空はすっかり闇に包まれたが、アリオスとアンジェリークを乗せた車は、ひたすら孟スピードで走り続けていた。
彼は辺りを見回す。
まだ市街地を出ていない以上、むやみやたらと発砲することは出来ない。
郊外に出てしまえばこっちのものだから、彼は郊外に出る一番近い道を、ひたすら走り続けていた。
「あ、アリオス、あれ!!」
目の前に見えてきたのは、警察の検問を示す赤ランプだった。
アンジェリークの声は助かると思い弾んだが、アリオスは軽い舌打ちをする。
「助かるかしら?」
「サツの相手をしてるほど、俺はヒマじゃねえ」
冷徹な声だった。
「えっ!?」
アンジェリークが驚愕する暇もなく、アリオスは素早くギアチェンジをする。
「いいか、掴まっていろ!!」
「あ、ちょっと、アリオス!!」
トーラス・ワゴンは、検問所に向かって加速する。
聞かなくても判る。彼が何をしようとしているかを。
検問所のバーが視界に入り、車のスピードはさらに増してゆく。
「そこのトーラスワゴン、停止しなさい!!!」
検問所では警告音が鳴らされ、警官が制止しようと懸命になる。
しかし、アリオスはそれを振りきり、ゲートへと突っ込んでゆく。
「うわあああああ!!!」
警官たちが逃げ回る中、彼は、検問バーに向かってアクセルを強く踏み、ハンドルを切った。
一瞬、車は空中を舞い、そのままバーを破壊し、突破してゆく。
轟音と共に、バーの破片はこなごなに砕け、バーの周りにいた警官は悲鳴を上げながら、散り散りになっていった。
「きゃあっっ!」
車が地面に着地をする衝撃の凄さに、アンジェリークは思わず悲鳴を上げる。
トーラスに続いて、追っ手の黒い車も検問を突破した。
慌てた検問所の責任者の警官は、すぐにパトカーに飛び乗り、無線を手にする。
「こちら、GQW−11520。第三ポイントの検問所を突破した二台の車を追跡する。一台は白のトーラスワゴン、ナンバーLEVIATH、もう一台は、黒のフォルクスワーゲン、ナンバーは、CIPHER。ご協力願います」
黒い車に続き、今度はパトカーまでが追跡を開始する。
「ね、パトカーが追いかけてきたよ!!」
小さな手に冷や汗をいっぱい滲ませて、アンジェリークはアリオスの腕を掴んだ。大きな瞳を不安でいっぱいに潤ませている。
彼女の様子に、アリオスの口元にフッと僅かな笑みが浮かんだ。
「・・・心配そうな顔をするな、アンジェリーク。俺がおまえを守ってやる。だから・・・安心しろ」
低く、どこか憂いのある深い声は、アンジェリークの気持ちを不思議と落ち着かせ、彼女の瞳から不安を消し去ってしまった。
「・・・うん・・・」
彼女は、彼の手を取ったまま、素直にコクリと頷いた。
「白のトーラスでナンバーLEVIATH、黒のフォルクスワーゲンでナンバーはCIPHERを追跡の各局へ。追跡停止命令が出た。ただちに追跡を止めるように!」
パトカーの無線から非常な命令が伝わり、警官は舌打ちをしながら速度を緩めた。
「あの二台の車は何なんだ・・・」
「ねえ!! パトカーが遠ざかって行くわ」
アンジェリークは、後ろを振り返りながら、嬉しそうに言う。きっと、犯罪者もこんな気分なのだと思いながら。
しかし、アリオスの表情は全く変わらない。厭世的な冷徹だが、彼にまとわりついていた。
「シートベルトを外しておけ」
「えっ!?」
シートベルトをおたおたと外したのもつかの間。
出し抜けに銃声が一発鳴り響き、銃弾がアンジェリークの横の窓ガラスに掠る。
「ヤツらとうとうもしびれをきらしたか」
彼女は恐怖で心臓を竦み上げ、震えていたが、アリオスは僅かに不敵な笑みを口元に湛えていた。彼は、煙草をふかしながら、平然としている。
背後の車から発せられる銃弾を、そのドライヴィングテクニックで見事に交わしながら、彼は様子を覗っている。
今だ----
「----アンジェリーク、運転を変われ!」
アリオスはそれだけを言い残して、煙草の火を揉み消すと、そのまま窓をあけて、上半身を外に出す。
「そんな! 突然言われても!!」
慌ててハンドルを掴み、何とか体をぎりぎりのところで運転席に置くと、彼女は祈るような気持ちで運転する。
お願い、神様!! 私たちを守って!!
