DESPERADO

CHAPTER4 


「大丈夫だ、俺がついてる…」
「…ん…、アリオス…」
 アリオスは、なるで幼い子供を宥めすかすように、アンジェリークの背中をそっと撫でてやる。
 二人を見守るように、オスカー、ヴィクトール、そしてランディが見つめる。
 彼らは思う。
 誰が断ち切ろうとしても、決して断ち切ることが出来ない強い絆がそこにはあると。
「----アリオス、もうちょっとこうしてて…、あなたの胸の鼓動を聞いていると安心するから…」
「アンジェ?」
 アンジェリークはゆっくりと眠るように意識を失い、アリオスの腕の中で崩れ落ちた。
 最初に駆けつけてきたのはオスカーだった。続いて、ヴィクトール、ランディと続く。
 不安げな表情が、彼らによぎる。
「----大丈夫だ…。安心して、気が抜けたんだろう。直に目が覚める」
 アンジェリークを軽く抱き上げると、アリオスはゆっくりと歩き出す。
「ヴィクトール、この辺りで彼女を休ませる場所はあるか?」
「ああ。余り目立たない方がいいなら、この近くに”ハミングバード”という小さなホテルがある。そこはどうだ?」
「そうだな。目立たねえほうがいい」
「じゃあ、手配してくるから、おまえは自分のBMWで待機しとけ。 トーラスは俺が乗ってゆくから」
「サンキュ」
 アンジェリークを抱えたまま、アリオスはヴィクトールが乗って来たと言うよりは運んできた、愛車BMWのスポーツカーに向かう。
 先ずは、気絶しているアンジェリークを助手席に乗せ、シートベルトをさせてから、自らも運転席へと乗り込んだ。
「アリオス」
 オスカーがドアを叩き、アリオスはウィンドウを開ける。
「何だ」
「すまないが宜しく頼む。立場上目立ってしまうから、俺たちが動けなくて、すまないな」
「いや。その代わりサポートをよろしく頼む」
「任せとけ」
 信頼の眼差しをアリオスに向け、オスカーは深い微笑を湛えながら頷いた。
 オスカーと入れ違いで、今度はヴィクトールが走ってやって来た。
「ホテルが取れた。。場所と電話番号だ。俺たちも近くに待機をするから」
 ホテルの場所が走り書きされたメモをヴィクトールから渡され、彼はそれをしっかりと握る。
「サンキュ」
 ヴィクトールに一瞥を送ると、彼はゆっくりと車を、ホテルに向かって出す。
 彼らを見守るかのように、後ろから二台の車が距離をおいて走っている。
 もちろん、オスカーの車と、ヴィクトールの車だ。
 眠っているアンジェリークを起こさないように、車に振動がかからぬよう、アリオスは、丁寧に運転した。
 それでもホテルまでは約10分ほどで到着した。
 フロントでの手続きを済ませ、アリオスは、アンジェリークを部屋まで運び、ベットへと寝かしつける。
 部屋は、ツインルーム。
 アリオスも隣のベットで休息を取る為だ。
 彼がつかの間の休息を取る間は、ヴィクトールとオスカーが一緒についてくれた。
 昨夜も実は、真夜中の3時間ほど、アリオスが睡眠をとっている間、ヴィクトールが着いていてくれたのだ。
 もちろんアンジェリークは、このチームプレイを知らない。
 アリオスがつかの間の休息を終え、シャワーを浴びて戻ってきても、アンジェリークはまだ眠りつづけていた。   

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 アンジェリークが次に目覚めたときは、時計の針は4時を少し回っていた。
 ホテルに入ったのは10時過ぎだったので、彼女はほぼ6時間は眠りについていた計算になる。
 目を開けて最初に見えたのは見慣れない天井。
 彼女の脳裏に、先ほどの出来事がうっすらとよみがえってゆく----

