DESPERADO

CHAPTER8 

 アリオスは銀の髪を靡かせながら、疾走する。
 彼の守るべき信念の為に----
 何人いるかわからない刺客。
 それを根絶やしにするかのように、確実にマグナム弾を撃ち込んでゆく。
 束になった銃を構えていようが、彼は一発のマグナム弾だけで、銃を落してゆく。
「うわあああ」
 いったい何人の銃を落とし、動けなくしただろうか。
 際限なく薬夾は散らばり、彼は何度となく弾丸を装填し直す。
 それでも、誰も彼のトリガーを引くスピードについていくことが出来ない。
 それでも表情ひとつ変えることなく、彼の指は非情にもトリガーを引き続ける。
「全く何人いるんだ」
 余りの多さにヴィクトールは辟易しつつも、その眼差しは楽しんでいる。
「ああ。全くだ。ここはお化け屋敷かよ」
 アリオスの唇にも僅かに笑みが浮かぶ。
「一応訓練を受けてるやつらだ、気合入れていこうな?」
 とヴィクトールが言えば、アリオスも
「ああ。俺らからすれば雑魚だがな」
 と、答える。
 長年コンビを組んできた二人の息は、完璧に近かった。
 二人は階段を駆け上がる。
 こういう仕事をしていると、獲物がどこに逃げ込むか自然とカンが鋭くなってくる。
 階段の踊り場付近にやってきたとき、彼らは再び取り囲まれる。
 お約束の登場に、アリオスは少し苦笑いする。

 ・・・5人か・・・

 瞬時にアリオスがトリガーを引き、僅か二発のマグナム弾で、五人の刺客たちの銃を撃ち落とし、ヴィクトールが、今度は足を撃って彼らを動けなくする。
 二人は再び階段を駆け上ろうとする。
 だが、階段を一段登る度に、際限なく敵は次々に現れる。
「バクテリアみたいに増えやがって」
 悪態をつきながら、次々と襲いアリオスは、掛かる刺客の銃も確実に飛ばしてゆき、決してトリガーを引かせない。
「アリオス・・・、このままじゃ埒があかん。ここは俺に任せて、おまえは殿下とランディのところに急げ!!」
「サンキュ」
 ヴィクトールの好意をアリオスはしっかりと受け止めると、階段を駆け上がり始める。
 ヴィクトールもまた、持ち前のガンテクニックで、敵に先を進ませない。

 アリオス、後はおまえに任せた・・・。頼んだぞ!!

 ヴィクトールは総てをアリオスに託し、彼は彼なりに水際で刺客たちを処理していった。


 アリオスは天使の為に銀の髪を艶やかに乱しながら、階段を駆け抜ける。
 ヴィクトールが、刺客たちを水際で処理しているものの、やはり階上から来た刺客を対処しなければならない。
 薬夾を飛ばし、トリガーを引きながら、彼は刺客たちを次々にヒットしてゆき、先へと進む。

 アンジェリーク、俺が来るまで頑張れ・・・。
 ランディ、それまで彼女を守りぬけ・・・

 一秒でも早く駆けつけ、二人を助けてやりたい。
 その想いが、彼を先へと促していた----   

-------------------------------------------------------------------------------

 その頃、アンジェリークとランディは、屋敷の最上階であるまで連れて来られていた。

 アリオスがきっと助けてくれるから。それまで何とか頑張らなきゃ

 ギュっと小さな手を握り締め、彼女は決意を実行するべく姿勢を正す。
 横にいるランディは、頭の怪我のせいで、立っているだけでもかなり辛そうだ。
「大丈夫ですか?」
「なんとか・・・」
 彼を気遣うように、彼女はそっと彼の背中に手を当てる。
「そんなのも今のうちだ・・・、やつらはここには辿りつけまいよ」
 冷たく無気味に笑うハモンドは、狂った視線を二人に投げかけた。
 アンジェリークは、、何とか気持ちを落ち着かせようと、咽喉をコクリと鳴らすと、威厳に満ちた強い眼差しをハモンドに向ける。
 彼はその視線の気高さに一瞬息を飲み、暫し、呆然とする。

 アルカディア王家の血がそうさせるのか・・・!!
 見るな!! そんな瞳で私を見るな!!
 あのときの王妃と同じ瞳と同じ輝きだ。

 ハモンドの脳裏に、五年前の事実が蘇る。
 決して自分に屈することなく、娘をかばって死んでいった、あの女性の姿が。
 ハモンドは目を血走らせ、冷酷非道な眼差しをアンジェリークにはなった。
 途端に彼女は、全身が冷や水を浴びせ掛けられたように、悪寒が走るのを感じる。

 この眼差しどこかで・・・!!

 全身が震えている。

 逃げなきゃ!!