アンジェリークは、心の中でいつのまにか、”私”ではなく、"私たち"といってることに、気づいてはいなかった。
それは、アリオスによって計算されたタイミングだった。
彼の尋常ではない耳の感覚が、装弾数を割り出し、弾丸のカートリッジを替えるタイミングを計ってのことだった。
車のウィンドウに腰掛けるようにして、アリオスは、背後の刺客の車に向かい合う。
車の爆風と夜風に靡いた銀の髪は、暗闇の中に浮かび上がり、辺りを神々しく照らす。
素早く銃を抜き、鍛えぬかれた左腕で構える姿は、まるで艶やかな半獣神のようで、誰もが魅了されずにいられない。
彼の愛銃、コルト・アナコンダの銃口が、ピタリと運転手に向けられる。
「ま、まさか、マグナムを片手で撃つことが出来るのは、噂ではあの男しか・・・」
刺客たちが気づいたときには手遅れだった。
激しさを現す野性的な翡翠と黄金の瞳に深い冷酷な影が宿った時、車の運転手に向けて、トリガーが引かれた----
「うわあああ!!!」
爆音が轟いた後、車は運転手を失ったことで、車は中央分離帯に激突し、そのまま炎上した。
夜風に銀の髪を流し、車の男たちの死亡を確認すると、彼は運転席に戻り、そのままアンジェリークを助手席へと移動させる。
「よくやった」
アリオスの深く慈しみのある低い声に、アンジェリークは緊張の糸が切れてしまい、泣き出してしまった。
「えぐ、ひくっ・・・!」
しょうがないとばかりに、アリオスは端正な顔に甘さの含んだ微笑を、一瞬、浮かべた。
「ね、これで・・・スモルニィ・・・、帰れるの?」
泣きすぎて呼吸を引きつらせながら、アンジェリークは、それこそ縋るような視線を彼に向ける。
アリオスは、サラっと乱れた銀色の髪をかきあげながら、一呼吸置いてから口を開いた。
「----おまえは当分スモルニィには帰れない」
「えっ!?」
アリオスの言葉は、アンジェリークに灯った僅かな明るい炎を消し去り、代わりに絶望を突きつける。
「う・・そ・・・、うそでしょ!! ねぇ、どうして私がこんな目にに遭わなきゃならないの!!」
アンジェリークは、堰を切ったように泣き喚き、何度も、それこそ何度も彼の胸を叩いた。
「ねえ、どうして!!」
「今は言えねえ」
アリオスはやはり冷静で、彼女が泣こうが、喚こうが、全くといっていいほど表情を変えない。
「お願い! 教えて! 今の私にはあなたしか頼れる人がいないの!!」
言いかけて、彼の今にも燃え上がりそうな冷酷さを秘めた視線に気がつき、震え上がる。
「簡単に人を信じるな、アンジェリーク。俺はおまえが俺のことをどう思おうと、そんなこと知るかよ。俺は、今言えるを言ったまでだ」
アリオスの言葉が胸に楔となって打ち込まれる。
アンジェリークは、唇を震わせ、彼に背を向けると、絶望の余り、今度は声を押し殺して泣き始めた。
時々嗚咽のようなものが彼女の口から漏れる。
アリオスは厭世的な表情を崩さず、それを聞きつづける。
アリオスなんて、大嫌い!! だけど、信じたい、彼を!!
アンジェリーク。もっと現実を見渡せるようにしろ。今後のおまえには、真実を見極める力が必要なのだから。
すっかり夜は降りてきた。
アンジェリークは、いつのまにか泣き疲れて眠ってしまっていた。
アリオスは、そっと自分のコートを、風邪をひかないようにと彼女に掛けてやる。
一瞬、誰にも見せたことのないような、慈愛に満ち、深く甘さの含んだ視線で、愛しげに彼女を見つめる。
彼は、いつもの冷酷な表情に戻ると、何かを振り切るように、ただまっすぐと前を見た。
これ以上、時間を無駄にすることは出来ない・・・!
そう、彼女のためにも・・・。
アリオスの願いは、夜の闇の中に溶けてゆく----
TO BE CONTINUED
![]()
コメント
tinkの妄想ハードボイルド「DESPERADO」の二回目です。
私、BBSにも書きましたが、ここのアリオスさんの銃裁きは、はっきり言って異常です(笑)
実は、マグナムは、いくら銃のスペシャリストでも、両手でしか撃てないのですよ。というのも、撃ったときに来る腕への衝撃がかなり強いらしいからです。(銃雑誌で読んだ)
だからこそ、ほとんどの人が出来ない荒業を、あえてアリオスにやらせてみました。
だって、そうゆうのってカッコいいでしょ?
この作品を創作しているときのBGMはもちろん、オリジナルのEAGLES、カヴァーのTHE CARPENTERS、LINDA RONSTADTの「DESPERADO」を交互に聴いてました。
後、BBSへのカキコをしてくださり、貴重な感想をくださいました、瑠美様、タチキ様、翡翠様、どうもありがとうございました。
あの意見があって、自信を持ったから、二回目がかけました。
また、この創作を呼んでくださる総ての方に、ハードボイルドアリオスをささげます。
いらないって言っても、この彼は、他の部屋の彼とは違いますから、返品はききません(笑)