いよいよ、アンジェリークは今日、JFKからアルカディアへと旅立つことになった。
旅立つ前に、記者会見が行われるため、彼女とオスカーはプレスルームの控え室で打ち合わせをしていた。
「記者に必ず言われる質問として、”アメリカで留学された4年間で何が一番印象が残りましたか?”と必ず訊かれますから、そのときは、”アメリカでの4年間の
日々はいずれも素晴らしく、印象深く、どの思い出と決めることは難しい”そう仰って下さい」
「はい」
オスカーの言葉を半ば上の空で聞きながら、アンジェリークはあいまいな返事をした。
「殿下…」
そんな彼女の儚げな姿が、彼には痛々しい。
そしてまた、彼女の心の一部をさらっていったアリオスが恨めしくも羨ましくもある。
「会見の後はそのまま特別機に向かいます。空軍の音楽隊が出迎えてくれます。
----そしてアルヴィース公がお迎えに上がられます」
その名前に、アンジェリークは一瞬身体を硬くした。
控え室にノックが響き、それを合図に、オスカーは時計を見て、すっと彼女の前に立った。
「殿下、時間です」
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「アルカディア王女、アンジェリーク殿下です」
アルカディア王室広報担当官の声と共に、オスカーを伴い、アンジェリークがプレスセンターに姿をあらわすと、記者たちからは、割れんばかりの拍手と、どよめきがこだました。
「皆様、お集まりいただきまして、有難うございます」
恭しく微笑む彼女は、若い気品に満ち溢れ、一瞬にしてプレスセンターにいた全ての記者を魅了する。
今日のアンジェリークは、匂い立つほどの美しさだった。
純白のシルクのしっかりとした生地に、品のある刺繍がシンプルに施された、膝丈のドレスを彼女は身に纏っていた。
輝くばかりの栗色の髪には、ドレスと同じ生地で作られたカチューシャ型の帽子を被っている。
一瞬、そこにアリオスがいるのではないかと、アンジェリークは落ち着かない様子で、周りを見渡した。
しかし、そこに彼の姿はなかった。
期待していたわけではなかったが、やはり落胆は大きかった。
「それでは只今より、殿下の記者会見を行います。ご質問のある方は、手を上げてください」
広報官の凛とした声に、記者たちは、我先にと手を上げる。
もちろん、この魅力的な若きプリンセスに質問をしたいためだけに。
「はい、ではそちらの方」
慇懃な広報官に指された男は、得意げに前に出てきた。
「USAトゥデイのジョーンズです」
アンジェリークは礼儀正しくお辞儀をする。
「殿下は、我らが合衆国に、4年もの間留学をされていたわけですが、その4年間で、とりわけ何が印象に残られましたか?」
そんなの決まってる…。
アリオスと過ごした日々。
苦しかった時もあったけれども、一番幸せだった・・・。
それが一番…
彼女は心の中でそっと呟く。
「殿下!!」
オスカーに耳打ちされ、アンジェリークははっと我に帰った。
「アメリカでの4年間の…」
彼に冒頭のセリフを耳打ちされ、アンジェリークは戸惑いつつも語り始めた。
「アメリカでの4年間の日々はいずれも素晴らしく、印象深く、どの思い出と決めることは困難…」
言いかけて、彼女は、一瞬、瞳を閉じた。
逡巡の色が、彼女の顔の広がる。
この国での最後に、私は嘘は吐きたくない…
「----ニューヨークで観光をしたことです。これからどこで暮らそうとも、何が起こっても、私は決して忘れることはないでしょう----」
彼女の凛とした、高らかな声に、誰もが暫し聴き入っていた----
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会見が無事に終了し、彼女はいよいよ、アルカディアに帰る瞬間がやってきた。
タラップの前に赤い絨毯が敷かれ、その周りには、アメリカ空軍の音楽隊が、アルカディアの国家を吹奏している。
また、捧げ銃をして彼女を向かえる軍人たちもいた。
そこには、ランディもヴィクトールもいて、彼女の表情をほころばせる。
2人とも、どうも有り難う…
だがやはり、そこにもアリオスの姿はなかった。
アリオス…、もう我儘はいわない・・
あなたのことは永遠に愛しているから…。
ずっと、ずっと。
だから、見守っていてね。
音楽と共に、アンジェリークは背筋を伸ばして絨毯を渡りだした、そのときだった----
「・…!!」
彼女は、余りもの驚愕に、息を飲む。
同時に嬉しさがこみ上げてきて、自然と涙が溢れてくる。
目の前に現れたのは、黒いアルカディア軍の軍服に身を包んだアリオス、その人だった。
彼は、彼女の表情を楽しむかのように微笑むと、さっと敬礼をする。
「----アルヴィース公、レヴィアス・ラグナ・アルヴィース。只今、アンジェリーク殿下を迎えに参りました」
「アリオス…!!」
もう回りの目なんて気にしていられない。
彼女は一目散に彼に駆け寄り、彼も彼女を受け止める。
「アリオス!」
「アンジェ!」
「----どうして、どうして言ってくれなかったの…」
涙でぐしゃぐしゃになった顔を彼の精悍な胸に押し付けながら、彼女はやっとのことで言う。
「----済まなかった…。
俺はアルカディアで生まれたが、英才教育を施されるために、この国で赤ん坊のときから育てられた。俺のお袋がこの国の人間だったからな。
ハーバードと海軍士官学校を出て、そのまま海軍情報部にいた時、おまえとの顔合わせにアルカディアに行った。そこで、あの事件が起こった。
あの事件がCIAが関与している可能性があったために、俺は、ジュリアス長官に請われて、監察官になった。もちろん、他の観察の仕事もしたが、メインはあくまで、あの事件だった。そして勤務の条件として、ハモンドの事件が片付けば、俺は解任ということだった…。詳しくは、アルカディアに言ったときに話してやる…」
「うん…」
心地よいテノールを聞きながら、アンジェリークは彼にしがみ付く。
「アンジェ…」
アリオスは優しく語りかけると、そっと彼女の顎を持ち上げる。
「愛してる・・・。ずっとだ」
「私も、アリオス…」
唇が重ねられる----
お互いの愛の誓いの口づけ。
どこからともなく拍手が沸きあがり、音楽隊たちは”愛のプレリュード”を奏で始める----
手にしたかった永遠の愛を、まるで奇跡のように、二人は手に入れたのだ。
ならず者よ…
誰かを愛せ。
手遅れになる前に…。
半年後、アルカディアは若き女王を迎えることなった。
即位と共に、女王とアルヴィース講の結婚式が盛大に行われたと、世界中のマスメディアが伝えていた----
DESPERADO
EPILOGUE
THE END
DESPERADO STARRING

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