 本能が彼女に逃走を命じ、彼女は部下の手を振り切って、走り始めた。
「おい、コラ待て!!」
 彼女の跡を、ハモンドとその部下が追いかけてくる。
 アンジェリークは逃げまくる。
 走って、走って、走りまくる。
 幸いか、ハモンドは右足を引きずって走るため、中々差が縮まらなくて済む。
 背中には冷たい汗の流れが断続的に発生し、呼吸が激しくなる。
 何度も、何度も振り返る。
 彼女が背後を覗ったその瞬間----
「きゃあああああ!!!」
 がくりと足を踏み外した、崩れた拍子に、彼女は階段に背中から落ちてゆく。
 宙を落ちてゆく感覚。
 それは、彼女に失った記憶を与えてゆく。
 胸を締め付けるような圧迫が彼女を圧倒する。
 呼吸が出来なくなり、頭の右側が強烈に痛い。
 彼女の瞳に、躊躇いがちに記憶の残像が入り込んできた----

 あの日、私の12歳の誕生日だった・・・。
 国民に愛されて執務に励む父、それを支える賢王妃の母----
 そう、私は、アルカディア王国の王位継承権一位のプリンセス・アンジェリークと呼ばれていた。
 あの赤毛の男性(ひと)も覚えてるわ、確か有能で知られてる、オスカー公爵。
 そして・・・あの日・・・。
 庭園で遊ぶ私に、一人の男が銃で私を狙っていた。
 そう、さっきのあの男だ・・・。
 間違いない。
 母は私をかばうために・・・。
「危ない!!」
 捜査権で私を庇い、崩れ落ちた。たった一言を言い残して。
「怨みます・・・、パトリック大公・・・」
 喘ぎながら呟いた母の一言で、叔父であるパトリック大公が、王位継承権のために私を狙ったことがすぐわかった。
 あの男は、やはり、今日のようにたくさん部下を連れていた。
 銃弾の雨が降り出しそうだったとき、一人の青年が私を抱えるようにして逃げてくれた。
 広い背中で、濃紺のどこかの国のネイヴィーの制服を着た、銀の髪と翡翠と黄金の瞳を持った男性(ひと)----
 アリオス!!!

 彼女の脳裏に、ようやく、あの青年の姿がはっきりと思い出された。

 だからあなたを最初に見たときから信用出来た・・・。
 だからあなたがあんなに懐かしかった・・・。
 今なら言えるかもしれない・・・。
 あなたをずっと想っていましたって・・・。

「アンジェ!!!」
 遠くでアリオスのバリトンの叫び声が聴こえる。

 アリオス・・・、アリオス・・・、大好きよ・・・!!

 意識が遠くなり、誰かの腕に抱きかかえられたことだけが、アンジェリークには判った。

 アリオスは、階段から落ちてきたアンジェリークを右手でしっかりと抱え、受け止めた。
 彼女の後を追っていた、ハモンドと清栄の数人の部下が走ってやってくる。
「アンジェ、もう少し我慢しろ」
 彼は素早く姿勢を立て直し、彼女を抱きかかえたまま、片手で愛銃コルトアナコンダ44マグナムのトリガーを引いた----
「うわあああ!!」
 アリオスの射撃は、片手で、しかも打ち手の抵抗が大きいマグナムあるのにもかかわらず、正確だった。
 部下たちの銃を先ずは簡単に飛ばし、しかも手を銃が握れないようにする。
 さらには足を撃ち抜き、これ以上動けなくしてしまう。
「ああああ」
 余りにもの痛みに、部下たちは床をのた打ち回り、中には失神する者すらも出てくる。
 アリオスは、それを眉根一つ動かさず、冷徹に、しかも冷静にやってゆく。
 彼の不思議な色の瞳は、凍りついたように鋭く、冷たかった。
 誰にもトリガーを引かせなかった。
 アリオスの愛銃コルトアナコンダの照準が、ゆっくりとハモンドに向けられる。
「同じ所に弾丸を撃ち込んでやる。ありがたく思え」
「ひあああ」
 アリオスの野獣のような冷酷な眼光に、ハモンドは手が震えて、最早トリガーを引くことが出来ない。
 彼は冷たく笑うと、ハモンドの右足に向けてトリガーを引いた。
 銃声は、アリオスの想いと同じように、無機質に響いた---
「うわあっ!!!」
 ハモンドはその場に崩れ落ち、床で痛みの余りのた打ち回る。
 気を失ったアンジェリークの身体をそっと抱き上げ、アリオスはゆっくりと階段を上がり、ハモンドの足元に立った。
「うわああ」
 彼の冷酷無比な眼差しに、ハモンドは震え上がる。
「----観念しろ、薄汚い"モグラ”」
 冷たく言い捨てると、アリオスはジャケットからIDカードを差し出し、それをハモンドに提示した。
「やっぱり・・・、監察官か・・・」
 がっくりと肩を落とし、ハモンドはうなだれる。
「CIA局員ハモンド・ジョンストン。CIA監察官の名の下に貴様を拘束する」 

TO BE CONTINUED


コメント
ついにアンジェリークの記憶が戻り、アリオスの正体が明かされた「DESPERADO」の8回目です。
皆様もアンジェが本当は何者かアリオスの正体がどうなのかは、おおよそは予想がついたかと思います。
ただ「監察官」だということは、判った方は少なかったのではないかと思います。
「監察官」の主な仕事は、「スパイをスパイする」ことです。また、法を犯したCIAの局員を処分をする立場です。
まあ、CIAの中の警察みたいなものです。
ちなみに「もぐら」とは隠語で「裏切り者」ということです。
まだ続きます。だって肝心の事件を解決もまだだし、二人のこれからの行方もまだですから。
では、引き続きお付き合いくださいませ。