 そうか・・・。私、連れ去られそうになって、アリオスに助けられた後に、そのまま意識を失ったんだ…。

「どうだ? 気分は」
 艶やかなな低い声が降りてきて、顔を上げると、脇に立っていた銀色の髪を持つ青年の姿を認める、アンジェリークは安心する。
「ん…、大分いいみたい」
 彼女は髪をかきあげながら、ゆっくりと体を起こす。
「そりゃ、よかった」
 ぶっきらぼうに言って、ベットの枕もとに腰を下ろすと、アリオスはアンジェリークを見た。
「シャワーを手早く浴びて、頭をすっきりさせとけ。着替えは脱衣室に置いてる」
「ん…、そうする・・・」
 頷いて、アンジェリークは縋るように、アリオスを見上げる。
「何だ?」
「----有難う」
 彼は、深い優しさを含んだ微笑をフッと浮かべると、彼女の栗色の癖のない髪をクシャりと撫でてやった。
「礼はまだ早いぜ? さっさとシャワーを浴びて来い」
「うん…」
 ベットから凄い勢いで飛び起きると、アンジェリークはバスルームへと消えた。
 アリオスはそれを見計らうかのように、愛飲する煙草マルボロをポケットから出し、口に銜えた。
 ライターで火をつけ、紫煙をくゆらせる。
 彼は大きく紫煙を吐き捨てると、そのまま煙草の火を揉み消した。
「これを使うことがないことを祈りたいが…」
 切なげに低く呟くと、彼はコートの胸ポケットから小口径の銃“レミントン・デリンジャー”を取り出した----


 アンジェリークがシャワーを浴び終えると、脱衣室には、白タートルネックのセーターに、赤のショート丈のダッフルコート、ジーンズと動きやすい服が置かれていた。もちろん、下着や、手袋、靴下まで置かれていた。どれもサイズはぴったりだ。
「ありがと…、アリオス」
 彼女は彼に感謝しながら、それらを身に纏う。
 実は、スモルニィの健康記録で彼女のスリーサイズを割り出し、予め用意されたものを、ヴィクトールがBMWに摘んで持ってきたのだった。
「お待たせ。似合う?」
 バスルームから出るなり、アンジェリークは、ファッションショーのモデルのように一回転して見せた。
 その表情は照れくささと嬉しさが入り混じっており、、どこか17歳らしい華やぎがある。
「ああ。よく似合ってるぜ?」
 甘く微笑みながら、アリオスは思う。
 この少女はまだ17歳なのだと、このような困難を立ち向かってゆくには、まだ幼すぎるのだと。
「おい、ちょっとここに座れ」
 彼の視線の先は、先ほどまで彼女が眠っていたベット。
 バットに彼と二人きりで座るというだけで、アンジェリークは耳まで赤くする。
「クッ、何考えてるんだ、バーカ。んなこと俺がするわけねーだろ?」
 アンジェリークの考えていることなど総てお見通しだといわんばかりに、アリオスは喉を鳴らして笑った。
「え、ヤダ…、私ったら…」
 彼女は益々顔を赤らめ、まるで林檎のようになる。
「いいから、座れ」
「うん…」
 二人は、ベットの縁に腰掛ける。
 その瞬間、アリオスの表情は精悍さを増した、真摯なものとなる。
「アンジェリーク」
「何?」
 深い優しさと冷酷な炎が交差した切れるような視線に捉えられて、彼女は息すらも出来ない。
「手を出してみろ」
 言われたように手を差し出すと、彼は胸ポケットから小さな銃を取り出し、それを彼女の掌に置いた。
「どうして?」
 アンジェリークは息を飲み、探るようにアリオスを見上げる。
「万が一、そんなことはないとは思うが…、そのときは、これを使って自分の身を守れ…」
 彼の口から漏れる低い呟きは、今までで一番低く、陰のある響きだった。
「出来ない…。そんなこと…、出来ない!!」
 栗色の髪をさらさらと揺らしながら、アンジェリークは必死になって否定する。
「アンジェ!」
 突然、アリオスに肩をを強く掴まれ、彼女は動きを止め、呆然と彼を見た。
「おまえなら出来る、違うか?」
 額から零れ落ちた銀色の髪が、目の上に降りかかり、激しさと艶やかさに満ちた瞳に、暗い影を落している。
 そんな瞳で見つめられ、そこまできっぱりと言い切られてしまうと、出来るように思えるから不思議だ。
 アンジェリークは戸惑いながらも、コクリと頷いた。
「よし」
 甘く艶やかな優しい微笑を浮かべられると、彼女はドキリとしてしまう。
「この銃は護身用の銃だ。名は、“レミントン・デリンジャー”。22口径だから、よほどの至近距離でない限りは、致命傷は与えられない。おまえのお守りだ」
「うん」
 アリオスの説明を一言一句聞き漏らさないように、アンジェリークは集中する。
 聞くのは自分のみを守るためだ。疎かになんて出来ない。
「使い方は、トリガーを引けばいい。ただ----」
「ただ?」
「弾丸の装填数が2発だけだ。万が一のときは、相手の足を狙え」
「うん」
 震えながらも彼女はしっかりと頷く。その決意がみなぎった大きな瞳は、真摯にアリオスを捉えた。
「----万が一のときだけだからな。そんなことがないように、俺がおまえを守ってやる。だから、安心しろ」
「うん…、アリオス」
 彼の言葉が何よりも嬉しくて、アンジェリークは大きな瞳を涙で潤ませながら、彼を見る。
「----だが…、またおまえを守らなきゃならねえ状況になったみてーだ…」
「え!?」
「伏せろ!!!」
 息を飲む間もなく、アンジェリークは、アリオスに頭を押さえつけられたままベットの下に押し倒される。
 彼が、彼女の体に覆い被さった瞬間、銃声と共にいくつモノ銃弾が頭上を掠め、ベットが銃弾で蜂の巣状態になった。
 アンジェリークの脳裏に、まだ今より幼い自分が、銃弾の中を駆け抜ける映像が一瞬フラッシュバックされる。

