アリオスは銀の髪を靡かせながら、疾走する。
彼の守るべき信念の為に----
何人いるかわからない刺客。
それを根絶やしにするかのように、確実にマグナム弾を撃ち込んでゆく。
束になった銃を構えていようが、彼は一発のマグナム弾だけで、銃を落してゆく。
「うわあああ」
いったい何人の銃を落とし、動けなくしただろうか。
際限なく薬夾は散らばり、彼は何度となく弾丸を装填し直す。
それでも、誰も彼のトリガーを引くスピードについていくことが出来ない。
それでも表情ひとつ変えることなく、彼の指は非情にもトリガーを引き続ける。
「全く何人いるんだ」
余りの多さにヴィクトールは辟易しつつも、その眼差しは楽しんでいる。
「ああ。全くだ。ここはお化け屋敷かよ」
アリオスの唇にも僅かに笑みが浮かぶ。
「一応訓練を受けてるやつらだ、気合入れていこうな?」
とヴィクトールが言えば、アリオスも
「ああ。俺らからすれば雑魚だがな」
と、答える。
長年コンビを組んできた二人の息は、完璧に近かった。
二人は階段を駆け上がる。
こういう仕事をしていると、獲物がどこに逃げ込むか自然とカンが鋭くなってくる。
階段の踊り場付近にやってきたとき、彼らは再び取り囲まれる。
お約束の登場に、アリオスは少し苦笑いする。
・・・5人か・・・
瞬時にアリオスがトリガーを引き、僅か二発のマグナム弾で、五人の刺客たちの銃を撃ち落とし、ヴィクトールが、今度は足を撃って彼らを動けなくする。
二人は再び階段を駆け上ろうとする。
だが、階段を一段登る度に、際限なく敵は次々に現れる。
「バクテリアみたいに増えやがって」
悪態をつきながら、次々と襲いアリオスは、掛かる刺客の銃も確実に飛ばしてゆき、決してトリガーを引かせない。
「アリオス・・・、このままじゃ埒があかん。ここは俺に任せて、おまえは殿下とランディのところに急げ!!」
「サンキュ」
ヴィクトールの好意をアリオスはしっかりと受け止めると、階段を駆け上がり始める。
ヴィクトールもまた、持ち前のガンテクニックで、敵に先を進ませない。
アリオス、後はおまえに任せた・・・。頼んだぞ!!
ヴィクトールは総てをアリオスに託し、彼は彼なりに水際で刺客たちを処理していった。
アリオスは天使の為に銀の髪を艶やかに乱しながら、階段を駆け抜ける。
ヴィクトールが、刺客たちを水際で処理しているものの、やはり階上から来た刺客を対処しなければならない。
薬夾を飛ばし、トリガーを引きながら、彼は刺客たちを次々にヒットしてゆき、先へと進む。
アンジェリーク、俺が来るまで頑張れ・・・。
ランディ、それまで彼女を守りぬけ・・・
一秒でも早く駆けつけ、二人を助けてやりたい。
その想いが、彼を先へと促していた----
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その頃、アンジェリークとランディは、屋敷の最上階であるまで連れて来られていた。
アリオスがきっと助けてくれるから。それまで何とか頑張らなきゃ
ギュっと小さな手を握り締め、彼女は決意を実行するべく姿勢を正す。
横にいるランディは、頭の怪我のせいで、立っているだけでもかなり辛そうだ。
「大丈夫ですか?」
「なんとか・・・」
彼を気遣うように、彼女はそっと彼の背中に手を当てる。
「そんなのも今のうちだ・・・、やつらはここには辿りつけまいよ」
冷たく無気味に笑うハモンドは、狂った視線を二人に投げかけた。
アンジェリークは、、何とか気持ちを落ち着かせようと、咽喉をコクリと鳴らすと、威厳に満ちた強い眼差しをハモンドに向ける。
彼はその視線の気高さに一瞬息を飲み、暫し、呆然とする。
アルカディア王家の血がそうさせるのか・・・!!
見るな!! そんな瞳で私を見るな!!
あのときの王妃と同じ瞳と同じ輝きだ。
ハモンドの脳裏に、五年前の事実が蘇る。
決して自分に屈することなく、娘をかばって死んでいった、あの女性の姿が。
ハモンドは目を血走らせ、冷酷非道な眼差しをアンジェリークにはなった。
途端に彼女は、全身が冷や水を浴びせ掛けられたように、悪寒が走るのを感じる。
この眼差しどこかで・・・!!
全身が震えている。
逃げなきゃ!!
