると、彼女は頷くしかない。
 それに、向こうから頼んでくれているのに、ここで帰るのは余りにも失礼だと思ったからだ。
「よかった、とにかくそこに座ってお待ちください。もう直ぐアリオスも帰ってくると思いますから」
 促された椅子にちょこんと座る彼女は、なんともとよりなく、不安げにエルンストには映り、苦笑する。
「早々、申し送れましたが、私は、”DOLIS”のチーフマネージャーを務めています、エルンストと申します。宜しくお願いいたします」
 生真面目な挨拶と共に、エルンストは名刺をあたりまえのように彼女に差し出し、彼女もそれを軽く会釈をして受け取った。
「アンジェリーク・コレットです。スモルニィ女学院の二年生です」
 彼女も自己紹介をし、彼らは互いに聞きなれた名前に頭を少しばかりひねる。

 レイチェルの恋人の名前も、確か、エルンストさんって言ったっけ・・・。
 業界の人だって聞いたことあるけど、まさかこの方じゃないわよね・・・。
 都市も離れてそうだし、こんなきっちりした固い方だったら、レイチェルみたいなアクティヴな女の子には退屈なんじゃないかな・・・
 でも、凄い偶然!!


 まさか、レイチェルが言ってる”親友のアンジェリ−ク”は彼女では・・・?
 レイチェルの話ともつじつまが逢いますし、歳も似ている。
 だが、一人暮らしをしている女の子にしては、彼女は少し頼りないような・・・

 二人は互いの顔を見て、軽く笑って見せた。

 まさかね----

「すまねえ! 遅くなった」
 彼女にとっては、すっかり聴き慣れてしまった甘いテノールと共に、汗を宝石のように光らせたアリオスが部屋の中に入ってくる。
 その途端、アンジェリークの表情が一気に輝き、太陽のようになったことを、エルンストは見逃さなかった。
 そして、アリオスの、いつもは冷たさを帯びている異色の眼差しが僅かに和らいでいることを、彼は知る。

 これはひょっとして・・・、でしょうか?

 二人が、見詰め合ったのもつかの間、バンドのメンバーが次々に楽屋へと入ってきて、アンジェリークは目を丸くした。
 あたりまえといえばそうなのだが、その賑やかさと、全員が全員見事なまでの美形ぶりに、息を飲む。
「あっ!」
 最初にアンジェリークを見つけ、声を上げたのはオスカーだった。
 続いて誰もがアンジェリークをじっと見つめ、満足そうに微笑む。
 彼女は、彼らが何故そんなに自分だけおWじっと見つめるのかが判らなくて、顔を耳まで赤らめた。
 その様子が、またもやアリオスの心の琴線に触れ、彼は満足げにフッと微笑む。

 全く、こんなに歌詞通りの少女が見つかるとは思わなかった・・・
 神に感謝したい気分だ。

「おいアリオス、このお嬢ちゃんを俺たちにも紹介してくれ」
 最初に口を開いたのはオスカーだった。
「そうだね、してほしいね」
 続いてセイランも言う。
 期待と好奇の目が自分に注がれるのを彼女は感じ、少し戸惑ったが、何とか背筋を伸ばし、彼らに向かい合う。
「アンジェリーク・コレットと申します宜しくお願いします」
深々と彼女が頭を垂れると、メンバーからは口々に『よろしく』という挨拶が漏れた。
「じゃあ、俺たちも紹介しなくちゃな」
 軽くウィンクをして、オスカーは艶やかに微笑む。
「俺はオスカー、ギター担当だ。よろしく」
「宜しくお願いします」
次に笑いかけてきたのは、いかにも最近のミュージシャンらしく細身できらびやかな容姿が目を引くオリヴィエだ。
「ベース担当のオリヴィエだよ。宜しく☆アンジェちゃん」
 かれもまたウィンクで挨拶をするので、彼女はその魅力に思わず吸い込まれてしまった。
「よろしく・・・、お願いします」
「次は、僕の番だね?」
 彼女は、その、感情があまり感じられない声に、思わず聞き惚れる。
「僕はセイラン。キーボード担当だよ。宜しく、アンジェリーク」
「はい、宜しくお願いします』
 ついっと揺れるきれいな絹のような髪に、彼女は憬れにも似た思いで見つめた。
「最後にドラムス担当、ヴィクトールだ。宜しく!!」
 堅剛質実のような彼に、頼りになる人柄と思いながら頭を下げる。
「こちらこそ宜しくお願いします」
 一通りの挨拶をこなし、彼女は少しだけ柔らかな表情をアリオスにだけフッと送る。
 彼もそれに応じてか、滅多に見せないような、とろけるような特上の笑顔を彼女に浮かべて見せる。
 そこにいる誰もが二人の間に、暖かなものを感じずには要られなかった。
「さて、早速だがアンジェ、おまえに聴いてもらいたい物がある」
アリオスの異色の眼差しをゆっくりと見つめながら、彼女は不思議そうに頭をかしげ、彼の言葉を反芻する。
「聞いてもらいたいもの?」
「エルンスト」
「はい、判りました」
 言って、彼はMDのスイッチを入れた。
 その音を最初に聴いた時、アンジェリークは背中に旋律を覚えた。
 壮大で美しい繊細なその曲は、聴くものを魅了せずに入られない。
 彼女は鳥肌が立つほどの感動を、今まで”音楽”によって与えられたことは、一度もない。
 その感情が一気に噴火したようにさえ思う。

 何て、素敵な曲なんだろうか・・・・

 うっとりと聞き惚れながら、彼女の心は曲の世界の中にどっぷりと引き込まれていた。
 曲が終わり、彼女は無意識に大きな拍手をしてしまった。
「すごい!! 今までの中で一番言い曲かもしれないわ・・・」
 彼女の感動の興奮に、誰もが嬉しそうに微笑む。
「よかったか?」
「そりゃあ、もう! 最高です!!」
 彼女のあまりもの率直過ぎる反応に、アリオスは確信を持つことが出来た。

 この曲は最高の出来になるだろう・・・

「で、曲をイメージしながら聴いて欲しいことがある」
 アンジェリークはアリオスだけを見つめながら、頷く。
「この曲のモチーフは天使。
 プロもでは、幻想的な美しさの天使が必要だ」
 言って、メンバーが誰もが彼女に注目する。
「俺たちはずっとモチーフの天使を捜し回っていたんだが、今ようやく見つけた」
 言って彼は真摯な影がかかった瞳を見つめる。
「この曲のプロモーションビデオに出てみねえか?」
 彼女は、突然の申し出に、思わず息を飲む。。

 この曲のプロモーションビデオだなんて、
 私には務まるんだろうか!?
 

TO BE CONTINUED・・・



コメント

バンド物の三回目です。
次回からはエンジンがかかってゆきますので、宜しくお願いします!