 今のは…、何…?

 アンジェリークは背中に冷たいものが流れるような気がして、ゾクリとし、目を大きく見開いた。。
 呆然とするアンジェリークを尻目に、アリオスは、僅かな隙をついて姿勢を立て直す。
 その間も、薄いドアを通して銃弾が、二人に撃ち込められていった。
 アンジェリークを守りながら、アリオスはコートからコルトアナコンダを抜き、ドア越しに見えない相手の位置を、銃弾が発射される位置で、瞬時に判断する。
 彼はドアの上部を狙い、一度だけトリガーを引いた----
 ドアの向こうでドサリとする音がし、それだけで、銃弾は見事に止まった。
「今のうちだ!!」
 アリオスはアンジェリークを抱き起こすが、彼女は愕然として足に力が入らない。
「ほら、行くぞ!!」
 彼に力強く腕を引っ張られて、彼女はようやく現実を思い出す。
 はっとして、彼に引きずられるようにして着いて行く。
 しっかりと大きな手に包まれて、その体温から来る信頼だけが、彼女を突き動かしていた。
 アリオスがドアを蹴破ると、そこには、アリオスの正確な射撃で額にマグナム弾を受けた男の死体が、柱にもたれかかっていた。
 男はライフル銃を手にしていた。

 焦ってきたのか、やつらは----

 何の迷いもなく、アリオスはアンジェリークの手を引いて、1階への最短距離であるエレヴェーターとは反対の非常階段に向かって走る。
 全速力で入りながら、彼女の脳裏に、先ほどフラッシュバックされた映像が蘇る。

 まさか、まさか…、私の過去の映像では…!!

 恐怖と記憶への鍵への思いが交差し、アンジェリークの鼓動を速めている。
 二人が非常階段に消えたとき、エレヴェーターが止まり、ライフルを持った男が降りてきた----   


コメント
お待たせしました!!(誰も待ってないって)「DESPERADO4」をお届けしました。
前回、あれほどアリオスを活躍させるといっておきながら、ページの関係から、こんなところで終わってしまい、とほほです。
次回こそ、次回こそは大活躍させますので、ご期待ください。
しかし、「ANGEL ROOM」のアリオスなら、このシチュエーションできっとキスぐらいはしていたでしょうが、流石にハードボイルド、自制心が強いのね。