本能が彼女に逃走を命じ、彼女は部下の手を振り切って、走り始めた。
「おい、コラ待て!!」
彼女の跡を、ハモンドとその部下が追いかけてくる。
アンジェリークは逃げまくる。
走って、走って、走りまくる。
幸いか、ハモンドは右足を引きずって走るため、中々差が縮まらなくて済む。
背中には冷たい汗の流れが断続的に発生し、呼吸が激しくなる。
何度も、何度も振り返る。
彼女が背後を覗ったその瞬間----
「きゃあああああ!!!」
がくりと足を踏み外した、崩れた拍子に、彼女は階段に背中から落ちてゆく。
宙を落ちてゆく感覚。
それは、彼女に失った記憶を与えてゆく。
胸を締め付けるような圧迫が彼女を圧倒する。
呼吸が出来なくなり、頭の右側が強烈に痛い。
彼女の瞳に、躊躇いがちに記憶の残像が入り込んできた----
あの日、私の12歳の誕生日だった・・・。
国民に愛されて執務に励む父、それを支える賢王妃の母----
そう、私は、アルカディア王国の王位継承権一位のプリンセス・アンジェリークと呼ばれていた。
あの赤毛の男性(ひと)も覚えてるわ、確か有能で知られてる、オスカー公爵。
そして・・・あの日・・・。
庭園で遊ぶ私に、一人の男が銃で私を狙っていた。
そう、さっきのあの男だ・・・。
間違いない。
母は私をかばうために・・・。
「危ない!!」
捜査権で私を庇い、崩れ落ちた。たった一言を言い残して。
「怨みます・・・、パトリック大公・・・」
喘ぎながら呟いた母の一言で、叔父であるパトリック大公が、王位継承権のために私を狙ったことがすぐわかった。
あの男は、やはり、今日のようにたくさん部下を連れていた。
銃弾の雨が降り出しそうだったとき、一人の青年が私を抱えるようにして逃げてくれた。
広い背中で、濃紺のどこかの国のネイヴィーの制服を着た、銀の髪と翡翠と黄金の瞳を持った男性(ひと)----
アリオス!!!
彼女の脳裏に、ようやく、あの青年の姿がはっきりと思い出された。
だからあなたを最初に見たときから信用出来た・・・。
だからあなたがあんなに懐かしかった・・・。
今なら言えるかもしれない・・・。
あなたをずっと想っていましたって・・・。
「アンジェ!!!」
遠くでアリオスのバリトンの叫び声が聴こえる。
アリオス・・・、アリオス・・・、大好きよ・・・!!
意識が遠くなり、誰かの腕に抱きかかえられたことだけが、アンジェリークには判った。
アリオスは、階段から落ちてきたアンジェリークを右手でしっかりと抱え、受け止めた。
彼女の後を追っていた、ハモンドと清栄の数人の部下が走ってやってくる。
「アンジェ、もう少し我慢しろ」
彼は素早く姿勢を立て直し、彼女を抱きかかえたまま、片手で愛銃コルトアナコンダ44マグナムのトリガーを引いた----
「うわあああ!!」
アリオスの射撃は、片手で、しかも打ち手の抵抗が大きいマグナムあるのにもかかわらず、正確だった。
部下たちの銃を先ずは簡単に飛ばし、しかも手を銃が握れないようにする。
さらには足を撃ち抜き、これ以上動けなくしてしまう。
「ああああ」
余りにもの痛みに、部下たちは床をのた打ち回り、中には失神する者すらも出てくる。
アリオスは、それを眉根一つ動かさず、冷徹に、しかも冷静にやってゆく。
彼の不思議な色の瞳は、凍りついたように鋭く、冷たかった。
誰にもトリガーを引かせなかった。
アリオスの愛銃コルトアナコンダの照準が、ゆっくりとハモンドに向けられる。
「同じ所に弾丸を撃ち込んでやる。ありがたく思え」
「ひあああ」
アリオスの野獣のような冷酷な眼光に、ハモンドは手が震えて、最早トリガーを引くことが出来ない。
彼は冷たく笑うと、ハモンドの右足に向けてトリガーを引いた。
銃声は、アリオスの想いと同じように、無機質に響いた---
「うわあっ!!!」
ハモンドはその場に崩れ落ち、床で痛みの余りのた打ち回る。
気を失ったアンジェリークの身体をそっと抱き上げ、アリオスはゆっくりと階段を上がり、ハモンドの足元に立った。
「うわああ」
彼の冷酷無比な眼差しに、ハモンドは震え上がる。
「----観念しろ、薄汚い"モグラ”」
冷たく言い捨てると、アリオスはジャケットからIDカードを差し出し、それをハモンドに提示した。
「やっぱり・・・、監察官か・・・」
がっくりと肩を落とし、ハモンドはうなだれる。
「CIA局員ハモンド・ジョンストン。CIA監察官の名の下に貴様を拘束する」
TO BE CONTINUED
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コメント
ついにアンジェリークの記憶が戻り、アリオスの正体が明かされた「DESPERADO」の8回目です。
皆様もアンジェが本当は何者かアリオスの正体がどうなのかは、おおよそは予想がついたかと思います。
ただ「監察官」だということは、判った方は少なかったのではないかと思います。
「監察官」の主な仕事は、「スパイをスパイする」ことです。また、法を犯したCIAの局員を処分をする立場です。
まあ、CIAの中の警察みたいなものです。
ちなみに「もぐら」とは隠語で「裏切り者」ということです。
まだ続きます。だって肝心の事件を解決もまだだし、二人のこれからの行方もまだですから。
では、引き続きお付き合いくださいませ。
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